第57話:新堂亜紀
――ホーンテッドマンションの荘厳な建物を見上げた瞬間、背筋がぞわっとした。
いやいや、大丈夫。ここはディズニーだし。怖いって言っても、ほら、子どもも普通に乗ってるし……。
大丈夫だよね……。
「行こう!」
直也くんが前を歩く。その後ろに保奈美ちゃんがちょこちょことついていく。
……で、私はその隣。玲奈は落ち着いた顔でしんがり。
案内役のキャストが重々しく語る。
「ようこそ……999人の亡霊が棲む館へ。あなた方も……千人目の仲間になるかもしれません……」
ぎょっとして心臓が縮み上がる。
――な、なんか怖くない?コレ! なんでこんなの提案しちゃったの私!?
暗闇に沈む廊下を進んでいくと、不意に不気味な肖像画が動き出した。
その瞬間。
「ひっ!」
思わず声が漏れる。情けない。
でも、もっと分かりやすく反応していたのが保奈美ちゃんだった。
「……っ!」小さく叫んで、直也くんの袖をぎゅっと掴む。
そのまま、半分しがみつくようにして直也くんの腕に隠れ込んだ。
「大丈夫だよ」
直也くんは淡々とそう言うけれど、守ってる感がすごすぎて……なんかもう“保護者”って感じ。
その頼れる背中に、思わず私までついて行ってしまう。
――けれど問題は。
その直也くんにしがみついているのが、私じゃなくて保奈美ちゃんだということ。
「……怖くないって言ったのに!」
自分で言ったくせに、結局私が一番ビビって半泣き状態。
そんな私を見て、前を行く玲奈が、まるで勝者の余裕のように笑う。
「ふふ。やっぱり来てよかった」
……玲奈、本当にこういうの強いんだな。
ライドが終わる頃には、保奈美ちゃんは直也くんにぴったり張り付き、私は妙な汗をかいて、玲奈だけが余裕綽々という構図になっていた。
……正直、ぐぬぬ、である。
※※※
気を取り直して、次は「The Many Adventures of Winnie the Pooh」へ。
カラフルで可愛いハニーポット型のライドに目を輝かせる保奈美ちゃんを横目に、私と玲奈は行列に並ぶ。
「ねぇ直也さんって」
保奈美ちゃんが不意に口を開く。
「……会社でも、いつもああいう感じなんですか?」
「“ああいう感じ”って?」私が聞き返す。
「その……さっきのジャングルクルーズみたいに、真面目に分析しちゃったりするところです」
玲奈が吹き出す。
「そうそう。あれが直也。どんな場面でも真面目モードに入っちゃって、自分で取り込めるところがないか、いつも考えている感じね」
「わぁ……やっぱり……」
保奈美ちゃんが目を丸くして笑う。
私は肩をすくめて続けた。
「もうね、見てると心配になるくらい。真面目すぎるの」
直也くんはいつも自分に厳しすぎる。
同期どころか、私の同期世代よりもずっと上のポジションに行っているのに。
どう考えても普通に行けば本体の役員クラスは固い。
だから普通なら、ここからは安全に事を運んでいく筈だ。
でも彼はそれをしない。
だから今、米国でのエコAIデータセンター事業化に突き進んでいる。
更に大きな賭けに出てしまっている。
何故そこまで自分に厳しく、そしてどこまでも走ろうとするのか。
でも、そんな彼に否応なく惹かれてしまう……。
「そう。なんでこんなにって思う時もあるけど……」玲奈がちらっと目を伏せて微笑む。
「でも結局、それが直也なんですよね」
「……うん」
私も思わず同意してしまう。
保奈美ちゃんはそんな私たちのやり取りを聞きながら、ほっとしたように笑った。
「……なんか、安心しました」
「安心?」
「だって……私だけじゃなくて、亜紀さんも玲奈さんも、同じように直也さんを見てるんだなぁって」
一瞬、言葉を失った。
――やっぱり、この子は天使だ。
本当に、ぐぬぬ、である。
行列はゆっくりと進み、甘い蜂蜜色の看板が近づいてくる。
小さな冒険がまた始まろうとしていた。




