終わりの始まり③
「レイド殿っ!! 準備は出来たっ!! 他の皆と共に行ってくれっ!!」
「今なら向こうもがら空きですっ!! 確実にバレずに乗り込めますっ!!」
「し、しかしっ!? くっ!?」
馬車の中からマキナとヲ・リダが顔を出し俺たちに叫ぶが、振り返る余裕も無く迫り来る人型をした土の塊をまとめて叩き壊す。
「次から次へと……くそっ!! 鬱陶しったらありゃしねぇっ!!」
「おまけにかてぇしよぉっ!! どうなってやがんだっ!?」
苦々し気に吐き捨てながらミーアとトルテもまた必死に馬車へ迫る土塊を撃退しようとしているが、その硬さゆえに武器が弾かれて苦戦しているようであった。
「っ!!」
「……えいっ!!」
代わりとばかりに突出しているアリシアがすれ違いざまに敵を片っ端から吹き飛ばし、また馬車の傍に控えているマナが無数に生み出したファイアーボールでもって同じく敵を一気に粉砕していく。
それでも死を恐れぬ勢いで後からどんどん迫ってくる敵の勢いを押しとどめることはできない。
「ああもぉっ!! 鬱陶しいっ!!」
「うぉりゃああっ!!」
一応防衛戦代わりに馬車を囲むように円陣を敷いているドーガ帝国の冒険者達が何とか対抗できているためにまだ何とか状況は拮抗している。
しかしだからこそ、この状態で俺たちが抜けたらどうなるのか目に見えていてどうしてもマキナの言う通り敵の本拠地へ乗り込むことに抵抗を感じてしまう。
「や、やはりこれはドラコを狙っているのでしょうかっ!?」
「うぅ……ど、どぉ見てもこっちに迫ろうとしているもんね……」
「……?」
エメラとアイダは非戦闘員に近いためにドラコと共にもう一台の馬車の中に避難しているが、それでも時折顔を出しては周りを見回して不安そうに呟いている。
(くそっ!? 何だって急にっ!! 一体どうしてこうなったっ!?)
*****
事の始まりは話し合いが終わり、マキナとヲ・リダが転移魔法陣を引くためにもう一つの馬車へと移ってしばらくしたところであった。
彼らの準備が終わるまでの間に改めて互いの物資を確認して装備の最終調整をしていた俺たちだが、一応進行方向に何か変化が起こらないか交互に確認し合っていた。
「あっ!? み、皆さんっ!! 進行方向に人影が見えますっ!!」
「人影って……もうビター王国との国境を越えてるってのに人がいるわけないし……まさか魔獣かっ!?」
「い、いえ……まだ遠めですが背中から何かが伸びているようには見えませんし……人に化けている可能性は否定できませんけど……」
見張りの言葉に俺たちも馬車から顔を出し前方を覗き込むが、確かに地平線の辺りに人影が見えるような気がした。
(確かにぱっと見た感じでは普通の人型に見えるけど……念のため調べておいた方がいいかな?)
「アリシア、それにマナさん……二人の範囲魔法ならあそこまで届きますよね?」
「なるほど……わかった、一応確認しておく……私が魔獣のエキスをもってスキャンドームを唱える……反応が無かったらアリシアがエリアヒールを……」
『了解した』
俺の指示に従いまずマナが魔獣のエキスを手に持ったまま範囲魔法を発動させる。
途端に淡い光が地平線まで広がって行き人影を飲み込んだが、反応している様子は見られなかった。
「……どうやら魔獣ではないようですね、じゃあアリシアも頼む」
「……」
無言で頷くと今度はアリシアが範囲回復魔法を発動させて、同じように遠くに見える人影まで癒しの光で包み込ませる。
しかしこちらもまたその人影に反応を示すことはなく、俺たちの間に困惑気味な空気が流れ始める。
「あ、あれって……反応してない、よね?」
「……どーいうことだよ?」
「人でも魔獣でもない……異種族と言う可能性もありますけれど……一旦足を止めてマキナ殿と相談しましょうか?」
「そ、そうだな……おーいっ!! ちょっと止まれっ!!」
何やら不気味なものを感じた俺たちは、マキナ殿達の居る馬車へと声をかけたがその前に馬車は動きを止めていた。
「どうしたのだ? 範囲魔法を使ったようだが、何かあったのかい?」
「急に私の身体が光ったので魔獣を区別する魔法を使ったのだと判断して馬車を止めましたが……近くに居るようでしたら私から声をかけて様子を見ても……」
「いや、それが……」
顔を出してきたマキナ達に事情を説明するが、その間にも人影は段々とこちらに近づいてきていた。
その段になってようやく俺たちは、向こうから迫る人影が異様に多いことに気が付いた。
(な、何だあの数っ!? まるで軍隊……いやそれ以上だっ!?)
