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020 旅立ち

 

 それからしばらくしてバーバラが合流し、テスラとタッドの処分に関して聞いたところ大方カインの予想通りであった。


「それにしても、貴族も大変だな」

「えっ?」


 食事をしながらバーバラが口にする。


「いや、貴族の子息と言えど次男から下は色々とややこしい内情を抱えているからな」

「あぁ、そういうことですか」


「えっ?えっ?貴族の子どもがどうしたのですか?」


 何を言っているのかわからない様子をマリアは見せた。


「あぁ、まぁ貴族って基本的には家を継げる長男がいればそれでいいからな。次男は長男に何かあった時だけだし、そっから下は家にあまり必要とされていないみたいなんだ。それで冒険者に身をやつしたり家を出る者もいるぐらいだしな。そのくせ貴族というプライドが多少邪魔してるし」

「あぁ、なるほどそういうことなんですね」


 それから先は、冒険者としての基礎知識をバーバラからマリアとフローゼに教えているのをカインは顎に手を置き眺めている。


「(懐かしいな、この光景)」


 人間に関することに対して知識不足なフローゼは当然として、マリアもまた基本的なことに関する知識はあっても冒険者に関しては疎いので関心を示して聞いていた。




 夜が更けてから宿に戻り、夜を越す。

 翌日、カイン達が街を出るよりも先に、用事を終えたバーバラが王都に戻るらしいのを街の入り口で見送る事になった。


 そのバーバラの横には見知らぬ坊主頭の男が二人立っている。

 しかしどこかで見たことがある気がしなくもない。


「あれ?もしかしてお前テスラか?」

「……ぐっ」


 声を掛けるのだが、反応は苦々しい顔をされる。


「あはははははは」

「ちょ、ちょっとフローゼさん、笑っては失礼ですよ!」

「えー、マリアちゃんも笑ってるじゃない」

「だ、だって…………プッ」


 笑いを隠すことのないフローゼと我慢しても漏れ出るマリア。


「お前、どうして?」

「ち、父上がだな…………」


 言葉に詰まるのだがそれだけで大体は理解した。

 テスラの父が激怒した挙句、ギルドが設定した罰則だけでは足りないと判断したのだろう。

 横には下を向き、恥ずかしそうにして顔を合わそうとしない弟のタッド。


「まぁ命があって良かったじゃないか、髪はなくしたけどまた生えてくるからさ」

「う、うるさい!じゃあこれで俺達は帰りますからねッ!」

「ああ、御父上によろしくな」

「フン、いくぞタッド」

「う、うん!」


 複雑な表情を浮かべながらテスラとタッドは街の中に入って行った。


「それにしても今回は色々と助かった」

「いえ、俺も久しぶりにバーバラさんに会えて嬉しかったです」

「それは私もだがな。それで、お前たちはこれからどうするのだ?」


 バーバラに今後の予定を聞かれたのでどう答えようかと悩んでしまう。


「とりあえず北を目指そうと思っています」

「北?」

「はい。ローラン神聖国に行ったことがないので、一度見ておきたいと思いまして。マリアとフローゼの目的地でもありますし」

「ローランか……少し長い旅だな。つまり、マリアとフローゼの護衛を続けるのだな?」


「――あっ」


 カインはそこで思い出した。

 そういえばそういう設定にしていたな。


「どうした?」

「い、いえ。なんでもないです。そうですね、護衛を続けます」

「とはいえ、護衛は実質あいつらなら必要ないだろう?」

「……ですね」


 現状フローゼはまだしも、マリアは確実に戦闘能力だけならカインを大きく上回っている。

 怪しまれないだろうかとチラリとバーバラを見るとバーバラは嬉しそうに笑っていた。


「なら今後は先輩冒険者としてだな。良かったな、これだけ可愛い子らの指導に当たれて。手を付けるなら責任は取れよ?」

「なっ!?手なんか出しませんよ!」


 バーバラの言う通り確かに可愛い。

 それは間違いなく認めよう。しかし、一人は天使でそもそも人間ですらない。もう一人はその天使が間違えて召喚した他国の聖女だ。手を出せるはずがない。


「冗談だ。そんなに慌てるな」

「ったく、質の悪い冗談はやめてくださいよ」

「半分冗談ではないがな。そろそろお前も落ち着ける相手を探せ」

「余計なお世話ですよ。ってかそれこそバーバラさ――」

「――ったぁ……」

「それこそ余計なことだな」


 頭頂部に拳骨を落とされた。

 笑っているが目は笑っていない。むしろそれが怖い。


「まぁいい、それなら王都に滞在する期間が長くなるかもしれないぞ?」

「そうですね、状況次第ですけど、それもあり得るかと」

「先に言っておくが、今の王都は大変だぞ?」

「はい、いくらかは情報屋から仕入れています。王選の真っ最中らしいですね」


 カインの言葉を聞いて目を見開いて感心したようにカインを見る。


「ふむ、それならば良い。困ったことがあれば私か……そうだな、王都のギルドマスター……ギルマスには会ったことあるだろう?」

「……ええ、一度だけですが」

「そうか、一度だけか……あの件だけだな。まぁいいか。それなら大丈夫だな」

「ええ、まぁ」


 ギルドマスターに会うとはいっても内心では会いたくはない。

 嫌な出来事を想起させられる。


「ではまた、達者でな。マリア、フローゼ、カインを頼んだぞ」

「はい、お任せください」

「了解でぇす」


「あれ?俺がマリア達の面倒を見るんじゃなかったけ?どうして俺が面倒を見られる側になってんだ?」


 もう遠くに姿を消したバーバラの姿を思い出しながらマリアとフローゼを見る。


「じゃあ私達も早速出発しますよ、カイン」

「あたしあっちに行ってみたい!」

「そうね、いいですね」


 マリアとフローゼは先を歩き始めようとした。


「お、おい!勝手に決めるな!」


「いいから早く付いて来なさい、バカイン」

「バ……カ……イン!?…………くそっ、バーバラさん、つまんねぇこと吹き込みやがったな!?」

「バーカイン、早くおいでぇ!」

「なんだよ、ったく……」


 頭をボリボリと掻く。


「ちっ、しょうがねぇな。おい、お前らだけじゃ道わかんねぇだろ!」

「またお前って言った!」

「バカインなんて呼ぶからだ!」

「だってバーバラさんがそう呼べば喜ぶって言うから!」

「喜ぶわけねぇだろ!なに真に受けてんだよ!聖女様は人を疑うことをまず覚えろ!」

「あっ、バカにしたわね今?バカインの癖に!」


 そうしてカイン達はローラン神聖国を目指して旅を始めたのだった。



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