70話 広間の攻防Ⅱ
皆様、いつもありがとうございます。
私の声がしっかり届いたと思ったが、聞こえてないのか反応がないので、もう一度大きめの声で話しかけた。
「聞こえてる?そこの人、もうさっきの技は効かないから観念して質問に答えてよ!」
「クソガキ…うるせぇな…クソ!一体何をした!何十人と酸で溶かしたが、耐えたのはお前らぐらいだ…クソ!」
反応があったが、クソガキクソガキと段々鬱陶しく感じる。それよりも何十人と酸で溶かしたという言葉は、私の中にある気持ちを揺れ動かすのだった。
「ウィンディーネ、手足を水の槍で貫いて…」
善悪という言葉は見方によって変わる。それは分かるのだが、罪悪感を感じず人を殺す純粋悪は心の内側にある良心が許せなかった。
私の声は低く冷たく聞こえたのだろう、他の皆は何も言わず、ウィンディーネも私のお願いを聞き入れて男の足元にある水から出来た槍で両手両足を貫いた。
「ぐっ!ぐぁぁ!!何だこれ!!何が起きたんだ!!何をしたクソガキ!!」
水の槍は肉体を貫くと、水により血が止まる事なく出続ける。
男は苦痛なのか表情は歪み、私を睨みつけて、クソガキ!止めろ!と言い続けた。
「ウィンディーネ、槍を抜いて」
出血が止まらずこのままだと話を聞く前に倒れる恐れがある為、ウィンディーネにお願いをして槍を抜いた。
「もう一度聞くけど、貴方は何者?で何故ここにいるの?答えないならまた貫くよ」
どこの国の者か分かっているが、本人から聞く必要もあり、何故この場にいるのかも重要だ。
この男の言う事から魔物を使っていた事も間違いなく、そうなれば王城で起きた出来事を行った本人の可能性も高いのだ。
「クソッ!!俺が何者だろうが関係ねぇだろ!!」
何を言うのかと思っていると、大きな声を出し黒い液体が入った瓶を手に取り飲み干した。
止める間もなく飲み干した事で毒を使い自害とも思ったが、身体中から黒い靄と液体が出始めたのだ。
「アニエスお嬢様!!商業街で私が見た光景と同じです!!」
異常な現象にシャーリーは商業街での魔物化と同じだと言うのだ。
それを聞き嫌な予感が高まるので、話を聞けない事が悔しかったがウィンディーネに対処をお願いした。
ウィンディーネは周囲にある水を使い、先程の槍を大量に作ると投擲攻撃をする。
槍が体に当たる直前に黒い靄が広がり、まるで水を弾くように散らした。
完全に黒くなり、姿が見えなくなると靄は徐々に大きくなる。
「アニエスちゃん!魔力が周囲に満ち溢れて大きくなってる!」
魔力眼をすぐに使い辺りを見ると、男の靄から黒い魔力が漏れてウィンディーネの水面を黒く穢していた。
止めなければと声に出し、ウィンディーネに水の檻の発動をお願いして、私自身も魔法を使い攻撃を行った。
アルテア、ラキアも魔法を使い、サーシャはナイフを投げ攻撃を集中させた。
シャーリー、ラルフはあの状況に近寄るのは危険と感じ、近寄らせず、もしもの時に守ってもらう様に指示を出した。
「ヒヒッ!満ちる満ちるぜ!力が漲る!!ザドリーチェの研究も偶には役に立つなァ!!」
皆の複合攻撃を男は黒いオーラに近い魔力で弾くと、上機嫌そうな声でそう言ったのだ。
「嘘でしょ…その姿…」
黒いオーラが収まると、男の姿は異形の姿に変わっていた。
角に翼に長い爪、どう見ても悪魔に見えるのだ。
「ラキア!あいつが使ったのは何なの!!何で悪魔化してんの!!」
アルテアは怒りに満ちた眼差しで睨みつけ、ラキアに聞くがラキアも分からないようだ。
「あァ??ああそういう事か、お前らについてるそのツノ、飾りじゃなくて本物なんだな?気分がとても良い!折角だから死ぬ前に教えてやるか、俺はアルビネスだ!!ああ、悪魔ってつけ忘れちまったぜ!」
大きく手を動かして気分が良いから名前を名乗るが、最後に言う悪魔という言葉で周囲の空気が重たくなった。
悪魔は異界の種族、私も出会って戦ったことがあり、シャーリーの話から商業街に居たのも悪魔と思っている。
アルテアとラキアがこちら側に転移可能な時点で行き来はできるものと思っていたが、予想外の人間が悪魔に変わる事で黒い靄は魔物になると思っていた事が外れ、驚いてしまったのだ。
「悪魔だと…実在すると言うのか…」
サーシャは驚いているが無理もない、一応アルテア、ラキアの事を軽く話したが、信じきれてなく半信半疑だった所で人間が姿を変えた事の驚きは大きいだろう。