横一列に並びながらまっすぐこちらに向かって進んでくる人影は、地平線の向こうに繋がるほど奥に並んで連なっていた。
それに気づいたところでこの中で一番身体能力の高いアリシアが驚いたように目を見開いた。
「ど、どうしたのアリシア?」
『見えた 人ではない 魔物でも魔獣でもない 土が人型を保った状態で移動している あんなもの見たことがない』
「なっ!? なんだそれっ!?」
アイダの疑問に慌てた様子でアリシアが書き記したメモを読んで、この場の全員に緊張が走る。
「土が人型……歩く……どこかで聞いたような……?」
「ええ……確か何かの資料で読んだ覚えが……マキナ先生は何か……っ!?」
ただマナとヲ・リダは何か心当たりがあるのか首を傾げながらも皆揃ってマキナへと視線を投げかけて……信じられないとばかりに向こうから迫る一団を呆気にとられた表情で見つめる彼女に気が付いた。
「あ、あれはまさかゴーレム……ば、馬鹿なっ!? あんな魔法が実在したというのかっ!?」
「ま、マキナ殿っ!? 何かご存じなのですかっ!? ま、魔法って……」
「嘘っ!! あり得ないっ!! だってあれは作り話のはずっ!!」
俺が疑問を口にする前にマキナの言葉を聞いたマナが今度は否定するような叫び声をあげた。
普段淡々としているマナがここまで取り乱す様子に俺たちは愚か、古くからの付き合いであるアリシアも驚いた様子を見せた。
「ゴーレム……ああ、そう言うことですか……通りで記憶に……しかしこれは……」
「ヲ・リダさんも知っているんですかっ!?」
「というか自分達だけで納得してないで説明してくれよっ!!」
「え、ええすみません……あれが本当にゴーレムだというのでしたらばですが、それは……」
「無いっ!! あり得ないっ!! あれが本当だとしてもそれを使いこなせる者がいるはずが……っ!? い、いやそうかっ!! 生命力の強化の果てにということなのかっ!?」
俺たちに対して説明しようとしたヲ・リダを遮る様にマキナは取り乱した様子で叫んだかと思うと、すぐに何かを納得したかのように顔をしかめて見せた。
「ま、マキナ殿っ!! しっかりしてくださいっ!! 事情を説明して……」
「マナ殿っ!! ゴーレムについての説明をっ!! ヲ・リダよっ!! 我々は転移魔法陣の設置を急ぐぞっ!!」
「わ、わかった……せ、説明する……」
「は、はいっ!! わかりましたっ!!」
マキナの余りの剣幕に対抗心を抱いているはずのマナですら言い返すことができないようで、ヲ・リダも素直にその後を追って馬車へと戻っていく。
「他の者はこの場で待機しつつ向こうの出方を窺えっ!! ただ恐らくあれは敵の本拠地に居る誰かの仕業だっ!! 敵意が見えたら迷わず撃退してくれっ!!」
「っ!!?」
更にマキナは馬車に戻る直前で俺たちにそう言い残していった。
その内容に緊張感が走った俺たちは、それでも戦い慣れしている人員が多いために即座に臨戦態勢を整えようと身体が動き出す。
「レイドさんっ!! 其方のリーダーである貴方に指揮をお願いしますっ!!」
「了解ですっ!! ではまず馬車を囲むように皆さんで防衛線を敷いてくださいっ!! アリシアは最前線に出て敵の強さを分析しつつ戦闘をっ!! マナさんはその後ろから固定砲台代わりに魔法で攻撃に専念っ!! アイダとエメラはドラコの警護をお願いしますっ!! 俺は状況を見て皆さんに指示を出しつつ敵の強さ次第でアリシアと共に切り込むか防衛線に参加するかマナさんと魔法で攻撃するかを判断しますからっ!!」
