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男船  作者: 秋山善律
31/35

3-4

「おう、オメー等。精が出るじゃねぇか」

 文字通り精を出していた二人に声をかけて来たのは、三島であった。

「シゲさん……交代かい?」

「ああ、仕掛けを終えてきたばかりさ。どれ、俺もちょっくら同伴させてもらおうかな」

 そう言うが早いか、素早く六尺褌を脱ぎ捨てた三島は、甲板の外、海へと向き直った。

「海に放つのか?」

 そう、怪訝そうに佐郷が聞いた。

「ああ、本来種飛ばしってモンは大漁を祈願して、漁師全員で海に飛ばすのが習わしだったんだ。今となっちゃやってる奴も少なくなってきたがな」

「そうだったのか……」

 種飛ばしの意外な起源であった。

 そう、男船のある地方では毎回、豊漁の祈願と、船員達の団結力を高める為、海にむかって種を飛ばす儀式が行われていた。

 時代の波に飲まれ、徐々にそうした風習は失われていたが、一種のゲン担ぎとして今でも行っている漁師は少なくない。

「なあ、知ってるか?」

 行為を終え、大海原に種を飛ばし終えた三島が二人に向き直る。

「種っつーのはよ、タンパク質とかいう成分の塊なんだ。コイツをマグロが食ってたおかげで、昔はとてつもねぇデケェマグロがいたらしい」

 そう、この地方で種飛ばしが盛んに行われていた時期は、プランクトンと共に漁師の精液を摂取した、大型のマグロが生息していたという。

「そん中でもよ、競争に勝ち残って大量の種を食ってバケモンみたいに成長したマグロがいるって話だ」

 山峯と佐郷は顔を見合わせた。とてもにわかに信じられる話ではなかったからだ。

「漁師の間では海の主と呼ばれている。コイツに沈められて帰って来れなかった漁船もあるらしい。まあ、実際に誰も見たやつはいねぇがな」

 それは、漁師仲間で語り継がれる、一種の夢物語であった。

 しかしながら、彼らは知る由もない。

 半世紀以上も昔、海の主と遭遇し、生還した男がいることを。

 そして、その男の真の目的こそ、海の主を討ち果すことであるということを。

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