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レイドと最後の決断⑫

(ここにアイダが居なくてよかった……もしあの子がいたら絶対に止めただろうから……)


「わかった……貴様を信じようぞレイドっ!! 今、その隙を見切りあやつの前に下ろそうではないかっ!!」

「逆っ!! 上に飛んでっ!! そしたら私が魔王の足元にレイドを飛ばすっ!! その方が安全っ!!」

「そうですね……ありがとうございます二人とも……俺を信じてくれて……」


 笑顔で告げた俺の言葉を聞いてやる気になってくれた二人に頭を下げる。


(ありがとう……そしてすみません……最後の最後に騙すようなことをしてしまって……)


 心中で謝りつつ懐に手を伸ばした俺は、そこにある自動回復する粉を取り出して身体に掛けながらチラリと傍で暴れている魔王を睨みつけた。


「「「「「レイドっ!! レイドレイドレイドレイドぉおおおおおおっ!!」」」」」


 先ほどの攻撃を潜り抜けた俺達……正確には俺だけを睨みつけながら俺の名前だけを憎々し気に叫び続ける魔王は、全ての掌についていく口を改めて開くと超音波のような不快な音を発し始めた。


『キィイイイイイイイっ!!』

「な、何が……っ!?」


 耳をつんざくような音が鳴り響いたかと思うと、パパドラの周囲の空気がところどころ魔力の込められた虹色の輝きに包まれ始める。


(な、何をするつもり……こ、これはまさか無詠唱魔法なのかっ!? 全ての掌から音を発することで同時に無数の魔法を使えるって言うのかっ!?)


 これから起こり得る現象を想定したところで、そのあり得なすぎる規模に驚きそうになるが魔王の絶大過ぎる魔力ならばそれも不可能ではないと悟らされてしまう。


(最悪だっ!! こんな規模で魔法を使われたら避けきれるかどうか……そもそも一体どんな魔法を使……なぁっ!?)


「「「「「シャァアアアアアアっ!!」」」」」

「えっ!? う、嘘っ!?」

「ま、魔物……いや魔獣なのかっ!?」


 果たしてパパドラがそれらの魔力を避けるように飛行する中で、その場所にあった空気が密集し翼の生えた生き物のような姿を形どったかと思うとそれらが咆哮を上げ始めた。

 そして早速翼を翻しながら無数に産まれ落ちたそいつらは迷うことなく俺たちに向かってくる。


「ちぃっ!! まさか一度にこれほどの数のゴーレムを生み出せるようになっておるとはっ!!」

「あっ!? こ、これが……っ!?」


 それらを見回したパパドラが苦々し気に呟いた言葉で、俺はようやく何が起きているのかに気が付いた。

 魔王はゴーレムを生み出す魔法を使うことであらゆるモノを生き物のように操ることができる……それを大気に掛けることでこの生き物を生み出したのだろう。

 尤もそいつらの瞳にはドラコっ子達のような意思の光は見えず、虚ろな眼差しでもってただ俺たちのことだけを見つめ続けていた。


(くっ!! これは魔王がわざと……反乱されることなく自分の手駒として操れるように意思の無い人形として作り上げたのかっ!?)


「「「「「シャァアアアアっ!!」」」」」

「くっ!! ファイアーレーザーっ!!」

「ガァアアアアアっ!!」

「「「ドゥルルルルっ!!」」」


 実際にそいつらは俺たちに害をなそうとしているかのように鋭く尖る翼を広げてこちらへと迫ろうとしてくる。

 しかしそれを見たマナ達が反射的に攻撃を放つと、身体が大気で構成されているためかあっさりと打ち払われていく。


(大して強くない……こいつら一体一体は俺たちの敵ではない……だけどこの数だとっ!?)


『キィイイイイイイイっ!!』

「「「「「シャァアアアアっ!!」」」」」

「き、キリがないっ!!」


 マナが叫んだ通り、彼女達が幾ら打ち払っても数は減るどころかむしろ増えるばかりだった。

 何せ魔王が一度に産み出す量が余りにも桁外れなのだ……これではもしも俺が加わったところで撃退しきることは不可能だろう。


(駄目だっ!! こんな戦い方をされたらとてもアリシア達を避難させるのは不可能だっ!! かといってマナさんに頼もうにも下手に魔力を調整して他の魔法を使えなくなったらそれこそ危険だっ!!)


