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RAY ANGEL SPACE REMIX  作者: 迫田啓伸
20/71

2-8

 ふと、声が聞こえてきた。


―馬鹿ねー、あなた。せっかくのチャンスなんだから、彼女になっちゃえばよかったのよ。あの子のことなんか、忘れたフリしてさ。


 頭の中でもう一人の自分が、セリナにささやきかけてくる。

 それに対し


―だめだよ。ユキちゃんが現れたらどうするの? あの子と、これからもずっと友達でいたいんでしょ?


と、反論する声も聞こえてくる。

 セリナはいつの間にか、学校の門の外まで歩いてきていた。

 もう日が沈みかけていた。西の空には夕焼けがさしていた。

 校舎の白い壁を茜色に染まっていた。帰る人の影もまばらになっていた。

「あっ、そうだ」

 一歩踏み出したところで足を止め、手を打った。

「ユキちゃんちに行ってみたらいいのよ。いくらなんでも、家は残っているだろうから」

 

 ユキの家はセリナの家の近くだ。だから、寄ったからといって、遅くなることはない。


―あるよね、家くらい……。


 近くまで来た。

 足どりが重くなる。

 セリナの表情にはかげりが浮き出してきた。

 悪い予感がした。

「まさか、あるもん、家ぐらい」

 今まで何度も遊びに行ったことがある場所だ。

 見当違いなど考えられない。

 ところが

「ない」

 道の真ん中で立ちすくみ、目を何度もまたたかせた。

 ユキの家はなく、雑草が生え放題の空き地だった。『売り地』という古ぼけた看板が立てられ、針金で誰も入れないように区切られていた。

 左右の家はいつもと変わらぬ姿で佇んでいる。

 何事もなかったかのように。

 目をこすってみた。やっぱり、ない。

 頬をつねってみた。痛かった。

 夕日がセリナの影を長く伸ばした。

 逆に東の空は暗くなっていて、月がのぼっていた。

 犬を散歩させているおじいさんが通りかかったので、セリナは捕まえ、問いただした。

「あの、こ、この土地はいつから、あ、あき、空き地になってたんすか?」

 慌てていたので舌がもつれ、うまく発音できなかった。

おじいさんは顎に手を当て、ゆっくりと話し始めた。

「う~ん。いつだったかなぁ。もう20年近く空き地になっているからねぇ」

「そ、そんなに前から?」

 セリナは絶句した。

 すぐに冷静さを取り戻すと、おじいさんに礼を言い、再び空き地を見下ろした。

 カラスがどこかで鳴いていた。

「ユキちゃん、どうしちゃったの?」

 空き地を囲んでいる柵に手を突き、肩を落とす。

 セリナの手にに水滴らしきものが一粒、また一粒と落ちてきた。顔をぬぐった。いつの間にか涙を流している。


―ユキちゃん、もう会えないのかな。ずっと友達でいられると思っていたのに。おじさんやおばさんや、トシくんにも。


 もう一度、涙を拭いた。

 ユキとは幼稚園からの付き合いだったので、彼女の両親にもセリナは親切にされていた。

 自分が周囲の子供たちとは少し違うのに、そんなことはまったく関係ないかのごとく接してくれたり、時々セリナを誘っていろんなところへ連れて行ってくれたり、困ったことがあると相談に乗ったりしてくれた。

 ユキには弟が一人いて、俊也という名前だった。セリナはトシくんと呼んでいた。二歳年下で、後輩にあたる。

 俊也のことを思い出し、セリナは笑った。


―そういえば、トシくんとこんなことが。

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