第42話:宮本玲奈
――ぐぬぬぬ……!
ハリウッド大通り。観光客でごった返す中心地で、まさかの「I♡LA」Tシャツペアルック。
しかも、直也と義妹ちゃん――保奈美ちゃんが、堂々と並んでツーショット撮影会。
「ラブラブっぽく撮れって友達から言われてて……♡」
そう言って小首をかしげる義妹ちゃんの破壊力、なんなのこれ。
(……ぐぬぬぬぬ! 誰だよ。そんな悪魔的なミッション課したのは!!)
直也はといえば、完全に観念したようにTシャツを着こなし、保奈美ちゃんの隣に立っている。
もう、どこからどう見ても「お似合いカップル」。
……いや、カップルって言うな、義兄妹だぞ!? いいのか? モラルはあるのか?
※※※
「はいじゃあ、もっと寄って! ほら直也、腕組む!」
「保奈美ちゃん、顎を少し上げて! 笑顔キープ!」
私と亜紀さんは、完全にカメラマンと撮影監督モード。
羞恥なんて通り越して、もうテンションだけで突っ走っている。
それにしても――周囲の観光客の反応がやばい。
最初はチラチラ見ていただけだったのに、保奈美ちゃんの美貌と変身オーラに気づいた瞬間、
「ワオ!」「ビューティフル!」と歓声が上がり、あっという間に人だかりができた。
(……なにこれ。勝手に公開撮影会みたいになってるじゃん!)
その時、亜紀さんがふと表情を切り替え、マイクを持ったショーの司会者みたいににんまり笑った。
そして英語で、平然と叫んだのだ。
「Free shooting is not allowed! One shot costs fifty dollars. Pay up!」
(無料撮影ダメだぞ。ただいま1枚50ドルです。払えや!)
周囲の観光客が一瞬固まる。
亜紀さんはさらに続ける。
「If you take photos for free, that’s theft. We’ll call the police!」
(無料で撮影した場合は窃盗罪適用だぞ、ぶちこむぞ!)
その場にいた誰もが「え……」という顔になった。
一瞬の沈黙の後、数人が小さく笑いをこらえ、数人は目を丸くして退いていく。
直也は、思わず目を見開いてこちらを見る。私も思わず顔が強ばった。
(……亜紀さん、何ですかその鬼畜対応。唐突すぎるでしょ!)
だが効果は抜群だった。
好奇の視線は途端に引き、スマホを向ける人の手が少し下がる。
代わりに、口々に「Oh my god…」というささやきが広がり、場の熱気が和らいだのは確かだ。
私たちは苦笑いしつつも、撮影を続けた。
――やれやれ。やっぱり、亜紀さんには敵わない。
でも、こうなったらもう止まらない。
「直也くん、はい! 今度は手でハート作って! そうそう!!」
「もっと寄って! もっと! ……はいキタぁーっ!!」
……そう。添付の写真みたいな、手で♡を作るラブラブポーズ。
羞恥プレイの極み。
けれど、そんな騒ぎの中心で、直也と義妹ちゃんは照れ笑いしながら手を合わせ、綺麗なハートを作り上げていた。
太陽光を受けて輝くペンダント。義妹ちゃんの笑顔。直也のぎこちないけど優しい微笑み。
――完璧。映画のワンシーンそのもの。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……! これじゃあ義妹ちゃん、完全にハリウッドデビューだよ!」
「玲奈、アンタほんとに……敵にダイヤモンド与えてるの、分かってんの!?」
私と亜紀さんは半泣き半笑いでシャッターを切り続けた。
もういい。どうせここまで来たら、世界一映える奇跡の1枚、撮り切ってやる!
――こうして、LAの街角で義妹ちゃん無双はさらに加速していくのだった。




