終わりの始まり⑯
「ど、どうしてこんな……あぁ……」
「くぅ……こうなる可能性は想定できたはずなのに俺は……っ」
俺とアリシア、そしてマナとデウスにエクスと五人掛かりで転移魔法陣を新たに作り上げた俺たちは、早速ファリス王国へと引き返した。
しかし転移魔法陣のある部屋で俺達を待ち受けていたのは、余りにも衝撃的な光景であった。
「ドゥルル……」
「ドゥル……?」
ドラコに似た子達が何かに群がり四つん這いで顔を近づけながら、その口元からピチャピチャと音を鳴らしている。
見ればその口周りは、彼女達が群がる物体より流れ出る血液により真っ赤に染まってしまっていた。
そんな彼女たちの傍で、血を流しながら床に転がっているモノを揺り動かして居た子は近づく俺たちに気付いて顔を上げるとぽつりと呟いた。
「エメラ壊れた……」
「はぁはぁ……べ、ベイビィちゃん……ベイビィちゃん……私だけのぷ、ぷ、プリティガァァアルゥゥウ……あぁ、そんな舐め舐めされたら私は……私はぁあああ……はぁぁ……っ」
鼻血を垂らし恍惚とした表情で床に横たわるエメラを、半裸なドラコに似た子達は一生懸命介抱しようというのかその顔をペロペロと舐めてあげていた。
「ああもぉっ!! 何させてるのエメラさぁんっ!! 可哀そうでしょぉっ!?」
「ほら君たちもこんなことしなくていいからっ!! ほら顔洗ってあげるからそこに並んでっ!!」
「ドゥル?」
「あぁ……ま、待ってぇ……はぁはぁ……あ、後百年だけぇ……」
「待てるわけないでしょうがっ!!」
ふざけたことを抜かすエメラを一喝しつつ、ドラコそっくりな子達を引き離しにかかる俺達。
(エメラさんの居るこの場所にこんな格好のこの子達がやってきたら大変なことになるって予想できたはずなのに……俺の馬鹿ぁ……)
仮にもパパドラから託された子達にこんな変態の相手をさせてしまったことを申し訳なく思いつつ、必死に汚れた体を拭い始める。
「はぁぁ……全くエルフには困ったもの……デウス様、どうにかして……」
「我が同族が本当に申し訳ありません……しかしこればかりはもはや種族病とでもいうべきものでして、中々克服は難しく……」
「あれぇ? で、でもデウスさ……様はへーきなんだねぇ?」
「はは、こいつは無駄にながぁく生きてやがるからな……ぶっちゃけて言えば枯れてんだとよ……」
俺達やドラコに似た子達へ申し訳なさそうにしながら、理性的な手付きで顔を拭ってあげるデウス。
理由がどうであれエルフの見た目で暴走しない存在を見たのが初めてで、ちょっとだけ感動しそうになってしまう。
「うぅ……はっ!? で、デウス様ぁっ!? な、何故このようなところにっ!? それにレイドさん達もっ!! 無事に戻ってこられたのですねっ!!」
デウスの名前が聞こえたことでエメラは正気を取り戻したようで、身体を起こすと周りを見回してようやく俺たちが戻ってきたことに気が付いたようであった。
そして感極まったような笑顔で叫ぶが、その手は傍にいたドラコそっくりな子に伸びていて両手に抱きかかえようとしていた。
「久しぶりですねエメラ……相変わらずな様子ですが、お願いですから人前で余りエルフ族の恥をさらすような真似はなさないでください……」
「はぅっ!? い、いやでも……こ、こぉんな可愛い子達がこんな格好で誘ってるのに手を出さないほうが失礼かと……へぐぅっ!?」
「はいはい、それぐらいにしとけっての……騒がしいからもしやと思ってきて覗きに来てみりゃあ……良く戻ったなおいっ!!」
「レイド、それに皆も揃……だ、誰だあんたらっ!?」
そこへ後からミーアとトルテが部屋に入ってきて、エメラを止めつつ俺たちに笑顔を向けて……デウスとエクスを見て驚きの声を上げた。
「どうも初めまして、私はデウスと申します……こちらはエクスと……」