 先ほどの魔王が放った滝のような電撃による攻撃を思い出す……あれを対処できたのはマナを含める全員の総力があってようやくギリギリだったのだ。

 そして俺の魔法の威力はマナには遠く及ばない……もしも俺とマナの立場を逆にして同じことをしたら、確実にこちらが押し負けて全滅してしまう。


(おまけにこのまま戦ってても隙を見出す前に押し負けるのが落ちだっ!! やっぱり真っ当に戦って勝てる相手じゃないっ!! 一か八か俺が死ぬ気でやるしかないっ!!)


 余りにも絶望的な状況に俺は余計に自らがやるべきだと覚悟を決めることができた。


「マナさんっ!! どうか俺をあの魔王の足元にっ!! 触れるかどうかぐらいの距離に飛ばしてくださいっ!!」

「そ、それは駄目っ!! 危険すぎるっ!! 少し離さないと一体化して……」

「それでも構いませんっ!! いやそれぐらいのリスクは背負わないとどうしようもないんですっ!!」

「で、でも……あぅっ!?」

「「「「「シャァアアアアっ!!」」」」」


 俺達が叫び合っている間もまた、魔王が産み出した生き物はどんどんと増えていく。


「くぅっ!! こ、これでは……ぬぅっ!?」

「「「ドゥルルルルルっ!!」」」


 もはや視界には空より魔物が映る割合の方が多くなり、パパドラやドドドラゴンの身体に敵がぶつかり始めてくる。

 それでもドドドラゴンが俺たちの行く道を切り開くかのように少し前へ飛ぶと、そこで自らの身体を回転させていつぞやパパドラがやって見せた様に巨大な竜巻を作り出して敵の群れを一掃していく。


「い、今しかチャンスはありませんっ!! これ以上時間を掛けたらもうどうしようもなくなってしまいますっ!! 俺なら大丈夫ですからっ!! マナさんを信じてますっ!! どうかっ!!」

「ガァアアアッ!! ぐぐっ!! や、やれることがあるのならば早くするがよいっ!!」

「うぅ……わ、分かったっ!! やってみるっ!! だけどレイド最後に一つだけ聞くっ!! 貴方の考えた作戦は本当に上手く……いや貴方の身は安全っ!?」

「ええ、もちろんですよっ!! 生きて帰ると約束したでしょうっ!!」


 マナの言葉にはっきりと頷く俺……不安な気持ちに気づかれないよう笑みを浮かべながら。


(本当にこの場にアイダやアリシアが立ち会ってなくてよかった……あの二人ならきっと……簡単に俺が虚勢を張ってることなんか見抜いてしまうだろうから……)


 はっきり言って俺が考えているのは皆を巻き込まずに魔王を倒す方法でしかなく、それはもはや作戦などと呼べるものではなかった。

 それでも魔王を確実に倒すためなら……皆を助けるためなら……アリシアの命を救うためだと思えば、躊躇などするはずもない。


(悪いアイダ……君との約束を破ってしまうけど……俺はそれでもアリシアを……アリシアの命が大事なんだ……っ……)


 皮肉にもこのギリギリの状態で俺はアイダとの約束よりも……彼女の笑顔よりもアリシアの命の方が重いと考えている自分に気付かされてしまう。


(そうか、俺はアリシアを……はは、俺って最低だな……本気で死を覚悟した途端に本音が漏れるなんて……だけど……ごめんアイダ……それに騙してしまう皆も……本当にごめん……)


 改めて心中でアイダを始めとする皆に謝罪しつつ、俺は表情を揺らすことなく瞬きもしないでじっとマナの顔を見つめ続けた。


「……わかった、レイドがそこまで言うなら信じる……やってみるから……だから無事に戻って……約束……」

「お願いしますマナさんっ!! 俺を魔王の元へっ!!」


 これ以上約束は破れないとあえてそう答えた俺に対し、マナは攻撃魔法を止めて杖を差し向けてくる。


(これでいい……もしもマナさんが転送に失敗して魔王とくっ付いても瞬間的に即死はしないはず……それなら意識が残ってる間に無詠唱であの魔法を唱えればいい……どっちにしても魔王は確実に倒せる……だからこれでいいんだ……)


 マナが転送に失敗するとは思っていないが、それでも万が一の場合でも魔王を倒すことはできるだろう。

 だから俺はむしろ穏やかな気持ちでマナが魔法を唱えるところを見守ることができた。


「はぁぁ……転移魔法(テレポート)っ!!」

「っ!!」


 果たしてマナの転移魔法により俺の身体は一瞬の浮遊感を覚えた後に、魔王の巨体に触れるか触れないかの距離へとたどり着いていた。


(ありがとうございますマナさん……パパドラさんとドドドラゴンも……後方支援に徹してくれた皆も……皆が送り出してくれたから俺はここに立っていられる……それなのに騙してゴメン……約束破ったらゴメン……代わりにこいつだけは確実に俺が仕留めるからっ!!)


