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54 思い……だした!

 俺は自分の部屋に慌てて駆け戻り、荷物の中から白い封筒を取り出す。

 これはバリーのボブスに託されたものだ。

 王となんらかの関係がありそうなあのイケメンジジイなら、王の護衛隊をしているボブスの従兄弟の居場所を知っているかもしれないからだ。

 もっと早く届け先を探すべきだったんだが、すっかり忘れていた……。

 ごめんな、ボブス。

 

 だだだっと全力で走りながら玄関から飛び出し、今にも馬に乗ろうとしているマルフィス隊長こと、イケメンジジイを大声で呼び止める。


「どうかしたのかね?」


「あ、はい。一つ聞きたいことがあるんですよ。えーっと、護衛隊の隊長を勤めている人らしいんですけど――」


 封筒に書かれた名前をちらっと一瞥する。


「――ヘルメス・ジョンズって人を知っていますか?」


「ジョンズ隊長か? 聞いたことがないな……いや、まてよ。数年前にその名を持った八勇士が居た覚えがある」


 ボブスの従兄弟は過去の八勇士だったのか?

 彼はそんなことは言っていなかったと思うけど……バリーからわざわざここまで来て、しかも王の護衛隊の隊長にまで出世できた凄い人間だとすると、過去の八勇士だったことには納得できる。


 イケメンジジイはポンと手を叩いた。


「おお、思い出した。確か彼は四年前の八勇士だ。いやー、なくしてしまうには惜しい人材だった」


 え?


「……死んじゃったんですか?」


「ああ。四年前に出現した大型の魔物との戦闘で帰らぬ人となってしまった」


 四年前?

 それだと、ボブスが二年前に手紙が途切れたと言っていたのと辻褄が合わなくなるような。

 こっちの世界の郵便ってそんなに遅いのだろうか。


「ですが、二年前まで彼は親戚の人と連絡を取っていたはずなんですよ」


「そ、それはだな……」


 イケメンジジイは俺と合わせていた視線を急にずらした。

 一滴の汗が彼のしわくちゃな頰を伝う。


「と、取り残された者たちに配慮して、死の事実を隠蔽しているのだよ。知らぬ方がいいことも、時にはあるだろう? 彼の親戚に送られていた手紙は、彼が死んでしまったことを悟られないために代筆されたものだ」


 隠蔽? 代筆?

 不穏な響きを持ったワードがそこかしこで使われていたような気がする。

 俺が訝しげな視線をイケメンジジイに送ると、彼は表情を少し強張らせた。


 どうも引っかかるな……だが、むやみやたらと人を怪しむのは愚である。

 もう一度、冷静になって彼が言ったことの意味を考えよう。


 う~む、例え話にしたら理解できるかもしれない。


 俺が死んだと仮定して考えてみよう。

 もし俺が死んで、メルリンがそれを知ったら彼女は悲しむだろう。

 悲しむ彼女は危険ドラッグに手をだし、精神を支配され、ついには自殺してしまうかもしれない。

 ということは――


「なるほど! 立派に出世したと聞いた方が、死んでしまったと聞くよりは幸せですよね」


 つまり、知らぬが仏、言わぬが花ってことだな。


「そっ、その通りだ。ははは。では、わしは帰るぞ」


「はい、どうもありがとうございました」


 手紙を渡すことはできないが、これで問題は解決だ。

 ボブスにまた会った時は、あいつは元気にやっているけど忙しくて手紙を書く暇がないらしいとでも伝えておけば大丈夫だろう。


***


 マルフィス隊長を乗せた馬を見送り終え、明日に備えるために部屋に戻って昼寝でもしようかと考えていると、カーンに声をかけられた。


「フーン様、少し伺ってもよろしいでしょうか?」


「どうかしたのか?」


「はい。失礼ながら、先ほどの騎士団隊長とのお話を聞かせてもらいました」


 盗み聞きしていたのか。

 まあ、手紙の件は別に秘密にしていたわけでもないしどうでもいいけど。


「フーン様は王とその関係者たちが少し怪しいとは思いませんか?」


「どうして?」


「ど、どうして……ですか……」


 察してくれよと言わんばかりに口元を歪めるカーン。

 悪いけど、お前が何を言いたいのかまったくわからん。

 考えるのは苦手なので、具体的に説明してくれないと困る。


「では、例えば前回の盗賊退治の依頼ですが、あれはどう考えても少人数に頼むような仕事ではありませんでしたよね」


「でも、俺たちにその仕事を頼んだ王が、敵の数を知らなかっただけかもしれないじゃないか」


「まあ、そうかもしれませんが……では、どうして私たちを街の中で大々的に歓迎せず、このような場所でひっそりと暮らさせているのでしょうか?」


「ここが一番安かったからじゃないのか?」


「一国の王たる人間をケチ扱いするのですか……」


「ケチだろうがケチじゃなかろうが、同じものが複数あれば安い方を選ぶのは当然だろ」


「ま、まあ、そうかもしれませんが……」


 カーンはため息をついた。


「では、王が過去の八勇士の死を隠蔽していることについてはどう思っているんですか?」


「気が利いた配慮だよな、あれ」


「……本当にそう思っているのですか?」


「うん」


「……」


 なんか、カーンが哀れむような目を俺に向けている気がする。

 どうしてだろう?


「……では、フーン様は特に深く考えずに、言われた通り次の作戦に参加するのですか?」


「当たり前だろ。俺は八勇士なんだし」


 そう答えると、カーンはクールな表情を保ったまま、トチ狂ったように両手で自分の髪の毛をかきむしりだした。

 大丈夫か、こいつ。

 どこか具合の悪いところでもあるのだろうか。


「わ、わかりました。では、とっておきの情報を今ここで公開しましょう。そうすれば、フーン様も王都の人たちの怪しさに気づくはずです」


「う、うん?」


「この国の王は八勇士を使って隣国に攻め込もうとしているんですよ」


「知ってる」


「え? し、知っているのですか?」


 カーンは困惑した表情を浮かべている。


 何をそんなに驚いているんだ、こいつ。

 お姫様が攫われたんだから、こんな展開になって当然じゃないか。

 まあ、確かに八人で国を相手に挑むのは、いささか無理がある話だけど、勇士とか勇者ってものは、大抵そういう無茶な戦いをするんだろ。

 特に珍しいことでもない。

 敵がどんなに強かろうが、状況がどんなに酷かろうが、勇者は適当に苦労して、適当に勝つ。

 物語なんて昔からそういうものだと決まっている。


 カーンは俺との会話を急に切り上げ、首を傾げたまま歩き去って行った。

 結局、何が言いたかったんだろう、あいつ。


 あれ?


 そういえば、俺、何かカーンに用事があったような……。確か何かを伝える役割をみんなに押し付けられたような気が……。

 思い出せないな。

 まあ、別にどうでもいいや。

今日はおまけにもう一つ短い話をアップします。スマブラのせいで更新速度が鈍ってて申し訳ない……。

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