「ああんっ!? お前ら冒険者じゃねぇのかっ!? 何で俺を知らねぇんだよっ!?」
「はぁっ!? デウスとエクスってのは確かあの日記に出てた……な、何でそんな大物がこんなところにっ!?」
「な、何が起きてんだおいっ!?」
「そ、それよりパパドラさんとやらはどうなさったのですかぁっ!? 真っ先にドラコ達と合わせてあげたくてここで待っていたのですがっ!?」
思い思いに叫び出す両者を見つめて、俺は少しだけ疲れながらとにかく事情を説明しようと口を開くのだった。
「お、落ち着いて皆さん……実はですね……」
「おおっ!! よくぞ戻ってきたなレイド殿っ!! それにデウスにエクスもっ!! 援軍として駆けつけてくれたのだなっ!! 非常に助かるっ!!」
しかしそこへ今度はマキナが飛び込んできて、俺達を見回し嬉しそうな声を上げた。
「よぉマキナ、久しぶりだなぁ」
「まさか本当にこの場所におられるとは……錬金術師連盟の方々から何度も貴方の居場所を尋ねられていたのですよ……」
「わかっているとも、恐らくは転移魔法陣から現れた魔獣の件で錬金術師連盟の方針について相談したいというのだろう……その辺りも含めて事情の説明は奥でしよう……皆が待っているっ!!」
「えっ!? あ、あの皆とは一体……っ!?」
「会えばわかるっ!! とにかくついてきたまえっ!!」
そしてマキナは俺達を先導するようにして、移動を開始してしまう。
まさか彼女を無視して話を始めるわけにもいかない。
だから俺達は素直にマキナの後を付いていくのだった。
*****
「……と、言うわけでしてその……何と言いますか、ア・リダが産み落とした化け物の目的はこの世界全体を己の望む形に作り変えることであり、そのために何かもを一度壊して作り直すつもりだと予想されまして……」
ファリス王国の王宮内にある大広間に急遽設置されたと思しき巨大な円卓の一角で何があったかをこの場の皆に説明しながらも、俺はどうにも居心地の悪さと気後れから言葉が何度も詰まりそうになってしまう。
それは同席しているアイダやトルテ、それにミーアやライフの町から来てくれたフローラも同様のようで俺の近くの席に座りながらもモジモジとせわしなく視線をさ迷わせてしまう。
「あ、あたしたち……場違いすぎやしねぇか……?」
「あ、ああ……やっぱりレイドとアリシア……とその翻訳の間に任せて下がって置きゃあ良かったかなぁ……」
「ちょ、ちょっと勘弁してよぉ……僕だってものすごぉくプレッシャー感じてるんだからぁ……」
ひそひそと呟いているアイダ達の言葉通り、俺もまたこの場に居る人々の顔ぶれを見回してはそのたびに物凄いプレッシャーを感じてしまう。
何せ時計回りに零時の方向からファリス王国の現国王であるガルフがつまらなそうに座り、その隣には真剣な面持ちで俺とアリシアを交互に見つめるアリシアの両親が腰を下ろしている。
次いでルルク王国の現国王であるランドと王女であるアンリが座り、二人の間には従者のメルが控えながら三人とも発言する俺を信頼しきった眼差しを向けてきていた。
他にもこの大陸に存在する各々の国々の重臣と王が同じく腰を下ろしていて、更には教会から派遣されてきた代表者と思しき方に魔術師協会の代表としてデウスとマナ、冒険者ギルドの代表としてエクス、錬金術師連盟の代表者としてマキナが並んでおり、彼らは深刻な様子で俺の報告に聞き入っているようであった。
その後にはヲ・リダが俺たち以上に肩身が狭そうに座り、その隣からトルテ、ミーア、エメラと来てドラコにフローラ、アイダにアリシア、そして俺と続いている。
これほどの超大物の集まりに混ぜられた俺たち凡人組はどうしてもビクビクとしてしまうが、その中で唯一アリシアだけは堂々としているように見えて、改めて身分の差のようなものを自覚しそうになってしまう。
(ど、どうしてこんな場に俺たちが……いやまあ理由はわかるけどさぁ……)
