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84 ミン、覚醒する 後編

「というわけで、ミンさんコミュ障脱出計画の第一作戦として、今日はこの家の皆さんと会話をしてみましょう! どんどんぱふぱふー!」


「……が、頑張る」


 黒いロングスカート、白いブラウス、そして紺色のセーター。

 彼女が身につけているものは、王都にいた頃、俺が血の汗を流して得た金を使ってプレゼントした服だ。全然使わず大切に持っていたのか、未だに表面にほつれ一つ無い。


「しかし……やっぱり、綺麗だな」


「……!?!?」


 俺が思わずそう呟くと、ミンは顔を真っ赤にしてベルディーの後ろに隠れた。

 変態のような格好をしていない彼女は、純白の髪や肌の美しさが際立っていて、とても美しい。本心からそう思う。


「よし。じゃあ、会話の練習についてなんだが、まずはセタニアにするか。あいつは何を言っても喜ぶから、話しやすいし」


「そうですね。浮雲さんにしてはまともな意見です」


「……了解」


 というわけで俺たちはセタニアの部屋へ向かい、ノックをしてから一緒に中に入った。


「おはよう、ベルディーさん。そして、ついでにフーン……って、またなんか増えてるじゃない!」


 残念ながら、そこにはセタニアの髪をといているソファイリもいた。

 最初はイージーモードを心がけていたのだが、いきなり最高ランクボスのお出ましかよ。

 果たしてミンはあの気難しいソファイリと会話できるのだろうか。


「まあ、実を言うと前から居たんで、増えてはいないぞ」


「何よそれ。この家に住んでた霊が姿を現したとでも言うの?」


「いや、もっと前からだよ。こいつが八人目の八勇士だ」


「何を言ってるの? 八勇士は、あたし、セタニア、アムル、ゴーサル、トリン、カーンとあんたの……あれ? 今のだと七人ね。誰かを忘れているのかしら?」


 ソファイリは八人目を思い出そうとしているのか視線を天井へ向け、首を傾げた。


「これでわかっただろ。こいつはとてつもなく存在感が薄いんだ。だから居るように感じられても、居ないと思ってしまっていたんだよ」


「何よそれ……。気配遮断の魔法でも使ってたの?」


「……生まれつき」


 ナイスだ、ミン!

 うまい感じに、自分についての話に切り込んできた。


「生まれつきって……。そんな体質の人が、どうやって幼少期を生き抜いてきたのよ。食べ物はどうやってもらっていたの?」


「……」


 ミンは困った顔を浮かべる。

 確かに俺もそれは疑問に思っていたが、自分で食べ物を手に入れられないほど若かった頃の記憶なんて、残っているわけがない。

 彼女の困った表情は当然だ。


「ミンさん、ミンさん」


 ベルディーが小声でミンを呼びながら手招きする。

 ミンが彼女の近くに顔を寄せ、俺もつられて寄ると、ベルディーがごにょごにょとアドバイスを呟き始めた。


「こういう時は、必ずしも質問に答える必要があるわけではないんですよ。わたしの上司もよくこんな意地悪な質問を訊いてくることがありましたが、その時は確かに不思議ですねといった感じに、他人事のように答えればオッケーです」


「……わかった」


 ベルディーのアシストを受けたミンは、ソファイリに向き直り――


「……とても不思議」


「そんなことぐらい、わかってるわよ……。修辞疑問(しゅうじてきぎもん)って言葉、知らないの?」


「……とても不思議」


「あんた、私をバカにしてるの?」


「……とても不思議」


「おっと、ミン。ここはもういいぞ、次はメルリンに会いに行こう。ソファイリ、付き合ってくれてありがとな。後、今後はこいつも居候するからよろしく」


「ちょっと、何勝手に決めてるのよ! 待ちなさい!」


 ソファイリを怒らせる前に退散だ……というか、見るからにもう怒ってるな。手遅れだ。

 俺たちはさささっと急いで部屋を出た。


「……成功?」


「まあまあですかね。もう少し答え方にバリエーションを作れたら、より良いと思いますよ。例えば、隣の人にあなたはどう思いますかと訊いたり、いい質問ですねと相手を褒めつつ時間を稼いだりとかですね」


 ごまかす努力じゃなくて、普通に答える努力をしろよ……。

 社会人の闇を垣間見た気がする。



***



「あっ、フーンさん! 朝ごはんなら居間のテーブルにありますよ」


「ありがとな、メルリン。ところで紹介したいやつがいるんだが……」


 ミンがベルディーの後ろに続いて階段を下りてきた。


「……初めまして」


 彼女と顔を合わせると、メルリンの顔がまたもや石化したかのように固まった。


「お、思い出しました! フーンさんの変態、バカ、裏切り者! どうしてあの女にわたしのマフラーをあげちゃったんですか! 大っ嫌いです!」


 しまった! ミンの姿を見せたことによって記憶が戻ってしまったらしい。

 メルリンは手に持っていたほうきを俺に向かって投げつけると、外靴に履き替えもせずに、大声で泣きながら玄関から出て行った。


「待ってくれ、メルリン! 誤解だー!」


 もちろん放っておくわけにはいかないので、とりあえず彼女を追いかけ出したが……これはどう説明すれば誤解が解けるんだ?

 マフラーをあげたのは事実だし、裸の彼女と同じ寝袋の中で一夜を過ごしたのも事実だし、誤解として指摘できる要素は、好んでやったわけではない、ミンが勝手にやったなどの見苦しい言い訳っぽく聞こえてしまうものばかりだ。


 潔く土下座するか……。

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