第38話:新堂亜紀
――正直、もうテンションはだだ下がりだった。
だって……あの保奈美ちゃんの“変身”だもの。
直也くんの目が完全に奪われているのを、横で見せつけられたんだもの。
私も玲奈も、もう心の中で「ぐぬぬぬぬ……」って叫んでいた。
でも。
(……ま、いいわ。せっかくのLAだし)
もう焼け気味に気持ちを切り替えるしかなかった。
※※※
ハリウッドサイン。
抜けるような青空に白い文字が映えている。
「これぞLA!」っていう観光名所。
「はい、じゃあ保奈美ちゃん、ここで撮影会ね!」
私はカメラを構えた。玲奈も横から「光の角度こっちがいい!」と指示を飛ばす。
二人してプロの撮影クルーよろしく、なぜかテンションが爆上がりしていた。
「えっ、わ、私だけでいいんですか?」
保奈美ちゃんが少し戸惑った顔でこっちを見る。
「もちろん!せっかくの変身後だし!」
けれど、そこで保奈美ちゃんが小さな声で言った。
「……あの、友達からいろいろ言われてて……。直也さんと仲良い感じで撮ってこいって……」
「は?」
思わず素で声が漏れた。
(誰だ、その小娘は。どこの誰だか知らないけど、余計な入れ知恵を……!)
けど、口に出すわけにもいかない。
仕方なく直也くんの方を見ると、彼はもう照れていた。
「……そ、そういうことなら……」
照れくさそうに保奈美ちゃんの横に立つ直也くん。
はいはい、仲良し義兄妹ってやつね。
ここはもうヤケクソだわ。
「じゃあ、仲良い兄妹っぽい感じで撮ろうか!」
カメラを構えながら声を張る私。
ところが次の瞬間――。
「えっと……じゃあ、直也さんは後ろに立ってください」
保奈美ちゃんが、恥ずかしそうに言った。
そして、まさかの――後ろ抱きポーズ。
「はいいい!?!?」
「ええええ!?!?」
私と玲奈は揃って声を上げた。
直也くんは一瞬ためらったが、保奈美ちゃんの真剣な瞳を見て……素直に従った。
後ろからそっと腕を添える直也くん。
それを受け止めるように、ほんのり頬を染めた保奈美ちゃん。
……はい。アウト!アウト!!
どう見ても“兄妹”の領域を飛び越えている。
でも。
ここまで来たら――もう逆に燃える!
「直也くん、もっと顔を寄せて!」
「保奈美ちゃん、ちょっと顎を上げて!太陽光がいい感じに入るから!」
「奇跡の一枚撮るわよ!これインスタのトップ級よ!!」
私と玲奈は半ば自棄気味に、完全にカメラマンモードに突入した。
角度、光の入り方、体の向き……スマホを複数台持ち替えて何枚も撮影する。
シャッター音が止まらない。
「もっと寄って!」
「はい笑顔、もうちょい!……いいよ!」
叫んでいる自分が信じられなかった。
そして撮影終了。息をつきながら、撮ったばかりのスマホ画面を確認して――。
「……うそ、奇跡の一枚じゃん」
思わず声が漏れた。
保奈美ちゃんのはにかむ笑顔。直也の不器用そうな微笑み。背後には青空とハリウッドサイン。
完璧すぎた。まるで映画のワンシーン。
横を見ると玲奈も同じ顔をしていた。
「ぐぬぬぬ……。これじゃあ本当に映画ポスターじゃん……」
その横で、無邪気に画面を覗き込む保奈美ちゃん。
「どうですか? 兄妹っぽいですか?」
……兄妹っぽい、ね。
いや、どう見ても“恋人以上”にしか映らないでしょ。
直也はしばらく無言だった。けれど、やがて小さく笑って口を開いた。
「……正直、驚いたよ。すごくいい写真だな。……本当に可愛らしく写っている。亜紀さんが撮影上手なのもあるけど、でも結局義妹ちゃんが可愛いからに尽きるな」
「!?」
義妹ちゃんの頬が一瞬で真っ赤になる。
私と玲奈は揃って「ぐぬぬぬ……!」と呻き声を上げるしかなかった。
――やっぱり今日は、義妹ちゃんの無双回だ。