「アルビネスでいいよね!さっきザドリーチェって言ったけど、仲間って事でいいんだよね!」
完全に怒っているアルテアは、先ほど出た名前を再度言葉にした。
私は勿論知らない、シャーリー達も知らないがアルテアとラキアは知ってるようで強く聞き返した。
「ん?アァ?そういう事か、気になんのか?同じ悪魔なんだろ?」
「ボクは悪魔じゃない!!皆止めないでよ!!」
大きな声をアルテアは出しながらアルビネスに殴りかかった。
それも普通に殴るのではなく、右手に魔力を込めて黒い可視化する程濃い魔力が集まり、その力を自身の加速した威力を含めて殴りつけたのだ。
「ごはっ!!」
余裕を見せたアルビネスはアルテアの一撃で痛そうな声を発し、そのまま壁に強く打ちつけられた。
いつもの雰囲気は感じられず怒りに満ち溢れた攻撃、アルテアは可視化できる魔力を全身から放出しつつ、ラキア全力で叩け。と冷たく命令をした。
「私達を悪魔と呼ぶのは最大の屈辱、到底看過できません!闇の枷、ダークネスウェーブ!」
ラキアも怒りを言葉にして追撃を行う、壁に当たりそのまま倒れたアルビネスに闇属性の魔法、魔力を凝縮した波動を真横に飛ばして直撃すると、魔力鎖が枷のように手足を縛り付けて体を縛りつけた。
「ま、まって!殺す前に話を聞きたいの!」
短時間で起きた事に戸惑い、止める隙が無かったが、止めを刺す前に話を聞かなければならないと思った。
初めて会った威圧感をアルテアから感じながら、二人に私は少し待ってと何とか言えたのだ。
「あークソッ!痛えなァ!!悪魔になってんだぞ!何でこの俺がこんな目に会ってんだァ!?」
ラキアの改変された魔法でアルビネスは手足を拘束され、大きな声を出して足掻くが抜け出す事は出来ないようだ。
「アニエスちゃんの声で少しだけ収まった…かな…話聞くんだったね。でもコイツに言う事がある!ボク達は悪魔じゃない!魔人だ!一緒にするなよ中途半端な紛い物!!」
アルテアはそう言うと、ふぅ、スッキリしたかな?といつもの状態に戻った。
「私はまだ怒ってますが、年長者故、我慢いたしましょうかね。アニエス様に感謝して質問に答えるのですよ」
ウィンディーネが、もう良さそうね。と言いつつ他の皆を守る為に使った水の結界を解除する。
もっと早く気がつくべきだった、二人の異常な魔力が周囲を満たした事により、耐性が低い者は体の異常を引き起こしてしまう事だ。
ウィンディーネが皆を守るために自ら力の行使をした事で防ぐ事ができたのだった。
「はぁはぁ、収まったようですね。これほど強い魔力酔いは久しぶりに感じました。アニエスお嬢様、私があの者に質問しても良いですか?」
ウィンディーネの力でも完全に抑えるのは難しく、ある程度耐性があるシャーリーは深呼吸で体を整えると私にそう言ったのだ。
聞く内容はおそらく同じだろうと思い、頷く事にした。
「名前はどうでもいいですね…お前は軍事国家の位も高いはずだが、何故、使い捨てのような事をやっている?この場で何を目的とし、何を行ったか全て話してもらうぞ」
魔法剣を抜剣すると震え上がるような、とても低い声でシャーリーはアルビネスに問い詰めた。
「フハッ!馬鹿かァ?そんなの答える訳ないだろ?それにしてもクソッ!この鎖、マジで外れねぇなァ!!」
アルビネスはシャーリーを嘲笑うと、自身を縛る魔力鎖を外す為に手足を動かし続けた。
そんなアルビネスにシャーリーは無言で近寄り魔法剣を脚に突き刺した。
「ぐあっ!!痛えじゃねえかァ!!人だったら死ぬぞ!!」
「生きてて良かったとでも思ってるのか?簡単に死ねない体になったのか試してやってもいいぞ、私は気が長くない、質問に答えなければ、どうなるか分かったか?」
いつものシャーリーとは思えない、これが元々のシャーリーなのかと唾を飲み込み怖さを押し留めた。
「待て、待てよ!この国は捕まえた捕虜の扱いはどうなってんだよ!」
「貴様が何者か聞いてないものでな、次は無い、私の質問に早く答えろ」
自身が悪魔となり、強さを手にした事で驕り高ぶっていたが、アルテア、ラキアによって簡単に拘束され、シャーリーの魔法剣に傷つけられたアルビネスは恐怖心を感じているようだ。
それを見て、なんで悪魔なのに簡単な攻撃で傷つくの?と私は疑問を感じた。
悪魔は下級から上級まで位はあるが、共通するのは耐久性、防御力の高さとなる。
