表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
『氷』たちの紅
32/47

そして、少し。

「お帰り、氷美」

「…朔さん…起きたんですか」

ホテルに帰ると、朔、萌黄が玄関のところで待っていた。

もう帰らなければいけないということが実感できた。

「もちろんだ。…まぁ、萌黄は眠そうだが…」

「眠くなんて無いわ!ただ…私は…そう、目がかゆいのよ!」

しきりに目をこする萌黄。

目がかゆいということにしておこう。

「会えたかい、氷美?」

唐突に、朔が聞いた。

誰に、と彼は聞かない。

氷美も、あえて聞きはしなかった。

誰に?

麗音に。そして、氷奈に。

その2人であると思った。

「はい。元気でした…すごく」

「そっか」

朔が頷くのを見て、氷美は胸元のペンダントを握り締めた。

ほのかに暖かく感じる。

ココにある感情が、ずっと自分を守ってくれていたのだと、思った。

暴走の理由かどうかは知らない。

何があったのかわからないけれど、それでも、もう大丈夫だと、思うことが出来た。

「氷美」

声をかけられる。

我に返ると、みんな先に進んでいて置いてけぼりを食うところだった。

慌てて後を追いかける。

「ぅおっ?」

途中で何かに躓いて転びそうになった。

その時の悲鳴はあまりにも女子という感じはしなかったが、自分らしいといえば自分らしいと思う。

頭から転倒するのを、後ろ襟を捕まれ、なんとか防がれた。

が、

「…っ…ちょ…」

首が絞まる。

「あ、悪い」

襟を持っていたのは零のようだ。

零は慌てたように襟をはなした。

バランスを崩した氷美は、結局転倒。

何とも間抜けな転倒であった。

地面に直接うつぶせで寝たようになる。

「あ、…」

零が気まずそうに声を漏らす。

寝返りを打って零を恨めしげに睨むと、零は手を伸ばした。

「悪い。…立つか?」

変な問いだが、立たせようとしてくれるのがわかった。

氷美はその手を取り、自分側に引っ張る。

「おわっ?」

零は力一杯手を引っ張られ、さっきの氷美のようにバランスを崩した。

地面に転がる。

額をぶつけたようで、地響きのような悲鳴が聞こえてくる。

「ぐぉぉぉぉぉぉ…」

それを見た氷美は、少しだけ胸が空く思いだった。


「何をしてるんだい、君たちは…」

さらに進んでいた朔が苦笑しながら戻ってくる。

零が上体を起こし、照れくさそうに笑った。

「ちょっと、零…氷美を転ばせたの?私の氷美を…!」

萌黄も戻ってきて、わなわなと震え出す。

「ちょ、萌黄落ち着いて」

「でも…」

「大丈夫だから。ね?」

氷美がなんとかなだめると、萌黄は不満そうな顔をしながら口を閉じた。

「っせ…」

零が立ち上がる。

ぱんぱんと土を払うのを呆然と見ていた氷美は、もう一度自分の前に手を差し出されたのを見て目を見はった。

さっきと同じで零の手だ。

転ばされたというのにまた手を差し出す意味がわからない。

氷美が眉をひそめていると、零が笑った。


「帰ろうぜ、氷美」


氷美は面食らって…その手を取った。

一も二もなく氷美が手を取ったことに驚いたのか、零が少しだけ目を見はる。

今度はちゃんと立たせて貰って、氷美は笑った。


「帰ろっか」


暴走編完結。

『そして、少し。』平和な日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