第一話:転生したら、憧れの幼馴染が『宗教二世』でした。
お読みいただきありがとうございます。
なろうテンプレに、現代社会の歪みと少しの毒を混ぜた物語です。
宗教に関してもあくまでフィクションとして描いています!よろしくお願いします!
「ごめんね……私、目覚めの証人なの。同じ信者の人としかお付き合いできないの」
そう言うと、アキは俯いた。艶やかな黒のロングヘアが顔を隠し、表情をうかがい知ることはできない。
「拓也と二人で会っているのがバレたら、お母さんにムチで打たれちゃう。だから、もう会うのはやめにしよう?」
声が震えている。
振り返れば、違和感はいくつもあった。音楽の授業が好きで歌うことも大好きなアキが、校歌だけは口パクで済ませていたこと。運動会の騎馬戦に参加せず、いつも端で見学をしていたこと。誕生日やクリスマスのプレゼントを受け取ろうとしなかったこと。
転生してやっと手に入れた「憧れの幼馴染」だったのに。現実は、なろう小説のようには上手くいかないものだな……。
履歴書を読みながら、面接官のおっさんは頭をボリボリと掻いた。フケがスーツにパラパラと落ちるのを俺は見逃さない。
「渋谷拓也さん、4X歳……あっ! 私も同い年ですよ! いやあ、奇遇ですねえ。それでは自己PRをお願いします!」
無駄に声のデカい男の息には、メンマのような発酵臭が混じっていた。狭い面接室にその臭いが充満する。帰りにラーメンでも食って帰ろうかと思ったが、ダメだ、金がない。
「はい。父親が転勤族だったため、幼い頃から各地を転々としていました。新しい環境にすぐに馴染めることが私の強みです」
「履歴書拝見しましたが、転職回数8回は多いですね!新しい環境への抵抗感とかなさそうですね〜!確かに強みと捉えることもできますね!では志望動機をお願いします!!」
たのむ、舌ブラシとフロスもしてくれと言いそうになるのをこらえて答えた。
「御社の掲げるチャレンジ精神というスローガンに心を打たれました。
今回応募させていただきました採用職は未経験の職種ですが、私の強みである『新しい環境への適応能力』を活かしてチャレンジしたいと思い志望しました」
「チャレンジが許されるのは、20代までですよね……」
それは、聞こえるか聞こえないかほどの小さな呟きだった。先週面接を受けた口臭がウンコの男にも、同じことを言われたのを思い出す。朝届いた合否メールの結果は、言うまでもなく不採用だった。
「面接は以上です!結果はメールでお伝えします!!」
スーパーで袋麺と瓶詰めメンマを買った。瓶詰めメンマは思ったより値段が高くて悩んだが、今日はムシャクシャしていたので買ってやった。
今日みたいな日は早く帰ってシコって寝るのに限る。
俺の「オカズ」は、二次元であれ三次元であれ、決まって幼馴染設定だ。巨乳や熟女も悪くないが、金を出せばすぐ手に入る。しかし幼馴染という概念だけは、どんなに金を積んでも手に入らない。
親が転勤族だった俺には、幼馴染などという存在はいなかった。
周りのクラスメイトは、転校生の俺に優しく仲間に入れてくれた。しかし関係が深まる前にいつも転校してしまうので、当たり障りのない表面上の付き合い方しか知らずに育った。
だからだろうか。生まれた時から互いを知り尽くしている「幼馴染」という存在に、とてつもなく興奮するのだ。どんなに手を伸ばしても手に入らないものへの強烈な羨望が、そのまま性的な衝動へと直結していた。
早くシコろうと電車のホームで待っていると、艶やかな黒のロングヘアの女子高生が隣に並んだ。艶やかすぎて天使の輪ができていた。
その女子高生は涙をポロポロとこぼしていた。ギョッとし声をかけそうになったがグッと堪えた。俺は配慮のできるおっさんなんだ。
女子高生が涙を拭こうとハンカチをスカートのポケットから取り出したとき、一緒に何かが落ちた。気づいていないので、拾ってあげる事にした。決して下心などないことを誓う。
『輸血禁止
署名 沢尻アキ』
定期券だろうかと思ったら何やら違うものだった。予想外のモノで一瞬固まってしまったがスムーズに渡さなければ。
「すみません、これ落としましたよ」
声をかけた瞬間、女子高生が線路に飛び込んだ。
「危ないっ!!」
俺は女子高生の手を引っ張りホームに引き戻した。しかし体幹の落ちたオッサンは、よろけてそのまま線路に落ちた。
目の前が真っ白になり、意識が途切れる。
転調の激しい流行りの音楽が聴こえる。
「うるさい……まだ寝ていたいんだ……」
脳内に突き刺さるような慣れないメロディに苛立ち、俺は不快感を覚えながら寝返りを打った。ガタン、という鈍い音とともに、体が落下した。
「……っ痛」
痛みに顔をしかめ、視界を開く。そこには見慣れた畳と万年床の部屋など存在しなかった。目に入ったのは、清潔なベッド、使い込まれた学習机と、飾られたトロフィー。そして、カーテンの隙間から差し込む光。
頭がズキズキする。とりあえず冷静になろうと、記憶を呼び覚ます。
「確か……女子高生を助けようとして、線路に……」
記憶をたどる。電車に跳ねられる直前の、あの恐ろしい音と風圧。
「それなのに、ここはどこだ?」
病院にしては生活感がありすぎる。俺は混乱を抱えたまま、重い足取りでカーテンへと手を伸ばした。
カーテンを引いた瞬間、視界を焼き付けるような光が差し込む。
「おはよう拓也。今日も寝坊? アラーム消したら?」
そこにいたのは、艶やかな黒髪を揺らし天使の輪をまとった、泣いていたあの女子高生だった。
いったい何が起きているんだろうか。
鳴り止まない転調の激しいサビをiPhoneから聴きながら、俺はふと、無性にサザンが聴きたくなった。
続く
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