3-8
重苦しい沈黙が流れていた。
酒宴の方も闌となり、甲板には一時の静寂が訪れていた。
「……なあ、なんだって男船に乗ろうと思ったんだ?」
それは、率直な佐郷の疑問であった。
「さあ、何でだろうな。娑婆には未練もなかったし、自分の命を試してみたかったのかもな」
山峯は、命懸けの過酷さで知られる男船に自らの運命を委ねていた。
「そうだったのか……」
佐郷はそれ以上、かける言葉を見つける事ができず、辺りには再び静寂が訪れた。
「なあ、山峯」
やがて口火を切ったのは、またしても佐郷であった。
「俺と、兄弟の契りを交わさないか?」
突然の申し出に、山峯は困惑した。
「オイ、オレの話を聞いてたのか?二度と会うこともないんだぞ?」
「いいんだ」
佐郷は山峯の抗議を受け入れようとしなかった。
「ただ、そうしたいと思ったんだ」
そう言って踵を返した佐郷は、褌に仕舞ってあった作業道具である小刀を持ち出した。
「生憎と盃がねぇから、略式にはなるが……」
そう言って佐郷は、己の腕に小刀を押しあて、出血したのを確認すると、それを山峯に手渡した。
佐郷の意志を汲み取った山峯は、同じように小刀で腕を切った。
二人は、互いに差し出した腕を交わすように、互いの血を啜った。
「これで俺たちは兄弟だ」
今、ここに血を分けた義兄弟が誕生した。
それは、天涯孤独であった山峯に取って、初めて得た家族であった。




