表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/105

第77話:宮本玲奈

――涙が、止まらなかった。


直也はいつも人に優しく、自分には厳しい人だった。

その背中を同期としてずっと見てきた。


五井物産の新人研究の際に、足を挫いて痛んだ私をテーピングして助けてくれたあの時から、私はもうずっと直也を見てきた。周囲に対する優しさと、自身が仕事に向き合う時の厳しい姿勢――。


その厳しさも、彼にとっては自然なことだと受け入れていた。


でも今、ようやく私には全てが分かった。

その根っこにあるものが――この上なく美しい理由だということに。


「立派になって」

自分の母から。

そして、透子さんという女性からの願い。


その言葉が、直也を絶えず追い立ててきたのだ。

出世や保身なんて下劣な、俗っぽい、安っぽい、そんな理由ではない。

もっと深いところで、彼を休むことなく走らせ続ける“のろい”になってしまったのだ。


(……でも、どうして。……どうしてそんな言葉を、残してしまったの……)


思わず心の中で呟いていた。

直也を想って残した言葉であるはずなのに、結果的に彼を縛り続ける。

愛の祈りが、彼にとっては呪縛に変わってしまった。

その事実に、私はどうしようもない哀しみを覚えた。


だけど――。


涙に暮れる直也の肩を抱きしめ、「大丈夫」と微笑む保奈美ちゃんの姿を見た時。

その笑顔は、のろいをあっけなく解き放つ慈母のようだった。

彼を責めるのではなく、癒やし、包み込む。

その光景に、私は嫉妬どころか、むしろ尊さを覚えていた。


(……美しい。これが、本当の愛なんだ)


その瞬間、胸の奥でひとつの決意が固まった。

私は言葉で彼に呪いをかけたりはしない。

私は――私自身の愛で、直也を絶対に守る。

彼が苦しむ時も、迷う時も、背中を支え続ける。


亜紀さんも、保奈美ちゃんも、きっと同じ気持ちだ。

だからこそ、この人を守れるのは私たちだ。

誰よりも近くで、誰よりも強く。


涙を拭い、私は拳を握りしめた。

(直也……。私はあなたを守る。全てを懸けてでも)


そう、胸の奥で固く誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