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第94話:新堂亜紀

――頬を伝う涙を、もう抑えられなかった。


大統領の声がホール全体に響き渡る。

その骨子はすべて、直也くん自身が彼に伝えたプラン。

オークランドの小さなビストロで、真正面から語った言葉が、今やアメリカ合衆国大統領の演説として世界に広がっている。


「私は、そのような立派な若者が、米国の同盟国である日本にいることを――心から誇りに思う」


――その瞬間だった。


胸の奥にあったものが一気に溢れ出し、嗚咽が止まらなくなった。

両手で口元を覆っても、涙は抑えきれない。


(そう……直也くんこそ、真に“立派”な人なんだ)


出世だとか肩書きだとか、そんなものと次元の違う高潔なまでの「立派さ」。

自分の母親と、そして水樹透子さんから託された「立派になって」という願い。

その答えを、直也くんは今ここで、自分の存在そのもので示していた。


――こんなにすごい人と、私は今、仕事を一緒にしている。

彼の描いた未来の絵を、一緒に現実に変えようとしている。


そして思った。

これからは、その仕事の喜びだけじゃない。

彼の痛みも、哀しみも、全部――共にわかちあう人でありたい。

誰よりも近くで、支える人でありたい。


涙に濡れた視界の中で、すぐ近くにいる直也くんが誰よりも大きな存在に見えた。

あまりにも大きな存在で、けれど、私にとってはかけがえのない「仲間」だった。


※※※


拍手と歓声がまだ鳴り止まない中、式典は次の場面へと進行した。

ステージ前に赤い絨毯が敷かれ、花束を抱えた係員が姿を見せる。


――いよいよだ。


米国大統領への花束贈呈。

その大役を担うのは、世界から招かれたたった一人の女子高生――。


私の隣で、白いドレスを纏った保奈美ちゃんが、小さく深呼吸をしている。

指先は震えていたが、目は真っ直ぐだった。


(大丈夫……あなたならできる。きっと堂々とやれるわ)


私は涙で滲む視界のまま、彼女の背をそっと押すように心の中で祈った。


――世界の視線が、一人の少女に注がれようとしていた。


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