第四十八話 Sランク冒険者
「お前は、コウか」
玉座の間に飛び込んできた小さな黒い影。
それは、外の偵察に出していたコウだった。
「はい、魔王様」
コウは俺の前で羽ばたきながら頭を下げた。
「どうして、こんなところにいるんだ?」
俺がそう聞くと、コウは焦った様子で声を上げた。
「それがですね、魔王様。Sランク冒険者がやってきたのです!」
「なに?」
俺は思わず立ち上がった。
Sランク冒険者。
ミルが前に言っていた。
Sランクは、国に一人いるかいないかの存在。
Aランク冒険者百人分とも言われる、化け物のような冒険者。
「ついに来たか……」
俺は上位魔剣に手をかけた。
「それで、今どこにいるんだ?」
「二十五階層です!」
「マジか。もうそんなところにいるのか」
二十五階層。
毒階層の中盤だ。
アラクネタもいる。
三十階層にはメロスもいる。
それなのに、もう二十五階層まで進んでいるということは、やはり普通の冒険者ではない。
「はい。ですから、早めに準備をした方がいいと思います」
「そうだな」
俺は周りを見た。
ミル、ゼキナ、水魅五姉妹、ガルド。
全員がすでに緊張した顔をしている。
「全員、戦闘態勢に入れ」
「はい!」
「今から転移するぞ」
俺は迷宮内転移を発動した。
◇◇◇
二十五階層。
毒の霧が漂う階層。
転移した瞬間、俺は目の前に立つ男を見た。
年齢は二十代後半くらいに見える。
軽装の鎧。
腰には細い剣。
表情は余裕そのもの。
毒の霧の中にいるというのに、苦しむ様子がまったくない。
「あれ?」
男は俺を見て、少し楽しそうに笑った。
「もしかして、このダンジョンの魔王?」
「そうだ」
俺は上位魔剣を抜いた。
「お前がSランク冒険者か」
「そうだよ」
男は軽く肩をすくめた。
「わざわざ探しに行かなくて助かったよ」
「そうか」
俺は黒い魔力を体に巡らせる。
「でもな、ここがお前の墓場だ」
「へぇ」
Sランク冒険者の目が細くなる。
「お前、死ぬ覚悟はできてるんだよな?」
「それはこっちのセリフだ」
「ふっ」
男は笑った。
「舐めるなよ」
次の瞬間、男の周囲に炎が生まれた。
「炎の矢」
無数の炎の矢が俺に向かって飛んでくる。
「未来予知」
一瞬先の光景が見えた。
炎の矢がどこを通るのか。
どこに避ければ当たらないのか。
「ここか」
俺は体をずらし、炎の矢をかわす。
何本かは頬をかすめたが、直撃はしない。
「お前、やるなぁ」
男が楽しそうに笑う。
「お前もな」
俺は上位魔剣を構える。
「次はこっちの番だ」
黒い魔力を周囲へ広げる。
「魔王の威圧」
「くっ……」
男の動きがわずかに鈍った。
効いている。
だが、止まるほどではない。
「黒葬の斬撃」
俺は黒炎の斬撃を放った。
斬撃が毒の霧を裂き、Sランク冒険者へ向かう。
だが、男は軽く体をひねるだけでそれを避けた。
「なに?」
「あまいな」
次の瞬間、男が剣を振った。
無数の斬撃が飛んでくる。
「くっ!」
俺は上位魔剣で受けようとした。
だが、すべては防ぎきれない。
肩。
腕。
脇腹。
いくつかの斬撃が俺の体を切り裂いた。
「ぐっ……!」
「その程度か?」
男が余裕の笑みを浮かべる。
「はぁ……超速再生」
傷口がすぐに塞がっていく。
痛みは残るが、動けないほどではない。
「再生か」
「そうだ。少しお前の斬撃を食らったからな」
俺は上位魔剣を握り直した。
「お返しに、これなんてどうだ」
俺は新しく手に入れたスキルを発動する。
「無限の斬撃」
俺の周囲に無数の黒い斬撃が現れた。
それらが一斉にSランク冒険者へ飛んでいく。
普通の冒険者なら、避けることすらできない数だ。
だが――。
「いいね」
男は笑った。
そして、すべて避けた。
「くっ……!」
ありえない動きだった。
