25話 私と同僚の帰還です。
漸く一段落つきました。
お願いします。
ただ今城前の橋。いつか通ったここは相も変わらず和やかな雰囲気が流れている。小鳥が呑気に鳴く中、少女と少年が途方に暮れて立っていた。
「…帰ってきたわけですが」
「まさかこんな事になっているとは…」
ディーアが顔を引き攣らせて目の前の光景を眺める。私も同じであろう顔で更に口も引き攣らせた。
久しぶりに見る外からの城はやはり汚れひとつ無い真っ白な城だ。豪壮且つ優雅で、まるで一枚の絵のように美しい。その上今日は淡い金色に輝いていて何処か幻想的だ。と言うのは一般的な人が抱きそうな感想で、魔術師であるディーアと私はこう思うわけです。
…何故金色に輝いているのかな。禍々しい雰囲気が漂っているのは気のせいかな。私の魔力が混じってるんだけどどういう事かな。そもそも陛下は何をしているのかな魔力が滲み出でますよ。と。
一見美しいように見えるが、知識ある人が見ればここは恐ろしい堅牢なる城。脱出してきた牢屋なんて比じゃないぐらいに危険な牢獄と化していた。
どれぐらい危険かと言うと、今城に入ろうとすれば赤であるディーアが消し飛ぶぐらい。私も魔力が減りに減っているから消し飛ぶ。多分一般人ならこの橋の前にも立てないだろう。その前に潰れる。それと同様に中から出ようとしてもなると思われる。
引き攣って話しにくい口をどうにか動かしてこれからどうするかディーアに聞く。彼もこんな事態は初めてなのだろう、乾いた笑いを漏らしながら首を横に振った。
「城内に何が起こってるのか知らないが…これは入れないだろ」
「どこぐらいまで近づけるか試してみる?」
「別にいいが…こいつが限界じゃないか?」
彼の目線が私…の足元へ。そこには収穫物である中年が縄に縛られて転がっていた。成金みたいな服が所々破れていたり、ふくよか過ぎる顔が青あざだらけになっているのはどうでもいいとして、こいつは一般人だからキツいだろう。けどここまで近づけるならちょっと挑戦しても…
「やめておけ。折角連れてきたのに殺したら元も子もない」
うむぅ。まあ言われればそうなんだけども…。あ、そうだ。私はディーアの肩を掴んで指を立てる。ここは一つディーア様に頼もう!
「魔法で刺激してみれば? 試しにあの城を攻撃してみるとか!」
「絶対やらない!」
目を剥き出して食い気味に言われてしまう。何考えてるんだと青ざめた顔で見られて私はため息をついた。もし攻撃してディーアが蒸発しても構わないんだけどなあ。
「開門! 開門!」
「―――あ、」
篭った門番の声と共に大きな扉がゆっくりと開いていく。扉の金が溶けて私服姿の騎士達がぞろぞろと出てきた。一部顔が厳しいような…?
「あ、早速発見!」
「おお、生きてる生きてる」
「幸先いいねー」
はーいと手を振りながら歩いてくる…白騎士様だろうか。妙に冷静な表情…は赤騎士様かな。多分緊張した面持ちの人は緑騎士だ。
商人みたいな姿の三色が違いすぎる表情で歩いてくる。そして何故か通り過ぎざまにハイタッチをされてそのまま城下町の方へ消えていった。…え、何があったの?
「――セレス!」
「え……くっ!」
見覚えのある青髪が私の頭に――――――
「っ…たたた。何が…?」
痛む額を押さえながらよいしょと座る。外を見るとまだ昼間、気を失ってからそこまで時間が経っていないらしい。それよりも何故私はベッドに…?
「セレス! 大丈夫か?!」
ふと右を見るとテーブルに座る男性が目を見開いて駆け寄ってきた。ふらふらしている私の背に腕を回して凭れるように言う。青髪の美形は至極心配そうに顔を覗き込んでよかったと呟いた。…って。
「お父さんか! 何故ここにいるの私の部屋でしょ!?」
「お前の事が心配で…」
「お父さんがいた方が身の危険感じるわ!」
あの青髪はお父さんか! よっくも突っ込んできやがって…!