「「「「「なぁっ!? ど、どこに……そ、そこかぁああああっ!!」」」」」

「はぁああああっ!!」


 果たして転移魔法によりパパドラの背中から消えた俺を魔王は一瞬だけ見失うが、すぐに身体中についている瞳全てで俺を睨みつけて来た。

 しかしその前に俺は無詠唱で防御魔法(バリアウインド)を発動させつつ、その手に持った盾を全力で手近にある魔王の口めがけて投げつけた。


「れ、レイドぉお……っ!?」

「ぐぅううっ!! うぉおおおおっ!!」


 そして俺の名を叫んでいたその口が閉じないように挟み込ませると、全速力で駆け出しつつ自らの身体に攻撃魔法(ファイアーボール)をぶつけることでさらに加速して突っ込んでいく。

 おかげで俺は目論見通り魔王の攻撃が間に合うより早く、その口内に身体を滑り込ませることに成功した。


「なぁっ!? れ、レイドぉおおおっ!?」

「な、何をするつもりだレイド殿っ!?」

「「「ドゥルルルルルっ!!」」」


 その光景を見ていたであろう仲間達が悲鳴じみた声を上げる中で、俺は自動回復する粉の効果で自傷した怪我が癒えるのを感じながら盾を手に取ると魔王の口内にある肉壁に押しつぶされないよう押さえつけながら更に奥へと身体を滑り込ませようとした。


(消化されることを想定して防御魔法(バリアウインド)を使っておいたけど、この調子なら問題なさそうだな……後は万が一にも魔王に俺の行動が悟られないようもう少しだけ奥に進んでから……)


「お、おい何がどうなって……レイドお前何をっ!?」

「ぁ……っ!?」


 そこで恐らくマナ達の声を聞いて地上に出て来たであろうエクス殿の声と、息をのむアリシアの気配が伝わってきた。

 そんな二人に俺はあえて振り返らないまま、大声で叫ぶ。


「二人ともっ!! パパドラさんと合流して安全な場所へっ!! こいつは俺が……っ!!」

「ぁ……ぁぁ……だ……だ……駄目ぇえええええっ!! レイド戻ってぇえええええっ!!」

「っ!!?」


 魔王の口内に居てその口も閉じかけていて、おまけに背中を向けているこの状況で……それでもアリシアはそんな俺の姿と声を聞いただけでこちらの決意を悟ったのだろう。

 感情を露わに失った声を震わして絶叫してまで俺を呼び戻そうとするアリシア。


(……やっぱり見抜かれちゃうよな……最後にあんな声を出させちゃうなんて……アリシアには笑っていてほしかったのに、結局泣かせてばっかりだな……)


 出来ればアリシアの言葉に応えてあげたい……いう通りにして安心させてあげたいし……この後も出来るならばずっと傍にいて共に過ごしたかった。

 だけど俺はアリシアの気持ちに応えるどころか、振り返って最後に笑顔を見せてあげることすらできない。

 そんなことしたら……最後の最後にそんなアリシアの顔を見たら……死ぬのが怖くなってしまいそうだから。


「「「「れ、レイドぉおおっ!! 貴様何をする気だぁああっ!!」」」」

「レイドぉおおおおっ!! 行かないでレイドぉおおおおおおっ!!」

「ば、馬鹿っ!! お前まで不用意に近づいてどうする気だっ!? レイドお前も早く出てこいよっ!!」


 残りの口を使い慌てた様子で叫ぶ魔王がどうやってか、俺を押しつぶそうとどんどんと肉壁を押し狭めてくる。

 それを軋む盾で抑えつつ、あえて片手で直接魔王の肉壁に触れた俺はアイダの悲痛な叫びに胸を痛めながらもやはり振り返ることなく静かに呟いた。


「……さよならアリシア……我が身体に満ちる魔力よ、この身を包み我らが身を望みし天地へと運びたまえ……転移魔法(テレポート)っ!!」

「「「「っ!!?」」」」


 果たして直接触れた状態で唱えた俺の転移魔法は、いつぞやル・リダがドドドラゴンと共に飛んだ時と同じように俺ごと魔王の身体を狙った場所へと飛ばしていく。


(流石の魔王でも体内から魔法を放たれたらどうしようもないよなぁ……俺が魔法を使うタイミングが計れないから無効化も出来ないし、避けるのは論外だ……)