斬撃の隙間を正確に見極め、最低限の動きでかわしていく。
何本かは服をかすめたが、致命傷にはならない。
「お前、俺の魔力を使えなくしてるみたいだけど」
男は自分の腕を軽く振った。
「そんなの、俺にはそこまで効かないぞ」
「さすがにSランクは強いな」
魔王の惨劇D。
斬撃を与えた相手の魔力を一分間封じる力。
だが、Sランク冒険者には完全には通じていない。
少し乱せてはいる。
だが、封じきれていない。
「さすがだな」
俺は息を整えながら言った。
「しかし、俺は諦めないぞ」
俺は新しいDランク魔王のスキルを使う。
「重力反転」
「なに?」
次の瞬間、男の体が大きく傾いた。
重力の向きが反転し、男の体が地面へ叩きつけられる。
「ぐぁっ!」
男が血を吐いた。
初めて、Sランク冒険者の表情が歪む。
「これで終わりだ」
俺は上位魔剣に雷をまとわせた。
「エンゲル!」
雷をまとった斬撃が、男へ向かって一直線に走る。
今度こそ当たった。
そう思った。
だが――。
「まだまだだなぁ」
「なに?」
男の姿が消えていた。
俺の斬撃は、何もない地面を切り裂く。
「なんで生きている?」
俺が振り返ると、男は少し離れた場所に立っていた。
口元に血をつけているが、まだ笑っている。
「スキル、瞬間移動だよ」
「瞬間移動?」
「そうだ」
男は肩を回しながら言う。
「めったに使わないけどな。見た場所へ一瞬で移動できる」
「まだそんなものを隠していたのか」
「Sランクだからね」
男は笑った。
余裕そうに見えるが、さっきの重力反転は確かに効いていた。
俺でも、戦えないわけじゃない。
だが、今のままでは勝ち切れない。
「でも、君は面白い」
「何?」
「戦闘をする魔王なんて、初めて見たよ」
男は剣を収めた。
「だから、今日は見逃そう」
「見逃す?」
「ああ」
男は俺をまっすぐ見る。
「一ヶ月後、またここに来る。その時までに、俺より強くなっていろよ、魔王」
「なにを勝手に――」
俺が一歩踏み出そうとした瞬間、急に視界が揺れた。
「っ……?」
足元がふらつく。
体に力が入らない。
「なんだ……?」
「毒だよ」
「毒……?」
男が軽く笑った。
「さっき斬撃を当てた時に仕込んでおいた。まあ、死ぬほどの毒ではないから安心しなよ」
「お前……」
「じゃあ、また一ヶ月後にね」
「おい、待て……!」
俺が手を伸ばした時には、男の姿は消えていた。
瞬間移動。
完全に逃げられた。
「くそ……」
体が重い。
意識がぼやける。
毒のせいで、うまく魔力が巡らない。
「タケシ様!」
ミルの声が聞こえる。
「マスター!」
「ご主人様!」
「我が王!」
みんなが駆け寄ってくる。
俺はその声を聞きながら、膝から崩れ落ちた。
Sランク冒険者。
今までの誰よりも強い敵だった。
そして、一ヶ月後。
俺はあいつを倒せるほど強くならなければならない。
そう思いながら、俺の意識は暗く沈んでいった。
第四十八話終了時点
タケシ:魔王Dランク Lv0
階層数:40階層
残りポイント:268160pt
新情報:
・外の偵察役コウが帰還
・Sランク冒険者が新帝ダンジョンに侵入
・Sランク冒険者は二十五階層まで到達
・タケシが二十五階層へ転移して交戦
・Sランク冒険者は炎の矢、無数の斬撃、瞬間移動を使用
・タケシは未来予知、魔王の威圧、黒葬の斬撃、超速再生、無限の斬撃、重力反転、エンゲルで応戦
・魔王の惨劇Dの魔力封じはSランクには完全には通じない
・重力反転はSランク冒険者にも有効
・Sランク冒険者は一ヶ月後の再戦を宣言
・去り際に毒を仕込み、タケシは倒れる
ポイント計算
第四十七話終了時点:268160pt
同日中の出来事のため、地脈ポイント追加なし
Sランク冒険者は倒していないため、討伐ポイントなし
第四十八話終了時点:268160pt