「ごめんなセレス、早く助けてやれなくて…」
「お父さん」
「気をやるほど魔力を減らして…辛かったよな」
「お父さん?」
「もう大丈夫だぞ。お前をこんなに窶れさせたヤツは俺が処理してやるから」
「お父さーん」
謝ってくれるのはいいのだが明らかに先ほどの突進の事ではない。何故自分がやった行動が原因でないと思えるのかが不思議すぎる。そしてやっぱり話を聞いてくれない。
ある種の恐怖を覚えて震えるとお父さんがぐりぐりと頭を撫でてきた。
「ちょ、ぐぇっ」
「ごめんな…」
ダメだ、死ぬ……
「……もういいかなエドウィン」
不意に扉が開かれて陛下が、その後ろに赤髪の親子がくっついて入ってきた。赤髪親子とは言わずもがなベルドランさんとディーア。がくんがくん揺らされる視界に彼らが映り込む。
まさかの救世主? と必死に彼らを見る。が、そんなはずなかった。あのルークさんのにっこり笑顔を見た瞬間、私は盛大に顔を引き攣らせた。
事情を知らないお嬢様方ならこの状況はとても嬉しいだろう。何故なら城内トップクラスの権力を持った、ため息が漏れるような極上の男達が集まっているのだから。彼女達からすれば夢のような世界のはずだ。
…が、残念な事に私はそんなお嬢様では無い。奴らが顔面詐欺師で騙されたら利用し尽くして投げ捨てる極悪非道な男共だと知っている。
この大人衆が揃っただけで蒼白もの…なのにディーアまでいるとか最悪すぎる。ディーアもあっち側の人間だからさ、ほらもう嫌な予感しかしない。
「ご機嫌ようセレス嬢」
ルークさんがにっこり笑って椅子に座る。こんなのを見られて今更なのだがきちんと座ろうとして……お父さんの腕がつっかえて動けないんですけど本当に邪魔だ! その手をどけろ!
「ご、ご機嫌よう陛下。このような所から申し訳ありません」
「ああ、いいよいいよ。エドウィンが離しそうにないしね、そのまま楽に座っておきなよ」
「……」
くつくつ笑って寛容に手を振る。がそれは優しさじゃない、ただの嫌がらせだ。
べたべた触ってくる父を全力で突っ張りながら赤い親子にこっそり助けを求める。しかしベルドランさんはただにこにこ笑っていて使えそうにないし、ディーアに至ってはお父さんを見て固まっている。何なんだこの親子は。二人揃って使えないな!
くそ! と心の中で悪態をつきながらルークさんに言葉を促した。
「…陛下。私に何用でしょうか?」
「何用も何も行方不明になった事情を聞きに来たんだよ」
「あーなるほど。いきなり居なくなってどうもすみません…って何で陛下が?! そこらへんの騎士に任せりゃいいじゃん!」
「事情聴取も陛下の務めだよ」
「何の務めだよ!」
何、そんなに暇なの?! そんな事してるから殿下が政務してるんだよ! ちゃんと仕事してあげてよ殿下が可哀想だよ!
「…と言うのは冗談で。どうやら君達は面白い事をしていたようだからね、詳しく話を聞こうと思ったんだよ」
ルークさんの目がすっと細くなる。紫の瞳に金が混じりいつも以上に威圧的だ。どうやら良くない事があったようです。あの三色騎士達と関係があるのかな。
私は意識を取り戻した所から脱出に至るまで―――勿論私が魔法を乱発した部分は抜いた―――を簡潔にまとめて話した。
「だから君の足元に人がいたんだね」
「はい、あれが私達を攫った首謀者です」
確認とばかりの質問に神妙に頷く。あのボロボロのズタズタになった中年。そうなった原因を思い出してため息をついた。
―――私とディーアが思いついた策、それは力業すぎる作戦だった。
私の策は『ディーアの睡眠効果のある魔法を私の魔法で屋敷内に響かせる』作戦。要するにメガホンで強制睡眠子守唄を歌うと。転移するなら魔力を残したかったのでこんな方法を提案してみました。
そしてディーアの策は『私自身を肉体強化して中年を運ぶ』作戦。いや、出来るけどね? 出来るけど…色々おかしくないか? 誰にも見せられないんですけど。
…という事でディーアが歌って私が引き摺って脱出しました。何のロマンもない戦いでしたね。残念!
