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50 最初の指令 その1

「みなさん、集まりやがってください! 王都からの指令が届きましたよ!」


 むにゃむにゃ……。

 まだ早いというのにチョボルが廊下で何やら妙なことを喚き散らしている。

 王都からの指令?

 俺の仕事はこの旅館の掃除と、マジックショップでのバイトだろ?

 もう少し寝たいので無視しておこう。


「ソファイリさん、生ゴミをここへお願いします」


「了解。瞬間移動(ワープ)


 ぬぬ?


 なんだかよくわからん魔方陣みたいの模様が俺の下に現れたんだが。

 七色に発光するせいで、眩しくて眠れないじゃないか。

 迷惑この上な――


 ――ズュン。


 突然、俺の目の前に他の八勇士が全員現れた。

 だが、どっちかというと、俺があいつらの前に突然現れたっぽいな、状況的に考えて。


「はい、みなさん揃いましたね。では、これより指令の内容を説明するので、しっかりと聞き留めてくださいね。えーっと……


『八勇士に告ぐ、


 我々の本部には北部地域で盗賊に襲われたとの報告が頻繁に届いている。民衆の身の安全を確保する為、貴殿らは目撃報告が多発している北の雪山へと向かい、速やかに脅威を排除せよ。

 尚、討伐報酬は貴殿らの生活費をまかなうため、王宮へ振り込まれる。


 騎士団隊長 ゲルデニス・マルフィス』


 とのことです」


 つまり――


 北の雪山で盗賊を討伐してきてね!

 報酬はないけど、タダで住める場所と飯を提供しているからチャラだよね!


 ――ってことだよな。

 割に合わないな。却下します。おやすみ。

 

 ……というわけにはいかないんだよなぁ。


「うぉー、燃えてきたぜ! 久々にマジモンの戦闘ができそうだ!」


 メラメラと両目を輝かせながら、アムルは騒々しく盛り上がっている。

 俺とは大違いのテンションだ。


「では、早速現地へ向かいましょうか」


「ええ、それがいいですね」


 カーンとトリンが玄関へと歩き始め、他の勇士達も二人の後に続く。


「え……、せめて俺が朝ごはんを食べるまで待――」


 バタンと玄関の扉が閉まる音が鳴り響いた。

 完全に無視されたんですけど……。

 俺を置いて行かないでくれよ!

 


***



「ヘックショーン!」


 ささささささささささむぅいぃ……。

 北へ向かってたかだか一時間ほど歩いただけだというのに、こんなにも気温が違うとは驚きだ。

 ブレンダー並みの速度で小刻みに震えている俺を見て、ソファイリは深いため息を吐いた。


「長袖一枚って、あんたバカなの? あたしたちはこれから雪山を登りに行くのよ。もっと厚着してきなさいよ」


「これしかないんだよ、俺の手持ちには」


 ベッドを買うためにお金を貯めているから、服とかには一切使っていないのである。

 俺が唯一所持していた冬服のマフラーは、影が薄い誰かさんに取られて以降、戻ってこないし。


「呆れたわ……。とりあえず、火魔法を使ってあんたの周りに熱の囲いを作ってあげるわ」


 ソファイリが手のひらを俺に向け、短い呪文を唱えると、暖炉の前に座っているかのような熱気がほんわりと俺を包んだ。


「あったけー! ありがとな、ソファイリ」


 魔法って万能すぎるだろ。

 物を縮小したり、何でも瞬間移動させたり、いつでもどこでも気温調整できるとかチートだろ。

 ベルディーがマジックアイテムで代用できるとか大嘘を叩いていなければ、俺は魔力に全振りしていたかもしれないのに。

 非常に惜しいことをした。

 ジジイの店で働き始めてから気づいたけど、マジックアイテムとか高すぎて、俺の持ち金じゃ買えないんだよ!


 もうしばらく歩き続けると、周囲一面は真っ白に染まり、それに連れて気温もさらにぐんぐん下がっていく。

 今度は八勇士の中で比較的に軽装備をしているアムルがぶるぶると震えだした。


「おいおい、盗賊とやらは本当にいるのか?」


 と、アムルが言うと――


「そのはずです。道中で仕入れた情報によると、この辺りでの遭遇率がもっとも高いようです」


 と、カーンは返した。

 いつの間にか情報収集までしていたのか。

 さすがメガネだ、頼りになる。

 

「しかし、このまま一丸となって闇雲に探すのは効率が悪いのではないか? 私は手分けをして探すべきだと思うのだが」


 ゴーサルがもっともな意見を告げる。


「確かにそうですね。しかし、敵の戦闘力は未知数な上に、手分けをすればこちらの戦力を分散する必要があるので、多少のリスクが生じてしまいます。なので、このような作戦はどうでしょうか? まずは――」


 カーンのアイデアはシンプルかつ有用に思えた。

 彼の作戦の大まかな概要はこうだ。

 三つのグループに分かれ、第一グループを囮として雪原のもっとも見晴らしが良い位置へ行ってもらう。

 そうすれば雪山に潜んでいるであろう盗賊から簡単に見つかり、奴らを効率よくおびき出すことができる。

 第二グループは少し離れた森の中でトラップを設置。

 襲われた第一グループは逃げながらそこへと盗賊を誘導。

 第三グループは第一グループの近くで岩陰に潜み、圧倒的な戦力差で襲われた場合は援護をする予備兵だ。

 わかりやすい上に巧妙な良案だと思うのだが――


「わざわざ、そんな面倒なことする必要ないだろ? 俺っちがぱぱっと行ってぱぱっと片付けてくるぜ。盗賊つっても、所詮は四、五人の雑魚集団だろ? 俺っちがかつて倒してきた魔物に比べちゃ赤子の首を捻るようなもんだぜ」


 見事な敗北フラグを上げながら、アムルは颯爽と山のふもとへ一人で向かっていってしまった。


「……仕方がありませんね。囮は彼一人に任せましょう。フーン様とゴーサル様は念のため、アムル様を近くで見守っていてください。残った私たち三人はトラップを仕掛けておきます」


 というわけで、俺とゴーサルは揚々と進んでいくアムルを追うことになった。

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