39 宇宙人を捕まえた!
大賢者の塔の研究部門のトップに立つエルダーリッチの名を、ロウハメドゥーという。
千年以上生きている強力なアンデッドであり、初代大賢者である親父とはアンデッドになった後、知り合ったそうだ。
膨大な知識と年齢から、研究者の間では”老師”と呼ばれている。
もっとも親父もたいがいで、どうも700歳程度の年齢でなく、実は2千年くらい生きているようだ。
時間を見つけては親父の日記を読んでいるが、あまりにも量が膨大であることと、時に専門的過ぎる内容を記しているため、安易に読み進めていけるものでなかった。
俺が思っている以上に、親父は闇が深すぎる。
そんな親父の下で、研究部門のトップを務めていたのがロウハメドゥー老師だ。
まともな人間……いや既にアンデッドなので死人だが……とにかくそのような人物が、まともなはずがなかった。
この爺さん、神の肉体の制作にご執心で、大賢者の塔内で、様々な生物の体を使って生物実験を繰り返している。
「昔はかなりやんちゃだったので、いろいろ試しましたなー」
なんてさらりと言うが、現在でも人間を含めた生き物を培養ポッドにぶち込んで、いろいろと研究中だ。
老師が管理しているフロアでは、大量の培養ポッドが立ち並び、その中には様々な生物の体が浮かんでいる。
まともな形をとどめたものがあれば、皮を剥ぎ取られたもの、複数の生物を掛け合わせたキメラがあれば、ポッドの中で生かされ続けている生物もいる。
まあ、肝心の神の肉体に関しては、既に俺という成功例があるため、そこまでご執心でない様子。
自分の想像以上の研究成果を出すことができたので、昔ほど研究に執念を燃やせなくなってしまったそうだ。
そのため、現在では塔の研究者たちの、取りまとめ役としての仕事をメインにしている。
研究の最前線からは片足を洗い、半ば中間管理職になっていた。
しかしこの爺さんは、俺が生この世界に転生する前の段階で、俺の体に絶対何かしている。
卵子と精子のレベルで、何かいじっていても不思議でない。
怖い、怖すぎる。
さて、本日はそんなロウハメドゥー老師と話し合いをしている。
本日の俺は、2代目大賢者として職務中だ。
「アーヴィン様がお創りになられた、全記録保管庫ですが、あれは素晴らしい存在ですな。これまで塔内で行っていた様々な研究を、事前に予測演算することができるようになりました。しかもの精度が格段に高い。先代大賢者殿が、スパコンという代物を異世界より持ち帰ってこられたことがありますが、あれとは比べ物にならない精度ですな」
「そ、そうなのか」
俺がストレスで創ってしまった銀河に、勝手に生まれていた全記録保管庫だが、とてつもなく凄い性能をしているらしい。
これからはさん付けで、呼んだ方がいいかもしれない。
「現在ではアーヴィン様が創られた銀河全体に、神経回路網を拡大しているようで、演算能力がさらに向上しているそうですぞ。そのおかげでこの世界だけでなく、異世界における事象の演算もこなせるようになったとか」
「あいつ、さらにパワーアップしたのかよ」
最初は20万光年の広さに広がっている星雲生命体だったが、その後銀河系内に存在している星々を取り込んでいくことで、さらに体を大きくしたらしい。
今では銀河系全体を自分の体にし、そのすべてを使って、記録と演算処理機構にしているそうだ。
つまり、奴は銀河系規模のコンピュータへと進化した。
いや、コンピュータというより、銀河規模のインターネット網だな。
”神化”してしまったようなものだ。
今では大賢者の塔の研究データのすべてを記録し、研究データのさらに先の内容まで演算しているらしい。
「さすがは我々の研究成果である、アーヴィン様が創られた存在です。大変素晴らしい!」
「……」
全記録保管庫さんが褒められるのは嬉しいが、俺のことを研究成果物扱いしてくるのは勘弁してもらいたい。
ロウハメドゥー老師も、所詮マッドの世界で生きている人物に変わりがないということだ。
さて、そんな爺さんと話し合いをしていたが、そこに塔で働いている執事の1人がやってきた。
メフィストではない。
この塔にはメフィスト以外にも、執事が大量にいるし、今の奴は完全に女体化してしまい、執事ではなくなってしまった。
「仕事中に申し訳ございません、至急お耳に入れたい情報が」
「なんだ?」
俺と老師は、2人して執事を見る。
「アーヴィン様の部下の高位魔神様が、”宇宙人”を捕まえたとのことです」
「……はい?」
何を言ってるのか、分かんねぇ。
「面白そうですな。できれば解剖をしてみたい」
老師の方も、頭のぶっ飛んだ意見を出してくる。
とりあえず、この爺さんを先に何とかしておかないと。
「老師、やめてくれ。解剖なんてして、もし宇宙人と戦争になったらどうするつもりだ」
「神であるアーヴィン様ならば、宇宙人の軍隊程度、追い払うなり、滅ぼすなり簡単にできるでしょう」
「いや、そういう事でなく……」
人倫道徳がまるでありゃしない。
おまけに戦争になろうと、全くお構いなしという頭をしている。
こういう人間が科学や魔法技術の発達に貢献するのだろうが、もっと人間として大事なものを持ってほしい。
この塔ではまともな人間が貴重すぎるので、今更であるが。
「とにかく解剖はダメだ。まずは相手と話し合いをしよう。……言葉が通じればだけど」
俺、宇宙人語は分からないけど、大丈夫かな?
