第十一話 アルティアレギオン
――次の日。
「あぁ……ぐっすり寝た……」
俺はベッドの上で目を覚ました。
昨日買ったベッドは、やはり快適だった。
床に安布団を敷いて寝ていた頃とは比べ物にならない。
「タケシ様、おはようございます!」
「おはようございます、マスター」
ミルとゼキナが、いつものように俺の近くにいた。
「ああ、おはよう」
俺は体を起こしながら、大きく伸びをする。
昨日は四階層を作り、Bランク冒険者を倒した。
そのおかげでレベルも十まで上がった。
魔法も覚えた。
魔力感知も手に入れた。
だが、それでもまだ足りない。
強い冒険者はこれからもっと来るはずだ。
「タケシ様、今日もまた階層を作るのですか?」
「んー……」
俺は少し考えた。
現在の階層は四階層。
一階層はスライム。
二階層はゴブリン。
三階層はオーク。
四階層はポイズンオーク。
形としては、かなり整ってきている。
「今日は階層じゃなくてもいいかもな」
「でしたら、装備の強化なんてどうでしょうか?」
「装備の強化?」
「はい!」
ミルが俺の周りをくるりと飛ぶ。
「剣は魔剣なので十分強いです。ですが、タケシ様自身を守る装備が足りないと思いまして」
「確かに」
昨日、ガルドの一撃はかなり危なかった。
魔王の体じゃなければ、肩どころか腕ごと落とされていたかもしれない。
「そうだな。ポイントもあるし、少し装備を強化するか」
「はい!」
俺は管理画面を開いた。
昨日の残りポイントは二〇〇〇。
そして、今日は四階層分の地脈ポイントが入っている。
『現在ポイント:四〇〇〇pt』
「四〇〇〇ポイントか」
これなら、そこそこ良い装備が買えそうだ。
だが、問題は何を買うかだ。
「タケシ様、どうされましたか?」
「いや、どんな装備を買うか迷ってたんだ」
「でしたら、魔法の鎧を買ってみてはいかがでしょうか?」
「魔法の鎧?」
「はい。装備するだけで身体強化や魔力増強などの効果を得られる防具です」
「身体強化に魔力増強か……」
それはかなり大きい。
俺は魔剣と魔法で戦う。
身体能力と魔力が上がれば、そのまま戦闘力に直結するはずだ。
「よし。それを探すか」
俺はショップ画面を開き、検索欄に意識を向ける。
「魔法の鎧」
すると、いくつもの装備が表示された。
炎耐性の鎧。
毒無効の外套。
魔力回復を早める指輪。
物理攻撃を軽減する盾。
どれも便利そうだ。
だが、その中で一つだけ、妙に目を引く装備があった。
『アルティアレギオン』
「……これだ」
「見つかりましたか?」
「ああ」
俺は詳細を確認する。
効果は、身体能力上昇。
魔力増強。
魔法威力強化。
さらに、一定以下の物理攻撃を無効化する防御効果まで付いていた。
「かなり強いな」
「値段はどうですか?」
「二二〇〇ポイント」
「高いですが、今なら買えますね!」
「ああ。買う」
『アルティアレギオンを購入しました』
『二二〇〇ポイント消費』
次の瞬間、黒と銀を基調にした鎧が俺の前に現れた。
重厚な見た目なのに、触れてみると不思議なほど軽い。
胸元には赤い魔石が埋め込まれており、そこから淡い魔力が流れているのを感じた。
「これがアルティアレギオンか」
「すごい魔力を感じますね」
ゼキナが静かに言った。
「着てみるか」
俺がそう思った瞬間、鎧は黒い光となって俺の体にまとわりついた。
一瞬で装着が完了する。
「おぉ……!」
体が軽い。
それどころか、力が湧いてくる。
魔力の流れも今までより滑らかだ。
「これはすごいな」
「似合っていますよ、タケシ様!」
「マスターにふさわしい装備です」
「これで装備はかなり良くなったな」
ポイントは残り一八〇〇。
まだ何か買えなくはないが、今日はこれで十分だ。
「次はどうされますか?」
ミルが聞いてくる。
「決まってる」
俺は玉座に座り、モニターへ視線を向けた。
「ポイントを稼ぎにいく」
「でしたら、先ほどBランク冒険者のパーティーが三階層に入りました」
「Bランクか」
またか。
最近はこのダンジョンに来る冒険者の質が上がっている。
それだけこのダンジョンが警戒され始めているのかもしれない。
「どうされますか?」
「いや、今回は俺が直接行くんじゃない」
「といいますと?」
「四階層を試したい」
昨日作った毒沼エリア。
そこに配置したポイズンオーク。
実戦でどれだけ機能するのか、見ておきたい。
「では、モニターで確認しますか?」
「ああ」
俺は巨大モニターを表示させた。
画面には、三階層を進む冒険者たちが映っていた。
人数は三人。
全員、装備がしっかりしている。
