第一話「俺がダンジョンの魔王に」
本日より新作になります。
俺は川村タケシ。
どこにでもいる普通の大学生だ。
毎日大学へ行き、講義を受け、たまに友達と遊ぶ。そんな平凡な日々を送っていた。
――だが、ある日。
俺の日常は突然終わった。
そう、あれは今から一ヵ月前のことだった。
大学の参考書を買うため、俺は近所の本屋へ立ち寄った。
その時の俺は、まさか自分にあんなことが起きるなんて夢にも思っていなかった。
本棚を見て回っていた時だった。
一冊だけ、妙に目を引く本があった。
黒い表紙。
タイトルも書かれていない。
なのに――なぜか気になる。
まるで本そのものが、
“開け”
“開け”
と囁いているような気がした。
気づけば俺は、その本を手に取っていた。
そして、ページを開いた瞬間――。
視界が真っ白になった。
「――え?」
次の瞬間。
俺は見知らぬ場所に立っていた。
周囲は石壁に囲まれた薄暗い空間。
床には魔法陣のような紋様が描かれており、その中心には巨大な水晶が置かれていた。
「なんだ……ここ……」
混乱しながら、俺はゆっくりと水晶へ近づく。
そして、恐る恐る触れた。
その瞬間――頭の中に直接声が響いた。
『あなたは異世界の魔王に選ばれました。おめでとうございます』
「っ!? だ、誰だ!? 誰が喋ってる!」
慌てて周囲を見回す。
だが誰もいない。
次の瞬間、急激な眠気が襲ってきた。
「な、んだ……これ……」
視界が暗く染まっていく。
そして俺の意識は、闇へと沈んだ。
◇◇◇
目を覚ますと、俺は大きな椅子に座っていた。
玉座。
まるで王様が座るような椅子だ。
「……ここは?」
すると、目の前から可愛らしい声が聞こえた。
「魔王様、お目覚めになられましたか?」
「!?」
俺は反射的に声の方を見る。
そこにいたのは――妖精だった。
人間ではない。
背中には蝶のような羽が生え、小さな体をふわふわと浮かせている。
金色の髪に、ぱっちりした大きな瞳。
まるでゲームやアニメに出てくるような存在だった。
「魔王様?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は理解した。
俺はアニメもゲームも大好きなオタクだ。
だからこそ、この状況が何を意味するのかすぐに分かった。
――俺は異世界に来た。
しかも魔王として。
「魔王様、魔王様? 大丈夫ですか?」
「……ここはどこだ?」
「はい! ここは“魔の森”に存在する洞窟です!」
「洞窟?」
いや待て。
おかしくないか?
「ちょっと待て。俺は魔王なんだろ? なんで魔王城じゃなくて洞窟なんだよ」
すると妖精は胸を張った。
「あなたは“ダンジョンの魔王”になったのです!」
「ダンジョンの……魔王?」
「はい!」
「いや意味が分からん。そしてお前は誰なんだ?」
「私はダンジョン妖精のミルです!」
妖精は小さくお辞儀した。
「ダンジョン妖精?」
「はい! 魔王様のダンジョン作りをお手伝いする存在です!」
「ダンジョン作り……?」
ますます意味が分からない。
するとミルは、玉座の後ろを指差した。
「魔王様、後ろをご覧ください」
振り返ると、そこには丸い巨大な水晶玉が置かれていた。
占い師が使いそうな、不思議な光を放つ球体。
「なんだこれ?」
「それはダンジョンコアです」
「ダンジョンコア?」
「簡単に言えば――魔王様の心臓ですね!」
「心臓?」
「はい。これを壊されると魔王様は死にます!」
「さらっと怖いこと言うな!?」
「ちなみに私も死にますので、ちゃんと守ってくださいね♪」
「笑顔で言うな!」
とんでもない設定だった。
つまり俺は、このダンジョンコアを守るためにダンジョンを作らなければいけないらしい。
「……で、どうやって作るんだ?」
「まずはコアに触れてください!」
「これに?」
「はい!」
俺はゆっくりとダンジョンコアへ手を伸ばした。
そして触れた瞬間――。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
全身を灼かれるような激痛が走った。
熱い。
痛い。
体の中を何かが駆け巡っていく。
「ぐっ……ぁ……!」
声にならない叫びを上げながら、俺は床に膝をついた。
しばらくして痛みが消える。
すると突然、目の前に半透明の文字が浮かび上がった。
『ダンジョン名 ________』
『魔王名 ________』
「なんだこれ……」
「魔王様! まずはダンジョン名と魔王様のお名前を決めてください!」
「なんでもいいのか?」
「はい! 自由です!」
俺は少し考えた。
異世界。
魔王。
ダンジョン。
せっかくなら、最強っぽい名前がいい。
そして俺は文字を入力した。
『ダンジョン名 新帝のダンジョン』
『魔王名 タケシ』
入力が終わった瞬間。
ダンジョンコアが強く輝いた。
すると頭の中に声が響く。
『ダンジョン登録完了』
『新たなる魔王の誕生を確認しました』
『これより“新帝のダンジョン”を起動します』
その瞬間――。
洞窟全体が大きく揺れた。