この説明でいけるかな…と不安になったがディーアの証言とあっているし、と言ってくれた。まあ陛下なら私が何したかわかると思うけど寛大な心(笑)をお持ちらしいし? 追求するなんて無粋な真似はしないよね。してもやってないって言い切るつもりだけど。
「……だってよベルドラン。あとは任せていいかな?」
「任された」
ルークさんが黒く笑ってベルドランさんに言う。ベルドランさんはまるでお使いに行くかのような軽い口調で了承した。
「で、お嬢ちゃん。その屋敷はどっちの方角?」
「それが転移してきたんでわからないんですよね…。なのでこれ持っていってください」
耳に付けていたカフを取ってベルドランさんに渡す。不思議そうに首を傾げて見ていたが、意味が分かったようで笑って懐に仕舞い込んだ。
「じゃあ行ってくるから。ディーア、お嬢ちゃんの事守るんだぞ」
「いいから早く行ってこい」
「はいはい。お嬢ちゃんお大事にー」
「ありがとうございます。それ絶対返してくださいね」
ベルドランさんがへらりと手を振って部屋から出ていく。ちゃんと聞こえていたのだろうか。妙にやる気、いや、殺る気なベルドランさんを見送って再度残ったメンバーで顔を見合わせた。
「…え、まだあるんですか?」
今ので終わりな雰囲気だったよね?
それなのに一向に帰る様子を見せない男達三人。ルークさんは黒く笑って、ディーアはげっそりして俯いて、そして何故かお父さんは目を泳がせて笑っている。何この状況怖いんですけど。
「あの…何かありました?」
「何があったって……」
ルークさんが小さく唸る。あ、あれ? 威圧がどんどん大きく…?
「…あのね、セレス嬢」
「は、はい」
最早金に変わった瞳が私を射抜く。口を不愉快そうに歪めて、吼えるように言った。
「私の子が、アライシスが攫われた」
常時苛付く笑みを浮かべているあのルークさんが笑みを消して唸っている。視線を縫い止める金の瞳は冷たく、いつにも増して威圧が強い。肌に刺す冷たい空気に唾を飲み込んだ。そしてそれ以上に―――この陛下よりも強い殿下を攫う犯人にたじろいでしまった。
確か…この国の王子様は目の前の王様を思いっきり蹴り飛ばすぐらいクレイジー…じゃなくて強い人だったよね。え、攫えるの? あの、威圧で人を殺せそうな、見た目だけ王子様の殿下を…?
と思ったら自然と口から零れ落ちた。
「冗談ですか?」
「……冗談だと思うのかい?」
「あ、いや、すみません」
怒りを無理矢理抑えたような低い声が突き刺さって、私は土下座する勢いで頭を下げた。ダメだ、本当にキレてる。全く冗談じゃない。
まあ自分の息子が攫われたら流石のルークさんも怒るか。ルークさんも人の子だったんだな。思った以上に父親してるらしい。…と思う反面、これは私達のせいなのかと思ってしまう。急に攫われるとか不可抗力だと思わない? しかも令嬢じゃなくておっさんだったし。予想外だよ。
「…はあ。アライシスにもセレス嬢みたいな魔法教育をした方が良かったのかな?」
「やるのなら貸しますが」
「うーん…検討する」
「(…違った) 」
怒っているのは殿下に向けてのようだ。
え、おかしくない? 殿下の心配こそすれ怒るような事ではないよね? 怒りを抱くなら犯人の方だよね? なぜ殿下に怒りを向ける?
それに私みたいな魔法教育って何? もしかしなくてもぽちとたまに攻撃されるあれの事? え、あんたらは殿下に何を求めているの? 兵器にするの? そもそも王族が自己防衛っていいの?
王の近衛である父に要らないよ宣言を平気でぶちかます陛下と、それを当たり前のように受け止めてあまつさえ協力いたします宣言をする父。普段からこのような会話をしていると窺える会話だ。
ここで働き始めて数ヶ月経ったが…お父さん、騎士としてどうなのそれ。もしかして騎士の誇りが無いのだろうか。陛下に仕えるのだけで満足してるのかもしれない。全世界の誇りある騎士に謝れ。
しかし赤白の騎士団団員は団長と性質が似ていると聞く。という事は赤団ではこういう考えが一般的であるわけで。父の鬼畜な教育方針もされている可能性があるわけで。そしてそういう教育で生き残った人がこの城にいるわけで。
「この国…大丈夫なの……?」
先祖返りの隠れ里は隠しようもなく戦闘民族でした。自分の身は王族であろうとも自分で守るのが普通らしいです。…とはいえ教育方針がぶっ飛びすぎやしませんか。先祖返りの教育方針怖い。うちの親は誰に感化されたんだろう。
ついでにこの会話中ディーアは深く頷いていた。俺も同感であると言わんばかりである。それは自分が経験したからか、それともうちの親と性質が似ているからか。仕事が減るから頷いている気もするが真実はわからない。
「……すぅ」
「(じゃなかった…!)」
頷いているんじゃなくて寝てるのかい!
