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終わりの始まり⑱

「ぜ、絶対に無理しちゃ駄目だよっ!!」

『わかっている それよりレイドをよろしく頼む』


 会議も終わり、振り分けたアイテムでもって体調も整え終えたアリシアとエクスは首都の外に新しく敷き直した転移魔法陣の上へと移動してこちらに向かって手を振っていた。


「では改めて諸君の任務を説明するぞ……二人はまずパパドラ殿の元へと向かい、彼と交渉して代わりに魔王の相手をしてもらいたい……そしてその間にこちらへと戻って来てもらったパパドラ殿の案内の元で我々が魔界へと足を運びル・リダ殿の探索を行う……もしも魔王を倒しても予備プランが暴走したら意味がなくなってしまうからな」

「わかってるっての、そう何度も説明されなくてもよぉ……」


 呆れたように呟くエクスだが、そんな彼の言葉を受けてもマキナは心配そうな面持ちを崩すことはなかった。


「エクスは相手が強敵だと盛り上がって後先を忘れることがよくあるではないか……しかし今回ばかりは無謀な真似は止めてもらいたい……二人にはその後もレイド殿が新しい魔法を編み出すか別の対処法を見出すまで魔王の足止めをしてもらわなければならないのだからね」

『了解だ 皆の背後を付かれるような真似はさせない レイドが来るまで絶対に食い止めて見せる』

「アリシア、気持は嬉しいけど本当に無理だけはしないでくれ……君が死んだら俺はもう耐えられない……」

「そ、そうだよぉアリシアぁ……あの約束を破ったりしたらやぁだからねっ!!」

『わかっている 私もアイダとの約束を破るつもりはない だからそちらも無理はしないでくれ』


 俺達に向かい安心させるように微笑んで見せるアリシアだが、あの魔王と戦いに行くと思うとどうしても不安を消し切ることができない。


(幾らこの二人でも魔王を相手に何日も戦い続けられるとは思えない……二人を助けるためにも早く新しい魔法か魔王に通じる策を編み出さないとな……しかし、あの約束ってなんなんだ?)


 意味深な眼差しで見つめ合うアリシアとアイダを見ていると、ちょっとした疎外感を感じてつい問い詰めたくなってしまう。

 しかしそんなことは今しても仕方がない……この戦いを生き残った後で時間をかけて教えて貰えばいいのだから。


(そうだ、この戦いさえ乗り切れば俺達には沢山の時間ができる……だから今はこの事件の解決ために全力を注ぐことだけを考えよう……)


「では早速頼む……だが重ねて言うが無理はしないでくれ……魔王を相手に防戦一方とは言え立ち会える貴方達が倒れされたり吸収されては、それこそ手も足も出なくなってしまうからね」

「へーへー……まあ何とかしてみるさ……」

『じゃあレイド アイダ また後で』


 改めて俺たちに手を振った二人は、今度こそ魔王の一番近くにある転移魔法陣へと飛んでいった。


「あぁ……行っちゃったぁ……」


 未練がましく魔法陣を見つめながら呟くアイダだが、俺もまたすぐには視線を離せずその場に立ち尽くしてしまう。


(だけど仕方ないよな……魔王は空も飛べて転移魔法も使える……当然新たに転移魔法陣を敷いて回ることだって……もしあの魔王が縦横無尽に移動し始めたら手が付けられない……一カ所に抑えておかないと不味いからな……)


 またマキナが危惧していたようにより強くなろうとドラゴンを吸収し始めたり……或いは自らの醜態に自棄を起こして予備プランを新たに再開させる可能性もある。

 もしそうなったらあれ以上に強い魔王が複数体産まれ落ちてくる最悪の事態になりかねない。

 それらを防ぐためにも誰かが魔王を食い止めておく必要があるのだ。


 尤も今もパパドラがそれをやってくれているのだけれど、ドラゴンの住処である魔界の調査に赴くにはパパドラの協力が不可欠だった。

 だからこそこうしてアリシアとエクスに代わって抑えてもらうよう、先に魔王の元へと向かってもらうことになったのだ。


(魔界の探索も先にしておかないと……ア・リダが残した予備プラン次第では自動的に新たな魔王が産まれるような状態になっていないとも限らない……これを放置していて肝心な時に挟撃でもされたらお終いだっ!!)


