第81話:大統領との問答(宮本玲奈)
――ビストロの扉が再び開いた。
外で待機していた五井アメリカの支社長が、シークレットサービスに促されて中へ入ってきた。
だが、大統領は一瞥するだけで、視線を直也に留めたままだった。
「君のプランは確かに確実性が高い。だが、EGSはまだ実証実験段階だろう。その点はどうなんだ?」
その問いかけに、私の心臓の鼓動が早まる。――まさに核心。
直也は姿勢を正し、少しも動じずに答えた。
「大統領閣下。本日、その点を最終確認するため、ザ・ガイザースを視察させていただきました。現地のエンジニアの方々とも意見を交換し、直接状況を把握しています」
空気が一段と引き締まる。
大統領の表情は微動だにしない。
私は無意識に呼吸を浅くして、直也の言葉を待った。
「端的に申し上げれば――既存の地熱井セクターで、地熱発電に用いた熱水を戻す『人工涵養型EGS』を実施すると同時に、地下の精緻な『デジタルツイン』を用いた高速AIシミュレーションに基づき、注水コントロール自体もAIが担う事で、誘発地震を “極小化管理” することが可能です。
最新のAIモデル、それを動かすために必要となるAI計算資源が必要となりますが、これを投入することで、実用化は十分に可能であるという結論に達しました」
大統領の目が細められ、深い皺が刻まれる。
その仕草に、胸の奥が熱を帯びる。
――確かに届いている。
「そのAI自体も、君のいうAIデータセンターで動いていると、なおいいね」
直也は間髪入れずに頷いた。
「もちろん、そのとおりです、閣下」
そこで一拍置き、真っ直ぐに相手を見据えた。
「そして、地熱発電には戦略的に、もうひとつ大きな意味があります」
その言葉に、大統領の瞳がかすかに光った。
次に出てくる直也の答えを、心から待っている――そう見えた。
――直也の声が、低く、しかし力強く響いた。
「世界の地熱発電の資源量、上位三カ国は、米国、インドネシア、そして日本です。
実際には、環太平洋地域に圧倒的に多い。
ですから米国と日本は、この “神から与えられし機会” を、十全に活かすべきだと考えます」
その言葉を聞いた瞬間、大統領の顔がぐっとほころんだ。
重厚なテーブル越しに、深く頷く。
「――そのとおり。そのとおりだ」
「戦略的にも意味があると。
……そういう話を聞きたかったんだ」
力強く断言する声に、空気が震える。
その一言で、場の温度が一気に上がった気がした。
そこへ、店の奥からオーナーがグラスを運んできた。
琥珀色のビールが並々と注がれ、泡が静かに弾ける。
大統領は豪快にグラスを掲げた。
「よし。男と男の約束だ」
直也も同じようにグラスを上げ、二人は乾杯した。
その音が、小さなビストロの空間に鮮やかに響いた。
「そういう事なら――SPVの設置場所は日本で構わない」
大統領の口調は明快だった。
「日本という大切な同盟国を、私たちは信用している。
それを日本の人々にも理解してもらいやすくする必要があるからな」
胸が熱くなる。
ここまでの道のりが、ようやく結実しつつある――そう感じた。
しかし大統領は、グラスを傾けながら続けた。
「ただ、日本でのこのプロジェクトが、例によって “日本的な理由” でなかなか進んでいないと聞いたぞ。
日本のトップが……名前は忘れたが、とにかくそのトップにも、どんどん進めて欲しいと君からも伝えて欲しいものだな」
直也はすぐに応じた。
「閣下、了解いたしました。
必ず私が責任をもって、このプロジェクトを日米両国で速やかに進行させるよう尽力いたします」
「よし!」
大統領がもう一度グラスを掲げた。
「もう一度乾杯だ!」
――二つのグラスが再び打ち合わされる音。
それは私の胸にも、深く刻まれる響きだった。
(……直也くん。本当にここまで来たんだね)
私は心の中でそう呟きながら、目頭を押さえた。




