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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
城内動乱編
33/56

26話 計画と確認は大切だと知りました。

途中で視点が変わります。

お願いします。

「うーん…何処から探すべきか」


 只今城外上空付近。お日様さんさん青空爽やかな中、私は頭を抱えて蹲っていた。思わず飛び出してしまったが…どうやって探そうか。


「…とりあえず殿下は後回しにしよう。申し訳ないけどルクシオの方が大切だからなぁ。ヒロインは馬鹿火力持ちだもん放置しても大丈夫だよね?」


 なんて言ったってルークさんの子供だしね。もしかすると威圧だけで全員倒してるかもしれないし! ヒロインパワーで覚醒とかするかもしれないし!


 魔法も碌に使えない十歳そこそこの子供によくわからない理論で納得して放置。悪魔の所業にしか見えないがその時は本気でそう思ってたんです。助けに行くだけでもありがたいと思ってください。

 そもそも何故私が身内以外のトラブルに首を突っ込まなきゃならん。うちのクレイジーな家族だけで手一杯なのに他所のクレイジーさんに構ってられるか! 本当なら殿下誘拐もルクシオ絡みじゃなきゃ断っていた。陛下の温情? 関係無いな城爆破するぞ。


 …と言うのは置いといて。


 空飛んだりだとか空眩しいだとか愚痴を言ったりだとか、結構余裕そうに見えるが中身は全く余裕じゃない。てか私が余裕な時ってほぼほぼ無いのだが、今回ばかりは余裕もクソもない。今鏡を見たら青を通り越して真っ白なんだろうなとわかるぐらい焦っている。

 だって、殿下とルクシオが同時に消えるこのタイミングって…


「孤児院のやつ…か?」


 孤児院イベント……それはルクシオとヒロインが孤児院で出会うイベントの事だ。二人は帝国か法国か、兎も角この国では無いどこかの孤児院で出会う。ある意味ルクシオルートの入り口だ。

 無理矢理感が強いけど、二人が消えるタイミングがあるってのが怖い。軌道修正として二人が孤児院に連れていかれるなら。そう考えると不安になってくる。今のルクシオなら家に帰ってきそうだけど…心配だ。


 ここでルクシオを探し出せなかったら彼は暗殺者になる。あの変態真っ黒暗殺者達の手に落ちる。彼が悲しんで苦しむ。それだけは…それだけは絶対に許せない。

 例えルクシオがヒロイン(♂)とくっつこうが先祖返りでは無いただの狼の女の子を連れてこようが彼が幸せならいい。けど彼が幸せじゃない未来は駄目だ。彼はあの無表情が緩むぐらい幸せになってもらわないと!

 それと逆に殿下は心配いらないね。孤児院に行っても始まるのは乙女ゲームだからなあ。攻略対象が全員同性って所がきついが殿下の詐欺師王子パワーなら女も落とせる。夢の両立ハーレムでも作ればよろしい。


 ただ見つからなかったらルークさんが飛び出すらしいし…ちょっと宥めるのが大変そう。焼き尽くす云々言っていたからルークさんが殿下を発見したらそれはそれは綺麗に燃やすのだろう。…やっぱり探すほうがいいな。

 ―――けどルクシオの方が優先順位が上。ごめんね、決定事項なの。


 城下町は騎士が探したらしいから除外。その近くの森も探索済みなので除外。ならもっと外を探すべきだ。

 私は魔法で消した体を翻し城下町より外へ飛ぶ。残念な事に魔法感知なんて事は出来ないので虱潰しに探す他ない。そもそもルクシオはまだ魔法が使えないので魔力なんて辿れない。…って。


「それなら自分の魔力を辿ればいいんじゃない?」


 他人の魔力はまだしも慣れ親しんだ自分の魔力なら辿れるのではなかろうか。てか自分の魔力さえも感知出来なかったら魔法使えないし。やった事はないけどやる価値はありそうだ。これなら…いける?