ドーガ帝国の冒険者達は恐らく同格者揃いであるためか、それとも今回の件に関しては俺たちのサポートに回ると決意しているのか自分たちの中からではなく俺に指揮を委ねてきた。
殆ど俺と実力の変わらない人達からの期待を、今の俺ははっきりと受け止めると早速指示を出して方針を固めていく。
(よし、とりあえず陣形は出来た……後は相手の出方と情報次第だっ!!)
「マナさんっ!! 配置に付いたら警戒を解かないままゴーレムの説明をお願いしますっ!!」
「もう着いた……じゃあ説明するけど大した話は出来ない……私の知っているゴーレムと言うのは神話の存在……」
「し、神話ってっ!?」
視界を広くとるためか、少し高くなっている馬車の運転席の上に立ったマナが口にした言葉は予想外の内容であった。
「そう神話……寿命の無駄に長いエルフやドワーフの間で口伝として言い伝えられてたり……人間でも最古の機関である教会に存在する古文書にだけ乗っている伝説……その中に出てくる魔法……何もないところから命を生み出すそんな魔法を使って命を与えられた塊がゴーレム……」
「な、なんだそりゃぁっ!? そんな滅茶苦茶な魔法が有んのかよっ!?」
「最初は誰も信じてなかった……実際に何人もの人が試しても成功したことはなかった……だけどつい最近……そう言っても数十年以上前だけど……その伝承と古文書の中に乗っている古の……同じくでたらめだと思われていた魔法の再現に成功した……だからこの魔法も本当かもしれないって話も出て来てた……だから私も覚えてたけど……」
そう説明したマナだが本心では自身もこんな魔法が実在するとは信じていなかったようで、半信半疑な様子で迫り来る一団を見つめていた。
「い、命を生み出す魔法って……じゃ、じゃああれは全部その魔法で作り出されたせーめいたいってことなのっ!?」
「わからない……だけどその伝承に出てきたゴーレムも確かに土塊を人のように操ったって話……」
「マジかよ……ち、ちなみにその再現に成功した古の魔法ってのは……?」
「それは機密……と言いたいところだけど……この場に居る人はもうみんな知ってる……要するに転移魔法……」
「っ!!?」
再度驚きを隠せない俺たちだが、自然とその目がマキナ達の居る馬車へと向かってしまう。
(た、確か転移魔法を発明したのってマキナ殿……道理で即座にゴーレムの名前も出てくるわけだ……そしてあれだけ衝撃を受けるわけだ……)
恐らくマキナは転移魔法だけでなくその神話に出てくる魔法を全て試したはずだ。
その上でゴーレムを生み出す魔法は使えないと判断していたのだろう……だからこそ実在すると知ってあれほどまでに取り乱したのだろう。
「ま、待って下さぁああいっ!! あ、あれが全て魔法で生み出されているということは、使い手はそれだけ魔力がある存在ということでしょうかぁっ!?」
「そう言うことになる……そっちも信じたくないけど……魔力の消費量は物凄いはず……なのにあれだけの数を生み出せるなんて異常……それだけの魔法力を持つ存在は魔術師協会にも居ない……ううん、多分人類には不可能なレベル……」
エメラの疑問はとある可能性を想定したものであることは、その場で聞いている誰もが理解できていた。