あのゴーレムの群れを見たマキナは今回の事件が簡単には収束しえないと判断していたようで、次の手として世界各国の力をまとめ上げて支援を受けられるよう行動を開始していたという。
そしてちょうどあちこちの転移魔法陣から魔獣が飛び出した件について各機関に色々な問い合わせを受けていたこともあり、それを口実にマキナは皆をこの場へと集めることに成功していたのだ。
「……で、その場にいたパパドラ……成体のドラゴンである方とは別れてこうしてこちらに戻ってきた次第です……はい……」
「なるほど、良く分かった……そのレイド殿の報告が正しいのであれば、確かにそれは魔獣すら比べ物にならぬ世界の一大事であろう」
「はっ!! レイドの奴にそんな真似できるかっての……」
「ガルフ殿、このような場でそのような口は慎みなされ……」
何とか報告を終えたところでランドが深刻な様子で頷いて見せるが、それに対してガルフは胡散臭げな眼差しを俺に向けてくる。
「事実でございますよガルフ第一王子殿……いえ、現在ではガルフ国王陛下と呼ぶべきですね……」
「あ、ああ……そ、そうなのか……」
「マジだ、マジマジ……俺達もこの目で見てっからなぁ……しかしあいつはそんなヤベェ奴だったのかよ……」
それでもデウスが肯定するように呟くと途端に威勢を失って大人しくなるガルフ。
権威に弱いのかそれとも未だに俺を見下しているのかはわからないが、そんな彼に向かいエクスも後押しするように頷きながら困ったような声を洩らした。
「し、しかし其方らの言葉が正しければレイド殿の仕掛けた二重の罠によりその化け物は命を落としているのではないかな?」
「いいや、残念だが……エメラ殿、ドラコ殿に聞いていただきたいが未だに向こうに反応は二つ残っておるのだろう?」
それに対して別の国の王が恐る恐る呟くが、マキナは弱々しく首を横に振りつつドラコとその隣に座るエメラへと問いかけた。
「はぁはぁ……一所懸命語るマキナたん可愛……はっ!? え、ええとドラコちゃん……今も向こうに反応は感じますかぁ?」
「感じる……お父さんと何か……向こうでどっちも細かく動いてる……」
「そ、そっか……ドラコなら反応がわかるから……け、けどあれでも駄目だったなんてぇ……うぅ……」
怯えたような声を洩らすアイダだが、正直俺もあれでも倒し切れなかったと知ってショックを受けてしまう。
(転移魔法で大地と融合させられたことでパワーダウンした様子だったのに……その状態であれだけの暴発を起こしてなおまだ生きているなんて……)
しかもドラコの言葉が正しければ、恐らくはパパドラと戦闘中なのだろうがそれでもなお一瞬でケリがつかない程度には力が残っているようだ。
尤も向こうが全力であればパパドラですら一人では戦いにすらならないだろうから、今も戦闘が継続しているところを見ると全くノーダメージではなかったはずだ。
「で、ですが細かく動いているということは現在は戦いの最中ということになりますよね?」
「も、もしそうであるならば今こそ再び全力を投じて殲滅させるべきではないでしょうかっ!?」
「幸いここには我々人類の中でも最高峰の実力者であるエクス殿に、同じく屈指の実力者と名高いアリシア殿……更には魔術師協会でも指折りのマナ殿もおられる……更に外で待機しているあの三つ首のドドド……とにかく彼の生き物も相当の強さを誇るであろうし、諸君らが力を合わせれば……」
それを聞いて各国の重鎮たちは慌てた様子で今すぐにでも討伐しろとばかりの口調で迫ってくる。
その最中に戦力として数えれたドドドラゴンだが、どうもずっと面倒を見てくれていたパパドラと同じ匂いのするドラコに懐いていて一応彼女の言うことを聞いてくれる状態であるようだ。
