90話 式典会場
皆様、いつもありがとうございます。
最近、私はお父様に弄られ続けている気がした。
今日の式典で怒ると子供と変わらない上、恥ずかしさを後々感じる事と分かるため、堪えつつお父様の後を付いて歩く、魔法教会の敷地はとても不思議で半々に学園と研究棟に分かれているが、中央にそれほど大きく無い建物があり、目指す先はその場所のようだ。
「アニエス、機嫌を直してくれないか?揶揄いすぎたか…」
私は不貞腐れながらお父様の後を付いて歩き堅牢な扉に到着した。王城の玉座の間の扉と比べても同じぐらいの扉、それだけではなく何やら魔法がかけられているようだが、魔力眼を使っても変な魔力の流れしか分からなかった。
「ロビン辺境伯と娘のアニエスだ」
「どうぞ、お入り下さい、お席は中二階となります」
扉の左右に立つ魔法騎士に向かってお父様は自身の名と私の事を告げる。すると左右の魔法騎士が応じて扉が開いた。仕組みは分からないがとても凄く感じながらお父様に続くよう建物の中へ入った。
「なっ!!」
騒がしくしないつもりだったが、建物の中が私の想像とは違い驚いてしまう。理由は単純で明らかに広すぎたのだ。
先程の魔法騎士が中二階に席があると言っていた時点で違和感を感じたが、天井も高く、空間拡張が施された部屋だった。
「アニエスも驚くか、私も驚いたが声は我慢する努力をしてほしい」
「お父様、申し訳ありませんって、知ってたのですか?」
「あの騒動があった後の式典だ、念の為に危険な箇所があるかどうかを下見した時に見て驚いたな」
お父様も直近の下見で来た時に外から見た建物と中の広さが違い、私が前に見せた簡易テントを思い出したと言うのだ。あくまでゲームでの知識では空間拡張は付与する魔法ではなく、元々付与されている魔法だった。建物の中に効果が現れているという事は元々付与された建物だろうか、いや、あり得ないだろう。そうなれば自ずと答えは決まり、誰かが魔法付与を行ったという事だ。
驚きが強かったが、今考えても意味はないので、後でお母様に聞く事としよう。広い建物の中を見渡すとフレデリカ様から聞いていた様々な食べ物がテーブルの上に並んでいるのが見えた。照明となる魔法道具の光が反射する事から埃を避ける為に透明な何かで囲われているようだ。
「果物にお肉、お菓子もあるのですね♪」
「フフッ、アニエスは美味しい食べ物好きだから絶え難いだろう、後で食べれるから今は我慢するのだぞ、それにしても透明な箱か?あれは邸に欲しいな、アニエスも作れたりするのか?」
「透明の箱ですか…残念ですが私の力では難しいですね、似た感じのは作れますが、透明の箱は職人の腕が必要と思います」
お父様は埃除けだけではなく、透明な箱がとても気に入ったようで、私に作れないかと言うが、残念ながら錬金術の対象外という事や魔法道具の分類ではない為、本来の工程が必要な作成品となる。その為作れないと答えると、諦めないようで後程、入手経路を聞くと意気込んでいた
おそらく素材はガラスだろう、王城や私達の邸にも使われているが、この世界を考えれば入手は困難で、透明なガラスは少ない。仮に私が作るとすれば黒曜石を使った真っ黒の箱になり、お父様の要望は満たせないのだ。そもそもお父様は手に入れて同じように食べ物を入れるのだろうか、美術的には価値が高そうに思えるが使い道は難しく思えた。
既に人はいるが、大人が多くまだ入学生は入ってないと思う。興味深く中を見渡していると、お父様と私に気がついた人が次々と挨拶をしに来たのだ。
王国の貴族や商人、他国の貴族も挨拶しに来る為、その都度私も受け答えを行う。他国はまだ良いのだが、王国内で私の事をよく知らない人はお父様が前に流した病弱設定が生きているようで、気遣いをされる為、色々な意味で胸が苦しく感じてしまった。
目まぐるしく人が入れ替わり話をしていると、この人さっき話したようなという錯覚を感じ始めてしまう。お父様は慣れているようで問題なく話をしているのと、名前を元々知ってる人が多く、私は改めて貴族の大変さを感じた。
先に大人が集まっていた理由は社交界のように話をする目的のようで、私は話し疲れてしまった。
そんな私に気がついたお父様は「娘が疲れ始めたようで、続きはまたの機会に」と話を切り上げて席に向かう事となった。
「アニエス、慣れない事で疲れたのだろ?」
「はい、正直言うと凄く疲れました。ドラゴン倒していた方が気楽な感じですね」
私はお父様の問いにそう返すと「比較対象が恐ろしいな」と言われてしまった。大きな階段を登り、中二階へ上がるとリディアの入学試験の時と同じような席があり、ゆったりした配置で席数を見る限り、沢山座る事は出来ないように思った。
「あれ?席数少なくないですか?」
