2人の戦い
いつもありがとうございます。
アニエスが森の奥に行った後のシャーリーとリディアの話です。
なので、視点も変わってます。
アニエスが森に入っていくのを見届けるシャーリー。
そして、アニエスがいない分も、頑張ろうと決意した。
「しかし、倒しても倒しても、どんどん出てきますね」
誰に聞かせるわけでもないが、シャーリーはそう呟いた。
その間も森からハイオークが襲ってくる。
手で持つ剣で一閃。
炎を含めた斬撃で燃え散るオークだった。
あれから、どれだけ経つか地面に横たわるハイオークの死体が増えていくだけだった。
次第に拠点の敵は少なくなり、シャーリーに注目が集まる。
「あんた、凄いな!」
「あんな簡単にハイオークを倒すなんて!」
兵士はシャーリーの事を知っているが、他の雇われ冒険者は知るはずもなく、メイドが戦う姿を見て声を漏らす。
「口を動かさずに、手を動かして下さい。左からハイオークに抜かれてます」
そうシャーリーは言いながら、ハイオークを斬り倒す。
そうしていると、魔法剣に付けた属性珠の魔力が切れたようで、纏った炎が消えてしまう。
「このタイミングで、魔力切れですか。支給品の珠は後2つ…温存しましょうか」
騎士団で支給されている属性珠は貴重な為、数は少ない。
先程はアニエスを安心させる為に使ったが、今後どうなるかわからない今、温存することにした。
拠点の防衛をしている兵士もかなり強く、領主ロビンが騎士団を辞める時に集まった猛者だ。
その為、騎士団で使われる戦術を使用する。
2人1組で盾役と攻撃役に分かれて、堅実に戦っていくやり方だ。
拠点内の掃討が終わったようで、シャーリーの元に兵士が集まる。
「お待たせしました。シャーリーさん、ここはお任せください」
「我々が一体も通さずに抑えますので、団長いえ、領主様の元に向かって下さい」
大楯を持つ男と、両手剣を軽々扱う兵士が、シャーリーにそう言った。
「敵の侵入を防ぎ、ここを守る事を頼みます」
いつもの口調ではないシャーリーが、2人へそう言った。
2人はお任せをと言いつつ、攻めてくるハイオークと交戦する。
この場を離れるシャーリーを見ながら、大楯持ちが呟いた。
「流石、戦鬼だな。腕が全く衰えてない。俺らも負けれねぇな!」
「お前ら!死ぬ気で防げ!拠点抜かれたら、街まで一直線だ!」
両手剣を持つ男が、大きな声でそう言うと他の兵士も剣を天に掲げて、大きな声が辺りに響く。
兵士の纏まりに圧倒された冒険者達も気持ちを引き締め、防衛を続けるのだった。
少々、シャーリーは焦っていた。
ロビンの強さを知ってるので安心はしているが、ここ最近、通常では考えれない魔物が多く出ているからだ。
そんな事を思っている時にシャーリーに声がかかる。
「シャーリーさん!ここに居たのですね。無事でよかった」
そう言いながら、リディアが走ってきた。
リディアはあの後、待機をしていたが、誰も来る気配がなく拠点内のハイオーク討伐を手伝っていたのだ。
魔法使いの役割で敵を他の人が押さえてる後ろから、攻撃をするを繰り返して手伝った。
その度に周りの者は、その歳でこんなに強いとはスゲェなとか、一緒に冒険者をやろうとか誘われたりもした。
本人はアニエスのおかげで、魔法をうまく扱えるようになったので、アニエスの為に危険だとしても、一緒に戦いたいと思っている。
その後も何度かハイオークと戦闘を繰り返して、シャーリーを発見したのだ。
シャーリーは、リディアを見て、怪我なく無事な事を安心した。
アニエスの友人には怪我などしてほしくなかったからだ。
「リディア様、ご無事で良かったです」
「アニエスちゃんは、どこですか?」
リディアは辺りを見てもアニエスがいない事に気が付きシャーリーに尋ねた。
「お嬢様は、先に向かいしました。私もここを任せたので、向かうつもりです」
シャーリーがそう言うと、リディアも私もいくと言うのだった。
「リディア様、私だと守りきれない事もあります。危険なので、こちらでお待ち下さい」
「私もアニエスちゃんの力になりたいです。待ってるだけじゃ嫌なんです」
