58話 交渉と対話
皆様、いつもありがとうございます。
おかしい…短くするつもりが…
後日分けます。
魔王様の精神支配を受けそうになった所からです。
先程までの辺りを包んでいた息苦しい空気は無くなった。
魔王が動くと条件反射でビクッと体が動き、先程の事で恐れを感じる。
「んー、そう言えば、すっごく可愛い服に着替えたんだね、似合ってるよ」
私に近寄り、その後に元の位置に座り直した。
可愛い仕草を交えながら、魔王アルテアは笑顔を作ると私の服の事を話してきたのだ。
私は不意打ちに似合ってると言われた事で、頭の中の言葉が飛んでしまうと、それを察したのかラキアが話し始めた。
「魔王様、アニエス様が恥ずかしがってますので、それぐらいで止めましょう、それに私も似合ってると思いますよ、それではお話致しますが、宜しいでしょうか」
ラキアがそう言った後に魔王アルテアは手を叩き、詠唱する事なくこの部屋を何やら結界で包み込んだ。
「今、な、何をしたのですか?」
「やっぱり分かるんだ。安心して、漏れたら困る話があるかもしれないでしょ、声を外に漏らさない処置をしただけだからね」
今更だが、漏れると大変な会話もある為、納得できる対応と思った。会話だけ漏れなくなる結界は私も使いたいと思うほどだ。実際は詠唱せずに手を叩き発動する魔法、恐らく特定の動作で発動するように設定しているのだろう、やり方も分からないのと、聞いても教えてもらえないと思い今は考えない事にした。一瞬、私を痛めつけても声が漏れない様にしたのではと嫌な考えが頭をよぎる、先程受けた精神支配で勝手にそうなのではと思ってしまうのだ。
深呼吸をすると、先に聞かないとならない話を思い出して、勇気を振り絞り確認する事にした。
「禁種の話より先にご説明頂きたい事が数点あります。ご説明を頂けない場合は交渉に応じる事はできません」
ハッキリと私は言葉を言うと、魔王アルテアからプレッシャーを感じた。
今の言葉で機嫌を損ねたかもしれないが、確認しなければ、私は全力で対処する必要が出るかもしれない、出会い方も交友的なので、衝突する事は避けたいと思っていた。
「ほう、聞きたい事とは何か言うがいい」
先程と変わり、冷たく感じる言葉と共に魔王アルテアは辺りに魔力を垂れ流し強くプレッシャーを放っている。
シャーリーは近くにいる為、魔力に当てられ顔を歪めている、この邸には一般の人もいる為、やめさせなければと思い、先に伝える事にした。
「その前に魔力を抑えて下さい。この邸の中には一般の者も居ますので、強い魔力に当たると気分を悪くする可能性があります」
場合によっては、この発言で戦闘になる事も考えていたが、魔王アルテアは大きく口を開けて笑い出した。
「その物言い気に入ったよ。試すような真似をしたが許してほしいかな、何せ今この街にある禁種の亡骸は近寄るだけで、今周囲を満たした魔力に近い濃さを発生させ、それに加えてアニエスちゃんが味わった毒もある。耐えれないようなら危ないから無理にでも即回収と思ったんだ」
「はぁ、魔王様、気まぐれでそのような事はおやめ下さい、それと口調、直して下さい」
ラキアがため息を吐いていたが、それなら即止めて欲しとは思った。それにしても気まぐれに近い魔力の垂れ流しや先程の精神操作を遊び感覚で行う魔王、あくまで私達を試す目的とは言っているが、信じきれない、何か少しでも気分を害せば敵になる可能性は高く、その時は迷わずに私自ら動く覚悟が必要だ。
魔王はそれで聞きたい事は何?と軽く聞いてきたので、冷静に話をした。
「1つ目は、我々の敵かどうかです。そもそも悪魔と一度戦ってますし、この街を害したのも翼に爪を持ち言葉を話すとなると、悪魔が禁種を呼び出した事になります。その状態で、亡骸を渡す事は正直できません」