前衛の男。
魔法使いの女。
そして、斥候らしき軽装の男。
「何回見てもすごいな、このモニター」
「ダンジョン内なら、どこでも見られますからね!」
しばらく見ていると、冒険者たちは三階層を突破し、四階層へ入っていった。
◇◇◇
「なんだここ……」
前衛の男が顔をしかめた。
四階層。
紫色の霧が漂う毒沼エリア。
足元には毒々しい沼が広がり、黒く曲がった木々が不気味に並んでいる。
「毒エリアってことかよ」
斥候の男が周囲を警戒しながら呟いた。
「四階層にしては、少し厄介すぎるな」
「一応、毒耐性の魔法をかけておきます」
魔法使いの女が杖を掲げる。
「助かる」
前衛の男が頷いた。
「リーダー、この後どう進みますか?」
「この先に強い魔物がいる可能性が高い。できる限りの強化魔法をかける」
「私の出番ってことね」
「ああ、頼む」
「もうかけてるわ」
魔法使いの女が小さく笑った。
「毒耐性、魔法防御、身体能力強化。全部済ませたわ」
「さすがだな」
前衛の男が剣を構える。
どうやら、あの魔法使いは支援魔法が得意らしい。
「……ん?」
斥候の男が足を止めた。
「どうした?」
「こっちに何か来てる」
その言葉と同時に、毒霧の奥から重い足音が響いた。
ズシン。
ズシン。
紫色の霧をかき分けて現れたのは、ポイズンオークだった。
普通のオークよりも肌の色が暗く、体には紫色の紋様が浮かんでいる。
口元からは毒々しい息が漏れていた。
「オークか?」
「いや、違う」
斥候の男が顔を歪める。
「あれはポイズンオークだ!」
「ポイズンオークだと?」
前衛の男が剣を構え直す。
「大丈夫だ。俺たちには毒耐性も魔法防御も身体能力強化もある。ポイズンオークごときに負けるはずがない」
「リーダーがそう言うなら……」
だが、その声には少しだけ不安が混じっていた。
ポイズンオークたちが、ゆっくりと距離を詰める。
「来るぞ!」
「火魔法、ファイヤーボール!」
魔法使いの女が火球を放った。
火球は一直線に飛び、ポイズンオークの胸に直撃する。
爆炎が広がった。
「どうだ!」
しかし――。
煙の中から、ポイズンオークがそのまま歩いて出てきた。
「だめだ。効いてない……!」
「くそっ!」
前衛の男が剣を振るい、斬撃を放つ。
鋭い斬撃がポイズンオークの体に当たる。
だが、浅い。
厚い筋肉と毒に濡れた皮膚が、剣の威力を殺していた。
「これでも駄目なのか!」
次の瞬間、ポイズンオークが巨大な腕を振り下ろした。
「ぐあぁぁっ!」
前衛の男が吹き飛ばされる。
「リーダー!」
斥候の男が叫ぶ。
だが、毒霧の中からさらに二体のポイズンオークが現れた。
「嘘だろ……まだいるのかよ……!」
「下がって!」
魔法使いの女が再び魔法を放とうとする。
だが、その顔色はすでに悪い。
毒耐性の魔法をかけていても、完全には防げていないらしい。
ポイズンオークたちは毒沼の中を平然と進み、冒険者たちを囲んだ。
「あぁぁぁぁっ!」
悲鳴が毒霧の中に消えていく。
しばらくして、四階層は静かになった。
◇◇◇
『二〇〇〇ポイントを入手しました』
モニターに文字が浮かぶ。
「なるほど。いい感じに機能してるな」
俺は満足して頷いた。
四階層の毒霧。
毒沼。
ポイズンオーク。
全部が噛み合っている。
普通の冒険者なら、ここでかなり消耗するはずだ。
「どうでしたか、タケシ様?」
ミルが聞いてくる。
「ああ、かなりいい。毒耐性を持ってても完全には防げないみたいだ」
「毒沼エリアの毒は、ただの毒ではなく、ダンジョンの魔力を含んでいますからね」
「だから耐性魔法だけじゃ防ぎきれないのか」
「はい!」
ゼキナも静かに頷く。
「ポイズンオークとの相性も良いようです。四階層は十分に防衛階層として機能しています」
「そうだな」
これで現在ポイントは三八〇〇。
装備も強化した。
四階層も試せた。
今日やるべきことは、だいたい終わった。
「本当は新しい装備も試したいところだが……今日はここまでにするか」
「そうですね。疲労も溜まっているようですし」
「ああ」
俺は玉座に深く腰掛けた。
アルティアレギオンの力は、まだ本格的に試していない。
だが、それは次の機会でいい。
今は、ダンジョンが着実に強くなっていることが分かっただけで十分だ。
「明日は、この鎧を試すか」
「はい、タケシ様!」
「承知しました、マスター」
俺は目を閉じた。
四階層の毒沼エリア。
ポイズンオーク。
そして、新たな装備アルティアレギオン。
新帝ダンジョンは、また一歩強くなった。
そう思いながら、俺はゆっくり眠りについた。