また他のドラコにそっくりな子達も同様であり、そしてドラコはまた少し正気に戻りかけているのか俺と何だかんだで面倒を見てくれているエメラの言葉には反応してくれるようになった。
だからこの子を通せば確かにドドドラゴンも戦力として利用できなくもないだろうが……それを聞いていたガルフは苦々しい顔をして叫び声をあげた。
「だ、駄目にきまってんだろっ!! 俺のアリシアにそんな危険な真似させられるかっ!! それにあの三つ首の野郎は俺の国を滅茶苦茶にしたバケモンだぞっ!! それこそ今すぐ処刑して……」
「ま、まだそんなこと言って……アリシアは僕……じゃなくてアリシア本人の物でしょぉ……それにこの国を滅茶苦茶にしたのは魔獣であってあの子はゼメツの街からほとんど動いてないから被害なんて全然出してないんじゃ……」
「ああんっ!? お前みたいなどこぞのガキの意見は聞いてな……ひぃっ!? あ、アリシアっ!?」
呆れたようなアイダの言葉に対して露骨に見下し馬鹿にするような声を洩らしたガルフは、アリシアに殺気の篭った視線で睨みつけられ黙らされた。
「あ、アリシアぁ……えへへ、僕の為にそんなに怒らないでよぉ……」
『いや私の 為に気を使って指摘してくれたアイダを侮辱するような真似は許す気にはならん』
私のと書いたところで何故か筆を止めたアリシアは、改めてそう書き直したが果たして本当は何と書くつもりだったのだろうか。
「ガルフ殿、これでは話し合いが進まぬ……世界の危機なのだから個人的な感情は抜きにして冷静に話を進めて頂きたい」
「な、何で俺ばっかり……ちっ……」
不貞腐れたようにそっぽを向くガルフの態度に、その場にいた誰もが呆れたような視線を向けるが本人だけは気づいていないようであった。
(おいおい……色々と問題はあると思ってたけどここまでとは……こんな調子で本当にこの先国王としてやっていけるのかよ……まあ、今後があればだけど……)
何せあの化け物をどうにかできなければ、この国どころかこの世界に存在する全ての生命が殲滅されかねないのだ。
だからこそ今はもうガルフのことで思い悩む暇はないとばかりに、俺たちは改めてあの化け物に対する会議を続けることにした。
「話を戻すが、確かに先ほど皆様がおっしゃった通り弱っているであろう現時点で一気に攻め込むのは一つの手ではある……しかし問題は向こうの不死身とも無敵ともいえるまでに高まっている生命力だ……之を攻略する手段がない限り、仮に向こうを上回る戦力で攻勢を仕掛けたとしても倒すことはできず泥仕合で終わってしまうだろう」
「確かにあいつの硬さも再生力も異常だった……アリシアとパパドラが物理や魔法を駆使して全力で攻撃しても傷一つ受けなかった……あれじゃあ幾ら弱ってても致命打を与えるのは難しそう……」
「うぅ……パパドラさんも無理しないで戻って来てくれるといいんだけどなぁ……」
「……お父さん」
アイダの心配そうな声を受けてドラコも、どこか切なそうにパパドラが居るであろう方向を見つめて呟いた。
「うむ、確かにな……何ならばパパドラ殿を連れ戻すために乗り込む必要はあるかもしれないが……ドラコ殿、どうにかして呼び戻すことは出来ないものか?」
「あー……どうですかドラコちゃん……お父さんをこの場に来てほしいって呼びかけたりできますか?」
「……わからない……やったことない……一応試すけど……うぅん……うん……うぅん……」
「……はぁはぁ……も、悶えるドラコちゃん……き、キスしたい……うぅ……ですがさすがにこの場ではぁ……」
エメラに言われて目を閉じて一生懸命念じるように声を洩らすドラコ……その隣で発情エルフが何かほざいているのを見てデウスは疲れたようなため息を漏らした。
「はぁぁ……マナ、いざとなったら遠慮なくエメラを痺れさせて動けなくしてあげてくれ……それがせめてもの慈悲というものだ……」
「わかった……これだからエルフは……」
