↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/105

第26話:新スキームの検討(新堂亜紀)

 ――胸の奥の動揺が、まだ収まらない。


 会議室で神宮寺麻里が姿を現した瞬間から、直也くんの表情が一瞬固まったのを、私は見逃さなかった。

 あの人は直也くんにとって、ただの対立相手ではない。

 もっと深く、もっと複雑な感情を呼び覚ます存在なのだと、女の直感で分かった。


 けれど、私はあえてそのことに触れなかった。

 触れてはいけない。

 今の直也くんに、余計な問いを投げかけるべきではない。


 私は決めている。

 ――何があっても、私は直也くんの味方でいる。

 どんな過去があろうと、どんな相手が現れようと、それだけは揺るがない。


 私の役割は一つ。直也くんを守る事だ。


※※※


 ホテルのロイヤルスイート会議スペース。

 夕食を取る余裕もなく、私たちは資料を広げ、ホワイトボードの前に座った直也くんを見つめていた。


 直也くんは【国際共同持株会社(SPV)設立案】と書いて、そのメリデメをまずシンプルに整理した。


 更に、無言のまま黒いマーカーを走らせていく。


【日本JV → 米国展開】

【米国専用JV → 米国資本60%/日系40%】

【SPV(シンガポール)で統合管理】

【発言力希薄化対策→Golden Share?】


 太い線と矢印で描かれるスキーム。

 見ていて胸が熱くなった。

 混乱の最中でも、彼は決して立ち止まらない。

 むしろ一歩引いて、全体を再構築しようとしている。


 でも――。


 私は総合商社の先輩として、一つの懸念を口にした。

「直也くん…… “Golden Share” という言葉は、使わない方がいいと思うわ」


 ペンを止め、直也くんがこちらを見た。

「どうして?」


「米国側の投資家にとって、“Golden Share”は国家統制や強権的支配を連想させるの。

 欧州のインフラ案件ではよくあるけれど、シリコンバレーのVCやPEの世界では強い抵抗を招きかねない」


 自分でも声が少し震えているのが分かった。

 けれど、言わなければならないことだった。

 あの神宮寺麻里という人が突きつけた主張が正論である以上、こちらの論理も冷徹でなければならない。


 すると横から玲奈が静かに補足した。

「でも、“SHA(株主間契約)+特殊株式” ならどうでしょう?

 Reserved Mattersを契約で定めて、五井物産の同意を必須にする。

 そして、特殊株式で役員選任権や一定の拒否権を担保すれば

 ……外からは “普通のVC慣行” に見えます」


 玲奈の声は落ち着いていた。

 けれど、言葉の一つ一つが鋭い。

 ――そう。これが玲奈の強さ。

 冷徹な分析で、直也くんの描いた図面を補強していく。


 直也くんは少し黙り込み、ホワイトボードに大きな円を描いた。

 そして太字で書き加えた。


【SPV(シンガポール)】

【→ 日本JV(国内主導)】

【→ 米国JV(米国主導)】


 下に小さく、私と玲奈の言葉を取り込むように書かれる。


【Golden Shareは避ける】

【SHA(特別決議事項/Reserved Matters)】

【Class B株:五井物産】


 彼はマーカーを置き、深く息を吐いた。

「……日米政府に対してフラットに見せる。

 しかしながら、実質は五井物産が握る。

 SHAとClass Sharesを組み合わせて、そこに落とし込む。

 こうする事で、海外に拠点を置くSPVであっても、引き続き五井物産が主導権を握っている事になり、日本での政治的説得力は担保できる筈だ」


 静かな声だった。けれど、はっきりとした決断が宿っていた。


 私は胸が熱くなるのを抑えられなかった。

 麻里の存在は確かに直也くんを揺さぶった。

 だけど、彼は倒れない。

 自分を支える仲間を信じ、最適解を導き出す。


「……直也くん」

 思わず呼びかけていた。

 言葉の続きを飲み込みながらも、視線で伝えた。

 ――私は、何があっても直也くんの味方だから。


 隣で玲奈も小さく頷いていた。


 三人の間に言葉以上の確かな結束が流れた。

 その瞬間、私は心の奥底から思った。


(やっぱり、私はこの人を信じていいんだ)


 麻里が何を言おうと、何を突きつけてこようと――直也くんは前に進む。

 そして私は、その背中を支え続ける。

 それが、私の決意だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。