37話 子供と大人と小さな事件
遅くなってしまって申し訳ありません。
視点が四つもあります。
お願いします。
――食堂にて
「あ、エドウィンさんだ」
とある晴れた日の朝。朝食をとりながら新聞を読んでいると、ルクシオが朝食を持って俺に会釈していた。
ふと外を見るが、まだ薄ら暗がりで完全に日が昇っているわけではない。犬の散歩に丁度いい時間帯だから今頃山でも歩いていると思っていたが…こんな朝に会うなんて珍しい。
それよりもその、なんだ、肉の量がおかしくないか?今俺はルクシオだと思って見ているが、生憎奴の顔は肉に埋まって見えない。全て肉だ。清々しいほどに肉だ。新聞のせいかと畳んでみるがやはり彼の顔は見えない。俺はほぼ生の肉の恐ろしい量に一瞬息が詰まった。
「…? どうした?」
「どうしたもこうしたも…いや、おはようルクシオ」
俺は陛下達と違って姿を変えられるほど血が濃くないからわからないが、きっと狼の先祖返りはこういうものなのだろう。様々な民が住むこの国で己と他を比べて貶めるのは最も愚かな行為である。
うんうん、たくさん食べる子は可愛いから好きだ。特にルクシオは美味しそうに食べるから大好きだ。…ああ、気のせいではない。全く違わないぞ?
若干肉の山から視線を外しつつ魔法で席を引くと、ルクシオはありがとうございますと言って座る。そのど真ん中に置かれる絶壁の肉壁。俺の朝食は決して少ないはずがないのに少なく見える。昔からよく食べると思っていたが積み上げられたらその量がよくわかるな。
…致し方あるまい。久しぶりの息子の可愛い顔は食後に後回しだ。ぎしぎしと不安な音を立てる机をこっそり強化する。
「それにしてもルクシオ、お前野菜はどうしたんだ? 猫や犬が食う草は市場に売っているぞ」
「エドウィンさん。前もって言っておくが俺は普通の野菜を食べるからな?」
「ほう…?」
―――この前真面目くさった顔で野草を咀嚼していたのを見たぞ?
言葉にしては出さないが目で訴えるとルクシオが無表情のまますっと目を逸らす。セレスには隠しているようだが昔と変わらず野生動物のままのようだ。立ち姿にしろマナーにしろ完璧なのにつくづく残念なやつである。俺はどんなルクシオでも愛でる自信はあるがな。
「…おい、その目をやめろ。絶対抱き着くなよ。あんたはセレスティナと違って力が強すぎるんだ」
「セレス十人分と思えば大丈夫だ。俺はお前の頑丈さに賭けよう」
「大丈夫じゃない。賭けるな」
奴を拾ってきた当初と変わらない、馬鹿みたいな掛け合い。俺とルクシオは変わらないなと小さく笑った。
「…で、何か問題があったのか?」
まさに単刀直入。声は抑えられているものの、真っ直ぐ切り込んでくるルクシオに思わず苦笑する。流石は俺の息子、俺の行動がよく分かっている。
領地内なら兎も角、城内での俺は仕事人間だ。例えルクシオだろうがセレスだろうが、挨拶ぐらいじゃ椅子なんて寄越さない。そんな事は時間の無駄で、仕事の邪魔で、非生産的な行動だからだ。そんな俺が城内で、しかもまだ人通りは少ないとはいえ公共の場で引き止めるなんて…その手のものしかない。
しかしこれを言っていいものか。勿論ルクシオの白としての実力は認めている。この国の誰にも知られずに密偵をこなしているのも、他と遜色ないほど情報をかき集めてきてくれるのも知っている。ただ私情を挟みすぎているのが難点だ。あと血を好むのも。冷静に行動してくれれば使い勝手がいいのだが…。
いや、今回ばかりはルクシオの事を言えないな。俺は絶対に動けない。行けば惨殺事件が起こる自信がある。それほど抑えがたい怒りがこみ上げていた。その反面ルクシオはセレスでも派遣すれば強制停止する。
「そうだな、そうするか」
「?」
「なんでもない」
不思議そうに聞いてくる息子にからからと笑う。そこには高ぶった己の気持ちを押さえつける意味もあった。心を落ち着かせて、今一度冷静な判断を。
よく考えてみろ。ルクシオは俺の息子であるだけで管轄外だ。奴の上司はベルドランであって俺ではない。任せるならば赤の最適な人間を探すべきだ。
なんて極々端のほうにいる俺は主張したが……駄目だ。口から出るのは冷えきった声。あわよくば殺そうとする思考がその技能を持つ人間を捉えて離さない。俺は小さく小さく、それでいて確実にルクシオに伝わる音量で囁いた。
「『子猫の玩具と神の使い』」
「…え?」
「…『俺達の塒で遊んでいる』らしい」
「?!」
簡単な短い単語の羅列と裏腹にルクシオは息を呑む。散々行った彼ならこの意味がよくわかるはずだ。そして俺が苛つく理由も。言葉を失う彼に先ほどの苦笑とは違う、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「さあ詳しくは後ほど、俺の部屋で」
―――お前ら、この国で遊ぶなんて舐めた真似をしてくれるな?