この数では座れない人が出そうに感じてお父様に聞いた所、魔法教会は本来なら身分は皆等しく扱われるのだが、この場は違うようである程度の身分の者は中二階、その基準に達しない者は先程の一階に席があると教えてくれた。王族は?と思うと、この上の階が他国も含めて王族の席があるようだ。
同じ国の王族ですら不敬があってはならないようにと注意を怠らないのだが、そこに他国も加われば大変な事が目に浮かぶ為、その話を聞いてホッとした。それとは少し違う問題があるとすれば、基本的に子供はいない為、私は自ずと目立ち、注意を引いてしまう事だ。
「目立つのか見られてる気がします…」
「アニエスは私が自慢できる娘だ。堂々とすれば良い、目立たせるためにフレデリカ王女が選んだ服だからな」
凄く嬉しく感じる言葉なのに素直に喜べない複雑な気分だ。
なるべく気にしないようにして、席に座ると見える範囲は丁度、人が集まりそうなテーブルが配置されていない箇所が見えるようで、奥側と高さが違う事から、あの場所でフレデリカ様が話をするのかなと思った。
「久しぶりに参加してみたが、ほう、今年は人が多いようだね、お嬢さんは入学…はまだ早いかな?」
私が下を見ていると横から声をかけられた。慌てず騒がず、この中二階にいる時点でお父様と近い身分、つまり貴族の可能性が高く、しっかり対応しなければお父様の恥にもなるからだ。
「えっと…はい、私はまだ入学できない歳なのです。私の名前は…」
「お嬢さん、ワタシが先にベルガド•アリステアと名乗らせてもらおうかな」
私は振り向き挨拶をしようとしたが、それを止めるように男は言うと自ら先に名乗ったのだ。
出鼻を挫かれたが、先に名乗ってくれた事で落ち着く事ができた気がする。改めて見ると変わった大人の人、一番は目が開いているのかどうか分かりにくい所だろうか、服はよく見る事から王国の人だとは思う。
私は名前を告げようとするが、男は手を翳して「まぁ落ち着いて、お嬢さんが名乗る前に下を見てほしいかな?」と言われて私は頭にハテナを浮かべながら軽く覗き込むが、これと言って特徴的な物は見当たらなかった。
「ほら、よく見て、下だよ?ほら見て見て、しっかり見てね」
「下って…」
私の話すタイミングに被せるよう男は言うと、先程一度見た下にある人が集まる予定場所を指差した為、意味が分からなかったがつられるように私は立ち上がり下を覗き込んだ。
「もう一度一度見ましたが、目新しいのはないですよ」
「もっとよく見て、ほら、覗き込むようによく見てごらん、お嬢さんならなんとか出来そうかな?」
「何の話ですか?さっきと同じ、変わらない?特に何もないですよ?」
身を乗り出して覗き込み喋る私だったが、ふっと身体が引っ張られるように落下しそうな感じがした。
「やっ、やばっ!!」
体内の血液が落下しそうになる事で移動した為か冷たく感じ、まずい事を理解したが、落ちようとした身体は止めれなかった。
本来なら落下していた状況だったが、今日着ていた服のおかげかお父様が落ちそうになった私の身体を掴んだ事で大事には至らなかった。
「アニエス危ないぞ!!急に立ち上がり覗き込むと落ちるだろ!」
凄く焦った表情のお父様、私も焦っていたが、それ以上のようで私は謝り「こちらの方から下に何かあると言われて…」と横にいた男の事を伝えて状況を説明してもらおうと思ったが、私は言葉の途中で止まってしまった。
「アニエス…誰もいないぞ、そもそも私が見ていた間、誰一人としてアニエスの横に立っていなかったが…」
「え…嘘でしょ…」
目を大きく見開き口を開けて呆然とする私、確かに会話をしたはず、確かに横に居たはず、私自身の記憶が変なのか困惑しそうだ。
よく考えると、お父様に話しかけた後、私に話をする者は居ても私に直接話しかける者は居なかった。それは当たり前の話で、失礼になるからだ。そもそも、私と他の人が話していたら、すぐ左にいるお父様が気がつくはず、今の今まで何も無かったのは何故だ。
「お、お父様…私って…な、何をしてましたか?」
記憶が不確かで曖昧さを感じ始めた。そのため、お父様に私を掴む前は何をしていたのかと聞くが、お父様は困惑しながら急に立ち上がり覗き込み落ちそうになった時に声を発したと言うのだ。
私の記憶と違う、正確には体験した出来事と違うが正しいだろうか、私の話は遮られた事もあるが、確かに喋っていたはず、それなのに咄嗟に口から出た落ちる瞬間の声だけしか認識されていなかった。意味が分からなくなり、血の気が引くように感じた。
「アニエス、人が多くて疲れたのか?顔が真っ青だぞ…」
「えっと、お父様…変に思わないでね…」
私は自ら経験した出来事、会話を伝えて整合性を確認するが、やはり誰も私の右側には居なかったと言う。それどころか私の記憶にある最初に下を見ていて話しかけられた事、振り向いた事、落ちる前に覗いた事、話した言葉、全てが認識されてなかった。
あれ?どんな服装だった?
