襲撃
ヴァリシオンの乗るサラマンダの後ろを飛竜が雁のように列を組み飛んでいる。
『彼の地』最強の飛竜隊だ。
その中にはおよそ人間とかけはなれた異形の民の姿も数多く見受けられた。
罪を犯して森を追われた彼らを受け入れヴァリシオンは兵力を拡大した。
その中でも荒ぶる野獣ー豚の顔をもち像の足をもつ怪力戦士オークはオークたちだけで隊をつくれるほど数多い。
そのオークの後ろにいくのが若き騎士マシル・ピアス率いる人間兵たちだった。
『彼の地』創始より代々ヴァリシオンの側近を務めてきた一族ーピアス。
マシルはその若き当主だ。
マシルはオークを率いて颯爽と空を駆ける主君を惚れ惚れと見つめた。
ヴァリシオンが目覚めたのは約千五百年ぶりだという。
彼が目覚めるこの時代に生をうけたことにマシルは神に感謝した。
伝説や逸話で聞くよりもずっとヴァリシオンは幼い風貌をしていたけれど、
その冷静な判断力と決断力とそしてなにより人をぐいぐいひっぱっていく指導力は、
マシルに自分のたったひとつの命はヴァリシオンのためにあると心に誓わせるにたりるものだった。
(絶対に聖王の子なんかに負けない)
急に王子がルナ・ムーンを攻めることになった理由。
それは王子の宿命のライバルーアルトシオが生きていたから。
ならば現世こそその長い歴史に幕を閉じよう。
そのために自分はどんなことだってやる。
(あれ?)
決意した眼差しに白いものが空高く見える。
大量の蒸気は彼らがいま向かっている方向ールナ・ムーンからだ。
「火事のようだな」
ヴァリシオンがつまらなそうに呟く。
この王子は奇襲が嫌いだ。
たたでさえ弱い相手に奇襲をたてるのは馬鹿らしいのだと言う。
だとしたら今回は作戦中止かもしれない。
(少し様子をみるか)
竜のたずなに力をこめた時、雨に鎮火しつつあった大地が一面の炎につつまれた。
炎は瞬く間にアルトシオたちのまわりを囲み空気を焼き尽くす。
サリアラインとシルヴァギアそしてトーマとアルトシオはかろうじてヒズがはった結界のなかに護られる。
「なにが起こったの?」
咳き込みながらもサリアラインはシルヴァギアに問う。
いつも彼女のそばにいる老兵は煙で目をやられたらしく涙を必死で拭いながら言った。
「わかりません。ですがおそらくー」
「ヴァリシオンだっ!」
トーマが空を指さした。
燃えさかる炎により赤く染め上げられた空の上、巨大な竜サラマンダに乗る赤毛のー、
(あれがヴァリシオン?)
アルトシオは呆然と空を見上げる。
こんな大量の炎を一瞬にして起こした力。
この力でファシル・アルド・バードを滅ぼした。
(ーアイツがっ!)
その耳に声が、悲鳴がこだまする。
「ギャアア」
「熱い熱い」
炎に焼かれ逃げ惑う人々。
まるで十五年前のファシル・アルド・バードのように・・・。
「ヴァリシオン!」
としたその腕を深いしわを刻んだ手がつかみひきとめる。
「放してヒズっ!」
「待つのじゃ。いまのお主では勝てぬ。城にもどり剣をとるのじゃ」
「だけどいまからじゃ・・・・」
その間にも尊い命が失われていく。あいつのせいで!
「それしかヴァリシオンに勝つ手段はない」
そう言うと魔女は小さく呪文を唱える。刹那、不思議な光に彼らは包まれた。




