第50話:一ノ瀬保奈美
――ゲートを抜けた瞬間、目の前に広がったのは夢そのものだった。
まだ朝の柔らかい光に包まれたディスティニーランド。カラフルなバルーン、軽快な音楽、そして開園直後のわくわくした空気。
「わぁ……!」
思わず声が漏れた。
直也さんの隣で亜紀さんと玲奈さんも、同じように少し顔をほころばせている。
――そうだ、私、この瞬間を一緒に過ごせているんだ。
※※※
まずは、真っ先に「ワールド・オブ・ディズニー」へ。
友達からのオーダーはしっかり覚えている。ここでしか買えないカリフォルニア限定のカチューシャを、直也さんと一緒に買ってきて! というものだ。
ショーケースに並んでいたのは、青いスパンコールに、金色のリボン、そして「Destiny land」のロゴが付いた特別なカチューシャ。
東京では絶対に手に入らないと聞いて、胸が高鳴った。
「これ……! これなんです!」
指差した瞬間、胸が弾けそうになる。
「友達から頼まれてるんです。直也さんとお揃いで買ってきて、って」
そう言うと、直也さんは少し困ったように笑いながらも、「じゃあ二つだな」と手に取ってくれた。
どうせなら――と、亜紀さんと玲奈さんもそれぞれ手に取り、結局全員でお揃いになってしまった。
鏡に並んで映った私たち四人。
キラキラ光るカチューシャをつけて笑い合う姿は、もうそれだけで写真に残したくなるほど楽しげだった。
(……嬉しいな。友達との約束も果たせるし、何よりみんなと一緒にお揃いなんて!)
胸の奥に温かいものが広がっていく。
私はもう分かっている。
亜紀さんも玲奈さんも直也さんのこと好きなんだなって。
それなのに昨日は一日私のために時間を使ってくれた。
私のわがままにずっと付き合ってくれたのだ。
私は亜紀さんも玲奈さんも好き。
だから亜紀さんや玲奈さんにも最高に楽しんでもらいたい。
一緒にみんなで楽しみたい。
そんな思いで胸の奥がいっぱいになりそうで、気づけば口が動いていた。
「ねえ、アトラクション乗る時は……毎回ジャンケンで決めませんか?」
「ジャンケン?」
亜紀さんが小首をかしげる。玲奈さんも目を丸くした。
「うん。だって、私、亜紀さんとも玲奈さんとも一緒に乗りたいから。どっちも大好きなんです」
その言葉に、二人の目が一瞬大きく見開かれた。
そして――揃ってふっと笑う。
「……本当、あんたって子は」
「ずるいくらい、いい子ね」
ふたりの表情が、どこか溶けていくのが分かった。
直也さんは隣で少しだけ肩を揺らして、目を細めて笑っていた。
――あ、嬉しい。
私が提案したことで、直也さんが楽しそうにしてくれてる。
それが一番幸せなんだ。
※※※
まずは、絶対に外せないスペース・マウンテンへ。
開園直後だったから、まだ待ち時間もそこまで長くない。列に並びながら、みんなでどこに行くか次の相談をしたり、写真を撮ったり。
「はい、ジャンケン!」
記念すべき一回目の組み合わせ。
結果は――直也さんと亜紀さん、玲奈さんと私。
「よろしくね、保奈美ちゃん」
玲奈さんが少しだけいたずらっぽく微笑む。
「はい!楽しみましょう!」
暗闇の中を駆け抜けるジェットコースター。
重力に押し付けられて悲鳴を上げながらも、笑い声が絶えなかった。
隣で玲奈さんが「きゃあ!」と叫んで、それが妙に可愛くて笑ってしまった。
そして、ふと前のライドに視線をやる。
亜紀さんと並んだ直也さんが、普段見せないくらいの笑顔で楽しんでいた。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
――そう。これでいいんだ。
私が一番嬉しいのは、直也さんが楽しそうにしていること。
みんなで交代しながら、笑いながら、夢の国を遊び尽くすんだ。