思い出そうとするが全身黒く塗りつぶされたようなヒトガタしか思い出せない、この気持ち悪い感覚はなんだと思考が鈍る。
少しでも思い出そうとするがあの男、特徴的な所がなかったはず、強いて言うなら細目だった気がする。名前は確か「ベルガド•アリステア…確かそう名乗ったのです…」放心状態に近い私は頭が白くなる中、記憶を辿り、私に話しかけた男が名乗った名前をお父様に伝えた。
「ベルガド•アリステアだと、その者はそう名乗ったのだな」
「えっ!?は、はい、間違い無いです。服はお父様に近かったので、近い貴族と思ってしまいました」
「ベルガド…ありえないはずだ、アリステアの名も聞く事になるとはな…」
真剣な顔つきでお父様は独り言を言うようにブツブツ呟くと目を閉じ、何やら真剣に考え事をしているようにも見える。すぐに目を開け、お父様は「その名前は私が騎士団を纏めていた時に相手した禁忌とされる人体魔術を行った者の名だ」と教えてくれたのだ。
「そして、私が魔力を失う原因になった忌わしい相手だった」
「だったって事は…」
「ああ、首を刎ねて処刑した。確実に息絶えて、自身にどんな魔術を施しているのか分からなかった事もあり、全て灰になるまで燃やし尽くした」
今日、この場で聞く話では無かった。それとお父様はシャーリーの話で魔物により魔力を失ったと聞いていた事から、そんな相手が出てくる事もそれが、私に話しかけてきた男の名前と言う事も驚いてしまった。
あの短時間で何が起きたの、記憶を操作と言っても安易にできることでは無い、お父様の認識を変えて私に接触したと言う事だろうか、冷静に考えれば、周囲に魔法騎士が立っている為、席から立ち上がると駆け寄り確認を行った。近くで、私を視界に捉えてそうな二人の騎士に聞くが誰も近くには居なかったと言う。お父様と同じで落ちる瞬間に私が声を出した事は知っていたのだ。
一人なら記憶操作も可能だろうか、私は自信がないので確証は言えない、それだけ人が感じる感覚を惑わせて、偽りの記憶に変えるのは難しいからだ。意識をずらした可能性、これが高いと思ったけど、複数人をとなれば難しい、極めつけに聞いた名前は既に亡くなった者の名前だった事だ。
何を伝えたかったのか、私を落下死させたかったのか、実際焦ったが、おそらく落下したなら魔法で受け身をとれたはず、不確定な方法で殺す目的では無いと思う。害そうとする目的でないなら、何かを見せたかったと言う事になるが、私は何度見ても何も見えなかった。最終的にもっとよく見て覗きこんでと言われても見えなかったのだ。
「下…下…覗き込む…よく見る…って!まさか!!」
ハッと思いついたことがあり、私は落ちない程度に下を覗いた。同じ光景で特に何も無いが、その場で魔力眼を使い下をよく見たのだ。
「何これ!!魔力が集まってる!!凄く膨大な量だよ!!」
私の声にお父様が反応を示すので、この下に何があるのかを大至急聞いてもらうことにした。お父様も私が名前を告げてから違和感を感じているのか、すぐに聞いてくると言いつつ、この場から離れるなよと言って離れた。私が聞いて二度手間になるよりはお父様に聞いてもらった方が確実だからだ。
その間に直下に存在する魔力の塊、何処から魔力が送られているのかを見ていると仮定の話にはなるが、地脈から魔力が流れて集まっているように感じた。
お父様は直ぐに戻ってきたが、魔法教会長を連れてきたようで今私が感じた魔力の塊を伝えると、他の人が聞こえないように位置を移動して「他言無用に願いたいが良いかの?」と言うのだ。
私は頷くと魔法教会長は下にある魔力の秘密を話し始めた。
「アニエスちゃんは気がついておると思うのじゃが、この建物は見た目と中の広さが異なる空間拡張が施されておる。この魔法教会の中じゃと大抵の建物に施されておるので、特別では無いのじゃが、その魔法核が直下にあるんじゃよ」
「私が知る限りの空間拡張は後から付与できないはずですが、魔法核とはどんな仕組みなんですか?」
