第34話:新堂亜紀
――よりにもよって、あのエドワード・トリウミ本人がホナミちゃんを担当してくれるなんて。
ハリウッドの女優たちがこぞって通う、あの伝説のカリスマよ?
正直、名前を聞いただけで背筋がぞわりとした。
「仕上がるまで中は見せないわよ〜」
軽やかなオネエ言葉でそう言われて、私も玲奈も、ただソファに腰を下ろすしかなかった。
――どんな風に仕上がるのか。
不安と期待で、心臓がやけに早鐘を打っていた。
※※※
そして数十分後。
「さぁ〜、入ってきてちょうだい!」
トリウミ氏の甲高い声とともに、扉が開いた。
「……っ!!!」
思わず声にならない声が漏れた。
そこに現れたのは、いつものホナミちゃんじゃない。
少女のあどけなさを残した“義妹ちゃん”じゃなくて――洗練された、大人の女性。
眩しいほどのオーラを纏った、美しい人。
「ちょ、ちょっと待って……これ、ホナミちゃん!?」
玲奈の言葉に、私も頷くしかなかった。
本当に、別人みたい。
直也くんも立ち上がって固まっている。
その顔には明らかな驚き。
――いや、それだけじゃない。目が奪われてる。完全に。
ズキリと胸が痛んだ。
「ほらほら!」
エドワード・トリウミが手を叩く。
「素敵な女性に対して、素直に賛美しない男は三流よ! ほら、何か言いなさいな!」
直也くんは一瞬言葉を探し、やがて小さく息を整えて口にした。
「……本当に、キレイだ。いや、もともと美人だと分かっていたけれど……」
その瞬間。
私と玲奈のテンションは一気に地の底に突き落とされた。
「……これじゃあ、敵に塩を送るどころか、敵をダイヤモンドにしたようなものですよ」
玲奈が低い声で呟く。
「ちょ、ちょっと! 予約したのは玲奈でしょ!」
私は慌てて言い返した。
「そ、そんなつもりじゃなかったんです! でも、ここまで仕上げるなんて聞いてません!」
「いや、聞いてなくても、これは……」
言葉を続けられない。視線の先には、満開の薔薇のように微笑むホナミちゃん。
※※※
私と玲奈は顔を見合わせ、思わず同時に身を乗り出した。
「エ、エドワードさん……わ、私たちも、何とかしていただけませんか!?」
祈るような勢いで声をかける。
だが、返ってきたのは涼しい一言。
「ごめんなさいね〜。予約でいっぱいなのよ。来月くらいなら空いてる枠があったかしらね」
あっさり。完全に素気ない返事だった。
「ら、来月……?」
「……遅すぎます」
私も玲奈も、同時に肩を落とした。
――ホナミちゃんだけをダイヤモンドに磨き上げておいて、私たちは“来月”。
あまりにも残酷なコントラストに、笑うしかなかった。
ソファに沈み込む私たちをよそに、トリウミ氏はご満悦でホナミちゃんの髪をなでていた。
「ほんっと、可愛いわぁ……私、保証する。すぐにでもハリウッドデビューできるわよ!」
私と玲奈のテンションは、それ以上にもうどうしようもないほど下がりきっていた。
――ほんとに。
何でこんなことになっちゃったのよ……。




