4-5
廊下に敷かれた黒のカーペットと飾り気のない廊下はどこまでも続いていた。
ヘイルが先に行き、船内を案内した。迷路のような廊下を迷わず進んでいく。
二人は何度か言葉をかわしたが、会話は途切れがちで、二人とも黙り込んでしまった。
彼はあるドアの前で立ち止まった。
「ここに寄ろう。驚かないでね」
ドアについている正方形のボタンを押すと、シュッという音と同時に勢いよく開いた。
二人が中に入るとドアは閉じ、証明が点灯した。
「んなっ」
セリナはその光景を一望した。その場で体が硬直し、立ちすくんだ。
「君は驚いてばかりだな」
「だって」
ヘイルのあきれた声が聞こえる。
それにセリナはろくな返答ができず、部屋の中の光景をただ眺めているだけだった。
その部屋はレイAの格納庫と同じくらいの大きさだった。
そこにあるのは天井まで届くほどの巨大な標本棚だ。セリナに見えるのは一番前のものだけだったが、その向こうにも同じ物が並んでいる。
それには無数のカプセルが安置されていた。
セリナは棚に近寄っていった。
接近するとその巨大さがよくわかる。
カプセルはセリナの身長よりも大きい。
隣のカプセルとはわずかな間隔を開けているだけで、ビッシリと敷きつめられている。
カプセルは円柱状で、表に向けられている部分は広範囲にわたって、結露が凍りつき半透明になっているガラスがはめ込まれていた。
ガラスのすぐ上には、文字が刻み込まれた金属板が貼り付けられている。これが名札なのだろう。
ガラスに触ってみる。
「冷たい」
反射的に手を引っ込めたが、再び手を置いた。
我慢できないということもなかった。
手を離すとその箇所だけ露に濡れていたが、すぐに凍りついた。
カプセルの中には人がいた。
まだ十代前半と思しき女の子が眠っていた。セリナと同じ服装だったが、その女の子の顔には生気が見られない。血の気がないのだ。
「僕達はこの中にいたから」
再びヘイルに手を引かれ、部屋の中央まで連れてこられた。
「あれ?」
損傷を受けた標本棚があった。
そんなのがいくつも並んでいた。
棚を作っている金属板が引き裂かれ、壊れたカプセルと一緒に床に散らばっている。
進んでいくごとに棚の損害はひどくなった。
標本棚がたてに大きく割れ、傾き、カプセルがほとんど残っていないものもあった。
二人はその棚の前で足を止めた。
「僕のカプセルはあの棚の真ん中辺りにあったんだ。僕の姉貴だった人のもね」
「どういうこと?」
「レイ・エンジェルと宇宙生物が戦っていたんだ。天井に穴が開けられて、カプセルが吸い出されていった。僕は何とか助かった。カプセルは壊れてしまったけどね」
ヘイルの口調は淡々としていた。
「もしかしたら!」
セリナは蒼ざめ、叫んだ。
「どうした?」
「私、覚えてる。この前、人が入っているカプセルが、宇宙生物に、食べられていたの」
自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。




