38 アカシックレコードさん、誕生!
宇宙に銀河、そして星。
人間という存在がちっぽけに思える広大無辺な世界において、それらを管理している者たちがいる。
大抵は神が宇宙を管理し、銀河を管理し、星を管理する。
ごくまれに神ではないが、神に匹敵する存在が、監理している場合もあるそうだ。
それは純粋な力であったり、時に高度な科学力を持った存在。
星や銀河、宇宙にしても、誰かが定期的にメンテナンスを行わなければ、やがてバランスを崩し、滅びの時へ向かっていく。
特に生命が存在している星であれば、その傾向がなおの事顕著になるそうだ。
そして神がいない星では、他の場所から追い出された素行の悪い神が居座り、勝手に支配してしまうことがあるという。
なぜ、そんな話をするかだが、以前俺がストレスが原因で創ってしまった銀河がある。
創造直後は小さな銀河だったが、その後成長して現在では約100万光年にまで拡大している。
俺の前世である、地球が存在した天の川銀河の大きさは、約10万光年と考えられていた。
桁数がひとつ間違ってないか?
「マズくないかこれ?しかも現在進行形で、まだ拡大し続けてるんだけど……」
大賢者の塔がある場所と、俺が作った銀河系では、どうも物理法則が異なるらしく、銀河系の方の時間の流れが凄く早い。
まだ作って1年経っていないのに、もう100万光年の大きさだ。
光でも100万年かけないと届かない距離が、1年足らずで出来上がっていた。
あまりにもマズすぎる。
俺では責任を負いきれない。
どうしよう。
見なかったことにするという手もあるが、放置して、変な神に居座られても困る。
そこで俺は、大賢者の塔のフロアが、魔力次第で無制限に拡大できることを思い出した。
この銀河系を大賢者の塔のフロアの一つへ、転移魔法で無理やり押し込めてしまうことにした。
「ゼ、ゼーゼー。さすがに魔力が枯渇する。銀河系1個は、重すぎだ」
巨大銀河系を転移できる俺もどうかしているが、魔力が枯渇したせいで3日間ほど寝込むことになってしまった。
ここまで魔力を消耗したのは、もしかすると生まれて初めてかもしれない。
ただ寝込んだ後に、俺の魔力量がさらに増加してしまった気がする。
「気のせいだと思いたい」
俺の力が銀河系1個より大きな気がするが、そんなバカなことがあるはずがない。
星を破壊するレベルすら、俺の前では大したことでない気がしてきたが、そんなバカなことがあるはずない。
バカなのは、クレトと高位魔神連中の頭の中だけで沢山だ。
俺は普通でノーマルなのだ。
そんなスーパーなヤサイ人でもできないことを、できるはずがない。
力が完全にギャグマンガの世界に突入しているわけがない。
しかし、大賢者の塔に移したはいいものの、銀河を管理しなければ、バランスを崩して、やがて消滅することになってしまう。
「もちろん、俺にこんなでかいものを管理できるはずがない」
扱いに困って、ローラシアの主神代理である、駄女神アルシェイラにも相談してみた。
「私は既に惑星一つでお腹いっぱいなので、無理です。って言うか、アーヴィン様ってどこまでぶっ飛んでるんですか!太くて逞し過ぎるにもほどがあります。ああ、どうしよう、私困っちゃう。そんな逞しい方に染められちゃって……」
途中から顔を赤くして、クネクネと踊りだしてしまった。
クネクネする際に、大型オッパイが揺れる。
眼福眼福。
だが、駄女神が相手ではダメだ。
ポンコツ女神に相談するだけ無駄だな。
ということで、メフィストに相談しよう。
元戦女神で、神としては駄女神の先輩だから、何かしら有望な情報を聞けるはずだ。
「銀河を作ったのは知ってましたが、そこまで大きくなってたんですか……もちろん、管理なんて私の手にも余ります。無理です!不可能です!」
未だに女体化したままのメフィストは、きれいな顔を引きつらせて、無理と連呼するだけだった。
普段は腹黒のくせして、肝心なところで役に立たない奴だ。
まあ、メフィストのあんな顔を見れたので、それはそれでよしとしておこう。
しかし、問題は何も片付いていない。
そしてこの時、傍にはクレトもいた。
「終焉の滅びを銀河へもたらさん。いざ、究極の破壊魔法を……ムギャッ」
「クレトには、間違っても相談しないから安心しろ」
