プロローグ
「おい見ろよ、あいつまた泥団子作ってんぞ」
「しかも超ピカピカだし……職人かよ」
砂場の隅っこで、周囲の園児たちから絶妙な距離を置かれている男の子がいた。
彼の名前は伊集院 徹。5歳。
ひまわり組に所属する、どこからどう見ても平均的な幼稚園児――であるはずだった。
(……よし、水分量と砂の粒子のバランスは完璧だ。あとはこれをストッキングで磨けば……いや、5歳児がストッキング持ってたら事案だな)
結斗は心の中で深いため息をついた。
彼の脳内年齢は、30歳。
つい一週間前まで、終電間際の満員電車に揺られながら「あ〜、会社辞めてぇ。いっそ幼稚園児に戻りてぇ……」と虚無の目をしていた社畜システムエンジニアだった。
それがどういうわけか、朝起きたら自分の体が縮んでおり、気づけば25年前の幼稚園の砂場に逆戻りしていたのだ。
「とおるくーん! お片付けの時間ですよー!」
先生の明るい声が響く。周りの子供たちが「はーい!」と元気よく駆け出す中、結斗は泥団子をそっと棚に戻し、ズボンの砂をパンパンとはたいた。
(第二の人生が幼稚園からとか、イージーモードすぎるだろ。今度こそ、ストレスフリーで最高の人生を歩んでやる……!)
三十路の知識と精神力を持った最強の5歳児。
しかし彼はまだ知らなかった。
お昼寝タイムの睡魔には精神力など無力であること、そして、アンパンマンのマーチを聴くと無条件でテンションが上がってしまう「幼児の肉体の本能」からは逃れられないということを――。
こうして、中身アラサーの園児による、笑いとちょっとした不条理に満ちたドタバタな日々が幕を開けた。