私の疑問に答えるようにラキアがお答えいたしますと言うと話し始めた。
「私達は世界の反対側であり、通常は到達できない異界の住人となります。アニエス様のお話に出ました悪魔は異界に住んでますが、魔族領の勢力ではなく、むしろ敵対してます。人種も悪人や善人がいるように私達は人種を害する事は致しません」
(ふむ、少しわかった気がする、この話が本当なら異界はゲームとは違い、全員人種の敵という事では無さそうだね)
「お答え頂き、ありがとうございます、2つ目ですが、目的は何でしょうか、魔王の称号は文字通り、魔族の頂点、そんな方が2人だけで亡骸回収だけに来るとは思えません。それに禁種が出現した事を知ってると言う事は、生み出す手段やこの街に出る事も分かっていたのではないでしょうか」
先程の話だけでは危害なしとは信じれない、疑問として出会った時に感じた、魔王がお供1人で来る事は考え難く、魔王を語っている別の者と最初思った程だ。放った魔力で、その疑問は無くなったが、何故魔物が出たと分かったかが解消できないのだ。
「その問いも私の方でお答え致します。私達がこの街に出たのは偶然となり、信じ難いかもしれませんが、魔族領には高密度の魔力を感じ取る仕組みがあるのです。それにより、表側に禁種の出現がわかり、その座標へと転移したという事になります。2人だけで来たのは、禁種が倒された事自体が想定外で、本来は戦闘で弱らせた後、魔族領に転移を使い送る予定だったのです。私達以外は毒の耐性がありませんので、部下を毒で失わない為となります」
先程の話に続き、ラキアが全て話すと、魔王もその通りと言いながら頷いていた。
高密度の魔力感知は仕組みもわかる。ゲームの世界と同じ物なら、街に設置された装置で、ボスモンスターの発生やリスポーン時間を確認する事ができるからだ。それにしても魔族はもっと残忍と思っていたけど、違うようだ。
しかし、今の話には疑問が発生する。
それはゲームでは調べるためにボスの名前を入力する必要がある。つまりは何が出るか知っていないと調べることができないはずなのだ。
勿論、ゲームから内容が変わっている事もある為、調べ方も入力なしで可能になっているかもしれないが、ここで深く聞くと何故知ってると言う話になる為、迷ったが、今は聞かない方が良さそうだと思ったのだ。
「この街に出た理由は分かるのでしょうか」
「それは私達も分からないのです。偶然にも禁種の濃い魔力反応が発生したので、対処を試みる為に転移しただけですので、アニエス様が寝ていた時にシャーリー様より、話を聞きましたが、悪魔が死を覚悟したので、呼び出したのではないかと思いました」
(嘘を言ってるね、私が毒で気を失う前に聞こえた黒い靄の話から、何か条件は知ってるはずなのに、ここまで隠すなら深く聞くのはやめた方が良さそうだね。それにマリーを圧倒できる悪魔が何故、自己犠牲を行う必要があるのかな、私ならその力で敵を倒し、街を蹂躙する方法を選ぶよ)
ラキアが私から一つお伺いしてもと聞いてきたので、質問を受ける事にした。
「ありがとうございます。それではお伺い致しますが、禁種の核をどうやって倒したのでしょうか、完全にバラバラで体液も殆ど残っていませんでした。体液もとなると、蒸発あるいは、認識できなくなるほど散らされた可能性もあり、そうなると広範囲の魔法で何かされたのではないかと思ってますが、如何でしょうか」
やはり私が倒した所を完全に見ている上での質問だ。私の振るった精霊剣は見えていなかったのか、あるいは見えていた上で魔法と言っているのかわからないが、正直にいうと面倒な事が起きそうだと直感で感じた。