リディアの言葉にシャーリーは何かを思い出したようで少し笑ってしまう。
「失礼しました。リディア様の事を笑ったのではなく、昔の自分の事を思い出してしまっただけです。わかりました、一緒に行きましょう」
「ありがとうございます!」
リディアは、シャーリーが言う昔の自分というのが気になったが、聞くのはやめた。
人には様々な秘密がある事を知っているからだ。
では急ぎましょう、とシャーリーが言ってリディアも頷き森の中へ走っていく。
森は大きな木々により薄暗くなっており、常に注意しないと不意打ちを受けてしまう危険な場所だ。
2人は気を付けつつ足を進める。
その時、危ない!とシャーリーが言ってリディアを押した。
先程、リディアがいた場所に矢が飛んできたのだ。
「危なかった…シャーリーさん、ありがとうございます」
「怪我がなくて良かったです。しかし、いつの間にやら、囲まれましたね」
先程まで気配もなかったはずが、弓を持つオークが辺りを囲んでいた。
「左右で分かれて倒したいのですが、任せても宜しいですか」
シャーリーがそうリディアに話した。
リディアは自分が信頼されてる事に、喜びを感じつつ承諾する。
2人はほぼ同時に地面を駆け、オークを倒す行動に移った。
リディアはオークと数回戦ったが、一体に魔法を2回は当てないと倒しきれなかった。
上手く体を動かして、狙いを付けさせないように木々で矢をかわす。
アニエスに教わった詠唱後に、魔法を溜めて放つ方法を木に隠れながら行う。
目の前で詠唱して攻撃するのでは、矢の的になるからだ。
得意のファイアボルトを使い、確実に1体ずつ倒していく。
3体ほど倒した時には、魔力をかなり使用して呼吸も荒くなっていた。
私にもっと力があれば、そう思いながら戦っていると死角から矢が飛んでくる。
ダメだ!と思った時、シャーリーが反対のオークを倒し終わり飛んでくる矢を斬り落とす。
「気を抜いてはいけません」
そう言いながら、オークに走り斬っていく。
「あ、ありがとうございます。シャーリーさんがいなかったら私は…」
矢で射抜かれかけた事で、リディアは恐怖を感じてしまった。
恐怖は人の行動や判断を鈍らせる。
一度感じた恐怖はなかなか払う事ができない。
足がすくみ魔法を打つ事ができず、シャーリーがオークを倒すのを待つだけだった。
「オークはこれで全員ですね。リディア様?」
シャーリーがそう言って振り向くと、リディアの異変に気がついた。
足を震わせて泣いていたのだ。
「シャーリーさん、私怖いです。もっと戦えると思ったけど、実際は全然弱くて、このままだと死ぬんじゃないかって思ったら、矢が刺さる瞬間が頭に浮かび、体が動かなくなり…」
そう言いながら言葉が続かなかった。
「リディア様…」
そうシャーリーは言うと、リディアを優しく抱きしめた。
リディアは抱きしめられた事で、少し安心して足の震えは止まった。
「リディア様、誰もが戦いでは怖さを感じます。しかし、それに飲まれたら、判断を鈍らせて死に繋がります。戦ってる最中は常に生き延びる事を考えないといけません。時には背を向けても、逃げてもいいのです」
優しくリディアにシャーリーは話す。
リディアは、それを聞き涙を流すが、恐怖からの物ではなく、シャーリーの優しさに対して流していた。
「シャーリーさん、ありがとうございます。私もう少し頑張ります」
「恐怖を知らないで戦う者は、早く死にます。怖さは判断を鈍らせますが、逆に強さにもなります。これからも怖さは忘れずに、でも負けないで下さい」
シャーリーは、リディアの事だけではなく、自らも含めてそう話した。
リディアは、今日感じた恐怖を忘れずに、成長する事を決意する。
「私のせいで、時間取っちゃいましたね。もう大丈夫です、先進みましょう」
「リディア様、貴方は十分にお強いですよ。間違いなくその歳の私よりも…」
シャーリーは、そう呟いたが、歩くリディアには聞こえてなかった。
2人は先を急ぎ、走っていると木々の隙間から天が光り、その後凄まじい音が聞こえるのを感じた。