だからこそマナの答えがそれを肯定するものだとわかってしまう。
(人類には不可能な……それはつまり人を遥かに超える魔力を持っている……いや、さっきマキナ殿が叫んだ内容からわかっていたことじゃないか……)
『無いっ!! あり得ないっ!! あれが本当だとしてもそれを使いこなせる者がいるはずが……っ!? い、いやそうかっ!! 生命力の強化の果てにということなのかっ!?』
生命力の強化の果て……恐らくそれこそがマキナが前々から不安視していた生命の重ね合わせの果てに生まれる何かのことなのだろう。
「ついに向こうも動いてきたってことか……」
「……いえ、あの土塊の移動速度はそこまで大したものではありません……恐らくもっと前に生み出されて、こちらに向かって派遣されていたのでしょう」
「こっちに向かってか……と言っても既にドーガ帝国の殆どが崩壊してる今、この方向に目ぼしい物なんて残ったマースの街か……俺たちぐらいしか……」
ドーガ帝国の冒険者達はそう呟くが、はっきり言って向こうが目的にするものなど一つしか考えられなかった。
距離が離れていても探知できる存在……すなわち、ドラコだ。
(くそっ!! そうだよドラコはドラゴンの素材が混ざっている存在しか探知できないっ!! それはこっちも利用しようとしていた特性じゃないかっ!! 向こうがこっちの存在を意識してるかはわからないけど、それ以外の物を動かしてくるとなんて予想外だっ!!)
ずっと三体があの場から動いていないからと油断していたようだ。
人の知恵が混ざり魔法が使えるようになっている今、ゴーレムはともかく向こうが直接自らが動く以外にも取れる選択肢があることに気付くべきだった。
『そろそろ出る 後ろは任せた』
「アリシアっ!! 無理はしないでくれっ!! まずは接近して向こうの反応と……攻撃してくるようなら戦闘力を判断して戻って来てくれっ!!」
ある程度距離が縮まったところでアリシアが動き出した。
とにかく向こうの反応を確認しないことには何にもならない……それには奇襲をかけられても対応できるであろうアリシアがまず接触するのが確実だ。
(アリシアの実力なら仮にあれらがドラゴン並でも初激は回避できるはずだ……尤もあの移動速度からしてそこまで身体能力は高くないと思うけど……アリシアっ!!)
そう自分に言い聞かせつつも、万が一の時は即座に飛び出せるよう俺も身構えつつ両者の邂逅を見守った。
「……っ!?」
「あっ!?」
果たして接近したアリシアを、土塊は邪魔者を払うように腕と思わしき部分でもって薙ぎ払った。
尤もその動きはドラゴンは愚か俺よりも劣る程度であり、アリシアならば簡単に回避することができた。
しかし土塊達は回避したアリシアを認識しているのか、近くにいる連中はそちらに向き直って迫ると再び腕を振り上げようとする。
その明確な敵意を見たアリシアは今度は攻撃に移った。
「っ!!」
「お……おおっ!! 流石っ!!」
向こうが腕を振り下ろすより早く懐に飛び込んだアリシアは素手でもってあっさりとその身体を粉砕して見せる。
その様子からして硬さもまたドラゴンほどではないようで、俺たちでも十分対抗できそうに見えた。
(敵意があるのは問題だが、あの程度なら幾ら数が居ようとこっちの戦力なら十分に対抗でき……なっ!?)