***
――鍛錬場にて
今日は九分ぴったり。昨日よりかは少しだけ伸びた。
上機嫌に鼻歌を歌いながらメモを挟む。この時間は俺一人対白五十人の乱戦で、何分あいつらが生き残ったかを書き記したものだ。
日に日に伸びていく記録に彼らの成長を感じて満足感を。そして自分も更に頑張らなければならないと焦燥感を。なんとも贅沢で愉快な悩みだ。戦場に遠く及ばないがそれに等しい殺気。血が沸騰するような高揚感。皆が切磋琢磨するこの環境は俺にとって娯楽そのものだ。
屍のように動かない同胞達を踏み躙りながら返り血を拭う。やや、好きで踏んでるんじゃないぞ? 水を取りに行く進路上に呑気に寝ているから踏んでいるだけだ。退かす気はないかって? 何故勝った俺が退かさないといけないんだ。
収まり始めた興奮を何度も深呼吸をして整えて、更に冷たい水で喉を潤す。よっし、今日も良い運動をしたぞ―――
「―――ベルドランさん!! 何やってんですか死んでるじゃないですかっ!!!」
「お、嬢ちゃんだ。お疲れ様ー」
ばーん!と扉が開いたかと思えば嬢ちゃんが顔を真っ青にして飛び出してきた。綺麗な髪をぐしゃぐしゃにして、顔を歪めて肩で息をして、俺達を止めに急いで走ってきたのだとわかる。俺は不満な気持ちを心の奥底に押し込んで、爽やかに笑いながら手を振った。
彼女は毎度、とても残念なタイミングで飛び出してくれる。というのはいつも戦闘が終わって俺が落ち着いた頃にやって来るからだ。あともう少し早ければ戦闘に巻き込めるのに。彼女が入ってくれればもっと長く楽しめるのに。実に不満である。
はっきり調べていないからわからないが、俺の見立てでは彼女の魔力量は白魔術師十数人かそれ以上はあると考えている。白一人で緑百人分は働けるのでその十倍―――逸材中の逸材だ。その上ありえないと言われている治癒と破壊の両立まで出来る。
一度きちんと調べてみたいと思う。呪文を唱えなくとも発動出来る謎も、見た事も聞いた事も無い魔法も、なりふり構わず戦った場合の戦闘力も。彼女の父という例外があるから全員が、とは言わないが、正直姿を変えられる先祖返りの方が強い。体の頑丈さも然り、魔力量の多さも然り。火力だけなら誰にも負けないだろう。
それなのに彼女は容易に先祖返りに勝つ。それも戦略も無しに。いち武人なら一度は戦ってみたい相手だ。……やらないけどな。
元気いっぱいに「ああああ血まみれやばいこれ死ぬ!」やら、「ベルドランさん頭! がっつり踏んでますって!」やら呑気に騒いでいる嬢ちゃんをぼんやりと眺める。慌てて同胞達の肩を揺らす姿は年相応の少女だ。
こうやって見ていれば強そうには見えないんだよなぁ。すっごいちっこいし細っこいし。護らないといつの間にか死んでるかもって不安になる。神鳥祭りは兎も角、遠征に連れていくのは毎度ながら胃が痛くなる。一度やめにした方が……。
「…ま、いっか」
危険ならば護ればいい。弱い者を護るのは当たり前だから。それが我らが隠れ里の不文律だ。
「ああそうだ、嬢ちゃんに伝言があるんだった」
ふぉぉおおお!!!とおかしな気合を入れながら治癒している嬢ちゃんに一枚の封筒を見せる。それは俺の同僚でありこの子の父であるエドウィンが、とある事件について怨念を込めて書き綴ったもの。…を俺が添削しまくって書き直したもの。それなのに彼女はこれを見た瞬間、カッと目を見開いて凄い勢いで後ずさった。
「え?! ちょ、やめてくださいよ! 果たし状とか受け取りませんからね?!」