「私が使える最大級の魔法ですので、詳細は明かせませんが、仰る通りの広範囲魔法です。これ以上はお答えできません」
「ありがとうございます。私は技術解析室というさまざまな事を研究する仕事をしてますので、気になってしまっただけです。無理な詮索は致しませんので、ご安心下さい」
考えてる事が読めない、魔王も含めて2人とも本当の事を話してない気がする。様々隠している事はあるが、今は敵対していないという事が分かったので、交渉の話を進める事にした。
「我々の目的は元より禁種の回収ですので、飛び散る体液は毒を含み周囲を侵食して蝕みます。侵食が進むと、その場所から異界草という草が生え始めて、周囲を異界と同じ空間に変えてしまうのです。そうなると魔物が発生する事になり、この世界に害をもたらします」
知らない情報、亡骸に毒を含む事は知っている。その亡骸から毒武器やアイテムを作れる事が知識にあるからだ。しかし、周囲を侵食して異界化させる事は知らなかった。ゲームが現実化した時に変わったのだろうか、この話が本当なら体液も含めて全て手放した方が安全に思えた。
「この国を心配しての交渉という事は分かりましたが、交渉と言うからにはこちら側に何かメリットはあるのでしょうか」
「メリットですか、対価という意味で宜しければ、異界には大量の鉱石や変質素材がありますので、望む分をお渡しするというのでは如何でしょうか」
鉱石や変異素材、とても魅力的な話だが、この場でわかりましたとは承諾できなかった。私にとって関係ない街でも同じ国に住む民が苦しむ事は何とかしたい、その為、この場での回答は控えて、何か良い条件を大人に話し合ってもらうつもりだ。
「そちらの要求はわかりましたが、他領とは言え、同じ国の街が半壊以上、死者多数、怪我人が多く出た現状で、原因となる亡骸をすぐに渡す事はできません。魔族領の方は関係ないので申し訳なく思うのですが、異界の事を知らない以上、今後も含めて話をする必要があると思います。その為、私は王都にて話し合いを提案致します」
普通なら先にその事を言ってくれとなる事もあるが、外交と同じ事なので、相手の要求や提案は先に知る必要があり、それを私がお父様に伝える必要がある。いきなり王都に行き、何も準備しない状態で話し合いはできないからだ。
悪魔と敵対している魔族領に悪魔が起こした被害を補償しろとは言わない、こちらは情報がなく、今後も同じ様な事があれば、更なる被害が出てしまうので、少しでも知識を増やす事で防ぎたい、私は深淵の落とし子の素材の使い道がないので、交渉材料として使えるのならお父様に使ってもらおうと思ったのだ。
少しでも街の被害を補填できればいいかな、と思う程度なので、重要なのは情報となる。多分、いや絶対に悪魔の目的や今回使った強力な魔物を呼び出す方法を知っている、それを話さない時点で、この場にて交渉に応じる気は元々無かった。
「お嬢様…ですが、最善の選択ですね…」
シャーリーが残念そうな表情で言うが、納得しているなら、そんな目で見つめるのは、やめてほしかった。
「私は構わないよ、人種と違って時は無限に等しいからね。それなら早くしないと禁種が街を蝕むからね、交渉が延ばされた事で発生した事は流石に責任取れないかな、ラキアも王都に行き話し合うって事でいいかな?」
「魔王様のご随意のままに」
敵意は感じなかったが、少しは言い合いになるかと思っていた、それがすんなりと王都に行く話でまとまるのは予想外だ。
やはり、善意以外で回収したい理由がありそうな気がする。
「アニエスお嬢様、私は王都に伝えてきます。問題は王都に連絡がつけば良いのですが、万が一があれば、連絡して向かうだけでも時間がかかるかもしれませんね」
