40 宇宙人とのファーストコンタクト……ではない何か
全身銀色の肌に、髪の毛がないつるっばげの頭。
人間とは異なる大きな目をしていて、体の大きさは1メートルほど。
体に対して手足が異様に長く、筋肉がほとんどないせいで、痩せてガリガリの体型。
グレー型宇宙人だ。
俺の前世で知っている、グレー型宇宙人が目の前に3体いた。
「俺に触れるな、野蛮な原生生物どもめ」
「我々の様な進んだ文明人を捕らえてなんとする」
「お前ら全員、生物実験の材料にするぞ」
言葉が通じたのはいいものの、こちらを見下してきていた。
「こいつら態度悪いな」
文明人と自称するのならば、もっと穏便な態度をとってもらいたいものだ。
「ふむ、グレー型ですか。先代大賢者殿に標本を何度かもらったことがあるので、解剖しがいがないですな」
一方俺に同行してきた、ロウハメドゥー老師はそんなことを言う。
「もう驚くのにも疲れたが、親父はそんなものまで手に入れてたのかよ……」
ここ最近は、部下の魔神連中の相手で手を焼いているが、親父も親父で規格外なのは相変わらずだ。
「とりあえず、こうしていても仕方ないな。……えーっと、ハロー、こんにちは、ニイハオー、皆さん惑星ローラシアへようこそ」
「こいつ、なんで同じ言葉ばかり喋るんじゃ?」
「遅れた原生生物だからじゃね?」
「野蛮な民だから仕方がないだろう」
「……」
宇宙人相手ということで、つい複数の言語で挨拶した俺もいけなかっただろう。
しかし、こいつら態度悪すぎる。
「おおうっ、手前らうちのボスに舐めた口聞いとると、触手責めにして足腰立たんようにしてやるぞ!」
俺の傍にいる、宇宙人を捕まえてきた触手高位魔神が、ガラの悪い態度で叫ぶ。
今は人化していて人の姿をしているが、どこからどう見てもチンピラ風にしか見えない。
「や、止めてくれ、俺には女房と生まれたばかりの娘がいて……」
「じ、自宅のローンが30年残っているから、こんなところで責め殺さないで―」
「ヒ、ヒイイイッ、俺受けはダメなんだよ!」
脅し効果が抜群なのか、宇宙人たちが一斉に怯えだした。
「……」
普段なら、触手魔神の態度の悪さに怒るところだが、この宇宙人たち相手なら、強気に出たほうがいいのか?
「コホン。とりあえず質問させてもらっていいかな。君たち、なんで宇宙の果てから、ここに来たのかな?」
「なぜって、そんなの標本採集のために決まっとる」
「標本って、モンスターの体をキャトルミューティレーションしてた、あれの事か?」
「おお、それだそれ」
宇宙の彼方から、そんなことしにお越しとはご苦労なことだ。
「ふむ、ワシからも質問をよいですかな?」
そこで、ロウハメドゥー老師も話に入ってくる。
「聞いてやらんこともないが、あんた普通の生き物と少し様子が違うな」
「おや、お分かりになりますか。実は私、人化しているだけでしてな……」
宇宙人の1人が、ロウハメドゥー老師のことに気づいたようだ。
老師が人化を解くと、エルダーリッチとしての本来の姿である、骸骨の顔が浮き彫りになる。
「ゲッ、死体が動いてる」
「やっぱりこの星の生き物は、変なのが多いな」
「解剖は……骨だからやりようがないな」
老師の姿を見て、宇宙人たちがそれぞれ口にする。
というか、既に死者であるエルダーリッチを解剖しようと考える辺り、この宇宙人はヤバい。
「この見た目だと怖がられることが多いので、いつもは人間だった頃の姿に化けているわけです」
そう言い、老師は再び人化を用いて人間の姿に戻った。
人間だった頃よりエルダーリッチになってからの人生(?)の方が長いので、人化の術を使いこなすなど朝飯前のようだ。
「これは光学迷彩か?」
「いや、この世界独自の技術である魔法だろうな」
「非科学的だが、これはこれで興味深い。でも、俺たちの専門は生物解剖だからなー」
なんて感じで、宇宙人たちは人化の術に興味を抱いていた。
先ほどまでの原生生物や、遅れた種族扱いは撤回してもらえるのか?
