72話 行き先
皆様、いつもありがとうございます。
私は人一倍、人の死を気にしてしまう。
敵味方、知人、他人、関係なく全てに対して感じる感覚だ。
目の前で人が死ぬなら心臓がぎゅっと何かに握られる感覚を感じたり、何か別の方法を行えば死ななかったのではないのか、など考えてしまう。
敵の心配をして知人に何か起きるなら、私は他の選択があったとしても守る為に倒すだろう。
それなのに、毎回覚悟をしてるはずなのに、誰かが死ぬたび感じるモヤモヤは自己嫌悪に近い嫌な感情だ。
それでも今は立ち止まるわけにはいかないと両手で頬を叩き考えを変えて動く事にした。
「ありがと、もう大丈夫だから…」
私は涙を拭い優しく抱きしめてくれたアルテアに顔を上げてそう言った。
「本当にもう平気?無茶しちゃダメだからね。立った状態で涙を流したまま何言っても反応しなかったから心配したんだよ」
少しだけ身長が高いアルテアは優しく言うと、何かあったら、アルテアお姉ちゃんに任せるんだよ。と笑顔で言うのだった。
前も言っていたけど、お姉ちゃんポジションを取りたいらしく、ことある事に言うが見た目以外の年齢を基準にするなら、アルテアは魔族なので高年齢のはずだ。
私はお姉ちゃんと呼びづらい事や複雑な気持ちを感じるので呼ばないのだが、なんだかんだ助けてもらってる事を含めて、一回だけ呼ぶ事にした。
「ありがとね、アルテアお姉ちゃん!」
満面の笑顔を作り言うのだが、そのせいで私は言葉にした後、もの凄い恥かしさを感じて顔を赤くしながら、やはりこれは違う、むしろ私がお姉ちゃんとして呼ばれるべきだと思った。
ラルフとサーシャは離れた位置で周囲を気にしている為殆ど聞こえてないが、私の声が聞こえたシャーリーは何故か悔しそうな表情を浮かべて、当の本人アルテアは口を軽く開けつつ動きを停止していた。
「ええっ!!アルテア様!!」
「とうとう発病しましたか、ご安心下さい、可愛いモノ数値が脳内で満タンになると思考を停止します。魔族領内でも度々発生してるのです。この間は可愛いと感じた対象を脳内で楽しんでいるらしいので、ご安心ください」
ため息混じりにラキアは今起きている現象を解説した。
私もそれを聞き、それなら安心…出来るわけ!!と一人芝居をしつつ、そもそもどんな思考してるのとか、楽しんでるとか気になりすぎてアルテアを揺り、戻ってきて下さい!と言うのだった。
「いやぁ、ごめんね。急にアニエスちゃんがあんな仕草をするんだから仕方ないよね?」
何故か私が悪いような事を言われて可愛いから起きた事を含め、複雑な気持ちになった。
そう言えばと、シャーリーの声が聞こえないと思うと嫌な予感がした。
よくわからない表情でシャーリーも自分の世界に入っているのだ。
「起きて!起きなさい!!シャーリー!!」
肩を掴む事は身長差で無理な為、手を掴み揺すりながらそう言うとアルテアが、アニエスちゃんは可愛いからボクには気持ちがわかるかな。と言うので、もう!皆嫌い!と叫びシャーリーの意識を戻すことに成功した。
「はぁはぁ…なんで、こんなに疲れないといけないの…もう!まだ諸々終わってないからね!」
プンプンとゲームならエフェクトを出すタイミングなのかもしれないと考えつつ言うと二人は、終わったらいいのですね!いいんだね!と各々言うのだった。
ふと気がつくとラルフとサーシャの二人が見当たらなかったのだ。
声に出して聞くとどうやら私が焦燥感を感じてる間に左右の通路を調べに行ったらしく、焦ってしまう。
まだ魔物が残っていたら、何か罠があったりしたら、そう思うと直ぐにでも追いかけたい所だったが、少し見るだけで異変があればすぐ戻る手筈とシャーリーは言うのだ。
何も起きないようにと思いながら、二人を信じて待つ事にしたが、私自身の感覚では、アルビネスの騒動後、時間は殆ど経ってないと思っていたが、変な感じに思えた。
「見てきたぜ!」
威勢がいいラルフの声が聞こえて、その後にサーシャの声も反対側から聞こえた。
二人は左右の通路を調べながら、アルビネスを倒した事で扉の先が戻っているのかを確認してきたのだ。
ラルフは、走り続けてたから疲れたぜ。と言いながら一息ついてからでいいかと言うのでシャーリーに、直ぐに報告をしなさい。と言われ喋り始めた。
「シャーリーは人使い本当に荒いよな、二階もざっと見てきたが、通路上に生きたやつは魔物も含めて居なかったな、鍵のかかってない扉は一通り開けたが、いつもと違う場所に繋がって直った感じも無かったぞ」
ラルフが報告を終えるとサーシャが、私も殆ど同じでしたね。と前置きをして話し始めた。
「通路の先には少数ですが、魔物の死骸がありました。私が見たことのない大型の動物でしたね。それと扉は開けてきましたが、おそらく違う場所に繋がってると思います。気になる事が1つあり、中庭の中心部が強い力で抉り取られたように穴が開いてた事です」
