64 ガルデミラン帝国女フューラー現る!
「惑星破砕砲発射!」
「恒星に向けて、惑星破砕砲発射します!」
恒星の中心核を捕らえた惑星破砕砲の攻撃によって、恒星を形成していた核に直撃。
その影響で、莫大なエネルギーを持ったフレアが宇宙空間に飛び出す。
飛び出したフレアのエネルギー量は、惑星破砕砲のエネルギー総量を容易く超える。
フレアの熱に晒されたガルデミラン帝国艦隊80隻以上の船が、一瞬にして融解し、溶け消える。
「か、勝ったのか……」
「航海長、とっととワープして逃げようか」
「了解です、クレト艦長」
我々の銀河系にまで、支配の手を伸ばしていたガルデミラン帝国。
その一大拠点を破壊し、さらに展開していた艦隊までも撃破した、我々宇宙戦艦ダイワのクルー。
熾烈な戦いによりダイワの各部が損傷しているものの、それでもダイワは沈まない。
クレト艦長の命令により、ワープ空間へと逃げ出すと、直後惑星破砕砲を撃ち込んだ恒星が唸り声をあげるようにして、さらに宇宙空間へ膨大なエネルギーを放射して荒れ狂う。
さすがに恒星本体が破壊されるまではいかないだろう。
それでも今後数百年、あるいはそれ以上の期間に渡って、あの恒星は驚くべき熱量を宇宙空間に放出し続け、周囲を公転する星々を灼熱の熱波で炙り続けるだろう。
あの星系は、もはや立ち入ることのできない灼熱の地獄となった。
とはいえ、我々の銀河を侵略しようとしていたガルデミラン帝国の拠点を破壊し、我々は間違いなく勝利したのだ。
「いやー、今回の戦いは見ごたえ十分だったね。あまりに凄い戦いだったから、ポップコーンがなくなっちゃった」
「艦長、おかわりを持ってきますね」
「お願いねー、クリスタちゃーん」
巨大な戦果を上げつつも、クレト艦長はいつも通り。
「し、死ぬかと思った」
私は激戦の後とあって脱力し、副長席に深く腰を下ろす。
「手汗が止まらないぜ。フ、フハハ、武者震いってやつだな」
「何言ってやがる、ちびりかけたの間違いだろう」
「航海長、お前今なんて言った!」
「アアン、お前がちびりの臆病者だって言ったんだよ」
「てめえ、ぶっ飛ばしてやる」
ゴブリン戦闘主任とゴブリン航海長が 喧嘩を始めてしまう。
「すまんがブリッチで喧嘩はやめてくれ。……アイテッ、お、親父にもぶたれたことがないのに、ぶたれたー!」
2柱を止めようとしたグレー科学主任だったが、喧嘩の仲裁に入ったのが失敗。
逆にぶたれて涙目になっていた。
大きな目から、例の汁が垂れている。
「てめえら、喧嘩はよそでやれ!俺は艦の修理指示で忙しいんだ!」
役に立たなかったグレー科学主任と違い、ドワーフ技術主任は大声で怒鳴りながら、喧嘩腰になっていた2柱のゴブリンに拳骨。
そのままブリッチから、たたき出してしまった。
「ったくよう、艦の30%以上が真空状態とか、これでよく沈まないもんだと感心するぜ」
そうしてドワーフ技術主任は、再度修理のために、部下たちに指示を出していった。
「あと艦長。いつも言ってるが、ここでは飲食禁止だ」
「はーい。それじゃあカジノで遊んでくる―」
なんてやり取りをして、クレト艦長がブリッチを出て行こうとした。
……その時だった。
「艦長、未知の通信信号をキャッチしました。信号のデータを解析、何者かがこちらへの通信を求めています」
通信オペレーターからの報告が上がる。
「未知の通信?主だったら、機械なんて使わずに直接転移してくるだろうし……誰だろうね?」
「モニターに映像を出しますか?」
「そうしよっか」
深く考えもせず、クレト艦長は艦長席に戻って、どこからか取り出したイカのおつまみをかじり始めた。
どう見ても、通信相手とまともに話す態度でない。
さて、そうしてモニターに映し出されたのは、カールした金髪に青い瞳をした、ゴージャス系の美人。
ついでに瞳の色だけでなく、肌の色まで青かった。
「ゴブリンの亜種のブルーゴブリンみたいなものかな?ブルーヒューマンか?」
相手の姿を見て、私はそんなことを小声で口走る。