そう思いつつ、俺は老師とともに、部下が捕まえたという宇宙人の所へ向かった
さて、今回の宇宙人捕獲事件。
まずは俺が、宇宙人を捕獲した高位魔神に話を聞いたところ、事の発端は次のようになるらしい。
高位魔神が惑星軌道上でブラブラと暇つぶしをしていたところ、宇宙の彼方から円盤状の物体が飛んできたらしい。
暇な高位魔神は、”向こう側”から”こちらの世界”を観察していたので、宇宙人は高位魔神の存在に気づいてなかったそうだ。
高位魔神の方も、その時点では何もしていない。
それより高位魔神は100本の触手を使って、綾取りらしきことをしていた。
「げっ、ほどけなくなった!」
だがマズいことに、自分で絡めた触手を、ほどけなくなってパニック状態に。
宇宙の彼方から飛んできたものどころじゃなかった。
「うーむ、こ、こうか。違う、それともここの触手が原因か……ええい、面倒くせえ。全部食っちまえ」
なんて感じで、最終的にほどくのをあきらめて、全部自分で食うことで解決した。
……
宇宙人が関係ないな。
「……ま、まったく、何をやってるのか分からない」
話を聞いていて、俺は頭痛がしてきた。
思うのだが、魔神は魔力量が高くなるにつれて、脳みその容量がどんどん減っていってるのではないかと、勘ぐりたくなってしまう。
中位魔神たちはもっとまともなのに、どうして高位魔神たちは、どいつもこいつもこんな頭なんだ。
まあ、話に戻ろう。
高位魔神だが、自分の触手を食っても、すぐに生えてくるから問題ないらしい。
「俺の体、まあまあうめえな―」
なんて言いながら、高位魔神はおつまみ感覚で自分の触手を頬張りつつ、地上の様子を眺めるのに戻った。
高位魔神なので、衛星軌道上からでも地上の様子をつぶさに見て取れる。
神様視点で、地上の様子を自分の体片手に眺めたそうだ。
その時、見つけてしまった。
宇宙の果てからやってきた円盤が、地上にいるモンスターを、円盤の中に連れ去る光景を。
「ううんっ、あいつ何しとるんじゃ?」
高位魔神が不審がっていると、ほどなくして、円盤の中から胴体部分が切除された、モンスターの死骸が出てきたらしい。
ここまで話を聞いて、俺は頭を抱えた。
「キャトルミューティレーションだ。異世界にまで来て、宇宙人がキャトルミューティレーションをしてるのかよ。地球だけじゃなかったんだな」
ある意味、世界を超えて起きる共通の出来事に、感心したくなるくらいだ。
まあ、地球でキャトルミューティレーションの現場に遭遇したことがなければ、リア友でもそんな奴はいなかったが。
で、再び話に戻る。
「おんどりゃー、ボスの星で何さらしとるんじゃー、いてまうぞー」
宇宙からやってきて、俺が支配している星に手を出したことに激怒したらしい。
まるでヤクザの様な叫び声をあげ、高位魔神は触手を伸ばして、円盤を絡め取ってしまった。
しかし、まだ星を荒らしに来る奴らがいるかもしれない。
そこで宇宙人は殺さず、円盤ごと大賢者の塔へ運んできたそうだ。
以上が、高位魔神が宇宙人を捕まえた出来事のあらましだ。
突っ込みたい点が多すぎるが、うちの連中はいつもこうだから仕方ない。
俺は高位魔神から一連の話を聞いて、頭痛がした。
あと、胃薬も欲しい。
「ボス、今すぐ拷問にかけて、奴らの仲間の居場所を聞き出しちまいやしょう」
触手の高位魔神。
既に俺の前では人化をしているので、人間の姿になっているが、ヤクザみたいな見た目と態度だ。
「とりあえず、殺さなかったことは褒めておく」
「へへっ、ありがとうございやす」
俺の前で頭を下げる高位魔神。
宇宙人を殺していたら、もしかしたら宇宙戦争が勃発したかもしれない。
それを考えれば、殺してなくてセーフだ。
しかし、これからどうすればいいものか。
とりあえず、捕まえた宇宙人と話をしてみることにしよう。
「言葉が通じるといいけどな」
あとがき
作者(故障中)
「ファンタジーが仕事しない、ファンタジーが仕事しない。
ファンタジーって一体何だっけ!?
宇宙人と交信することが、ファンタジーだっけ!?」