「と、とにかくそのまま続けてくれたまえ……あまりあの化け物の……ふむ、いい加減に名称があったほうが良いであろうな……魔獣共から生まれた新たな世界の王となろうとしている存在でありゴーレムを生み出せるほどの魔力を持った存在……魔王とでも呼称しようと思うが異論のある者はいるかな?」
「い、いや別に名前は何でもいいけどよぉ……アイダのドドドラゴンに比べりゃあマシだし……」
「ひ、ひっどぉいっ!! まだ言うのぉっ!?」
ミーアの言葉に頬を膨らませるアイダだが、そんなやり取りを苦笑しながら見ていたマキナはさらっと流してしまう。
「では改めて話を戻すが……出来ることなら私は魔王の傍にドラゴンやそれに類するであろう強者を近づけたくはないのだ……レイド殿から聞いたプライドの高さを思えばあり得ないとは思うが、万が一にもそいつらを取り込んで更に生命力を高めようとし始めたらそれこそ手が付けられなくなるからな」
「あっ!?」
マキナに言われて俺は彼女が前に語っていた脅威の可能性について思い出していた。
(そ、そうだ……確か出発前にマキナ殿は産まれ落ちた何かが魔界に居るドラゴンを無数に吸収するのを恐れていた……大地と融合してなお動けるほどのあいつ……魔王ならそれこそあらゆる生き物を片っ端から取り込んで行くのも可能じゃないかっ!!)
ただでさえ生命力の高まりにより無敵とも言える状態になっているのに、これ以上強くなられたらどう対処すればいいのかまるでわからなくなる。
「ちょ、ちょっと待てよっ!! それって要するに向こうが転移魔法を悪用し始めたらもう止めようがないってことじゃねぇかっ!?」
「そ、そうだぜっ!! あいつが事故を恐れずに転移魔法で俺達を取り込もうとし始めたらそれこそどんな強者を差し向けようが一瞬でお終いじゃねぇかっ!?」
「いいや、確かに魔王は転移魔法で敵と重なるだけでどんな相手でも倒すことができる……しかし現時点では高速で移動する相手の居場所を的確に限定してピンポイントで飛ぶのは流石に無理だろう……レイド殿の策に引っかかった点と言い、恐らく記憶こそあれどまだ産まれ落ちたばかりで戦い慣れしていないはずだからな」
「そ、そっかぁ……そうだよね……考えてみればその方法を使えばパパドラだってもんどーむよーで倒せるのはずなのに未だに戦ってるぐらいだもんね……」
「ああ、だがそれも今の内だけだ……時間が経つにつれ魔王は様々なことを学習していくだろう……それこそ下手をしたらその辺の生き物を麻痺らせて融合して回ることも考えられる……だからこそ速やかに解決策を編み出し、これに対処する必要があるのだ」
そう言って俺たち全員を見回したマキナだが、最後に俺へと視線を差し向けてじっと見つめてきた。
「問題はその方法だが……今私が思いついていることは一つだけ……それも他力本願であり、レイド殿に頼りきりの情けない策ではあるが……」
「えっ!? お、俺がっ!? な、何をっ!?」
マキナの言葉に皆の視線が集中して、思わず戸惑いながら尋ね返してしまう。
するとマキナは、申し訳なさそうに……だけど期待を込めた眼差しではっきりとこう告げてくるのだった。
「簡単だ……レイド殿は今までに必要に応じて幾つもの新しい魔法を編み出してきた……だからこそ今回もあの魔王に通じる魔法を編み出してほしい……危険で何もかもの責任を押し付けるような情けない提案だが……今はこれしか思い浮かばないのだ」
「っ!?」
とんでもない提案に言葉を失う俺を、何故かガルフを除く全員が信頼を込めた眼差しを向けてくるのだった。
(お、俺があいつを倒す魔法をっ!? ど、どんな効果なら倒せるかもわからないし実際に作れるかどうかも……そ、それにあいつに通じるレベルの魔法だったら開発に失敗したら死……け、けど……それで皆が……俺の大切な人達を守れるなら……っ)