76 私の願い
「そう。そんなことがあったのね」
お母さんは私の話を最後まで聞いてくれた。
「良かったわねえ。美音。あなたのことを理解してくれる人たちに出会えて。あ、人じゃなくてモンスターさんたちか」
そう言ってお母さんは笑う。
「うん。だからね、お母さん。私はこれからもモンスターお役所で働きたいの」
「美音がそう思うなら私は賛成するわよ」
「で、でもね。話したけどもうすぐこの二つの世界は離れちゃうの。だから、お母さんとは……」
私の目から涙が溢れた。
お母さんはそんな私に笑顔で言う。
「確かに美音とはしばらく会えないかもだけど、その二つの世界が繋がるのが別に100年後って決まったわけじゃないでしょ?」
「え? でも氷火様は平均100年はかかるって……」
「だからそれは「平均」ってことでしょ? だったらそれより短い間にまた繋がるかもしれないじゃない。どうにかなるわよ」
お母さんは何でもないかのようにお茶を飲む。
「で、でも……」
「だって美音はもう決めてるんでしょ?モンスターお役所で働くって」
「う、うん」
私は頷く。
そうだ。私は自分でモンスターお役所で働くって決めたんだ。
妖月様を一人にしないって決意したのは自分自身だ。
「それに美音はそのモンスターお役所の所長さんが好きなんでしょ?」
「え? あ、あの、それは……」
「美音の話に出て来る所長の妖月さんの話をしている時の美音の顔を見てれば分かるわよ。美音はとても幸せそうにその妖月さんのことを話すものね」
私は顔が赤くなってしまった。
そんなに表情に出てたのかな。
「だったら余計に美音はモンスター世界に行くべきよ。親というものはね、いずれ子供より先にいなくなるものなのよ。でも自分が死ぬ時に美音に美音の家族がいたらお母さんは安心してあの世に行けるわ」
「そんな、あの世なんて言わないでよ。お母さん」
「いいえ、美音。あなたも大人になったのだからもう自分で全てを決めていいのよ。親はね、子供が幸せでいることが何より幸せなことなの。もう二度と会えないなんてことはないわよ。お母さんのことは心配しないで美音は自分の道を生きなさい。それが親孝行ってものよ」
「お母さん!」
私はお母さんにまた抱きついた。
「また二つの世界が繋がったら必ず会いに来るからね! それまで待っててね!」
「ええ、そうね。その時には人間とモンスターさんが仲良く生活できるようになったらいいわね」
「うん! 私、信じてる。人間とモンスターさんが仲良くできて世界が一つになるって!」
「そうね。じゃあ、美音もそのためにモンスターお役所で頑張って働くのよ」
「うん! 頑張って働くから! 私を今まで育ててくれてありがとう! お母さん!」
私はお母さんに感謝の言葉を伝えた。
「美音こそ私の子供に生まれてきてくれてありがとう。お母さんは美音が自分の娘でとても嬉しいわ」
お母さんは私の頭を撫でてくれた。
お母さんとの別れは絶対的なことじゃない。
私は誰よりも幸せに生きよう。
だってそれがお母さんへの最大の「親孝行」だもんね。
「お母さん! 私、絶対に「幸せ」になるから」
「そうね。美音が幸せになることを約束してくれるならそれ以上に嬉しいことはないわ」
その日は遅くまでお母さんとおしゃべりをして過ごした。
次の日から期限の五日間が来るぎりぎりまで私は友人たちに手紙を書いた。
まだまだモンスターさんたちを怖がる人間は多い。
でもモンスターさんたちにも「心」があり私はモンスター世界で元気に生活するから心配しないでという内容だ。
テレビでは「ダンジョンが消えた」と言う報道が流れていた。
どうやら本当に二つの世界は離れてしまったようだ。
でも私にはモンスター世界に戻れる最後のチャンスがある。
手紙を書き終えて私はペンを置いた。
荷物を持ち私はお母さんに声をかける。
「お母さん。そろそろ時間だから行くね」
「そう。行ってらっしゃい。美音」
「行ってきます。お母さん」
私は界魔さんからもらった玉を取り出して言った。
「モンスター世界に戻りたいです!}
その瞬間玉は砕けた。
次の瞬間、私は見慣れた屋敷の前に立っていた。
妖月様の屋敷だ。
私は玄関から入り妖月様の姿を探した。
妖月様は中庭の池の魚に餌を与えていた。
私の気配に妖月様は振り返った。
「ただいま帰りました。妖月様」
「……おかえり。美音」
私が笑顔で帰ってきた報告をすると妖月様が「おかえり」と言ってくれた。
それがとてつもなく嬉しい。
私を見つめる赤い瞳には優しい光が宿ってる。
うん! やっぱり妖月様とずっと一緒にいたいな。
「食事の用意ができてるぞ。明日も仕事だからな」
「はい! 妖月様」
私と妖月様は一緒に食堂に向かった。
私は今日も妖月様と一緒に「モンスターお役所」に出勤する。
係の職場に行くとブオン係長たちがいた。
私は元気な声で朝の挨拶をする。
「おはようございます! ブオン係長、ミツールさん!」
「美音さん。おはよう」
「おはよう。美音さん。さっそくで悪いんだけど会議の資料作り手伝ってくれる?」
「はい。分かりました。ミツールさん」
私はミツールさんと資料作りを始める。
いつか再び人間とモンスターが同じ世界で暮らせるように願いながら。