しかしそんな希望はあっさりと砕けた。
何故なら壊れた土塊の破片全てが癒しの光にも似た輝きに包み込まれたのだ。
「あ、あれって……魔獣のっ!?」
「ば、馬鹿なっ!? 自動修復機能だって心臓と頭を潰されたら再生は止まるはずだっ!!」
思わず否定してしまう俺だが、実際に目の前で癒しの光に包まれている土塊が徐々に形を取り戻そうとしていた。
「っ!!」
それに気づいたアリシアが慌てて踏み潰し完全に粉々にするとようやく輝きは止まった。
どうやら握り拳以下の大きさまで壊せば流石に再生できなくなるようだが、逆に言えばそれだけの大きさが残っている破片は全て個別に再生しようとしているようだ。
(な、なんだこれはっ!? これじゃあ下手に砕いたら逆に数が増えてしまうっ!!)
果たしてアリシアもそれに気づいたようで憎々し気に表情を歪めつつも一体一体を確実に粉砕していく。
そのせいでどうしても土塊を倒す速度が落ちていき、その間にアリシアの傍にいない個体はまっすぐこちらを目指して進んでくる。
土塊の集団を止めきれないと判断したアリシアは、攻撃する手を止めないまま指示を仰ぐようにこちらへと振り返ってきた。
「アリシアっ!! もどらなくていいからそのまま戦闘を続けてくれっ!! マナさんに攻撃してもらうから巻き込まれないようにっ!! 皆さんも自分の前に来た個体は再生しないよう確実に処理してくださいっ!!」
「りょ、了解だっ!!」
「マナさんっ!! 俺のこの指輪をっ!! 魔力が自動で回復しますからこれで上手くやりくりしてくださいっ!!」
「わ、わかったっ!!」
距離を狭められる前に削るべきだと判断した俺はアリシアとマナに指示を飛ばし、他の皆にも防衛線を守り切る様にお願いする。
その上で馬車に引きこもっているマキナ達にも事情を説明するために駆け寄り叫ぶ。
「マキナ殿っ!! あいつらは自動で回復しますっ!! それも拳サイズまで砕かないと全ての破片から新たな個体が産み出されてしまいますっ!! 厄介過ぎて止めきれるかわかりませんっ!!」
「わかっているっ!! この魔法で生み出された存在は術者を倒すまで止まらないというっ!! 恐らくそこから再生用の魔力が供給されているのだろうっ!! 何より術者を倒さない限り無限に生み出される可能性もあるっ!! だからこそレイド殿達に本部へ乗り込んでもらい、最低でも術者の情報だけは入手してもらわねばっ!!」
俺に叫び返しながらも転移魔法陣の設置を続けるマキナ。
「そ、それはわかりますが……だとしてもこの場に留まる理由は……っ」
「ご安心をレイド殿……最悪は転移魔法陣で後方に逃走しますから……それに考えてもみてください、向こうがこれを差し向けている意図は恐らくドラコ……つまりこの状況は最悪ではありますが、ある意味ではマキナ先生の想定通りとも言えます……」
「っ!?」
同じく手を止めないまま補足するように呟いたヲ・リダの言葉に、俺は衝撃を付けつつも納得してしまう。
(そ、そうか……これがドラコを狙った向こうの行動だとすればやはりその意識はドラコに向いていることになる……つまり乗り込む絶好の機会ともいえる……だけどここで下手に下がったりしたら向こうの反応が変わるかもしれない……だからこそ今なのかもしれないけど……)
「それだけではないっ!! 転移魔法陣を使って下がってみろっ!! 神話に乗っている魔法を使える相手なのだぞっ!! それこそ転移魔法を使って追いかけて来かねないっ!! 向こうがその方法を使い始めたらもう手が付けられんのだっ!! だからこそ意識させるような真似はぎりぎりまで控えなければっ!!」
「っ!!?」
鬼気迫る表情で叫ぶマキナだが、確かに向こうが転移魔法陣だけでなく転移魔法そのものまで利用して移動し始めたらもはや手が付けられない。
(それはそうだけど……果たしてこの場で踏ん張りきれるのかっ!?)