サーシャもラルフと同様に開く扉を開けてきたが、王城の内部を隅々まで把握はしてない為、おそらくと言ったのだ。
若干シャーリーが見に行けば良かったのではと思ったが、開けると少し違和感を感じたようで、正常に戻ってないのは間違いないと言う。
一番気になったのは魔物の死骸が存在した事で、ラルフに死骸の事を聞くと血の痕や兵士、騎士の亡骸はあったが、魔物のは無かったと答えた。
入り口付近も残ってなかったが、アルビネスが操った魔物は溶かされない限り存在していたので魔物を倒せなかったのか、死骸を綺麗に処理したかのどちらかだろう、その場合はサーシャの見た魔物が不自然に感じてしまう、昆虫種の魔物ならば不自然ではないが、基本的に魔物は多種族と相容れない為、魔物同士でも殺し合いを行う本能を持つからだ。
一旦魔物の事を考えから外して、中庭の穴を詳しく聞くと、大きくはないが、とても強い力か重たい物によってできたのではないかと答えた。
王城内は戦闘により荒れているが、大きな抉れは殆ど無い事からサーシャの見た動物種の魔物が付けたのだろうか、もしくは大きな戦闘により発生した可能性も考えられる。
そんな事を私が考えているとシャーリーが、少し宜しいですか?と私に耳打ちをした。
「アニエスお嬢様、もしかしてですが、できた穴ってローランが落ちた事で発生したのでは無いでしょうか、そもそも姿を見てませんし、王都に飛ばされたなら可能性もゼロでは無いかと思うのですが…」
何故耳打ちをと思ったが、こっそりと私に話した意味を理解した。
忘れたわけでは無いが、普通に着地したと考えていた。
詳細に思い出すとローランは風魔法が使えず、人間大砲で飛ばした場合、最終的には空から落ちる事になる。
もしかして私やっちゃったのではと思い恐る恐るサーシャに抉れた穴に人や血や物体が無かったかと聞くと、見た限りは土でしたので、痕跡の類は無かったです。と答えた。
ローラン自身も、死ぬ事は絶対ない、鎧が守ってくれる。と言ってたので、その言葉を信じる事にして、シャーリーには大丈夫だからと言うと、もう二度と人を飛ばさないで下さいね。と返された。
ローランの事を抜きにしても左右の通路は扉が正常に繋がってない事が分かった。
行き先を変える魔法が永続的に発動するとは思えない為、アルビネスが発生させた事ではなく、別の者もしくは魔法道具が存在する可能性が高いだろう、それを何とかしなければ先に進むのも困難で最悪の場合は壁を壊す事になる。
異界に似たような事ができる魔法、道具は無いかとアルテアに聞くが転移も最近ようやく実用化した所で逆に教えてほしいと言うほどだ。
「誘導されてるみたいで嫌だけど、玉座の間を調べる必要がありそうかな…」
どう進むか考えても扉が戻らなければ意味がない、二人は避難先と思われる国王の寝室に向かう道を確認したので、行き止まりの玉座の間は確認していない、アルビネスもおそらくその方角から出てきた事もあり、何かある可能性は高いだろう、私の頭の片隅で一番怪しい場所と思いつつ、胸に感じる騒めきから行く事を避けたかった場所でもある。
先に罠があるか、そもそも玉座の間も扉がある為、繋がる先が何処なのか調べれないかと考えると一つだけ思いつく事があった。
「あっ、行く前に調べれるかも!ウィンディーネ!出てきて!」
魔力保持で待機をさせていたウィンディーネに呼びかけると床に残る水溜りから現れる。
ウィンディーネの力を借りる事で裏技に近い広域探索が使えるのではと思い付いたのだ。
それを使い玉座の間や扉からではなく、壁を通過して様々な部屋を見通せるのではと話した。
水故の自由な方法、ウィンディーネ自身が発生させる水に同化する事で霧を作り王城全域に送る方法だ。
元々索敵魔法ではないので、ウィンディーネに可能か確認すると、理論的には可能ね。と答えたのだ。
これならば暗い場所限定のシェイドより効率的に調べる事ができそうと思ったが、ウィンディーネは、問題もあるわね。と言うのだ。
「主様と意識共有させた場合は霧が覆う範囲全ての情報が頭の中に入るのです。それは目で見たり、耳で聞いたり以上の負荷を体にかける事になるので、身体的な反動が発生しますね。意識共有しないと元の使い方の攪乱程度しか意味がないのです。それと敵対生物から意識共有中に攻撃を受ければ体内に直接ダメージを負うので、立場的にお勧めはできない荒技ですね」
現界すれば肉体を得れるのでウィンディーネ単体でも調べる事ができると言うのだが、魔力消費を考えれば簡単に使えないのだ。
シルフを現界させて戦った時、相当な魔力消費が発生した。
あの時はあの場で魔物を倒す目的だったので短期決戦として使ったが、今はこの後何があるか分からない、可能な限り魔力は温存したいと思った。
私は心配しないでと言いたかったが、私への精神負荷を抑えれるかな?と言うとウィンディーネは、存在するモノの情報を遮断するなら可能ですね。と返した。