「マキナ殿っ!! こっちの転移魔法陣も準備できたみたいだぜっ!!」

「もう行っちまったのか……出来ればアリシアに声をかけておきたかったんだけどなぁ……」


 そこへトルテとミーアの声が聞こえて来て、振り返れば二人もまた残念そうな顔でアリシアが去った後の転移魔法陣を見つめていた。

 この二人を始めとして残りのメンバーは全員、魔界へと乗り込むための支度に大忙しでお見送りしている暇はなかったのだ。

 あくまでもアリシア達に目的を忘れないよう言い含めるためのマキナと魔王対策のアイディアを練るのに集中してほしいと何の作業も任されていない俺、そしてそんな俺がプレッシャーに飲み込まれないよう支える役が与えられているアイダだけが例外だった。


「……なぁに、この事件が片付けば後で幾らでも話す機会はありますよ……だから絶対にみんなで生き残りましょうね」

「うむ、レイド殿の言う通りだっ!! 我々は全員で協力して全力を尽くし皆で生き残るのだっ!! その為にも私も支度をするとしようっ!! 行こうトルテ殿っ!! ミーア殿っ!!」

「了解……じゃああたしらはまた出発の支度をしてくるわ……」

「レイド達の分もやっておくからな……お前らは例の魔王対策に全力で頭を傾けておいてくれや……」

「うん、じゃあそっちはよろしくねぇ」


 俺達に手を振って駆け出していく三人を見送り、アイダと二人きりになったところで思わずため息をついてしまう。


「はぁ……しかし魔王対策って言われてもなぁ……」

「大変だよねぇレイドは……いちおぉ僕も知恵は貸すつもりだけど……新しい魔法の作り方とかチンプンカンプンだからなぁ……」

「俺も毎回無我夢中で……それこそできなければお終いぐらいの気持ちで編み出してたからなぁ、作れと言われて作れるかと言えば……困ったなぁ……」


(ほぼあらゆる種類の生き物を取り込んで生命力が高まってる化け物を……あのアリシアが家宝の剣をもって全力で攻撃しても傷一つ付けられない化け物を……無機物と融合させてなお動いてくるほどの不死身な化け物を……倒せる魔法か手段……全く見当がつかないなぁ……)


 正確には魔王にも通じるような効果を持った魔法自体を思い浮かべることは出来なくもない。

 それこそそこにある存在の時間そのものを停止させる魔法で封印してやったり、或いは掛けられたら即死するとかいう効果の魔法でもいいだろう。

 だけど魔法の開発にはその効果を詳細にイメージして思い浮かべる必要があり、そんな超然とした現象を再現する魔法を開発できるかと言えば恐らくは不可能だ。


(時間が止まる感覚も死という現象だって当たり前だけど経験した覚えもない……もちろん想像で補うことはできなくもないけど、そんな危険な魔法を開発し損ねて暴発させたら俺が即死……するどころか下手したら世界も危ういだろうからそんな危険な真似は出来ない……尤も仮に上手く言っても多分魔力が足りなくて大した効果を発揮せずに終わるだろうけどさぁ……)


 あくまでも俺の経験できる範囲で、尚且つ俺の魔力量で再現できる現象であの魔王に通じる効果を編み出すなどぶっちゃけ無理難題にもほどがある。


(他に問題はある……仮に全てが上手く言ったとして……あいつに通じる攻撃魔法でも何でも編み出せたとしてだ……それをどうやって当てればいい?)


 あの魔王にも通じる魔法を、まさか無差別な範囲で放つわけにはいかないだろう。

 しかし狙いを定めて放つ類の魔法だと、幾ら今現在の魔王が速度を落ちているとはいえ恐らくそうそう当たってはくれないはずだ。

 特に先ほどあんな嵌め方をした俺を間違いなく魔王は警戒するだろうから、俺が放つ魔法は絶対に避けるぐらいの気概で行動してくると思われた。


(あんな奇策はもう二度と通じないだろうしなぁ……それこそやりたくはないけど命がけで相打ち覚悟で突っ込んでも避けられて遠距離攻撃で仕留められるのが落ちだろうなぁ……当て方からあいつに通じる魔法まで開発するとかさぁ……)


 会議が終わってからずっと言われた通りに頭を捻らせているが、そうそう簡単に新しい魔法は思い浮かびそうにはなかった。


「やっぱり難しいよねぇ……だけどレイドはさぁ魔術師きょーかいや錬金術師れんめーの人達ですら使えないって諦めてた範囲魔法とか、マキナさんでも自爆テロになりかねないからって躊躇していた攻撃魔法とかも編み出せたんだから……何よりレイドだもん……絶対に何か思いつくよっ!!」


 俺に信頼しきった目を向けてはっきりとそう断言してくれるアイダ。

 大切な女性であり尊敬している彼女から期待されるのは嬉しいし、今までは奮起する起爆剤にもなってくれていた。

 しかし今回ばかりは、ちょっとだけプレッシャーすら感じてしまう。


(しかもアリシアとエクスが抑えられている間って言う時間制限もあるもんなぁ……だけどアリシアもあの魔王と戦いに行くのに恐怖を感じてるようには見えなかった……絶対に俺が何とかするって……信じてるって目をしてたなぁ……この二人の期待を裏切るわけには……だ、だけどなぁ……ああ、プレッシャーがぁあ……)