「やあ、ダイワの諸君、初めまして。私はガルデミラン帝国の最高権力者、総統である」
そんな私たちの前で、モニターに映し出された人物だが、なんとガルデミラン帝国のフューラー。
自らを帝国の最高権力者であると名乗った。
この通信に驚いて、私は思わず艦長席に視線を向ける。
「オッパイプルンプルーン」
しかしクレト艦長は相変わらずだった。
モニターに映し出されているガルデミラン帝国の女フューラーは、巨大な胸をしていた。
文字通り、オッパイプルンプルンと言うしかない、巨大さだ。
その声は通信相手の女フューラーにも聞こえていたようで、一瞬だけゴージャス美女の顔に不快感があらわになる。
だが、女フューラーはすぐに表情を正した。
「……この度君たちとの戦闘により、そちらの銀河系にある我が軍の一大拠点が壊滅させられてしまった。こちらにとっては侵攻の足掛かりを破壊され、大変腹の立つ事態である。だが、宇宙船1隻でそれだけの戦果を挙げたことに敬意を表しよう」
妙に気障ったらしく言いながら、女フューラーが嫣然と笑う。
んー、私の好みではないな。
人間基準だといいのだろうが、私には大賢者の塔の商業フロアにいる、夜のお店で働くサキュバスのお姉ちゃんの方が、遥かに好みだ。
まあ、私の個人的な感想はともかくとして。
「君たちの健闘をたたえて祝わせてもらおう、乾杯」
気障な女フューラーは、ワイングラスを掲げたかと思うと、優雅にそれを口に持って行こうとする。
とことん気障な人物だ。
だったけど……
「おいしそう―。僕にもちょうだいー」
クレト艦長が口走ると、モニターの中に突然手が現れ、それが女フューラーの手にしていたワイングラスを奪い取る。
「えっ、何、ひゃあっ……」
「グビグヒ。おおうっ、鼻に抜ける芳醇な香りー。でも、あんまり度数がないね。これじゃジュースと変わんないや」
「えっ、ちょっと、それ、私のワイン!」
おそらくだが、クレト艦長は次元系の魔法を用いて、モニターに映し出されている女フューラーの手から、ワイングラスをひったくってしまったのだろう。
ワイングラスを突然奪われ、先ほどまでの気障な態度から一転、完全に素の状態になっている女フューラーが、戸惑いの声を上げている。
「ねえねえ、このワインもっとない?鬼殺しってお酒があるんだけど、それと混ぜたら結構いける気がするんだよねぇー」
「い、いやー、今すぐ通信を切りなさい。衛兵、衛兵、今すぐ私の身の回りを固めよ!」
クレト艦長がおねだりしたけど、向こうは自分の身に何が起きたのかを理解したようで、泣き叫びながら大慌てで通信を切ってしまった。
そりゃそうだ、自分の手に持っていたワイングラスを、銀河規模の距離を無視してひったくられれば、そりゃ怖くなるよな。
「ありゃ、通信が切れちゃった」
「はい、向こうから切られてしまいました」
残念がるクレト艦長と、報告を上げる通信オペレーター。
「今度通信が来たら、酒瓶も取っとかないとねー」
呑気なことを言って、クレト艦長は手にするイカのおつまみを食べ始めた。
「艦長、食うならカジノにでも行ってから食ってろ」
「はーい」
最後にドワーフ技術主任といつものやり取りをして、クレト艦長はブリッチから出ていった。
「……なあ、俺たちがガルデミラン帝国の艦隊と戦わないで、クレト艦長が直接出向いて、女フューラーを生け捕りにした方がいいんじゃないか?人質にした方が、艦隊戦を続けるより遥かに安全な旅ができるぞ」
クレト艦長がいなくなった後、グレー科学主任がそんなことを言った。
「そうだけど、艦長の気分次第だな」
「だよな。高位魔神様って何考えてるか全然分からないからな。特にクレト艦長の頭は、高位魔神の中でも一番残念だから」
艦長がいなくなった後、ブリッチではそんな会話が交わされた。
あとがき
総統閣下の外見をどうするか、いろいろ考えました。
青い肌をした気障な金髪イケメンにするか、それともちょび髭の伍長閣下にするか。
その結果辿り着いた答えが、『オッパイプルンプルン』となりました。
(特に意味のない話だけど)