モノの情報を詳しく聞くと者と物に分かれて敵味方問わず生きてる人間が部屋に何人いるか、何処にいるかを知ることができて、物は魔物、一般的な魔力装飾、人の死体の情報のようだ。
扉が正常に戻らない為、アルビネスのような明確な敵が残ってる可能性は高いが、数は多くないことを考えると使うべきだと思う。しかし、物が厄介に思える、情報が全て分かれば問題ないが、王城は人の死体が多く、更には有るか無いかだけでは魔力を帯びた装飾の数だけ情報として入ってくるからだ。
「迷ってても仕方がないかな、ウィンディーネ、それでお願いできるかな?」
決意してそう言うとシャーリーに、お待ち下さい。と言われてしまう。
「アニエスお嬢様、話を聞く限り危険です。それならば私が先に確認してきた方が何かあってもアニエスお嬢様が傷つく事は無いはずです」
シャーリーだけではなく、他の皆も少し隙間から見て確認する手やいっそ魔法で扉を壊す事を提案した。
「皆、ありがとね。でもね、私は、何か起きて、あの時違う選択をすれば良かったと後悔し続けるのは嫌なの、私の手が届く範囲で何かあったら、多分私が私で居られなくなるから、我儘なのは知ってるけど、私を信じてほしいの」
私の我儘だ。
私に何かあればシャーリーは後悔して自分を責めるだろう。
それは私も同じで、生まれはこの世界だが、元はゲームの世界の私だ。
他の人より、様々な優位がある分、可能な限り私は使える力で対処をしたいと思う。
魔法を扉に使うのはもちろん考えたが、空間を捻じ曲げる能力は扉に使われているはず、その対象が壊れたりした場合、どうなるか分からないので提案をしなかった。
少しだけ開ける行為、これも中に引っ張られたり、そもそも開けるだけで何か条件を満たす罠があるかもしれない、先程二人が扉を開けて回ったのも止めたいと思ったほどだ。
『皆さんの思う気持ちは私も同じです。大精霊の名において、主様に危機が迫れば私の方から解除します』
ウィンディーネが皆に向けてそう言ったのだ。
精霊は人と接する事もあるが、人とは違うので、会話をしてもそんな事を言うとは思わなかった。
便乗するわけではないが、私も皆にできる事をやりたいから信じてと伝える。
私だけではなく、ウィンディーネの言葉もあって渋々に思えたが承諾して、その代わり絶対に無茶しない事を約束させられた。
『主様、それでは今から行いますので、魔力の波長を常に繋げたままでお願いしますね』
ウィンディーネはそう言うと、再度体を水に変えた。
精霊を目視できない者は床に水が現れて広がるように見える。
これは魔力の塊である精霊体を水という存在する物に変換したからだ。
あらかじめ皆に伝えているのだが、広がる水に驚いていた。
「これが精霊の力なのですね。先程の戦闘でも急に水が広がったり、水が相手に飛んだりしてましたが、再度見ると本当に凄いことがわかりますね」
興奮気味にサーシャはそう言いながら水の上をぴちゃぴちゃと音を出しつつ歩いていた。
「見た目は水と変わらないけど、本質は違うから手で触れてみて、もっと驚くよ」
私がそう言うと皆が気になり水に手をつけた。
「水?水でいいですよね?水?」
「これは興味深いですね。見た目や触った感覚は水と変わりませんが、温度を感じず、手も濡れた感じがありませんね」
戸惑うサーシャは答えを探そうと頭の中で頑張っていたが、ラキアは冷静に起きてる現象を話すのだった。
「原理は言えないけど、魔力で作った水、正確には魔力が水のように可視化されてると言った方がいいかな?」
ウィンディーネ以外の水精霊も可能な自身を使った変換行動、これは戦闘の時に使った本当の水ではなく、ウィンディーネ自身と私の魔力が合わさり発生している。
濡れることがない水となり、これを霧にする事で広範囲を調べることができるのだ。
「ウィンディーネ、お願いね!」
私がそう言うと足首まであった水が蒸発して霧になるように周囲を包み込み、視界が悪くなるが、すぐに四方へ散った。
その間、余分な情報を入れないように両目を閉じて、魔力を常に繋げる事でウィンディーネの存在を感知し続ける。
目的は玉座の間だが、可能な限り城内の情報が欲しいので、広がる限りは情報を集めるつもりだ。
この場を起点として広がる霧から様々な情報が入ってきた。
負荷軽減で存在するモノを正確には感知できないが、これは人、魔物、物質を細かく感知ができないだけで、部屋の中にどれだけ何があるかは分かる為、生命反応が多いところに避難しているはずだ。
この場所を起点として発動しているが、奥にある玉座の間を避けて霧が拡散する。
霧を動かして再度中を見ようとするが、散らされてしまう。やはり何かあるのだろうか、まずは安全に確認できる所を見る事にした。
(ここは違う、こっちは死体…動いてる人が2人…動いてないけど生きてる人?)