シャーリーはそう言うと部屋から出ていった。
ローランも使っていた冒険者組合の機能を使うのだろう、シャーリーも言っていたが、王都でも同様の事が起きているなら、連絡は難しい、そうなれば直ぐにでも向かうつもりだ。
「魔王アルテア様、ラキア様、魔族領について興味があるのですが、お教えいただけませんか?」
「もうアニエスちゃん、私の事はアルテアお姉さんでしょ、ラキア少しなら話してもいい?」
「魔王様が望まれるなら私は構いません」
それで、それで、何知りたいの?とやけにテンションが上がる魔王アルテアに私の知らない情報を確認する事にした。
「えっと、率直な質問ですが、魔族領の方は種族的には悪魔に近いのですか?」
ずっと気になってたけど、聞くタイミングがなかった。ツノが生えてるし、翼も多分出せる。爪は普通だけど、おそらく伸ばせるのではないかと思う。
「悪魔と同系列にされるのは困りますので、私がお答え致します。魔族領に住む者は皆、魔人という種族ですね。元を辿れば悪魔になりますが、悪魔と人種の子供が魔族領を統治しております。悪魔のいい所として、強靭な肉体、無限に近い生命と人種のいい所として、考える知性、探究心や向上心を併せ持つ為、身近な期間で魔族領は発展いたしました。しかし、悪魔はそれを良しとはせず、魔族領に攻撃を仕掛けたり、魔物を送り込んだりしてくるのです。彼らからすると人が混ざってる事で劣化種と思うのでしょうね。先程お答えしたように悪魔とは同じ異界に住んでますが、拠点も離れていて、敵対しているとお考え下さい」
興味本位で気になり聞いた話が、結構壮大で正直驚いてしまった。
簡潔に纏めると、悪魔と人種の子供が魔人で、その魔人が魔族領を統治しているが、悪魔は魔人の存在が許せず、定期的に攻撃を仕掛けて敵対しているという事だった。
「貴重なお話ありがとうございました。最後に一つ、悪魔って異界の何処に住んでるのですか?」
「そうですね、普通には向かう事ができませんので、お答えいたしますが、異界に動く災厄とも言える忌龍が昔暴れ回っていたのです。勿論、悪魔はそれを良しとはせず、抵抗致しましたが、忌龍は神に等しい力を奮い悪魔は成す術もなく破れ配下に降りました。その戦いで異界の東部にある、深淵の森奥地に穴が開き、その穴の奥深くに居城を立てて忌龍と暮らしていると話を聞いてます。おっと、私とした事が、ここまで詳細にお話しする気はなかったのですが、つい喋ってしまいましたね。今聞いた話は、他言無用でお願いいたします」
(えっ…どういう事なの、話の中の忌龍は間違いなく黒龍の事だと思う。異界侵攻が昔の出来事で悪魔を従えている?…確かに最初出会った時に何故と思ったけど、既に黒龍の配下になっていたなんて…そもそも昔ってどのぐらい前なの…神様の話からてっきり最近の話かと思ってたよ…だとするとやっぱり色々確認するために聞く必要がありそうだね)
「封印の杖が消えなければ、魔界に忌龍も現れずに荒れることもなく平和だったのですがね…あの杖を使って…」
「ラキア!!それ以上喋るな!!」
「これは…口が滑りましたね。今のは聞かなかった事にして下さい」
(今、封印の杖って…私の知ってる物とは違うよね…だって神様の話だと、私とマリエルは存在してない世界のはず…何か引っかかる…仮に他の人がマリエルの杖を作り、黒龍を封印したとしたら?無理だ、だってあの杖、特別な物を混ぜているから簡単には作れないはず、仮に作れる人がいたなら?…違う…考えが違う…確認しなきゃ…私がこの世界で産まれるより先にマリエルが産まれていたら…確か神様に最初会った時の空間、過去現在未来って言ってたはず…あの時は概念として全ての時間軸と繋がってる事を言ってると思ったけど、過去がそのままの意味だとしたら…ダメだ私自身でも意味がわからなくなってきたよ)