天空から神が裁きを下すような稲光だった。
光を見て、音を聞く2人は、放心して足を止めていた。
天を見つつ、リディアから言葉が漏れる。
「あれは、アニエスちゃんの魔法だよね…」
「おそらくですが、規模が桁違いですね。それにあんな魔法、見たことありません」
2人は再度、アニエスの強さを痛感する。
とりあえず、見た事ない魔法や考えにくい現象は、全てアニエスが起こした事と認識するようになっていた。
短期間で見たアニエスの事が、それだけ異質だったのだ。
2人は我にかえると、魔法が発動したという事は、戦っているという事になるので、止めていた足を動かし走っていく。
アニエスの事は強いと2人は認識しているが、年相応の体の為、それが心配だった。
「リディア様、止まって下さい。何かいます」
「う、うん。私も鋭い何かを感じたよ」
そう言って2人は、背中を合わせ辺りを見回す。
何かいる、そう感じてはいるが、姿が見えない。
それは、精神を蝕んでいくのだ。
少しの異変も見逃さないように、ずっと神経を尖らせて辺りを見回した。
リディアは、何もない所から、魔力を感じた。
「そこにいます!火の精霊よ。熱き火で敵を燃やせ。ファイヤーボルト!」
そう言って先手を取る為、ファイアボルトを放つ。
何もないはずの所に、ファイアボルトはぶつかり隠れていた者が、姿を現した。
「何故!こんな所に!インビシブル•マーダーが!」
シャーリーは、冷静さをなくし焦りと動揺で声を大きく上げた。
リディアは、聞いた事がない名前でピンとこなかった。
「リディア様、あれはかなり危険な魔物です。姿を消して獲物を殺す事を楽しみ、同じ魔物ですら楽しむ為に殺す程、残忍な魔物です」
それを聞き、リディアはごくりと唾を飲む。
幸いにも先程、リディアの放ったファイアボルトがぶつかり、透明化が解除されている。
この好奇を逃すものかと、シャーリーは魔法剣を構え走る。
体勢が崩れている隙を見逃さず、剣が素早く振り下ろされた。
そのまま斬られる事はなく、魔物自身の武器となる爪で防ぎ、剣がぶつかる時のような音を出す。
「くっ、防がれたか!このまま、押し切る!」
一度行動を許せば、透明になって襲ってくる事は明白だ。
させない為に連続で剣で斬りつける。
かなり強い魔物で、ハイオークと比べ物にならないぐらいシャーリーの剣を受け流している。
リディアは、魔法詠唱しながら発動タイミングを見極めていた。
「シャーリーさん!左に避けて!ファイアボルト!」
リディアの言葉で、シャーリーは左に避けつつ斬ると言う行動をする。
魔物はシャーリーの斬撃を弾き対処するが、リディアの魔法は直撃した。
魔物は聞き取れない声を発しながら、後ろへよろめいた。
一瞬の隙を見逃さず、シャーリーの剣は魔物の首を刎ねる。
魔物はそのまま後ろに倒れて、動かなくなった。
「リディア様、助かりました。あのまま撃ち合っていたら体力の関係上、私は恐らく怪我もしくは死んでいたでしょう」
そう肩で息をしながら、シャーリーは話した。
それだけの強敵だったと言う事だ。
シャーリーは息を整えて、魔物の足を持ち引きずるように連れて行く。
「うわぁ、シャーリーさん、その魔物どうするのですか?」
直視できないような状態の為、リディアは目を伏せながら話した。
シャーリーが言うには、インビシブルマーダーの爪は武器に加工できるぐらい強くて、体内の魔石は上質な物が取れるらしい。
何より、通常では特定の場所を棲家にしてるこの魔物が現れた事を、調べないといけないそうだ。
なので調査の為に、運ぶ必要があるらしい。
首を刎ねられて、血は辺りを赤く染めていた。
首には興味がないらしく、貴族によっては家に飾る者はいるらしい。
見た目は、左右にツノを生やした人の様だった。
重さはそこまでない様で引きずり進む。
「もうすぐ森を抜けます」
そうシャーリーが言った時に再度、森の隙間から光が漏れていた。
2人は急ぎ走り抜ける。
森から出ると、広場のような所へ出た。