 宙に手を伸ばして目を閉じる。風のように速く何も見えないように。地を這い覆い尽くすように。城も街も木も川も、全部薄く薄く飲み込んでいく。大気に淡く広がる魔力がふわりと人々を通過して、命ずる主と同じ魔力を探し求める。

 体を満たす魔力が磨り減り貧血のような感覚に襲われる。本調子じゃないからか、それとも力業すぎなのか。口に酸っぱいものが込み上げてくる。けど、もうちょっと。あともうちょっとで掴めるような……。


「…っ、」


 あ、これダメだ。吐く。


 急いで広がり続ける魔力を掻き消して、出てこようとする胃の何かを飲み込む。いつの間にか呼吸が荒くなっていたようだ、大きく息を吸って整える。

 おかしい、視界がぶれて小鳥がいっぱいに見える。その上二日酔いみたいな頭痛が酷い。お願い魔力、無くなりそうなら一時中断って形で警告してくれまいか。一気に使うなってか。これはこれで気持ち悪くて動けない。

 …と、とりあえずここにはいないや。うん、次行こう。今度からは真面目に少なめに使っていこう。魔力、大事に。




 先程無茶に広げた魔力はまさかの領単位で広がっていたらしく、王都より二つも三つも離れた領に行っても私の魔力の名残が感じられた。別に一つの領が小さい訳では無い。前でいう市より大きく県より少し小さい―――うちの領のように県より大きな所もある―――土地が一領だ。そこは爵位によって広さが変わる。

 こんなに広い範囲を調べるとか私は何をやってしまったんだ。てか本調子だったらまだまだ広げられるのだろうか。これって応用したら全部火の海に出来たり……いや、ワタシナニモシラナイ。

 この事実は誰にもバレないように心の奥底にしまっておこう。特に陛下にバレないように気を付けよう。


 …うんうんと深刻な顔で頷いているが空を飛んでいる時点でアウトなのだが。姿を消すなんて大問題だ。領単位で魔法を定める事が思っている以上に災害級な事象だとも何一つ気が付かない。この時の彼女は動揺のあまりに常識をすっぽり置き去りにしていた。


「えと…ここは感じられないし次に行こうかな」


 黄色い花が咲き誇る草原を通過してぽつり。こういう所にルクシオがいればわかりやすいのになあ。ルクシオって全体的に真っ黒だから明るい所にいればすぐわかる。その上可愛いからお花畑が良く似合う。うん、お花畑にいてほしい。

 てか暗くなったらヤバい、真っ黒すぎて絶対探し出せない。せめてたまぐらいの大きさがあれば見つけやすいが、彼はまだ小さいから…。あー…けどあのサイズで飛びつかれたら潰れるわ。やっぱり今まで通りこじんまりと…いや、今も大概大きいわ。


 ため息をついて至極どうでもいい思考を放棄しながらふらふら飛ぶ。全く見つからない。平原じゃなくて森にいてるのだろうか……あれ? 黒い影が見える。あれはもしや…ルクシオ?!


「やった! 見ぃつけた!」


 にぃと笑って急降下。風の抵抗を受けて鳴る騎士服をそのままに彼の前に降り立つ。上空から降りてきたので音も無く、なんて綺麗には降りれなかったが風で黄色い花びらが散って辺りを彩る。

 心持ち満足げに、心の底から安堵しながらルクシオを見る。私でも分かるぐらい血の匂いがしている、とかでは無いから無事だったのだろう。よかった、本当に良かった。

 彼は驚いた顔で私を見て、辺りを見回して…って、


「こいつ違うルクシオじゃない?!」


 こいつ全身真っ黒変態暗殺者じゃないか! よくよく見ればいっぱいいるし! 紛らわしいわ!

 奴らは私の声に反応して警戒するようにナイフを構えた。しかし私は姿を消しているので各々が違う方向に向いている。もう嫌だこいつら。この前ので懲り懲りなのに何故まだここにいるの?!