本来はしっかり見えるはずが、目隠しして物を触り何かを当てるような状態に近く中々判断しにくいのだ。
最低限まで負荷を抑えても直接魔力を通じて流れる膨大な情報は私に痛みを感じさせる。
次から次へと情報が脳に送られるからだ。
ゆっくり索敵範囲を広げるとシャーリーの驚く声が聞こえた。
「アニエスお嬢様!鼻から血が出てます!もうやめて下さい!」
ズキズキと感じていた痛みは鼻血として体の外へ出ているらしく、驚いたシャーリーは私の心配をする。
王城は広く更に死体が残る今は情報を取り込みつつ範囲拡大を行うには負荷がかかり過ぎるのだ。
「うっ…せめて後少し…」
霧を広げようとするが広がらず範囲が狭まり始めた。
「な、何!!何起きてるの!」
『主様、魔法か何かで干渉を受けてますね。何とか無効化したいのですが、うまくできないですね』
ウィンディーネの報告を聞いた私は驚いてしまう。
現界してない状態だが、それでも精霊に干渉を行える存在がいるという事にだ。
無理矢理に範囲を狭まれて、その干渉を受ける事により力の行使が難しくなる。
「ウィンディーネ、何処から干渉受けてるか、分かるかな」
少しでも力を抜けば解除されてしまう。
一体何が干渉をどうやって行っているのか、一方的に見透かされたような行為に嫌な感じがした。
『主様、この先、この部屋の奥にある場所、そこからですね』
「やっぱり、あの場所からなのね。ウィンディーネ!何とか出来るかな!」
干渉を行うという事は相手と魔力で繋がるという事にもなる。
それならばと思いウィンディーネに手がないか聞いてみるが、魔力が少ないと言われてしまう。
最初に見れなかった玉座の間、やはり何か特別な所だろう、と考えていると霧が吸われるように玉座の間へと向かって行くのだ。
「な、何!!持っていかれる!!」
ぐぐーっと引っ張られる感覚、本来あり得ない強い干渉を感じた。
『危険です!解除します!!』
ウィンディーネはそういうと霧の解除を行った。
私は床に座り込み深呼吸を繰り返す、そんな私にシャーリーは近寄ると優しく鼻血を拭いてくれた。
「はぁはぁ、ありがと、後少しだったのに…」
「お疲れ様です。それで何かわかった事はありましたか?」
シャーリーにそう言われて、私はこの部屋から周囲に存在する部屋の状況を伝えつつ、扉は同じく普通に開いても通じない事も伝えた。
『主様、これ以上の存在に魔力が足りません。私の魔力残滓を一部奪われたようですね』
「それって、私が供給してる魔力じゃなくて、精霊としての魔力を奪ったって事だよね。引っ張られた時にされたのね…ウィンディーネ、ありがと、戻すね」
干渉を受けた時に引っ張られた感覚、あれはウィンディーネの魔力を取るつもりだったのだろう、そうなれば何が行ったか分からないが、危険な存在という事は間違いないと思う。
これ以上の召喚にはウィンディーネの維持にも影響する為、私は精霊郷に戻す事を伝えた。
『主様、無礼を承知で申しますが、魔力が相当少なくなってますので無茶はされない様にお願いしますね』
ウィンディーネは最後にそう言い残して、私は創世の杖を使い精霊郷に戻したのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
本来の霧とは異なりますが見た目は同じです。
季節の変わり目の体調管理はなかなか難しく、更新が遅れてしまい申し訳ございません。
諸事情で謁見の間から玉座の間に変更してます。
あまり話が進んでないような気もしてきましたが、王都や王城の出来事はそろそろ終わりに近づいてる?はずです。




