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序章
嵐の吹き荒ぶ夜。
一筋の光も届くことはない、風と、雨と、荒波に塗りつぶされた洋上。
永遠に続くとも思われる、深い闇と暴雨の中を、漂う一隻の漁船があった。
カウボーイの行うロデオのように船体を弾ませ、自身の全長の倍はあろうかという高波を浴びているその漁船からは、男たちの荒々しい怒声が飛び交っている。
誰もが浅黒い肌に水滴を滴らせ、海面を覗き込むように作業を行っていた。
やがて、海面から姿を表す、黒光りした物体。
──クロマグロであった。
人体にも匹敵する体躯を誇るそれを、男達が数人がかりで引き上げる。
六尺褌を食い込ませた臀部は筋肉の緊張と連動して収縮し、作業の過酷さを物語っている。
怒号とも悲鳴とも似て非なる雄叫びが、暴風雨の中でこだましていた。
──日本のどこかにあるという街、ブルー・ラグーン。
マグロの遠洋漁業が基幹産業であるこの漁港には、高給を目当てに全国から命知らずの無法者が集ってくる。
そこには、古くから名のしれた一隻の漁船があった。
第七男魂丸。通称、男船。
この物語は、マグロに命を捧げた男達の、闘争と激情の記録である。