「アニエスちゃんも知らないとは…話を戻すが、実を言うとワシも分からんのじゃ、この仕組みを施したのも設立時に関わった魔法使いが行った事でワシらも知らぬ魔法を次々に使い、魔法道具を新たに生み出し、本来なら魔法教会長の座に着くはずの女性じゃったが、行方不明になったまま、生きているのかさえ分からんのじゃ」
聞く限り魔法もかなり使える事や魔法道具、邸にある浴場も作成を行ったらしく、一度魔法が衰退した後にそれだけの知識を付けることは考えにくく、可能性が高いのは魔族の類だろう、魔法教会長の話から直下にある魔法核は魔法道具と言う事や地脈で他の建物と繋げることにより、全体を発動範囲にしている事が予想できた。
つまり、膨大な魔力が集まる事自体は元々の事になる。そうなるとあの言葉の意味が難しくなる。あの男は単純に魔法核の存在を知らせたかったと仮定するなら単に物珍しさを知らしめたいだけだが、魔法教会長に魔法核を知っている人がどれだけいるかと聞いてみたが、設立時のごく一部、当時で三人、今は一人が無くなり、魔法教会長と行方不明の製作者らしく、知る人が殆どいない、というか私達が特別のようだ。
仮に何かの手段であの男が知ったとして、だから何と言う話になる。自己知識を共有したい為とは考えにくく、他の理由があるのだろう。様々な予想をしていると嫌な予想が思い浮かんだ。
例えば、集まった魔法核を何かの手段で魔力爆発させたらどうだろうか、地脈で敷地内の建物に繋がっている事から想像できない超爆発が起きてしまうはずだ。爆破させれなくても乱れれば空間拡張が保てないだろう、使用している最中に保てなくなればどうなる?試した事もなければゲームでの知識に存在しない為、これも予想になるが、元の広さに戻るのは明白で、そうなれば拡張された領域は押し潰される可能性がある。
害する目的と考えてしまったが、違う目的はどうだろう。だがそうなれば、知ってる事を共有したいだけの人になる。あの名前を名乗った男はすでに死んでいるが、元々の人となりを考えれば、どんな意図で名乗ったか分からないが、名乗る以上は良からぬ考えをしている可能性は高いと思う。
私が考えてる間にお父様と魔法教会長は話を行い、このまま式典を続行すべきかを協議している。しかし、中止にすれば他国から人がきている兼ね合い問題になる可能性もあり、かと言って日程をずらすのも大変だ。
「アニエスはどう思う?」
「えっと、子供が意見しても?」
「まだ拗ねてるのか…なら子供じゃないアニエスの意見が聞きたい」
「そう言う事なら、僭越ながら申しますと、中止をした方が良いと思います。下にある物を調べれれば違う答えに辿り着くかもしれませんが、現状の話を纏めた結果です。あの男の話は予言、予告にも聞こえますし、単に自己知識を知らしめる目的かもしれません」
私に対してお父様は意見を求めた為、私は意見を述べた。
念の為、魔法教会長は待機している魔法騎士を集めて警備に当てると言った。私は前にも感じた違和感に近い胸騒ぎを感じて一言「直下の魔力核は調べれませんか?」と聞いた所、魔法教会長同伴なら可能らしく、魔法騎士と共に確認を行うと約束をした。
時々感じる変な感覚、言うなれば前に同じような状況を見た事があるデジャブ感に近い、正直この感覚は気持ちが悪く頼りたくないが、胸騒ぎがする時は決まって最良の選択を行わなければ後悔すると感じるのだ。
「お父様、アルテア様に連絡できますか?敷地の調査をアルテア様かラキア様にお願いしたいのです!」
「アニエス、簡単に言っているが、他国の王族と上級貴族に頼み事をするような物だぞ、今日の協力も彼方側からの好意があってこそだ。協力の見返りを求められたらどうするのだ?」
お父様の言葉は確かにその通りに聞こえるが、心を開いているアルテアは私の頼みと聞けば手を貸してくれるはず、それと何か要求されるなら私が責任を持つ事をお父様へ伝えると頭を押さえながら「わかった、席でじっと待っていなさい、再度ベルガド•アリステラが現れたら魔法騎士を呼ぶのだぞ」と言う。そして、中二階から降りていったのだ。
全てがが思い過ごしならそれでいい、憂いが晴れるならそれが良い、騒動続きの王都で、これ以上何も起きてほしくないと思うからだ。
お読みいただき、ありがとうございます。