 私は奴等に手を翳す。あのおっさん達みたく気絶しちゃえ。ゴッと鈍い音と共に暗殺者どもが力無く崩れ落ちていく。何人か頭から血が出ているような出ていないような…まあ当りどころが悪かったって事で許してください。

 どうやら奴等は六人いたようで私の足元に転がっている。そいつらの近くで一際大きな袋が一つ転がっていた。人一人入れそうな大きさの真っ黒な袋、何とも怪しげな袋だ。


「こ、これにルクシオが入っていたりして……って流石に無いか。ぴくりとも動かないし」


 いや、ありそうだけども。ありそうだけどもなさそうだ。しかしありそうな気もするから開けてみたい。うーむ…。


「まあ入っていたら運がいいって事で。こいつらが運んでるって事はいわく付きでしょ」


 うんうん。開けるだけ開けてどうでもよければ放置しよう。攻撃してくればこいつも気絶させよう、なんて軽い気持ちで袋を開ける。しかし開けても攻撃してくる様子はなく、ただ一人の少年が入っていた。

 丸くなるように倒れるその子は苦しげに顔を歪ませ、頭からは血を流している。貴族が着るような上質な服は少し煤汚れているが目立った外傷はない。怪我は頭だけのようだ。袋を開けても反応しないという事は気絶しているのだろうか。

 だが見た瞬間その少年に一つ問題があることに気がついた。彼が確定の貴族であるよりも、変態どもに狙われる才能の持ち主であるよりも、もっと重大で私の身に関わる事。それは…


「殿下かい…!」


 私カラーであるはずの艶やかな銀髪。整いすぎた甘い顔。普段着ている黒の服。そして今は閉じられて見れないが深く美しい紫の瞳。こりゃ完全に殿下ですわ。

 ……ルークさん、ごめん。ルークさんが燃やす前に私が止めを刺しちゃったかもしれない。黒い物全部に定めてたので当たったらしいです。本っ当にごめんなさい。謝るから私を燃やさないで。


「と、とりあえず連絡だけでも入れておこうか。飛び出されても困るし思った以上に早く見つかった」


 そうだ。ルークさんがこっちに来なければバレやしない。うん、そうだ。

 くるくる、と宙に円を描いて紙を作る。出来る限り上質な手触りなやつ。そこに短く文章を。


『殿下を発見致しました。健康状態も良好です。』


 …間違ってはないよね。怪我はしてるけど健康そうだし。頭の傷は後で証拠隠滅する。もう一度宙にくるりと指を回すと紙が小さな鳥となって現れる。ピンク毛に青い目とか私すぎる。烏とかに食われないように電気でバチバチさせておこう。


「よし、鳥さん。狙いはあのいけ好かない金髪野郎だ。全力で突っ込んでやって!」

「ぴゅい!」


 セレス鳥(仮)は上機嫌に私の頬に顔を寄せて翼を広げる。ふわふわと旋回してから城の方へ飛んでいった。あれ、あの鳥段々大きくなっているような…。ああ、あの鳥魔力吸ってるのか。


「…まあなるようになるなる」




***




「…団長。俺はどこに行けばいいんでしょうか」


 セレスティナが飛び降りてから一刻足らず。場所を移動して陛下の執務室でディーアは途方に暮れていた。

 後で合流、とは聞いたがどこで合流するのか。そもそもどこへ向かう気なのか。飛び降りた後すぐに窓を覗いたが、少し抜けた規格外の同僚は既に忽然と姿を消していた。苦笑いも何も反応すら出来やしない。


 しかしそれは大人達も同じようで困った顔で黙り切っていた。

 突然飛び出した存在自体が危険物な幼い少女。本来ならば御目付け役であるディーアを引き連れて行くはずであった。しかし彼女は怒りや焦りのあまり先に消えてしまった。そう、『消えてしまった』。これは規格外な魔法の使用方法だ。自分の存在を消すなんて聞いた事も無い。そんな少女がそのまま行方不明に、ましてや敵の手に落ちてしまった時は……奪い合いになるかもしれない。


「…エドウィン。彼女はどこに行ったと思う?」


 ルークが真っ青な顔のエドウィンに訊ねる。彼女の親であり、陛下の下僕…ではなく腹心の彼なら何か知っているだろう、と。それにディーアも希望を込めた目で尊敬する上司を見つめる。

