盗靴
クラスの女子、ツナミの靴が無くなった。
「どこいったんだろ?」
放課後、部活から帰ろうとしたツナミは、下駄箱に靴が無いことに気づいた。
「あっ……」
何かを悟ったツナミは、そのまま部活用の靴で自宅に帰った。
翌日、ツナミは学校を休んだ。
一体誰が靴を盗んだのか? 偶然、一部始終を見ていた担任教師のイハラは、クラス内でのいじめをすぐに終わらせようと、その日の内から調査を開始した。
だが一人での調査には限界があるとすぐに悟ったイハラは、ツナミの幼なじみであるヨシダに、このことを話した。
「先生、俺を疑ってるんすか?」
不機嫌そうな顔で、ヨシダはイハラをにらむ。
「そうじゃない。……犯人に、心当たりはあるか?」
ツナミと親しい間柄だからこそ、ツナミに恨みを持つ人間を知っているはず。そう思い、イハラは単刀直入に尋ねた。
「心当たりって、推理小説じゃあるまいし……あっ」
いきなりヨシダはなにかを思いついたようにハッとなった。
「誰だ?」
イハラは顔を近づかせ、ヨシダからその名を聞こうとした。
「心当たりっていうか、なんていうかですけど……キャサリンですよ。留学生の」
思ってもみない名前に、イハラは耳を疑った。
「なんでそう思ったんだ?」
イハラの知るキャサリンは、漢字の読み書きが苦手な以外は、流暢な日本語で、誰にでもフレンドリーに接する、明るい少女だ。
さらにいうならホームステイ先のツナミとは、必然的に一番仲が良い間柄だ。だからツナミに対してひどいことをするとは、とうてい思えなかった。
「ええ。俺もそう思います」
「は?」
「そもそも、先生は根本的なところから間違っているんですよ。これ、いじめとかじゃないですよ」
「何を言っている? 現にツナミはショックで休んだんだぞ?」
「ショックって……ツナミ、ただの風邪ですよ?」
証拠と言わんばかりに、ヨシダはツナミから送られてきたメッセージをイハラに見せる。
【風邪ひいたー超苦しい】
「いやだが、強がりかも……」
それに靴が無くなったことは紛れもない事実だ。休んだことと因果関係はあると考えるのが自然だ
「無いと思いますよ……」
呆れたような顔出、再びヨシダは別のメッセージを見せる。それを見てイハラは、唖然とした。
「……間違うものなのか?」
「こち亀の大原部長も間違えたくらいですからね」
昨日、ツナミが、キャサリンに送ったメッセージは、とてもシンプルなものだったようだ。
【部活で遅くなりそうだから、鞄持って帰ってくれない?】
似ているようで微妙に違う。
キャサリンはツナミの指示に従い、「靴」を持って帰った――。




