第40話:一ノ瀬直也
――ハリウッド大通りは、思った以上の喧騒だった。
観光客で溢れ返り、カラフルな看板と土産物屋のネオンが昼間でもまぶしい。スターの名前が刻まれたウォーク・オブ・フェイムを踏みしめながら、保奈美はきょろきょろと目を輝かせていた。
「わぁ……!すごい、映画で見たまんまですね!」
小さな声が風に乗って弾んだ。
――この子は、本当に良い意味で素直だ。目の前の景色をそのまま受け止めて、心から楽しんでいる。
店先のショーウィンドウには、アカデミー像のレプリカや派手なTシャツが並ぶ。
保奈美は「これ友達にいいかも」と、キーホルダーやマグカップを真剣に選んでいた。
そんな姿を横目に、オレの心には別の思考が渦巻いていた。
(……義妹ちゃんへの土産。どうすべきだ?)
もちろん、形ばかりのお土産ならいくらでもある。
だが、ここまで一緒に旅をして、あの笑顔を見て……なにか“特別なもの”を贈ってやりたいと思ってしまう。
だが、それは“義兄”としての振る舞いでなければならない。
一線を越える気持ちは、絶対に抱いてはいけない――そう、何度も自分に言い聞かせてきた。
それでも。
宝石店のガラスケースに目が止まった。
そこに飾られていたのは、派手さはないが、繊細な輝きを放つシルバーのペンダント。
小さな星型のチャームが一つ。シンプルで、どんな服にも似合うデザインだ。
(……これなら。義妹ちゃんへの贈り物として、自然だろう)
自分にそう言い訳しながら、気づけば店に足を踏み入れていた。
店員の英語が耳に入らないほど、オレはペンダントを凝視していた。
「これを」
短く告げて、カードを差し出す。
義兄として。彼女を守る存在として。――そう繰り返し唱えながら。
包装を受け取ったとき、胸の奥で小さなざわめきが広がった。
これはただの土産ではない。彼女の胸元に輝く姿を想像した瞬間、心が熱を帯びてしまった。
(……ダメだ。これは義兄としての気持ちだ。それ以上ではない)
必死で自分を戒めながら、外に出る。
通りの向こうで、保奈美が小さな紙袋を抱えて嬉しそうに笑っていた。
――その笑顔だけで、どれだけオレの疲れが癒えるだろう。
ペンダントをポケットに仕舞い込みながら、深く息を吐いた。
渡す時は、あくまで自然に――あくまでも義兄としてだ。
「義妹ちゃん」
声をかけると、彼女が振り返り、太陽の下で笑った。
その笑顔が、またオレの心を揺らした。