神様の話を信じないわけではないが、食い違いが多すぎる、全てを話す必要もないと思うが、話してない事が多く、隠してるのではと思えてしまう、仮にマリエルが先に産まれて封印の杖、いや終焉の杖を作れたとする、それなら封印が解けるはずがない、ゲームでは封印を解いた者がいる。プレイヤー自身が黒龍に騙されて封印を解く流れで、その過程で私はプレイヤーと敵対して戦うのだが、簡単に解けないはずなのだ。ゲームじゃない為、プレイヤーは居ないし、そうなると封印が解けないはずだ。
この短期間でわかってきた事はこの2人がどうしても深淵の落とし子を回収したい理由で、素材は違うが終焉の杖を作ろうとしているのだろう、実際、魔力媒体として利用するなら十分使えると思う。
いや、おかしい…あの杖の作り方をどうやって知り得たの…聞きたい、聞くしかない、だけど体が警告してる。絶対に聞くなと、そう言われてる気がした。
「アニエスちゃん、顔色悪いよ、体の調子まだ良くないんじゃないかな」
声が聞こえてハッとすると声の主、魔王アルテアは私の目の前、少し動けば顔がくっつく程、近くに寄っていた。
「ご、ご心配ありがとうございます。私は大丈夫です。ラキア様のお話が気になり、考えていただけです。私は本を読む事が好きで、冒険譚も読みますので、その様な世界の出来事を聞くとワクワクしてしまうのです」
あ、焦って苦しい言い訳をしたが、途中から本の話が好きだよとすり替えたから、違和感はないだろうけど、慎重にならなければ、私の事や黒龍、杖の話は極力伏せた方が良さそうに思えたからだ。
「アニエス様は本をお読みになるのですね。魔王様も読書嫌いを直して、アニエス様を見習ってほしいくらいですよ」
「ラキア、それは卑怯だよ。そうだ、アニエスちゃん、今度会う時に魔族領の本をプレゼントするよ!」
(えっ、本当に!魔王様良い人!)
「アニエス様のご様子を見るに本を持ってきていたら亡骸と交換も可能でしたね」
特殊な出会いで、一回精神支配をされかけたけど、私はそんな事よりも今この時の喜びを感じていた。
自分の知らない知識や話を取り入れる本は知恵の結晶と言っても良い、古来より、魔法使いは探究心を常に持ち合わせる必要があり、未知の事は貪欲に知識を集めて糧にしろと私の住んでいた塔に書いてあり、その言葉が好きなのだ。
危険ではあるが、異界の住人、それも魔王と側近に出会えた事は運命かもしれない、探究の為には多少の危険は我慢して、聞き出せる限り話をしてもらおうかな…
先程まで感じていた変な気持ちはすっかり無くなり、話を聞く事に夢中となった。
「いやはや、アニエス様は上手に話を聞かれますね。ついつい、話し過ぎてしまいました。これまでの話は他言無用でお願いいたします」
ラキアがそういうと、渇いた笑い声が周囲を満たした。
声の主は魔王だが、先程までの声とは違い、声からも恐怖を感じた。
「いやぁ、ラキアが魔族領の機密をどんどん喋るからボク、焦っちゃったよ!やっぱり確認した方が安全かもね、君は何が本当は知りたいの?君の中を見せてもらうよ」
ゾクゾクと背筋が冷たくなる。
深く聞きすぎたのだろうか、魔王アルテアの両目が私に向けられると、まるでドラゴンに睨まれた小動物の様に動けなくなった。
最初に受けた精神支配とは比べ物にならない、私の中を無理矢理こじ開けて見られるように感じる。少しでも気を緩めると私の中に入られる。侮りすぎた、そして深く聞きすぎた。
一段と左右の眼が光ると、意識が吸い込まれる様に奥へと入った。
