第39話:一ノ瀬保奈美
――胸がいっぱいだった。
スマホの画面に映る一枚の写真。
直也さんが私の後ろに立って、そっと寄り添うように写っている。私は少し恥ずかしそうに笑っていて、背景には青い空と白いハリウッドサイン。
「……本当に可愛らしく写っている。亜紀さんが撮影上手なのもあるけど、でも結局義妹ちゃんが可愛いからに尽きるな」
直也さんの言葉が、耳の奥でリフレインする。
胸の奥がじんわり熱くなって、息が詰まるくらいだった。
――可愛い、って。
しかも「可愛いからに尽きる」なんて、そんな、ストレートな言葉を……。
(……夢みたい。これだけでアメリカに来て良かったな)
頬が熱い。けれど、画面から目が離せなかった。
※※※
ふと、友達とのグループチャットが目に入った。
「絶対に写真送ってね!」「こっちでの変身結果楽しみにしてるから!」
出発前、みんなに散々からかわれていたのを思い出す。
「直也さん、あの、日本との時差ってどれ位でしたっけ?」
「16時間だな。日本時間だともうすぐ朝の7時くらいじゃないかな」
直也さんはすぐに日本時間を教えてくれた。
(……よし、じゃあこれだ!)
私はそっと写真を選んで、アップロードした。
数秒も経たないうちに「既読」が次々とつき、スマホがバイブで震えっぱなしになった。
《え、誰!?!?!?》
《ちょ、待って待って待って……これ、ほんとに保奈美!?!?》
《嘘でしょ……めっちゃ美人になってるじゃん!!》
《やばい……映画女優かと思った……マジで信じられない》
《加工アプリとか使ってないよね!?!?》
思わず吹き出してしまった。
やっぱり衝撃が強すぎたみたいだ。
でも、そこからさらにコメントが雪崩のように押し寄せてきた。
《え、ちょっと後ろにいるの誰!?!?》
《まさかお兄さん!?!?!?》
《リアル王子様とツーショットキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!》
《うわぁぁぁぁ!後ろ抱きって!!アウトーーー!!!》
《義妹ちゃん、完全勝利おめでとうございます!!》
《このツーショット……ポスターか何かですか!?尊死》
通知音が鳴り止まない。
画面いっぱいに文字が踊り、テンションが爆発しているのが分かった。
(ふふっ……そんなに驚いて、喜んでくれるなんて)
私は笑いながら、スマホを胸に抱きしめた。
隣にいる直也さんは、まだちょっと気まずそうに頭を掻いている。
でも私にはわかる。あの時の言葉も表情も、全部本物だった。
――この一枚は、きっと一生の宝物になる。