 考えれば考えるほど重圧が掛かってきて、何やらお腹がジクジクと疼いているような気がしてくる。


「うぅ……ま、まあ皆の期待を裏切らないよう頑張るつもりだけど……うぅん……あの魔王に通じる魔法ねぇ……」

「まあ魔法じゃなくても、さっきみたいな作戦でもいいみたいだけど……こっちはマキナさんでも思い浮かばないんだからやっぱり新しい魔法を重点的に考えたほうが良さそうだよねぇ……」


 そんな俺を気遣うように呟くアイダだけれど、結局は新しい魔法と言う結論に至ってしまう。

 しかし確かに普通の作戦が通じるような相手であれば、恐らくマキナかランド辺りが既に有力な方法を提案してくれているはずだ。


(確かにアイダの言う通りなんだけどさぁ……あれだけの威力の暴発を受けても動く相手に当てられて通じる魔法なんかやっぱり思い浮かばないって……はぁぁ……今から思うと初めて編み出した範囲魔法は物凄く楽だったんだなぁ……何せ実際に上手く行かなくて何度も暴発させたけど死ぬほどじゃなかったから、その痛みを堪えながら何度もチャレンジして開発できたんだもんなぁ……)


 それに対して今回の魔法は上手く行かなければ十中八九、暴走で命を落とすのだから一度きりで成功させなければいけないというおまけつきなのだ。

 流石に幾らアリシアとアイダから期待されていても、こんな条件でやり遂げれる自信は全くなかった。


(それでも編み出さないとなぁ……例え範囲魔法とは天と地の難易度の差があっても……暴発で命を落とす危険があって……んっ!?)


 そこでふと今まで考えてきたことの中に何かのヒントがあるような気がした。

 俺の今までの経験を組み合わせて……俺に使える範囲で尚且つ魔王に確実に当てられてダメージを与えられる魔法。


(俺の魔力量の限界……あいつに当てる方法……無差別……奇策……相打ち覚悟で……命がけ……範囲魔法とは違って……暴発……)


「どぉしたのレイド? 何か思いついたの?」

「……いや……まだ形にはなってない……なってないけど……ひょっとしたら……しかし……」

「レイドさぁあああんっ!! お忙しいところしつれぇしまぁあああすっ!!」

「うおっ!?」

「ひゃぁっ!?」


 しかしそこで慌てた様子で駆け寄ってきたエメラの声に驚き振り返った……ところで鼻血で体中が汚れながらドラコっ子達を可能な限り両腕に抱え込んでいる彼女の姿に思考が打ち切られてしまう。


(あ、あれからずっと鼻血垂らしっぱなしだけどそろそろ出血死とかしないのかなこの人……じゃ、じゃなくてっ!!)


「な、何してるんですかエメラさん……貴方もドラコと一緒に魔界へ乗り込む支度をすると言っていたじゃないですか……」

「ええっ!! ですから私はドラコちゃんとドラコっ子ちゃん達が里帰りするために最も似合う衣装を求めて四苦八苦していっその事ペアルックにしようと私の服を着せようとしましたが胸の部分がダルダルだったのでいっその事私とドラコちゃんが半裸になれば解決するのではと思ったところで……」

「そ、そんなこと思わないでよぉっ!! とゆーかあんまりドラコさんに迷惑かけたら駄目だよぉっ!! そんなところパパドラに見られたら怒られるどころじゃ済まないよっ!!」


 余りにも酷い内容に流石のアイダも説教するような口調で咎めに掛かるが、エメラは真面目な顔で……口元は緩んでいて視線はドラコっ子達の方を向いていたけれど口調だけは真剣に続きを口にした。


「そ、そのパパドラさんなんですがドラコちゃんが言うには移動を開始したと……こっちに向かっているということでぇすっ!!」

「あっ!? じゃ、じゃあ上手く行ったんだっ!!」

「そ、そうですか……それで魔王の方は……」

「微妙に移動しているようですがパパドラさんの後を付いてきたり、大掛かりに移動しているわけではないようです……アリシアさんとエクス様が二人掛かりで翻弄しながら戦っているのだと思われます」


 向こうが順調だと分かった俺は、自然とアイダと向き合いお互いに目を合わせながら頷き合った。


「アリシア頑張ってるんだね……じゃあ僕たちも頑張らないとっ!!」

「そうだなっ!! パパドラさんの移動速度からしてすぐにでもここに到着するはずだっ!! 俺達も支度している皆のところへ行こうっ!!」

「おおぅっ!? そんなに早いのですかぁっ!? な、なら急いでドラコちゃんと一緒に脱いでペアルックに……い、痛いでぇええすっ!! み、耳は弱いんですっ!! ひ、引っ張らないでくださぁああいっ!!


 そして俺たちはふざけたことを抜かすエメラの耳を引っ張る様にして皆の元へと走り出すのだった。

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