「失敬だなー。これは、ちゃんとした、普通の手紙だって。勘違いしているようだから言っておくけど、俺はあいつらと違ってまともだからな? か弱い女の子に喧嘩は売らないって」
「…これ女の人」
「尊い犠牲だったんだ」
真面目に答えると胡乱な目をされた。解せぬ。
「まあまあ気にすんなって」
「しますよ」
「それよか…はい、受け取ったな。なくすなよー、これエドウィンの愛情たっぷりレターだから。多分呪いみたいについてくるぞ」
「…燃やしていいですか」
「駄目だ。燃やされる」
「なにそれ怖い」
「激しく同意。わかっていると思うが部屋の中で読むことを推奨する」
俺が開けたら爆発したんだ、この手紙。だから爆発させるなら個室でしてほしい。大丈夫だ、嬢ちゃん魔法防御は得意だろ?部屋を守れよ?
半崩壊した陛下執務室を思い出して、口から力無い笑いが零れていく。エドウィンの冷静なのにキレかかった笑みとか。いつもふてぶてしい犬が尻尾を巻いて怯えていたとか。そんな状況で手渡される禍々しい手紙とか。
面倒事に首を突っ込むからいけなかったんだ。素直に何も見ずに手渡せばあんな事に…。ごめん、陛下。殿下にばれないように頑張れ。
「……どうしたんですか?」
「いろんな人に祈りを捧げてる」
この仕事から逃げられるなんて思って囮になった馬鹿息子と、父の怒りに捕まった犬と、多分これからあらぬ罪に裁かれる陛下と。
―――結局全ての尻拭いをさせられるこの少女に。
「黙祷」
「……?」
さあ、遠征の準備でもするか。俺は知らない。
***
――殿下執務室にて
ペンが滑る音と紙をめくる音。それ以外は何も聞こえない物静かなとある夕暮れで私――ルキアノスはじっと見てくる息子に気が付いた。
いつもなら気がつかない所だが、捌いても捌いても終わらない書類に嫌気が差してきた頃だ。我が国のためとはいえ、朝から晩までみっちりと働くのはキツいものがある。そんな集中力が切れている時に、普段あまり接しない息子が自分を凝視していたら不思議に思うだろう。
アリスがなんとも言えない顔で黙り込んでいるのに疑問を浮かべて、私は本人に問いかけた。
「どうしたんだい? わからない事でもあるのかい?」
「いえ…そうではないのですが、あの……」
アリスは何か言いたげに口を開閉させて、再び気難しそうに黙り込む。彼の瞳が斜め下に下がるのは私に何かしらの劣等感があるか、ただ純粋に言いたいことが言えないだけか。
今回は幸運な事に目に見えての後者だね。私はその顔を見てふむ、と顎に手を添えて考えるふりをした。
本当は考えなくともわかる。彼はきっと何故私が『殿下執務室で仕事をしているのか』と聞きたいのだろう。入ってきた時からずっとそんな目をしていたから間違っているはずがない。
だがその理由を聞いてこないのは『何か重大な理由がある』のだと私を過大評価しているから。
未だ自分の実力を認められない上に自信がまるっきり無いのだ、この王子は。相変わらず自分の考えを自己完結する息子に溜息しか出ない。だがここでため息を漏らしてしまえば、この馬鹿息子は変な勘違いをしかねない。
不満げに歪んでいるであろう口から下を隠して誤魔化して……って無駄に観察眼が鋭いからバレそうだねぇ。私は嫌な顔をする自分を切り落として、わかったふうにそうだね…と呟いた。
「気分だよ。深い意味は無い」
「気分、ですか…?」
「そう。私の行動に全て意味があると思っていたら間違いだよ」