 しかしエドウィンは少し考えた後、申し訳ありませんと謝罪の言葉を口にしながら首を振った。あの陛下の無理難題をこなし続けてきた赤騎士団長が匙を投げたのだ。それだけで事は重大だ。


 ―――娘に拒絶されて放心状態のままなのかもしれないが。


 暗く思い空気がずしりと肩に乗る。良くも悪くも聡いルークが意味も無く机を見つめて笑い出すほど混沌とした空気が流れる。なんと居心地が悪い空間か。ディーアは心の中で何か含んだ笑みの同僚に呪詛を吐いた。


 その瞬間。


「ぴゅいぃぃいい!!!」


 ―――がっしゃーん!!!


「え…?」

「……は?」

「陛下!」


 突然の侵入者にエドウィンが陛下に防御魔法を展開しながら剣を引き抜いた。そこは絶望していても陛下の下僕…ではなく腹心。己の身を盾にしてでも守り抜こうと前に立つ。

 その行動を見て我に返ったディーアも剣を引き抜きながら相手を拘束する魔法を唱える。土煙が立つここで闇雲に剣を振るっても当たらないと思っての行動だ。いくら動揺していようが国の赤を背負うもの、的確に判断する。

 しかし如何せん相手が悪かった。


「ぴゅいぴゅぅーい!」


 侵入者が土煙を三人に浴びせながら高速で接近する。ディーアの拘束魔法を鳴き声一つで消し去り、エドウィンの剣を華麗に避ける。影からわかる大きさに似合わない素早い動きだ。それは邪魔をする二人の騎士にけたたましく威嚇しながら電気を浴びせかけた。

 必死に守る二人の後ろ。砂埃が目に入らぬように目を腕で当てていたルークが困ったように椅子を引く。これは息子が帰ってくる前に直さなければならない。あの子は変な所で庶民的だからこんなものを見せたら…ああ、寒気がしてきた。

 ……それよりも。


「…なにあの鳥」


 可愛らしい桃色の羽に青いつぶらな瞳。腹がふっくら膨れていて、そこかしこに飛んでいるただの小鳥にしか見えない。但し大きさがその小鳥五十羽程の大きさであるが。

 そんな鳥が騎士二人と戦っている。可愛らしく羽をぱたぱたさせて戦っている。それをどうやって驚かずにいられるか。

 ……しかしあの配色、見覚えがある。いや、ありすぎる。桃色と青、ふわふわな見た目。どこからどう見ても彼女の、セレスティナの配色にしか見えない。


「……」

「っ、どうしましたか陛下」

「え、いや…何も無いよ」


 心配そうに様子を窺うエドウィンに乾いた笑みを返す。大丈夫だからと手を振って前を向くように指示をした。

 よくよく感じ取ってみればあの鳥はセレスティナの魔力を纏っている。彼女が作った鳥である事は確実だ。きっと何かしらの問題があってよこしたのだろう。が、何故これほどまで大きく凶暴なのか。

 …それはもうわかっている。執拗に『エドウィンだけを』狙うあの鳥は見事セレスティナの心情を表している。もうあれだ。


「殺意…の塊だね、セレス嬢」

「っ、何かありましたか?!」

「いや…大丈夫だよ」


 詳しく見てみればディーアにも多少は攻撃しているようだ。しかしやはり多いのはエドウィン。セレスティナはこの二人をいかに嫌っているのかがよくわかる魔法だ。


「…伝達魔法って攻撃するんだね」


 目の前の惨劇を見てそう言うより他なかった。

この世界の魔法は『殺る気』で魔法の性質が左右されます。エドウィンを攻撃する鳥の様子を見れば言わずもがな……。



主人公初めてのおつかい。

主人公は自分の魔力はわかると思っていますが全くわかっていません。直感をわかっていると思っているだけです。魔力が減るのだけは本能的にわかります。

そして主人公は他人へかかる迷惑を気にしなければ完全に自分の心情だけで動きます。今回は怒ると怖い殿下より可愛いルクシオの方を優先しました。


ありがとうございました。


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