「けどあの子は変な所が甘いからねえ。犬や猫より竜みたいなものの方がいいんじゃないかな?」
「なるほど。それでは赤から連れてきましょうか」
「けど場所が…ねえ?」
「―――はいはいはい! 陛下! 私に頼みたい事があるんじゃないですか!」
不穏な雲行きを見せる大人衆に慌てて待ったをかける。と、はっとした顔でディーアが起きた。お前じゃねぇよ! と睨むと至極不思議そうな顔で首を傾げられる。私の叫びなんて聞いちゃいない大人衆はああでもないこうでもないと議論している。
こんな会話してたら日が暮れるわ! 早く助けに行けよ一国の王子が攫われたんだよ! …と思ってそういえばと気が付く。三色騎士様が出てきたよね。じゃあ捜索は始まっている…?
「…でなんだがな、セレス」
「ん? うん」
「頼みたい事があるんだが…」
「……今すぐ焼き尽くしたい」
「何お父さん! 私に頼み事なんて珍しいことがあるもんだねー! さあ、何でも言ってちょうだいなー!」
「もう体は大丈夫なのか?」
「心配いらない私超元気」
ルークさんがドスの効いた声で言うから色々吹き飛んだわ!
早く言えやと睨むとお父さんは困ったように眉を下げた。言いにくそうに口をもごもごさせている。珍しく口篭る父を気長に待っていたら伏し目がちに小さく言った。
「陛下が…」
「陛下が?」
「陛下が怒りを抑えきれず窓から飛び出す前に殿下を探してきてくれないか?」
「……陛下って窓から飛び出す生き物なの?」
「過去に数回」
「結構飛んでる…!」
ルークさん凄い。行動が全く王様じゃない。床で寝るといい窓から飛び降りるといいどこの野生児なの。
白い目で見ると仕方が無いよねとルークさんがお父さんを見る。お父さんも仕方が無いですと頷いて、そういう事なんだと私に目で訴えかけてきた。
「どういう事なの…?」
「とにかく君達のせいでこんな事態になったんだよ。責任を取ってくれるよね?」
「いや、けど陛下。私達攫われたんですよ?」
「そうだね、君達は攫われた。…けどね」
ルークさんが私とディーアをじろりと睨む。
「ディーア、君が真面目に付いていればこうはならなかったんだよ。アライシスの近衛として恥はないのかな? セレス嬢、君も全魔法を跳ね返せるぐらい出来るよね? 跳ね返して捕まえないからこうなるんだよ」
「…申し訳ありません」
「いや、普通に出来ないですけど」
「君は仕事をサボり過ぎだよ。やれば出来るんだからきちんとしなさい。セレス嬢、君は城内で魔法を使いすぎだよ。自重しなさい」
「…申し訳ありません」
「あの、怪我人治していただけなんですけど」
何なんだこの理不尽に怒られている状況は。悪くない、逆に良い事をしているのに咎められた。こんな怒られ方は初めてだ。私をついでに怒ってる感じがイラッとする。聞いている限り悪いのはほぼディーアであって私じゃない。
「…セレス嬢。君ね、私とした約束を覚えているのかい?」
「約束…?」
「殿下に、アライシスに仕えろと言ったよね? 忘れたとは言わせないよ」
「……?」
「契約不履行かな。ルクシオがどうなってもいいの?」
「…ああ、」
ルクシオと聞いて合点が言ったと手と手を合わせる。そういえば私は殿下に仕えているんだった。ディーアに付きっきりすぎてすっかり忘れていた。
そんな話がありましたねと言えばルークさんが呆れた目で私を見てきた。まるで痛いとでも言うように皺が寄った眉間を揉んで低く言う。
「責任取って連れて帰ってきて。私が飛び出す前に連れて帰ってきたら不問にしていいから」
「…本当ですか」
「但し居場所は掴めていない。君の魔法でどうにかしてほしい」
「えぇ…無理ですよ。魔力すらまだわかっていないのに人なんて探せません」
「……へえ?」
「カフの残骸であの屋敷を探し出そうとするベルドランさんに感心するぐらい無理ですね」
「……そう」
ひくりと彼の口が歪んでこれまた冷たい眼光が私を睨む。何故睨むと首を傾げるとお父さんがため息をついて私に言った。
「陛下は誠意を見せろと仰っているんだ」
