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062 イヌ耳族

 

 老婆から教えてもらったのはこういうことだった。


 警戒心の強いイヌ耳族は人間を信用していない。

 相対的に人間と比べるとその数も大きく少なく、ある程度の人数で集まり集落を築いているらしい。


 しかし、人間の作った食べ物や道具などの利便性も認めているために、モリヤモメと引き換えに交換しているのだという。


 そんなイヌ耳族は王国の人間とは直接取引をできないらしい。

 理由はわからないが、流通の規模が大きくなれば種族が危うくなる可能性を危惧しているらしいとのこと。


 更に、この村が独自にイヌ耳族と取引しているだけで、村人の一部しかイヌ耳族の集落の場所を知らない。

 そのイヌ耳族の集落を知っている村人が倒れてしまっている。


「――――まさかモリヤモメに毒があるとは…………」

「ばあさんたちはイヌ耳族と取引しているのに知らなかったのか?」

「ああ。わたしらはイヌ耳族が持ってきたモリヤモメを受け取っておっただけじゃからな」

「モリヤモメの毒は獣人には効果が薄いらしいですよ。それ以外にも獣人は総じて抵抗力が高いらしいですからね。それに、薬草にするためには特殊な細工をしなければなりませんが獣人の方がそれに向いているらしいです」

「ふぅん」


 だとするならば、一体どうして村にモリヤモメ症候群が流行る事になったのか。


「イヌ耳族が薬草にするのを失敗したのか?」

「それはないはずじゃ。もう何十年も取引しておるが、そういったことはこれまで一度もないからの」

「そうか。ならその辺で偶然モリヤモメを見つけたとか?」

「恐らくそれもない」

「どうして言い切れる?」

「詳しくは知らんが、モリヤモメは特殊な環境下でしか育たんらしいのだ。確かに偶に見つけたというなら話は別じゃが」


 老婆は首を振りながら迷うことなく言い放つ。


「そうなると、イヌ耳族に恨みを買うことでもしたのか?」


 もう考えられる事といえばこれぐらい。

 モリヤモメが通常手に入らないのであれば、イヌ耳族がわざと毒のあるまま村人に渡したのではないだろうかということだ。


「それも考えられない。今そんなことをする理由はないじゃろう」

「となるとお手上げだな。イヌ耳族の集落の場所もわからないのだろ?」

「…………ああ」


 もしかしたら向こうには何か理由があるのかもしれないと考えるのだが、それを今言ったところで何もわからない。


「だとすると俺達にできることはないな」


 マリアがいるから可能性は低いとはいえ、感染する前に村を立つ方が得策だろう。


「――ねぇ」


 そこでマリアと目が合う。

 その表情を見る限り嫌な予感しかしなかった。

 何を言おうとしているかもわかる。


「なんとかしないといけないと思うのです。放っておけません」

「言うと思った」


 このままこの村を放っておけるなら聖女なんてやっていないだろう。


「とは言ってもな。そのイヌ耳族の集落の場所がわからないことには」

「それはそうですが……」

「手当たり次第探すのか?どの方角をどっからどこまで?」


 余りにも現実的ではない。


「…………」


 少し意地悪く言い過ぎたのかもしれない。

 俯き加減に口籠るマリアを見て少しだけ申し訳なさが込み上げた。


「でも、何か方法があるはずです!」


 それでも顔を上げて合う目は力強い。

 マリアの目から読み取れるのは、全く諦めていないという事。


「はぁ。けどな――――」

『獣人がいるところなら知ってるゼ?』


 それまで無言だったポチが唐突にワンと口を開いた。


「――はぁ?」


 突然のポチの言葉に思わず驚愕する。


「どうしたのですか? 間抜けな顔をしていますけど?」

「い、いや、なんでもない!ちょっと方法がないか考えていただけだ」

「そうですよね、何か方法があるかもしれませんものね。ありがとうございます付き合わせることになりまして」

「気にするな。俺も色々と付き合わせたしな」


 マリアは国に戻る時期を遅らせてまで鍛え上げてくれた。

 カインの言葉を受けて、マリアも何か方法がないかと考え始める。


「(おい!どういうことだ!?)」


 そこで慌ててポチに問い掛けた。


『獣人だロ? そいつらなら確か森の中に住んでたはずだゼ?』

「(そうなのか?)」

『ああ。間違いなイ。この辺に住んでる人間じゃないやつらなんてあいつらぐらいだろウ』

「(…………そうか)」


 さて、意外なところから問題解決に向けての糸口が見つかった。あとはこの結果をどうしたらいいのだろうかということ。

 ポチが知っているとしても、それとなく獣人の集落に案内できるのだろうか。


「ふぅん、森の中に住んでるんだぁ。まぁ獣人だもんねぇ」

「――えっ!?」


 フローゼが突然口を開くとマリアが驚きフローゼを見る。


「森の中って……どうしてわかるの?」

「えっ?だってポチが――――」


 慌ててフローゼの口を塞いだ。

 フローゼはもがもがともがいているのだが、ここで口を開かせるわけにはいかない。


「……何をしているのですか?カイン?」

「い、いや、俺にもわかったんだ」


 何を言っているのか、マリアは小首を傾げる。


「どういうことですか?」

「よく考えてみろ。集落を誰も知らないってことは人目に付きにくいところだろ?」

「まぁ」

「それでここまでの道中、シュークリス山に集落があればとっくに出くわしているだろう」「そうですね、それらしい気配はなかったですしね」

「となると、当然開けた土地は除外するとして、残るは森になるな。フローゼにしては珍しくよくそこに気が付いたな」


 もっともらしいことを告げると、マリアは顎に手を当て思案気に考え出した。


「なるほど、筋が通っていますね。そうなると、より人が入りにくい深い森の方が確率は高くなりますね。お婆さん、この近く、一日で行ける範囲に人が立ち入らない場所はあったりしますか?」


「ん? 人が行かない場所か…………。そうじゃな。聞いた話じゃが、霊峰沿いにある谷の向こうに小さな森と湿地帯があるのぉ。そこは我らが立ち入るのは危険だと昔から伝えられておる」

『そこだヨ』


 老婆に同意するようにポチが吠える。


「わかりました、では一度そこに行ってみます」


 ポチが断言しているのだからそこにイヌ耳族がいるのは間違いない。

 そうしてそのまま獣人が住む集落を目指すことになった。



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