闇属性の元々ある他属性に対する優位や皮膚の硬さは竜種にも近く、一部の悪魔は自己再生なども持つほど高いはずだが、シャーリーの魔法剣は見た限り抵抗なく脚を貫いたのだ。
「フフフッ!実験せずに本番で使うのも悪くねぇよなァ…俺はできる…俺なら出来るッ!!」
追い詰められて喋る寸前に思えたアルビネスは、自身に言い聞かせるよう独り言を呟くと、驚く行動を起こしたのだ。
それは鎖で繋がれた手を腕ごと自ら切り離したのだ。
どうやった不明だが、ブチブチと千切れるような音が聞こえた気がした。
実際には聞こえないのだが、千切れる様を見るとそう感じたのだ。
シャーリーが刺した傷から出ている血液とは違い、紫色の液体が切断面から飛び散ると、付いた箇所は溶けるように煙が出た。
「クッソ!めちゃくちゃ痛えじゃねぇかよ!!」
「な、何してるの…正気なの!?」
「正気かって?今この状況だと神に願うしかねぇだろ!両腕は神への供物って所だな!」
狂ってる…悪魔になった事で精神汚染でもされてるのだろうか、自ら切断するなんて、身体を一部切り離す魔物はいるが、少し前まで人だった者が出来る事ではないはずだ。
「待って、切り離す魔物…供物…もしかして!シャーリー、その場から離れて!アルテア様!ラキア様!千切れた腕を魔法で焼いて!!」
私は自ら思考した事に引っかかりを感じて、まさかと思い皆に指示を出した。
私の言葉を聞いたシャーリーはサーシャのいる後方へ飛び退いて、わかったよ。と言うアルテアや頷くラキアは魔法を放つ。
ラルフは何かあればカバーに回ると盾を構えると、私自身もフレイムランスを使いアルビネス含めて攻撃を行った。
全ての魔法が直撃すると周辺を炎が包み込んだ。
「凄いです!これほどの魔法なら倒せましたね!」
サーシャは燃えさかる炎を見てそう言うが、私は手応えが少ないと感じた。
腕を媒体として魔法の発動を想定していた為、何か起きると予想していたからだ。
「危ねぇ、初見で気がつくとか、ありえねぇ。まぁ、少し遅かったなァ!」
アルビネスの声と共に炎がかき消され、焼けたはずの千切れた両腕はまるで生きてるように動き、直視するだけで嫌悪感を感じる物体がその場に存在していた。
私は嫌な予感を感じ、ウィンディーネに攻撃をお願いする事にした。
「ウィンディーネ、お願い!あの腕の動きを攻撃して止めて!」
ウィンディーネは周辺に存在する水を礫のように飛ばして攻撃を試みるが、右腕に全て防がれると、左腕がウィンディーネの礫を真似するように黒い礫を飛ばしたのだ。
応戦するようにウィンディーネも礫を作り飛ばすが、どうやら生成力は相手が上のようで相殺しきれず、直撃を受けそうになる所にラルフが大盾でカバーをした。
「くっ!早いな!それに威力が高い、大盾でこれだけの力だ、お前ら絶対に攻撃を受けるなよ!!」
ラルフは咄嗟の判断で、大盾を構え防ぎながらそう言った。
防いでいるが押される力が強いようで威力は高いようだ。
ウィンディーネに相手の攻撃を聞くと、ウィンディーネの精霊眼でもよく分からず、魔法以上、精霊魔法未満という曖昧な事だけ分かった。
「一体何なのあれ…絶対に腕じゃない…でも腕が魔物に変わるなんてあり得るの?」
使える時間は短く皆にも知恵を借りたいので、ラルフの大盾に守られながら、今起きている事を纏めた。
千切れた両腕は生き物のように動いている事。
体と繋がっていた箇所からは、紫色の体液を少量床に飛び散らせ、着いた場所から煙が出る事から毒もしくは酸の効果がある事。
ウィンディーネの礫を右腕は掌で礫を全て受け止め、返すように左の掌から黒い礫を放出させた事。
魔法より強いが精霊魔法未満、そうなれば上級魔法程度だが、恐るべきは生成速度で、水を利用するウィンディーネを上回る事。
皆の気がついた事を含めて纏めた結果を考慮するが、打開策は思いつかなかった。
「時間がないのに…もう大きな魔法を使う方が早い気がするよ…」
ラルフが凌いでいる攻撃、いつまで続くかわからないが、長引けばラルフも危なくなる。
大盾に守られながら、焦り、どうすればいいかを悩んでしまった。
お読みいただき、ありがとうございます。
遅れ気味ですが、失踪しませんので、今後とも宜しくお願いします。
ブクマが増えているので嬉しく思ってます。
本当にありがとうございます。