だから気にしなくていい。薄く笑って冷めた紅茶に口をつけると、彼は納得がいかないような表情で頷いた。また、だ。納得がいかないのならもっと聞けばいいのに。思考を放棄した人形のような反応に顔を顰めてしまいそうになる。
結局君は自分を認めない。どれだけ努力しても、伴った実力を手に入れても、目を逸らす。どうしてだろうねぇ……やっぱり馬鹿なのかな。
まあ、もし君が聞いてきたとしても言葉は変わらないんだけどね。だってこの執務室で仕事をしている理由は…ほ、本当にただの気紛れだから。別に部屋が爆は……怒られそうだから言えない。
その上帝国第三王子直属の密偵がやってきたりだとか、法国の訳ありがやってきたりだとか、そんな面々がこの国に潜入しているだとか。けど彼に怒られるよりかは些細な問題である。大義名分はこの馬鹿息子が勝手に行動しそうだから監視する事。嘘じゃない、ただ九割は違う理由なだけだ。
「あ、あはは……。それよりもさ、折角私がいるのだから聞きたいことでもあるんじゃないかな?」
「聞きたいこと?」
うん、と頷くと彼は不思議そうに首を傾げる。そうだよ、聞きたいことがあるんじゃない? 例えばさ、
「この問題を凡ミスしていたり」
「…え?」
「ここが計算ミスだったり」
「え、え?」
「ここなんて的外れな答えになってるよ?」
「ほ、本当」
アリスの顔がさあ…と青くなっていく。どれだけ私に気を取られていたのさ。慌てて答えを消してやり直すのに思わずくすくす笑ってしまう。
教えてあげようか。だなんて言ったら益々劣等感が強くなるんだろうねぇ…。いや、この指摘自体がいけなかったかもしれない。けどね? それ以前の問題なんだけどさ。その問題、学生じゃなくて学者がする問題なんだけど。ふふ、面白いねぇ。君は何を目指しているのかなぁ。文官なんていらないんだけど。
いつも力が入った肩。常に瞳の奥から覗く怯え。
冷めた紅茶を飲み干して、終わらない書類を片付けて。うーん…と頭を抱えるアリスにゆるりと笑みを浮かべる。私が言えたことではないが、それでも私よりも酷い馬鹿息子に一言を。
「―――もっと信頼してあげなよ」
私も、赤白緑も、民達も。この国の誰よりも努力する君を蔑ろにする人間なんてどこにもいない。
***
――とある隠れ里の街にて
「―――……ぁ?!」
「―――…ぅ……!!」
外が暗くなって数刻。すっかり闇に包まれた異国の地に男達の喧騒が通り過ぎる。私は木箱が積み重なる裏路地で、そんなお馬鹿な彼らの様子を眺めた。
「ほんっとうに馬鹿なのかしら」
木箱の上に腰掛けてぶーらぶーらと足を揺らす。あの男達と鬼ごっこを始めて一日が経った。彼らは何時になったら私を捕まえられるんだろう。待ちすぎてお尻が痛くなってきたんだけどー。こんな可愛い女の子一人捕まえられないなんて、帝国の人間って残念なの?
口を尖らせて考えていたら曲がり角から男がやってきた。きょろきょろと見回してこちらに目を止める。にたにた笑っている私を見て、驚いたように動きを止める。やっと一人目じゃないの? クシシと丸めた手で上がりきった口角を隠した。
「そ、そんな所に…?!」
「あははっ、何その台詞! 初めからここにいたんだけどー?」
けたけた笑って軽く飛び降りて、固まる男の方に歩いていく。地面と足が同化してるんじゃない? そう思うぐらい彼の足は緊張で固まっていた。
あは、そりゃそうよね。今の私は『神子様』だもん。法国の主要人物やってるしー。私を殺せばウン千万貰えるんじゃない? がっぽりどっさりってね!
