第47話:MLB生観戦(宮本玲奈)
――いやぁ、これがMLBの迫力ってやつなんだね。
アナウンスのたびにスタジアム全体がうねる。
一球一球に歓声とため息が重なって、鼓膜が痺れるほどの熱気が押し寄せてくる。
グルメも量がすごいし、応援のノリも派手だし、日本の野球場とはやっぱり空気が違う。
私は手に残ったビールの泡を揺らしながら、マウンドに立つ翔平選手を見つめていた。
あの人のボールは映像で何度も見てきたけど、やっぱり生は別格だ。
ミットに突き刺さる音の鋭さに、何度でも背筋がゾクッとする。
「いけーっ!!」
保奈美ちゃんは立ち上がって叫んでいた。
直也さんとハイタッチを交わして、本当に子どもみたいに無邪気に喜んでいる。
その横顔を見ながら、私はふっと思った。
(……保奈美ちゃんが嬉しそうなら、直也も元気になる)
亜紀さんはたぶん焼けクソ気味で複雑なんだろうけど、私は逆に落ち着いていられた。
直也が、ここ数日の重たい顔から少し解放されて、笑っている。
それだけで充分、安心できるから。
今は、素直にこの瞬間を楽しめばいい。
※※※
そして試合は後半へ。
スコアは1対0。翔平の好投でリードを守ってきたが、6回の攻撃でついにビッグチャンスが巡ってきた。
「ワンアウト満塁!」
場内アナウンスが響いた瞬間、観客は総立ちになった。
――打席には翔平。
観客の熱気は一気に頂点に達した。
保奈美ちゃんなんて、もう今にも泣き出しそうなくらい興奮して、直也の腕を掴んで飛び跳ねている。
直也も、思わず笑って肩を支えていた。
「翔平! 翔平!」
スタンド中に大合唱が広がる。
初球はボール。
二球目も外れて、カウント2ボール。
次の3球はファウル。
粘りに粘る。
観客が「オォォォ……!」と唸り声を上げるたびに、私の心臓も一緒に跳ねていた。
そして――次の瞬間。
甘く入ったボールを翔平が振り抜いた。
カキーン!と乾いた金属音みたいな打球音が響き、白球が空へと吸い込まれていく。
「いったーーーっ!!!」
「Go, go, gooooo!!」
スタジアムの全員が立ち上がった。
ボールは高く、高く伸びて――そのまま場外へ!
グランドスラム。
翔平の満塁ホームラン。
スコアボードに「5-0」と点灯した瞬間、スタジアム全体が爆発したような歓声に包まれた。
紙吹雪が舞い、ビールが宙を飛び、見知らぬ隣の観客とハイタッチを交わす。
「やったーーーっ!!!」
保奈美ちゃんの叫び声が響く。
直也と強くハイタッチを交わすその姿は、まるで夢の中みたいに眩しかった。
私も拳を突き上げ、声を張り上げていた。
「ナイスグランドスラム!!!」
※※※
試合はそのままドジャースが快勝。
青いユニフォームを着た観客たちが「We win!!」と叫び、スタジアム全体が揺れる。
私は、声を枯らしながら拍手を続けていた。
ふと視線を横にやると、直也の表情はどこか晴れやかで、肩の力が抜けていた。
(……よかった。少しでも、直也から疲れが消えてくれるなら)
私の胸に広がったのは、焼きもちではなく安堵。
この一夜の熱狂は、直也に必要な休息なんだ。
私はそう思いながら、最後の歓声に身を任せていた。
――LAの休日、最高の夜だった。