こいつ、銀河系ひとつ吹き飛ばす気満々だな。
できるかどうかは知らないが、こいつなら本当にやりそうで怖い。
相談相手に困って、さらにイリアとクリスにも聞いてみた。
「大火力こそ正義」
「さすがにイリアでも、銀河系は壊せないよ」
イリアがトンチンカンなことを宣ったが、クリスに呆れられた。
「試してみないと分からない!」
「イリアじゃ、星を一つ焼くくらいで精一杯だよ。……それでも、僕からすれば異常な力だけど」
「「ブーブー」」
最後にクレトとイリアが一緒になって、不満そうに口を尖らせた。
ああ、イリアのクレト化が日増しに深刻になっていく。
どうして、バカと同レベルに、なって行ってしまうんだ……
お兄ちゃんは、悲しいよ。
「でも兄上、銀河系なんて本当にどうするんですか?」
「それを、どうにかしようと考えてるところだ。誰か都合のいい相手に、押し付けられないかな?」
「自分で管理する気はないんですね」
「当たり前だ。俺は既に大賢者の塔の奇人変人の相手で手一杯だ」
クリスが常識人で助かった。
他の連中よりも、格段にマシで、俺の相談に乗ってくれる。
そして話していて、名案が浮かんだ。
「……いっそ銀河系を管理するのを口実に、この塔の管理を誰かに放り投げたほうがいいか」
「絶対ダメです!兄上じゃないと、この塔は管理できません。星どころか、下手すれば宇宙が滅びちゃいます!」
「ええっ、さすがに宇宙は大げさだろう」
常識人の弟だけど、さすがに宇宙はありえない。
せいぜい、銀河系ひとつが関の山だ。
そう考えながら、俺は頭の中でメフィストにクレト、そして諸々の高位魔神たちのことを頭に思い浮かべる。
俺が成長するのに引っ張られるようにして、部下である魔神たちも、日々パワーアップしている。
中位魔神たちが以前は魔王クラスの存在だったのに、最近大魔王とか、もっと上のクラスにランクアップし始めてる気がする。
こいつらが、そのうち星を砕くレベルになるのも時間の問題だろう。
ううっ、胃が痛む。
だが、中位魔神など可愛いものだ。
高位魔神連中に至っては、今や星を壊すどころか、星を食ってるような化け物までいる。
恒星の熱にさらされて、表面が溶岩の塊になってる星を、平気で食ってるんだよ。
一度星を食う姿を、見学に行ったことがある。
「バクバク、熱々でうめえなー。大将も一杯どうだい?」
「人間サイズの俺が、お前みたいに星を食えるわけがないだろう」
「ガハハ、だったら巨大化すればいいじゃねえか」
「俺は、お前らとは違うから無理だぞ」
奴らの中では、俺がどう見えてるんだ?
俺はどこからどう見ても、普通の人間。
そんな俺が、星を食う化け物に変身できるはずがない。
巨大化だってできないぞ。
気が付けば巨大宇宙怪獣化してしまった部下の姿を見て、俺はため息を吐いた。
まあ、あの時いたのは宇宙空間だったので、空気は全くなかったけど。
さて、俺としては面倒な魔神どものトップとして、魔神王として君臨するよりも、さっさと引退して、銀河の管理をする方がマシに思えてしまう。
ガーデニング気分で手入れするには広すぎる場所だが、それでも今より格段にマシなはずだ。
「兄上、絶対にダメ。この塔からいなくならないでー」
「わ、分かったから少し落ち着け。落ち着けよ、クリス」
クリスに必死にしがみつかれてしまい、俺はそれ宥めなければならなくなった。
「俺がここからいなくなると、今以上にヤバくなるから、逃げはしないぞ。逃げれるなら逃げたいけど……」
後半部分は、クリスに聞かれないよう、小声にしておいた。
俺がいないと、魔神どもが完全にやりたい放題するようになるからな。
しかし、クリスは相談相手になってくれても、解決手段にまではたどり着けない。
俺も、銀河系なんてどうしたらいいのか全く分からないからな。
「はあっ、どうしよう」
その後俺は、大賢者の塔内部に移した銀河系の所に行って、1人悲しく、銀河系の姿を眺めた。
「偉大なる造物主にご挨拶を申し上げる」
黄昏ていた俺の脳内に、突然声がした。
魔法の一つ、念話によるものだとすぐに分かったが、周囲を見回しても、誰もいない。
「どこにいるんだ?」
「今、主の目の前にいます」
「?」
「目の前に広がる星雲です。全長約20万光年に広がっています」
「はい?」
星雲?
