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サリアラインとトーマ


「あっ、姫様」


「サリアライン様」


口々に騒ぎながら赤毛の子たちが集まってくる。赤毛と栗毛がグリフォスの民の特徴だ。


そんな中にたったひとり異端児がいることをサリアラインは知っていた。


ファシル・アルド・バードとグリフォスの民とのハーフであるトーマ・ホーク。


齢は自分とかわらないはずだ。徴兵したら彼も応じるだろうか?


自然と目が太陽に反射する金色の頭をさがす。


すると金髪頭は黒髪の少年を伴って彼女の前に現れると軽薄な笑いを浮かべた。


「よっ、お元気そうでなによりサリアライン王女様。早速徴兵に恩自らいらっしゃるとは恐悦至極にさんじえてー」


サリアラインは苦笑する。


「意味がわからないわよ。嫌みをいいたいことはわかるけど」


「嫌み?とんでもない。俺はまことしやかに現実を語っているだけだぜ」


トーマは肩をすくめせてみせた。


王女相手になんていう口調かと周囲の騎士たちは言いたいが言えぬ事情もあった。


「今度こそ徴兵だろ」


まっすぐにそらすことない視線にサリアラインは息を吐き出した。


この少年には嘘がつけないとおもった。


だがこんな大衆の面前では言えるわけがない。


「その子はだれ?」


必然的にアルトシオに視線がいく。


すらりとした華奢な身体はバランスよく筋力がほどこされて難民というには少し変だ。


「ああ。こいつはアルトシオ。俺の弟分だ。魔の森で育った変わり者だぜ」


「魔の森?」


「そっ。よろしくな」


何故かトーマがこたえる。


対するアルトシオはぽかんとして目の前の王女を見つめている。


難民キャンプに王女がいるなんて非常識だと思っているのかもしれない。


「こんにちは。アルトシオ」


名前を呼ばれてアルトシオは目をしばたいた。そして不思議そうに言った。


「あの・・・昔どこかで僕に会ったことないですか?」


「なんだよ。早速ナンパか?けどこの王女はだめだ。先約がある」


トーマが大げさに首をふってみせる。


が、しかしアルトシオを前にそんな言葉が通用するわけがない。


「ナンパ?」


聞き返す少年にトーマは自分の学習能力を恥じた。


そーだ。こいつはそういうやつだった。冗談以前の問題なのだ。


「べつにしらなくていいよ。そんな言葉は。だいたい魔の森で育ったお前がなんでサリアライン王女とつながりがあるんだよ」


「それもそうなんだけどー」


「けど?」


「なんでもない。初めまして王女様」


トーマの言うとうりだ。


妖精界でそだったアルトシオがサリアラインの事を知っているわけない。


けれどなぜかその雰囲気にやすらぎをおぼえたのだ。


「はじめまして。トーマとは知り合ってながいの?」


「いえ、ついさっき・・・・」


「難民キャンプの外で拾ったんだよ。ソータたちがこいつの白馬を食おうとしやがって」


くしやくしゃと赤髪の子供の頭をかき乱す。いつもトーマにくっついている子供たちのひとりだ。


「白馬を、ね」


妙に感慨深くサリアラインはつぶやいた。


実はサリアラインのいま乗馬している馬は愛馬ではなかった。愛馬は純血種の白馬だ。


そのために初めての難民キャンプ訪問は悲惨なものとなったのだ。


キャンプをただよう死臭に愛馬は半狂乱で駆け出して、トーマがいなければ自分の命があったかさえわからない。


ゆえに彼のサリアラインへの態度も見て見ぬふりをされていた。


その白馬をつれていたのならトーマが手をかすのも納得がいくし、子供たちに言わせればトーマほどのおひとよしはいないらしい。


まわりにいつも子供たちが子分のように取り囲んでる点からみても話は本当なのだろう。


そしてその矛先がアルトシオに変わったのだなとサリアラインは理解した。


魔の森の民を受け入れるにはファシル・アルド・バードの混血児はうってつけだ。


それにしてもと思う。


(なんてきれいな瞳をした子なのかしら)