「ところで、ワシからの質問をよいですかな」
「まあ、いいだろう」
「標本採集を行っていたとのことですが、興味があるので後学のためにも、研究成果を見せていただきたいのです。もし見せていただけるなら、ワシが秘蔵している、別世界の生物の標本をお見せしましょう」
「別世界?この星以外の生物ってことか?」
「いいえ、違います」
そこでニヤリと、老師が笑みを浮かべる。
話を横で聞いてて分かるが、老師だけでなく、このエイリアンたちも同類だな。
「異世界です。この世界とは完全に異なる、別宇宙に住む生物の標本です。あなた方の技術は、宇宙空間を移動する術に長けているようですが、異世界にまで転移する術はお持ちでないでしょう」
「異世界……だと」
「そうです。この宇宙中を探してもどこにも存在しない、まったく別の宇宙の生物です。解剖学に一角の興味があるならば、ワシの秘蔵の品を見てみたくはないですかな?」
「み、見たい!」
老師の同類。
つまりマッドサイエンティスト同士、互いに通じ合うようで、宇宙人たちが老師の提案を受け入れた。
よし、俺は常識人だからここまでだな。
変人の扱いは、同類に任せておいた方がいい。
変人には、種族や出身惑星の違いなんてものはないだろう。
「……老師、宇宙人たちのことは、任せていいな」
「はい、大変興味深い異星の生物標本を持っているそうなので、ワシとしても心躍るものがありますな」
宇宙人との交流でなく、単に同じ分野のマッド研究者の語らいに変わってしまった。
だが、いい。
宇宙人とのファーストコンタクトなんて、俺の柄ではない。
あとは老師に丸投げしてしまおう。
こういうのは、できる人間に任せてしまうのがいい。
それが上に立つ人間のやるべきことだからな。
それから数日、老師は宇宙人たちと楽しい語らいの時間を持ち、互いが持っている標本を見せ合って、観察し合ったという。
捕まえてきた宇宙人たちの船の内部には、この星以外の生物の標本もあったそうだ。
ただし、宇宙人たちが興味を示すのは、全身標本でなく臓器とのこと。
「俺達って科学技術が進み過ぎたせいで、人工的に作ったカロリバーしか食えない体なんだ。他の生き物は、生の肉とか、それを焼いて加工したものとか食ってんだろ。微生物とかバイ菌がたんまりついてるのに、そんなの食って体壊さないんだから、俺たちとは内蔵の作りが完全に違うよな」
グレー型宇宙人は、進み過ぎた科学の結果、体の見た目だけでなく、内臓まで恐ろしく退化しているとのこと。
そこで自分たちと、他の生物の臓器を比較研究することに、彼らは執心しているのだとか。
「ふむ。ですがアンデッドになると、その臓器すら必要なくなりますぞ。食べ物が必要なくなるので、ある意味あなた方より、さらに未来の姿と言えなくもないでしょう」
老師の方も、宇宙人に張り合ってかそんなことを言っていた。
「クッ、まさかこんな辺鄙な星で、俺たちよりさらに進んだ体の生き物に会うことになるとはな」
「ホホホ、どうせならあなた方もアンデッドになってみませんか?食事も睡眠も、休憩の必要すらなくなるので、研究に24時間邁進できますぞ」
「な、なんて素晴らしい体なんだ!」
奇人同士の会話なので、もはや意味不明だな。
まあ、そんな風に変人同士が楽し気に話し合い、やがて宇宙人たちは、銀色の円盤に乗って、自分たちの母星へ帰っていった。
世は全て事もなし。
めでたしめでたしだ。
「ボスよかったんですかい。奴ら、ボスの星を荒らした連中ですぜ」
「……」
せっかく何事もなく終わったのに、今回の事の発端である、宇宙人を捕まえた触手魔神が、そんなことを言ってきた。
だが、俺にどうしろというんだ。
宇宙人を捕まえて、老師みたいに解剖しようぜってノリは、俺にはないからな。
あとがき
……
この物語を書き始めてからというもの、書いてる作者もさっぱり意味不明な展開ばかりになっています。
ド、ドウシテコウナッター。