 尤も俺もまた魔王の様子どころか外がどうなっているのかもわからない……それでも僅かに聞こえてくる空気を切る落下音が、俺の目論見通り魔王を遥か彼方の上空へと飛ばすことに成功したと物語っていた。

 これが俺の出した結論……魔法の巻き添えにならないよう魔王の前から人を逃がすことができないのならば、逆に魔王自体を誰も居ない所へ飛ばしてしまえばいい……ただそれだけの話だった。


(本当にごめんな皆……こうするほか俺何も思い浮かばなかったよ……だけどこれで周りへの被害を一切遠慮することなく例の魔法を唱えられるっ!!)


 当たり前だが魔王の体内から放てば確実にあの範囲魔法は魔王へと効果をもたらすだろう。

 その結果暴発した魔王の魔力は体内の一切合切を吹き飛ばすはずだ。

 

(もちろん俺もただじゃ済まないよな……魔王の体内に居るんだから自分の魔法の威力だけじゃなくてきっと魔王の暴発の衝撃にも巻き込まれる……だけど外に出たりしたらそれこそその瞬間に殺されかねないし、そんな隙も……)


「「「「「あぁああああっ!! またかまたかまたかぁあああっ!! 今度は落下死させる気かぁあああっ!! だけど無駄なんだよぉおおおっ!!」」」」」

「っ!?」


 未だに俺の目論見に気付ききっていない魔王はそんな的外れなことを叫んだと思うと、バサバサと妙な音を鳴らし始めた。

 すると途端に外の風の音が変わり、振り返れば僅かに開いている口から外の光景が見えて……落下が収まったことがわかる。

 どうやってかしらないが恐らくは翼でも生やして強引に宙に浮かんでいるのだろう。


(やっぱりな……この調子だと自分の身の安全なんか確保しようとしてたらその前に魔王が体勢を立て直してしまう……それどころかここに居ても反撃してきかねない……だからこそ今すぐ、この場で決めないと……)


 そう覚悟した俺は最後に軽く目を閉じて、再度アリシア達に謝罪した。


(本当にごめんアイダ……やっぱり俺生きて帰れそうにない……君との約束を破って……泣かせてしまってゴメン……だけど俺はアリシアが……いや、アリシアも泣いて……ああ、そうか……っ)


 そこで少しだけ自分が勘違いしていたことに気が付いた。

 先ほどはアイダを泣かせてでもこの行動を取ろうとしたことで、俺はアリシアの方が大切に思っているのだと感じてしまった。

 しかし考えてみればこの行動はアリシアの笑顔をも奪ってしまうだろう……現にあんなに悲痛そうに叫んでいたぐらいだ。


 それなのに俺がこの行動をとった理由は……二人に生きていてほしかったからだ


(生きてさえいればあの二人はきっと互いに支え合って笑えるようになる……ああそうか、俺はアイダとアリシアの関係を信じていたから……だからこそ二人を守りたくてこんな行動を……結局最後の最後まで結論を出せなかったってことか……本当に俺のヘタレっぷりはどうしようもないなぁ……)


 だけど不思議と俺はそんな自分が少しだけ誇らしく思えて、何より最後の最後に二人が支え合い笑っている姿を確信して思い浮かべられて……それだけで幸せな気持ちになって微笑みすら浮かべてしまうのだった。


(……俺は十分幸せだったよ……だからどうか、こんな気持ちにさせてくれた皆にも……どうか幸多からんことを……)


「「「「死ね死ね死ね死ねぇええええええっ!!」」」」

「我が魔力よ……万物と交わりて……我が同胞に等しく効果をもたらしたまえ……」


 それだけを願いながら俺は静かに、ある意味で全ての始まりになった範囲魔法を……全てを終わらせるために唱えあげるのだった。


「「「「レイドレイドレイドレイドぉおおおおおおおっ!!」」」」」

「そして体内に眠りし魔力よ……その全てを形無きまま解き放て……オールアウトバーンっ!!」

「「「「あぁあああああああああああああああああああああああああああ……っ!!?」」」」

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[一言] ああ…… なにも言えず……
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