さらさらのやわらかそうな黒髪に利発そうにそして内なるものをなにか秘めた瞳。


不安定だが底知れぬ瞳だ。


汚れを知らない瞳。


「あなたいくつ?」


「十五歳です」


心地よく響く声。けれどそのこたえはサリアラインを落胆させた。


成人しているなら徴兵せざるおえない。


魔の森で純粋培養されたこの少年に戦いなどできるのか。


ただむだ死にするだけではないだろうか。


「やっぱ徴兵か」


「えっ?」


「とぼけてもむだだぜ。ここにいる大人なら全員わかってらー。それにあんたは顔にですぎてる」


まったく不器用な王女様だとトーマは思う。


わさわざ心の傷をひらきに徴兵する場へと赴くなんて。放っておけばていいのに。


グリフォスの民がどうなろうとルナ・ムーンに影響があるわけじゃない。 


けれどまっすぐに心の優しさを打ち消してゆるぎない瞳を自分にむけるのだ。


この馬鹿王女は。


「そうね。あなたの言うとうり私はあなた達に『彼の地』との戦に同行してもらうためーいいえ。徴兵するためにやってきました」


その言葉に一瞬難民キャンプが静まりかえった。


サリアラインも言葉をうしないかけたそのとき、トーマが右手をあげた。


「はい、質問」


「な、なに?」


「俺達の命の値段は?」


命の値段。その言葉どおりだとそこにいる大人たちは思ったが勇気ある長老がトーマの頭を杖でこずいた。


「馬鹿もんが。一国の王女をあいてになんていう口の利き方だ。まあリタの息子ならばしょうがないのかの」


「意義あり。なんで私の息子ならなんだい。まったく聞き捨てならないことを平気で言うなんて。ああ、嫌だ。年なんかとるもんじゃないねー。ボケたのかい?アバイズ長老」


リタが人垣をかきわけてやって来るとアバイズに息子そっくりの笑顔をむけた。


アバイズは嘆息する。まったく、この親子は。


「それ目上の者にきく口をもたぬ」


「それは長老だからだよ。あたしだって王女様にきく口くらいもってるわ。悪いのは全部この馬鹿息子だ」


ぺしりっと少年の頭をはたいた。そして王女にむきなおり頭をさげる。


「本当にバカ息子が失礼をいたしまして申し訳ございません」


いいながらどーだとばかりに視線はアバイズに向かっている。


気が強いところは母親ゆずりのようだ。サリアラインは苦笑した。


「いいえ。リタ。トーマは命の恩人だもの。どんな話し方でもかまわないわ」


「だってさ」


肩をすぼめる息子の頭にげんこつをくれてやってからリタは言った。


「徴兵の件。私たちに不満はありません。唯一ルナ・ムーンだけが私たちを受け入れてくださった御恩があります。ここにいる成人男子は全員その覚悟を固めていました」


「・・・ありがとう。それでは用意して」


サリアラインの言葉とともに兵士たちが木枠でできた立て札を乾ききった大地につきたてた。


内容は徴兵に応じたものの家族に七日分のパンを与えるといったものだ。


ーたったこれだけ?


アルトシオはぼかんと口をあけて隣にいるトーマをみあげた。


悔しいことに拳ひとつ分トーマのほうが背が高い。


すると緑の大地色をした瞳が不敵に笑った。


「上等だぜ。よく七日分も用意してくれたな。感謝する。母ちゃん餓死すんじゃねーぞ。俺が帰って来るまで」


「するもんかい。まったくあたしをなんどとおもってるんだい。この小さな胃袋に七日分のパンなんて多すぎるくらいさ」


親子が自分に気をつかってくれているのがわかる。


サリアラインはやりきれない思いを隠すように息を吐き出した。


「徴兵は明朝より行います。希望者は名乗り出てください」


そう言い残すとサリアラインは供の兵士と供に荒野を去った。

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