「口に出さなくていいからね、直接、精神の内側を見るから、反動あったらごめんね」
冷や汗が流れ、まるで時が止まっているのではと感じてしまうほど、全てがゆっくり進む様に思えた。
指一本すらも動かせない…息も辛うじてしか出来ず、心臓の鼓動が早くなり、このままでは先に殺されると焦った。
何で私、何も悪いことしてないのにこんな事されてるの…。
「あっ…あっ…あ…」
声がうまく出せない、怖い、何この感じ、ゾクゾクする恐怖、息が苦しい、誰か…怖い気持ちに押しつぶされる。
酷いよ、そんなにアニエスの事嫌いなの…。
「魔王様!止めて下さい!アニエス様が死んでしまいます!」
精神の内側を覗き見されている嫌悪感で、頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。魔王が記憶覗けば、私も同じ記憶を見ることとなるのだった。
「これやだ…あにえす、なにもわるいことしてないのに…なんで…」
何も悪い事してないのに何で虐めるのか分からず、強さに押しつぶされそうだった。それだけではなく、様々な事が私が私から離れていく様にも感じた。
「これ以上はボクも耐えれない…ラキア、アニエスちゃんは大丈夫?」
そう言うと、魔王アルテアは精神支配を止めると消耗が激しく肩で息を繰り返していた。
「魔王様、何を覗いたかわかりませんが、アニエス様は混乱してますね。ご自身がした事ですので、責任もって何とかして下さい」
「ボク、流石にここまでするつもりは無かったんだけど…少し精神を確認して、敵かどうかを調べるだけだったの…お願いだから、泣き止んでよ」
近寄る魔王に体が震えて我慢していた声も発しながら号泣してしまった。
「う…うぇぇぇん!!ごわぃ!あにえすいじめないでぇ!!」
「えっ、ちょ!ちょっと!アニエスちゃん!ごめんボクが悪かった!泣き止んで!!」
(感情が抑えれない、私の意思に反して勝手に涙が出て泣きづづけてしまう、止まらない、泣く度に悲しい気持ちが膨らみ続ける)
「ら、ラキア!!なんとかならないの!!ボクはこれ系が苦手なんだよ…」
「魔王様、そんな事ならあの様な事は絶対にしたらダメですよ。アニエス様はまだ幼いのですから、精神世界を覗く事は大きな負荷がかかります」
「うぇぇん!!じゃぁぁぁりぃぃぃ!ごわぃぃ!!だずげでぇぇ!!」
スタスタとラキアは近寄り、まるで赤子のように抱き上げてゆっくりと揺するように優しくあやし続けた。
(ラキアの手から優しい気持ちが伝わるよ、温かくて心が落ち着く、私も早く落ち着かないと、これじゃあまるで赤ちゃんだよ…)
「あ、あのラキア様、落ち着きましたので…降ろしていただけますか…」
1、2分で私は体の制御を取り戻し、落ち着いたことにより冷静さを取り戻した。
「えっと…アニエスちゃん…ボク…こんなつもりじゃなくて…ごめんなさい!!」
私が椅子に座り直すと、魔王アルテアは本来考えれない行動、私に向かって頭を下げたのだ。
王は例え間違っていても頭を下げる事は殆どなく、更に違う国の者に下げる事はまずあり得ない事なのだ。
「え、えっと、魔王アルテア様、頭をお上げて下さい、少々混乱してしまい、お恥ずかしい姿をお見せしてしまいました。私は気にしませんので、どうか今の出来事はお忘れ下さい」
恐らく年齢に精神が引っ張られた事で、体の制御が出来なくなったのだろう、体の震え、恐怖が溢れて止まらず、泣き崩れてしまった。
「正直に話すけど、ボク達の敵と繋がってる可能性を考えたんだよ、それを確認する為に精神支配をかけようとしたんだ。精神世界を見ようとした事で負荷がかかり、嫌な記憶や感覚を思い出させちゃった…結局、見えたのは真っ暗の闇に囚われた痛みの記憶だけだった。酷いことしたボクが言うのもだけど、あの痛みの記憶は普通じゃない、一体何を内側に抱えているの?」