俺の目の前では、星々の塊が光り輝いている。
その輝きは、地上から星空を見上げた際に見える、星々の輝きとはけた違い。
闇が1割に対して、残り全てが白い星で埋め尽くされている。
俺が今いるのは銀河系中心部近くだ。
溢れる星の光によって、闇を圧倒する光が支配する世界だった。
「この星雲が、私にございます。偉大なる造物主よ」
「えっ、はい?お前って、体が星雲なの?」
「然り」
話のスケールが銀河規模で理解しにくい。
だが、目の前にある星の全てが、1つの生命体として体を作っているらしく、それが俺に話しかけてきたのだ。
俺の部下連中でも、惑星サイズになってる奴はいても、さすがにこの規模はいない。
いろんな意味で、ビックリだ。
「私は造物主であるあなた様によって創られたのち、この銀河のすべてを記録し続けてきました。あるゆる過去を記録し、現在を記録し、それらの情報をもとにして、未来の可能性を常に演算しています」
「うん、そうなの……」
何か言いたいようなので、黙って聞いておく。
大賢者の塔のマッド研究者たちは、自分の言いたいことを口々に言いまくるので、それを聞くのには慣れている。
奴らは、俺が理解しきれてなくても、話を聞いてくれる相手がいるという安心感から、ひたすら自分の意見をしゃべりまくる変人だ。
「私は銀河のすべてを記録し続け、今では全記録保管庫となりました。この銀河の誕生より、終焉を迎えるその日まで、あらゆることを記録し、そして未来を演算し続けていきましょう」
「あ、はい……」
何やら、壮大な生き物が生まれてしまったらしい。
自称、全記録保管庫さんだ。
誰だ、こんな意味不明な生物を創り出した奴は。
彼はうっかりで銀河を創ったが、こんな生き物まで創った覚えはないぞ。
「まー、難しい話はいいから、俺からひとつ提案があるんだけど」
「提案ですか、造物主よ?」
まあ、できてしまったものは仕方ない。
それに20万光年もある超巨大生物なので、この際ちょうどいい。
「あのさ、この銀河の管理で困ってたんだけど、今日からお前がしてくれない?」
「銀河の管理ですか!」
「そうそう、できるかな?」
面倒事は他人に投げてしまうに限る。
俺ではできないことだが、この超巨大銀河生物ならきっと可能なはずだ。
当人は超巨大銀河生物でなく、”星雲生命体”と名乗っているが、規模が大きすぎて、俺からすれば星雲も銀河も、どっちも同じものにしか思えない。
「私は全てを記録し、未来を演算し続ける存在。ゆえに管理を行うことは不可能」
「あ、やっぱりダメなの……」
期待したけど、やはり無理か。
20万光年の体があっても、銀河は管理しきれないのか……
俺としては、ガッカリだ。
「されど、造物主の命とあらば、創られたものとしてそれに従ってまいりましょう」
「えっ、本当」
「はい。とは言っても、私は記憶し未来を演算するだけの存在。故に星に命を生み出すことができなければ、星々の終焉を回避できるわけでもありません……」
……
全記録保管庫が難しいことを言い始めた。
頼む、壮大すぎる話を俺にしないでくれ。
俺みたいな、なんちゃって魔神王では、君の考えている領域には絶対にたどり着けないから。
「む、難しいことはいいから、とにかくお前に頼むよ」
「はは、承知いたしました。造物主よ」
よく分からないが、銀河系に勝手に生まれていた全記録保管庫に、俺は全て放り投げた。
「よし、これで銀河系の後始末ができた」
めでたしめでたしだ。
そういう事にして、俺は銀河規模の問題から目を逸らして、全て解決してしまったことにした。
……もし今後問題が起こったら、その時改めて考えよう。
俺に銀河の管理は、荷が勝ちすぎる。
あとがき
SFさんが、準備体操を始めました。




