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第66話:自問自答の時間(神宮寺麻里)

 ――また、同じ空間にいる。


 彼らに貼り付いて、もうどれくらいになるだろう。

 オフィスでも、移動中の車でも、打ち合わせの会議室でも。

 私はずっと一ノ瀬直也の半歩後ろにいた。


(……なぜ、私はこうしているの?)


 冷静に考えれば、理由はある。

 DeepFuture AIの代表イーサンからの指示。

 交渉の場で彼を一人にしないため、常に情報を持ち帰るため。

 それが私の「役割」だ。


 だが――視界の端に映る彼の姿は、どうしても私の中の「一ノ瀬直也という人物」に関する理屈では片づけられなかっていた。


 まず、あのひときわ美しい少女。

 「義妹」と紹介された保奈美。

 まだ高校生の幼い顔立ちなのに、まるで一ノ瀬直也と取り巻く「チーム」の中心にいるかのように周囲を和ませる存在感を持っている。


 そして――彼女を支える直也の姿。


 再婚したばかりの父と義母を事故で失い、残された少女を大人になるまで支えると決めた兄。

 彼女の未来を背負い、自分を犠牲にしてでも育て上げようとするその姿は……。


(……まるで、かつて私が「錯覚」していた直也の表向きの姿、そのものじゃないだろうか)


 私がまだ信じ、愛していた頃。

 自分の理想を映してしまっていた幻影。

 本当はそんなもの存在しない、そう思ってここまで来た。

 そしてその幻影を纏って無垢な私をだましておもちゃにした一ノ瀬直也。

 でも――今、目の前で少女に寄り添う姿は、否応なく当時の記憶を呼び起こしてしまう。


※※※


 そして、彼を取り巻く人々。


 街丘由佳。

 日本GBCのAIビジネス領域を指揮する若きエグゼクティブ。

 IT領域における女性リーダーとして、かつて私が追いかけ、憧れ、目標にしてきた存在だ。

 そんな彼女が今、迷いもなく直也をサポートしている。

 一片の疑念もなく、彼の決断に力を貸そうとしている。

 ……それが、私には理解できない。


 AAC代表の大田秀介と、その妻・美沙。

 急激に成長を遂げている企業のトップが、まるで自分たちの家族を迎えるように直也を支えようとしている。

 ビジネス上の合理性を超えた「情」が、そこにはある。


 そして何より――。

 今目の前で、限られた時間を最大限に有効活用しようと、必死に連絡と調整を続ける二人の女性。

 新堂亜紀と宮本玲奈。

 五井物産の超エリート社員だ。

 彼女たちは迷いなく、直也を「支えること」を当然のように選んでいる。


(これは全部――「あの男」に対してのものなの?)


 私が心の底で「絶対に許さない」と決めた相手。

 私が決して振り返らないと決めた過去の人間。


 その直也を中心に、人は集まり、支え、動き、未来をつくろうとしている。


※※※


 理屈では整理できない。

 私はずっと、冷徹に物事を切り分けて生きてきた。

 でも今、目の前にあるのは理屈を超えた「人の動き」。


 ――なぜ?

 どうして、あの人だけが。


 問いを胸に抱えたまま、私はただ視線を落とした。

 スクリーンに映る文字は読めているはずなのに、頭には入ってこない。

 胸の奥に渦を巻く感情だけが、じわじわと広がっていく。


(直也……。あなたは、一体……何者なの?)


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