強引な手段を取ったのも安全か確認する為らしく、2回目は強く行おうとした事で私の中にある恐怖、これは今まで感じた痛みが原因の記憶を読み取ったらしい、不思議と思ったのは私の中に大切な記憶が沢山あるはずなのに魔王アルテアは痛みの記憶しか見つけれなかったと言う事だ。見られなくて良かったのだが、何故なんだろうか、それに真っ暗の闇って寝た時に見る事が多い黒い空間と一緒なのだろうか、考えても分からなかった。
「魔王アルテア様、怪しいと思うのは当然かと思いますが、一言仰って欲しかったです。悪魔とは関わりがなく、どちらかと言うと倒したい敵です。信じる事ができない様なら、頑張って耐えますので、もう一度、私の精神を気がすむまで確認して下さい」
「もう見ないよ、それにボクも同じ痛みを感じたからあんな痛みは二度と感じたくない、だから信じるけど、あの痛みは何なの?」
魔王アルテアも同じ痛みを受けたらしいが、どの痛みか分からなかった。短い期間で沢山痛い事があったので、心当たりが多すぎるからだ。
「心当たりが多すぎるので、正直答えようがありません」
そう言うと2人は私に対して優しい眼差しで見つめ、何かあったら力になると言った。
扉が開くとシャーリーが戻り、何かを察したのか、お恥ずかしい姿を人前で見せてはなりませんと優しく言われた。
「シャーリー様、私達が悪いのです。魔王様が一時の迷いで少しだけ力が溢れてしまい、それに当てられたアニエス様が混乱して泣いてしまったのです」
「そうだったのですか、御二方も感じられたと思いますが、アニエスお嬢様は外見の年齢と内面の精神にズレが大きく、反動で偶に年齢以下の幼い精神になる事があり、その姿を見ると嬉しく思うのです」
(何言ってるの、途中まで感心しながら聞いてたのに最後の最後でいつものシャーリーに戻ったよ…ラキアと魔王が若干引き気味だから!これ以上は喋らないでほしいよ!)
「そ、そうでしたか、私もその気持ちは少し分かります。魔王様も幼少期から厳しく躾けられ、親にも頭を撫でられたり、褒められる事はなく、鍛錬をし続けていました。なので、私もその気持ちは、ほんの少しわかります」
ふむ、上に立つために厳しく躾けられたという事だろうか、私も少しわかるけど、それで人の接し方が威圧、恐怖で支配する事になったのかもしれない、利用するわけでは無いが、仲良くすれば良い関係が築けそうな気がした。
「ちょっと、ラキア!何言ってるの!それ魔族領の重大機密!!」
「これは失礼致したしました。これ以上アニエス様を不本意に脅かすのならもっと重大な秘密、朝起きた時の話を致しますので、十分に理解して下さいね」
何だろうか、私もその言葉に少し心当たりがある。私と同じ事なら人には知られたく無いはず、魔王アルテアもわざとじゃ無さそうだし、元より先ほど伝えた通り、私は気にしてなかった。
「ちょっと!!わかった、わかりました!私が悪いの!!アニエスちゃん、本当にごめんね…お詫びに話していた本、沢山持ってくるから許してね」
「えっと、魔王アルテア様もラキア様も気にしないで下さい、これからはもっと仲良く致しましょう」
本に釣られたわけではなく、私自身の恥ずかしさと仲を悪くしても得がない為、仲良くする事を選んだ。
私がこの世界のことを知るためには間違いなく、この2人、いや、魔族領と仲良くした方がいいと思う、何をするにしても私は情報を知らなすぎなので、知識ある者と仲良くする事は一番良い選択と思ったからだ。