あたりに様々な方法で倒されたハイオークと冒険者、兵士がいる。
メイドの姿で、片手に首がない魔物を引きずり現れた事で注目を集めていた。
「おい、あんた何やってんだ」
1人の冒険者風の男にシャーリーは声をかけられる。
手に持つ魔物を離し、男に尋ねる。
「急用で参りました。この場の指揮官はどちらにいらっしゃいますか?」
「中央にいるが…その魔物はあんたが倒したのか?」
「その話は後で、先を急ぎますので、失礼致します。」
そう言ってシャーリーは足速に真ん中へと向かう。
その後をリディアが付いていく。
戦場だった地にメイドと子供が走る光景は中々珍しかった。
先へ行くのを止めようとする者がいたが、近くの兵士が肩に手を乗せそれを止め、話しかける。
「やめておけ、あれは戦鬼だぞ。俺らよりも強いから大丈夫だ」
「戦鬼って、あの敵を1人残らず皆殺しにして返り血で鎧を赤く染めているという、あの騎士団の戦鬼だよな…なんでそんな人がメイド服を…」
それを聞き他の者も後退り、声をかける事をやめるのだった。
殆どの者が知っている戦場を歩く、血塗れの戦鬼は差し止めをされたが、本に載った事もある程、有名だった。
騎士団の関係者はもちろん知ってるが、いつも騎士甲冑を纏っているので、顔を知ってる人は少ないのだ。
シャーリーは、領主ロビンを見つけると走っていく。
それを後ろから頑張って追いつこうとするリディアだった。
近寄るシャーリーにロビンは気がついた。
「シャーリー、こちらに来たと言う事は、拠点は大丈夫なのだな」
「はい、敵をほぼ倒しましたので、問題ありません。お嬢様はどちらにいらっしゃいますか。先にこちらへ向かったはずなのですが…」
手に持つインビシブル•マーダーをロビンの前に置いた。
街の近くに居ていい魔物ではない為、ロビンも珍しさを感じ魔物を見る。
「珍しい魔物だな、こんな所に出るなんて…。被害が出る前の討伐感謝する」
「後で調査をと死体を確保したのですが…ではなく、お嬢様はどちらに、ご無事ですか!」
「ああ、アニエスはな…寝てるよ」
そうロビンが言って指をさす。
指の先は治療院の者が囲んでいる場所を示した。
アニエスの身の安全を気にしていたシャーリーはそれを見た瞬間に走っていく。
リディアも頭を下げてシャーリーの後を追っていく。
「シャーリーは、いつの間にか守りたい事ができたのだな。少々寂しい気分にもなるがな」
そう言うと、シャーリーが走る姿をロビンは優しく見続けていた。
治療をしてる者の側に来るとシャーリーは話しかけた。
「お疲れ様です。アニエスお嬢様は大丈夫ですか」
「はい、問題もなく、疲れからの睡眠かと思います。怪我も擦り傷と少し口を切ってるぐらいですので、すぐに治ります」
それを聞き安堵するシャーリーとリディアだった。
リディアはアニエスの隣に膝をつけて座り、アニエスを優しく抱きしめた。
「アニエスちゃん。無茶しないでっていつも言ってるのに、でも本当に無事でよかったよ」
そう言いながら涙を流していた。
幾度も戦闘を行ったのとアニエスが無事だった事で、緊張が緩み涙が出てきてしまう。
それをシャーリーは見届けるとロビンの元へ向かい、これからの話をするのだった。
死傷者の確認と手当て、魔物の魔石や武器、防具を回収と同時に辺りを探索。
得られる物はあるが、失う物もあるのだ。
幸いにも街に被害は出なかったが、それは命懸けで守った者がいるからだ。
様々、やる事がある為、アニエスが寝ている間はシャーリーもメイドではなく、テキパキと指示を出す事にした。
日が沈み、長い1日が終わっていくのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
よければブクマなど頂けると転がって喜びます。
評価、いいね、ありがとうございます!
シャーリーは元々、強キャラです。
魔物は細かい設定などあるのですが、機会があれば載せたいと思います。
何か気になる事や、こうした方が良いのでは、とかここはダメという所など、あればコメント頂ければ幸いです。