「せ、誠意? けど騎士達が探しに行ったんでしょ? 別に探さなくても大丈夫なんじゃ…」
「ん? あれは別件だ。本当の殿下探索隊じゃない」
「……じゃあ本当の捜索隊は?」
「君が気にしなくともあるよ」
「……」
本当に誠意を見せるためだけに行くのか…。誠意も何もあったもんじゃないんだけどもなあ。いや、けどこれもルクシオの為なら行くしかない。
それならばとお父さんが指を指した。なんだろうと指の先を見ると…まあディーアがふてぶてしく座っているわけで。こいつを連れていけとの事だった。いや一人ぐらい増えても変わらないし。赤一人追加するぐらいなら緑十人欲しいんですけど。
「…まあいいか。わかりました陛下。直ちに殿下の探索に当たります。…その前に会いたい人がいるのでその人に会ってからでいいでしょうか?」
とりあえずルクシオに会ってから行こう。城内でこんな事件があったんだからちょっと心配だ。あとストレスがヤバい。超絶癒されたい。
するとルークさんが眉を顰めて誰に会うのか聞いてきた。勿論、ルクシオですと返すと大人二人が何とも言えない顔で押し黙る。特にお父さん、目が泳いで私と目を合わせようとしない。明らかに何かあるといった体だ。
どうしたのとお父さんの腕を叩く。と、お父さんはびくりと身を震わせて恐る恐る目を合わせてきた。まるで何かを恐れるような、それでいて困ったような目だ。先程から私に対するお父さんの行動がおかしい。
「っあの、だなセレス」
「何お父さん」
じっと見つめるとお父さんが緊張したように生唾を飲む。何を言い出すのか逆に怖い。お父さんは抱きしめていた腕をそっと外してきちんと椅子に座り直した。
「お…怒らないか?」
「怒るような事をしたってことなのそれは」
「いや、その…」
「…もう何なの面倒臭いな。怒らないから早く言ってよ」
「あー…あのだな、ルクシオはな」
「ルクシオは?」
「……ここにいない」
「………ん?」
お父さんが何言っているのかよくわからない。
「お父さんごめん。……もう一回言って?」
「だからな、ルクシオは…ここにいない」
「……」
ルクシオ、ここ、いない。ルクシオは、ここに、いない。…ルクシオはここにいない?
そう理解した瞬間、私の表情が消えるのを感じた。布団を跳ね除けてベッドから降りる。
…なるほど、だからそんなに口篭ってたんだぁ。へぇ……?
「……お父さん、顔こっちに貸して」
想像以上に冷たい声が出た。けど仕方が無いよね。だってこいつらが約束守ってくれないんだもん。
顔を歪ませる父はいつまで経っても顔を差し出してこない。だから自分から手を伸ばしてお父さんの耳を乱暴に掴んだ。そこには私が作った桃色のカフがついている。それを無理矢理取って口に咥えた。
「セ、セレス? 何を…?」
「―――ルクシオがいないと知っておきながら探さないなんて…最低っ」
「っ!」
固まる父を他所に私は宝石電池を噛み砕いた。それはまだ多くの魔力が残っていたようだ、口の中で淡く溶けて無くなる。魔力がじんわりと馴染んでいき少なかった魔力が徐々に潤っていくのを感じる。
魔力として溶けない金属部分はいらないのでそこら辺に吐き捨てて、私はルークさんに微笑んだ。
「では陛下、行って参りますね。少しばかり帰るのが遅くなりそうですが心配せずに待っていてください」
「え、ちょっと待ってセレス嬢。ディーアは―――」
「ディーア。ちょっと先に行ってるから後で合流ね」
「お、おう」
青ざめている父と慌てる陛下を尻目に窓を開ける。まだ昼だが私には関係無い。よいせっとよじ登って下を見る。下を見ると地面からは結構遠い。高い場所に部屋があってよかった。
「おい?!」
ディーアの驚いた声が聞こえる。しかし構っている暇も余裕も無いので放置。私はそのまま飛び降りた。
主人公が気絶している間に中年さんは取り調べしました。付き合わされたディーアは愛を説かれて胃に穴があきそうです。今も尚取り調べ中。
帰って早々殿下誘拐事件発生。そしてエドウィンの様子からすると……。
ありがとうございました。