「アニエスちゃんが見た目と反してる理由は少しわかったよ、ボクと同じで強さを保つために演じていたんだね、それも強い信念を持ちながら…ボクが言うのもなんだけど、たまには本当のアニエスちゃんに戻った方がいいかもしれないよ、何百年を生きるボクだから言える…じゃなきゃ心は簡単に壊れちゃうからね」
演じているなんて思った事はなかった。強くありたいとは思い続けていた。そうしなければ私に巻き込まれて人が死ぬかもしれないと思ったからだ。本当の私…私はアニエス、本当の私だけど、さっきの感情がコントロールできない私が本当の私なのだろうか、もしそうなら、今の私は何者なのだろうか、論理矛盾を起こしてしまいそうだ。
「ごめん…またボク、変なこと言っちゃったみたいだね…少しの時間しかアニエスちゃんを見てないけど、アニエスちゃんが思い続けてる限りは他の誰でも無い本当の自分だよ、だから安心して、涙はもう流さないで…本当にごめんね」
私、また泣いていた?訳が分からなくなり、心がぎゅっと押しつぶされる感じだったが、魔王アルテアは私に近寄ると体を引き寄せて優しく抱きしめた。
「こんな事、魔族領じゃあ誰もされた事ないからね…アニエスちゃんだけ特別だから、もうアニエスちゃんを勝手に覗かないから、ボクの事嫌わないで、仲良くしてね」
温かい、安らかな気持ちに体の奥がぽかぽかしてくるようだ。魔王アルテアは人と接し方がよく分からないのだろう、自分の知りたい事は精神支配で聞き出したり、力を誇示する事で今まで生きていたのだろう、この世界と裏の異界では暮らしも変わる、だからこその生きる手段という事かもしれない、今後仲良くできるなら、2回精神支配を受けた事も悪い事ではなく、お互い仲良くしたいと思った。
「えっと、もう私を虐めないなら、仲良くしたいです…」
狙ってではないが、うるうるした目で魔王アルテアにそう言ったら、顔を赤らめて恥ずかしそうに離れていった。
お読みいただき、ありがとうございます。
読みづらい箇所も多い中、皆様の温かいご支援に感謝してます。
いいね、ブクマに追加頂くと更に喜び叫んでますので、宜しければご検討下さい。
何か気になる事があれば、お気軽にコメントをお送りいただければと思います。
あれ…話し合い終わらせて先に進むはずが…
そもそも交渉してないですね。
今回も説明多くて申し訳ございません。
この話も後程分けると思います。
ゲームの中で黒龍の額に刺していたマリエルの杖は終焉の杖です。
今更ですが、この世界に年号は存在してません。
年、月日、時間は存在していて、現代と同じで大丈夫です。
アニエスは我を失うと一人称が名前となります。
精神支配は複数あり、行動を操ったり、精神世界を見たり、自白させたりと幅広い使い方ができますが、それぞれ別の魔法で同時に使えない為、かけ直します。詳しくは後々話が出ますので、こんな事があったなぐらいで、片隅に置いていただければと思います。
全てに言える事は、かけられる側に負担がもの凄くかかり、見る側は記憶の追体験を行います。
ゲームの中では、自白と記憶を見るのはNPCのみ対象で特定のクエスト以外は効果なしです。
プレイヤー同士は行動を操る事なら可能ですが、何でも操る事は出来なく、PV戦で攻撃を止めたり、動けなくする様な単純な事だけ可能です。
レベル差や能力値に差があると失敗します。
本心が読めぬ魔王に疲れているアニエスでした。
本人は気が付いてませんが、偶に精神が肉体に引っ張られて、邸の中でも幼児化する事があります。
いつかその話も投稿できればと思ってます。
話はほとんど終わりますので、次回こそ多分進展します!
ネタバレじゃないですが、今までも分岐ポイントが多くその分、何故か話を様々作ってしまってる為、精査して直してます。