「覚悟しろ」
「ぷっ…ギャグすぎっ!」
全く緊張感のない私に男がちゃきっとドデカイ剣を構える。今日の日のために綺麗に研がれた剣はぴかぴかで、斬られたらさぞ痛いのだろうと想像出来る。
しかし私は変わらず笑う。だって当たるはずないもんね。なんてったって私の得物、飛び道具なんだもん。
懐から小石を取り出す。そこら辺に落ちていそうな―――実際下に落ちていた―――黒い小石。それを三つほど出して手で握る。男は私が懐からナイフでも取り出すのかと身構えたが、ただの小石と認識して更に構えを引き締めた。
あらー、やっぱりお馬鹿さんね。私が改造厨とわかっての行動かしら。これ、殺すより攫う方を目的にしてるみたい。何にせよ……馬鹿は馬鹿だ。
「―――っ!」
「きゃーこわぁーい! ……ってね!」
「っっ?!」
小石を男の顔に投げかけて全力で接近する。小石を投げた意味? ある訳ないじゃん。ただ目眩しになると思ってやっただけ。男は『何か』の発動を気にして先に小石を弾く。その一瞬の隙に私は男の懐に飛び込んだ。
―――バチンっ!
「~~~~ぐぅ!!!」
「やーい引っかかった引っかかったー!」
まるで『スタンガンを当てられた』かのような不自然な音と共に男が地に伏せる。お腹を抱えて苦しそうに呻く男は何が起こったのか理解出来ていない。鈍い動きで腹と手を見比べて、血が出ていない事実に愕然としている。前ではありえなくここでは予想通りの反応に自然と笑みを浮かんだ。
「ね、ね、どうだった? お腹バリバリきた? 実は君がお初なのよねー」
顔は満面の笑みで、目は凍てつくように冷たく、男を見下ろす。男の腹に強い電気ショックを与えた。それだけでこんなに無様な姿になるなんて愉快すぎる。
―――実は飛び道具なんて持ってないの。ごめーんね?
押さえる腹の上からぐりぐりっと捻じるように踏むと太い呻き声が聞こえる。ああ楽しい。もっともっと、苦しんでほしい。更に力を込めると女みたいな悲鳴が上がった。
お兄ちゃんは『殺しにかかってくる奴は甚振りまくって晒し者にしろ』って言ってた。
お姉ちゃんは『そんな事はしちゃ駄目だけど自己防衛はいい』って言ってた。
なら間を取って『自己防衛で甚振りまくって晒し者にして、あとは知らないふりをすればいい』。
とりあえず、これは第一号ってことで。全裸に剥いて表通りに御開帳でもしておこう。変態密偵って名前で捕まってくれればいいな。
期待に思わずにたぁ…と微笑むと男がびくりと身を震わす。化物を見るような目……気に食わない。めり込んだ足を退かして今度は頭を踏みつける。ゆっくり踏みつぶすように頭を圧迫すると、段々口が開いてきたのでそこに靴を突っ込んだ。
「ぐっ?!」
「わぁ、入っちゃった。ねぇねぇ今どんな気持ち? 狩られる対象に蹴られて突っ込まれて。楽しい? 若い女の子の靴舐めて喜んでる? 救いようもない変態さんねぇ?」
「っぐぅっ!!」
「あはは最っ高! 超楽しい! もっと顔見せてよ、醜く歪んだ顔をさ! …っもう、お兄もお姉もどこにいるの? こんなに楽しいのに勿体ないよぅ」
口の中を蹴るように力任せに押し込むと苦しそうに嘔吐く。やだ、お気に入りの靴なのに穢れた唾で汚れちゃった。気持ち悪い。
イラッとしたのでスイッチを押すと足元で電気が弾ける音がする。すると今までぴくぴくと抵抗していた男の身体が大きくびくりと震えて動かなくなった。白目を剥いて、うーん…永眠?
口から足を引いて男の服で液体を拭く。とても面白かった。出会い頭の反応もしょぼすぎる戦闘も新鮮で楽しい。この調子でバンバン狙ってきてほしいわ。スリル満点ストレス発散良いこと尽くめだね。
―――けど仕事もちゃんとしないと。
竜と鳥から始まった国、メルニア王国。超開放的なのに超秘密主義の『先祖返りの隠れ里』だ。王女を無くしたこの国はたった今、危険な道を歩もうとしている。
「だから今の内に」
ゆるりと笑って空を見上げる。まんまるい青い月を無性に撮りたくなった。
総合的に見て大人より子供の方が落ち着いている件について。敵が巣に潜り込んできたらテンションバグ上がりです。
そして自宅で会っても職場で会っても巻き込まれる時は巻き込まれる子供達に合掌。大人衆と子供達の何気無い会話でした。
この国の秘密を知っている法国の少女。彼女は何をするつもりなのか。
ありがとうございました。




