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狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
零の仕事
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<零の仕事>4


封筒づくりも終わり、配達の時間だ。

氷美曰く、昨日と同じところに配達するそうで、みのりやあの少年のことを零は思い出す。

そういえば少年の名前聞いてないな、なんてどうでもいいこと思ったりして。

配達をおわしてから、昨日みのりと会ったところへ行く。

「ここだっけ・・・」

柴崎とかかれた表札を確認して、家をみる。昨日はよく見なかったが、庭などはなんの手も加えられておらず、草が生えまくっているのが見えた。

やはり、あの兄弟は親に放置されているのだろうか。

うーんと眉を寄せた。

関係ないと言われたが、あの展開で気にならないわけはないだろう。

それに、いくらしっかりしているとはいえ子供だ。零たちの標的になっている奴らに引っかかる可能性もないとはいえない。防げる事故は防いだ方がいいだろうし。

零はそこまで考えて、ため息をついた。

言い訳臭い。自分がただ気になっているだけじゃないか。

なんでだろう。なんでそんなに気になるんだろう。

賊を生業としているため、零は少し冷たいところもある。

ぶっちゃければ、あの二人は少し話しただけの子供だ。そんなに気にするようなことでもない。

じゃあ、どうして。

「零」

「ん!? ・・・なんだ、氷美か」

「何だとは何よ、失礼ね」

考え事にふけっていたせいで、背後に近寄る気配に気づけなかった。

相手が朔であれば殴られているところである。危ない危ない。

「ぼぉっと突っ立って、何してんの? 配達終わった?」

怪訝そうに氷美が聞く。

隠すこともないか、と零は氷美に昨日あったことを帰り道に話すことにした。


かくかくしかじか。(二度目)


「へぇ・・・なんか嫌だね」

氷美の感想は簡単なものだった。

「親と子の間に何があったか知らないけど、兄妹二人だけで生きてるってのは大変だと思う。無理なこと・・・してないといいけど」

確かになぁ、と零はうなずく。

10代後半ならまだしも、12歳と6歳だ。仕事なんてあるわけがない。

彼らは何をして生きているのか。それすらわからなかった。

「無理なことって?」

若干予想はつくが、一応氷美に聞いてみる。

「・・・言わなくったって、わかるでしょうに・・・」

恨めしげににらまれた。ごめんと笑って謝る。

「でも、優しいお兄ちゃんなんだね」

氷美が微笑んで言った。

「少年のこと?」

「うん。ていうか、育てられるってすごいと思うよ」

何歳でそういう境遇に立たされたのかはわからないが、それからずっと、守るように育ててきたのだ。

育てられたみのりも、屈折したような性格でなく、ちゃんとしたまともな性格をしている。

よく「男手一つで」とか「母親一人で」とかあるが、みのりにいたのは兄だけだ。大人がやるのならともかく、6歳違いの兄妹。よく今まで生きてこられたなぁと感心してしまう。