そうは思うけれどマキナの言いたいことも分かってしまい、結局俺は何も言えないまま皆元へと戻るのだった。
*****
アリシアとマナの猛攻を潜り抜けた少数のゴーレムを防衛線として立ち並ぶドーガ帝国の冒険者と共に打ち砕いていく。
動きこそそれほどでもないがその硬さは生半可な切りつけでは弾かれるほどで、一体一体を完全に砕くのには非常に骨が折れてしまう。
(やっぱり再生が厄介過ぎるっ!! 幾ら硬いって言ってもドラゴンほどじゃないからこれさえなければ何とでもなるのにっ!!)
それでもアリシアとマナが防衛線に付くまでに大半を砕いてくれるからこそ何とか均衡状態を保てている。
しかし未だに地平線の向こうまで続いているゴーレムの集団は、全くその数を減らしたようには見えなかった。
(こんな状態で俺たちが抜けたら確実に戦線が崩壊するっ!! そんな状態で果たして全員で逃げ切るまで持つのかっ!?)
そう考えるとどうしても踏ん切りがつかないが、かといってこのまま戦い続けてもジリ貧でしかない。
「レイド殿っ!! 乗り込む他の皆もだっ!! こちらはこちらで何とかするっ!! だから行ってくれっ!!」
「で、ですが……」
「うぅ……ほ、ほんとぉに皆大丈夫なのぉっ!?」
再度マキナが俺たちを呼ぶが、俺もアイダも残された人たちが心配でつい呟いてしまう。
「だ、大丈夫ですよっ!! むしろこのために護衛である私たちはいるんですからっ!!」
「そ、そうだってっ!! レイドさん達が飛ぶまで時間を稼いだらすぐにでも避難するさっ!! だから行ってくれっ!!」
そんな俺たちに防衛線となり今も戦っている皆が力強く頷いて見せた。
「ああくそっ!! 確かにこのままじゃどうしようもねえっ!! 一か八か俺たちで術者を止めるぐらいの気持ちで行くしかねぇっ!!」
「行こうぜレイドっ!! アイダっ!! こいつらの気持ちを無駄にしねぇためにもよっ!!」
「くっ……」
それを聞いたトルテとミーアもまた俺たちを呼びかけながら戦線から下がり、マキナの居る馬車へと向かっていく。
「どうするレイド……行くならアリシアに声をかけないと……」
「……っ!! あ、アリシアっ!! 戻ってくれっ!! 術者を止めるためにも敵の本部に乗り込むっ!!」
「っ!!」
マナに尋ねられた俺はようやく覚悟を決めてアリシアを呼び戻す。
「皆さんっ!! 俺たちは行ってきますっ!! 後のことはお任せしますっ!! アイダも行こうっ!!」
「うぅ……み、皆っ!! 絶対無理しちゃ駄目、だよっ!!」
「わかってますよアイダさんっ!! ここは私たちに任せて早くっ!!」
戻ってきたアリシアと共にマナとアイダを引き連れながら馬車に戻った俺たちは、そこに設置されている転移魔法陣の上に密集する。
即座にマキナが転移魔法陣を起動し、がらんどうな一室の光景が浮かび上がる。
「では飛ばすぞっ!! 出来れば最初に逃走経路を確保してくれっ!! この場を放棄して逃走する場合、馬車の転移魔法陣は使えなくなっている可能性が高いからなっ!!」
「こ、こっちはこっちで何とかしますっ!! それより皆さんのこと……ドラコのことをよろしくお願いしますっ!!」
「まかせてくださぁああいっ!! それよりどうか皆さんも無理をなさらないようにしてくださぁああいっ!!」
「……?」
俺の叫びに様子を見に来たエメラとドラコが反応を示すが、そんな二人に向かってはっきりと頷き返す。
「ええっ!! 必ず皆で生きて戻りますからっ!! どうかそっちもっ!!」
「はいっ!! また生きて再会しましょうっ!!」
笑顔で約束を交わしたところで転移魔法が煌めき、そして俺たちの身体をいつもの不可思議な感覚が包み込むのだった。