「誰か協力してくれる親戚とかいるのかねぇ」

零がため息混じりに言うと、氷美は苦笑する。

「いるんだったら、少年が育てる訳ないじゃない」

「・・・そうだよな」

結構暗い話だ。

少年の気持ちは本人にしか分からないから、零たちはこうやって予測したりすることしかできない。

関わる必要はないはずなのに、どうしても考えてしまった。

のんびり歩いていると、向かいから誰かが歩いてくるのが見えた。

こんな深夜に歩いているのは誰だろうか。街灯は壊れているのかついておらず、あたりが暗いせいでその人の顔が見えなかった。

すれ違う寸前、向かいから歩いてきた人の方が突然立ち止まった。

「あ」

「え?」

顔を見て小さくつぶやかれたので、思わず声を出す。

近くでよく見てみると、向かいから歩いてきたのは昨日の少年だということがわかった。

「少年!」

「零さん・・・ていうか、少年って」

的確なつっこみが入る。

「いや、名前聞いてなかったからさ」

「あぁ・・・そうでしたね」

少年はうなずいたが、零の顔を見て沈黙する。その様子から見て、どうやら名乗る気はないようだとわかった。

「みのりちゃんは、元気か?」

沈黙に耐えかねて零が聞くと、少年は怪訝そうな顔をしつつ答えた。

「はい、元気ですけど。・・・それが、何か」

相変わらず警戒心の強い奴だなぁと思い、零は困ったようにため息をつく。

ふと、少年が零の後ろに目をやった。

「あなたは・・・?」

零の後ろにいるのは氷美だ。

「初めまして」

氷美が短く言う。

無表情な氷美を見て、零ははっと思い出した。

そういえば氷美は人見知りの傾向があった。

「はぁ、初めまして」

対応に困ったのか、少年が言う。

そしてまた、沈黙した。

どうしろというのだ。零は眉を寄せた。

何か話したり聞いたりした方がいいのだろうが、なにを聞けばいいかわからない。

さっきのみのりの話だって、脳味噌を振り絞ってでた言葉なのだ。

頭を悩ませていると、突然、少年が話し出した。

「その人、零さんの・・・その、彼女とか何かですか」

途中言いよどんだが最後まで言い切った少年。

声も聞こえやすい大きさで、ちゃんと聞き取ったはずなのだが。

「「は?」」

氷美と二人して聞き返した。

少年は二人から聞き返されると思わなかったのか、少しあわて出す。

「いや、彼女って言うか、その、大事な人って言うか・・・。違い、ますか」

答えづらかった。

氷美の方をちらっと見ると、思いっきり目が合い、ちょっとにらまれた。

どう答えればいいのか迷う。

零はしばし悩んで、口を開いた。

「幼なじみ、みたいなもんだからなぁ。大事なのは、当たり前だし」

少年がちょっと驚いたように顔を上げた。

氷美が零の服の裾を引っ張るのがわかる。

だけど零は続けた。

「恋愛感情とかは、よくわかんないけど・・・大事な人では、ある・・・かな」

本心そのままだった。

こういうことでうそをつくのは好きではない。

氷美も少年も沈黙しており、零はどうすればいいのかまた悩む。

「そう、ですか。・・・わかりました」

ややあって少年がつぶやき、氷美と零に一礼して帰って行く。

「え、ちょ」

制止の声も届かず、結局氷美と零が取り残された。

「えぇーっと・・・」

あんなことを言ったばかりだ。

気まずい沈黙。

氷美を見ると、氷美はうつむいていて顔が見えない。

「・・・氷美?」

「・・・・・・なによ」

呼びかけるとふつうに声が返ってきた。

しかしうつむいたままだ。しかも沈黙だし。

「・・・帰るか」

どうしようもなくなって零が歩き出すと、氷美は素直について来る。

何か話そうかとも思ったが、話す内容が思い浮かばないため、もう沈黙のままでいいやと零は考えを放棄。

黙々と歩いていると、

「・・・ねぇ」

氷美が突然口を開いた。

零は立ち止まらずに、振り向かずに言う。

「んー?」

「さっき言ってたのって、本心?」

『さっき言ってたの』がわからず、少し考える。

「あぁ・・・少年に聞かれて答えたやつ?」

やっぱり振り向かないで聞くと、うなずく気配がした。

答えを促しているようだ。

「うーん・・・ほとんど、本心」

照れくさいが、やっぱり零は嘘が嫌いだ。

正直に、でもなにも気にしていない風を装って答えると、

「・・・そう」

そういう納得したような氷美の声が聞こえて、零は少し笑った。

何でかは知らないけど。

「じゃあさ、氷美」

「なに?」

「そういうの、嫌?」

結構怖かった。

嫌だと言われたら、どういう反応をすればいいのか、わからなかったから。

内心不安でいると、氷美の笑う気配がした。


「嫌なわけ、ないじゃん」


「そか」


良かった。

でも、その言葉はやっぱり照れくさかったから、言わなかった。




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